人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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綿津見海水浴場

陸から島(沖ノ島)までの砂州の部分で、波穏やかな海岸が両側に位置する海水浴場。昔は陸から500メートルも隔てられ四方が海だったが、関東大震災等により半島と陸続きになった。島は温暖帯の自然林(タブノキ)に覆われている。磯遊びやビーチコーミングが行われ、シーズンには首都圏はじめ他県からも多くの家族連れなどが訪れ賑わいます。また、環境省が実施している「海水浴場水質調査」で、毎年「Aランク」以上と認定されるほどとても水が綺麗で、周辺の海域にはサンゴが生息している。浅瀬にも生息しているので、素潜りやシュノーケリングでも観察できる。


昼〜夕 綿津見海水浴場〜存在自体が妖精の復権に貢献する⑨〜

「噂には聞いていたが目の当たりにすると圧倒されるなぁ!そうか、これが海というヤツかぁ!でっけぇなぁ!私の壮大な野望並にでっけぇ水溜りだぁ!!」

 

八百万ノ浜。離れた島に通ずる海岸線全般の場所を指す海水浴場であり、6月半ばのシーズンにはちょっと早い今、地元では滅多に見られない光景に人知れず感動している者がここに一人。カルデアに籍を置くこととなった、井の中の蛙ならぬ幻想郷の河童こと、河城にとりである。狂気と聡明さを同居させる彼女は、母なる海との対面に猛烈に心を動かされていた。

 

「湖よりかなりでかいな!おい河童!なんだこれは!海っていうのはこんなにでっかいものなのか?すごいな!」

 

そしてなんだかひっついているのは氷の妖精、チルノ。彼女もまた広大極まる海におっかなびっくりを繰り返している様子を隠さない。そう、二人は水と氷属性。外の世界に猛烈に好奇心を刺激されやってきたのである。特に、星を覆う水…海に惹かれて。

 

「そうだろうそうだろう驚きだろう妖精…私もたまげているからな…まさか海というヤツがこんなにも幅広くでかいものだったとは改めて見てビックリだ。幻想郷は山に囲まれてて海なんぞ望むべくもないからな!」

 

「すごいな!もしかして飲んだりもできるのか!?こんなに水があったら水分不足にも困らないな!」

 

「待てぇ!飲んではいかん!確か私のデータにはァ!」

 

「しょっぺーー!?なんだこの水!?すげぇしょっぱい!!まずすぎるぞー!」

 

顔から突っ込み盛大に噎せ返るチルノ。海は真水ではない。生命が育まれる成分を多量に含んでいる。皆知っているがチルノは知らなかった。

 

「話を聞けスカタン妖精!いいか、私が調べたデータによると海は大量の塩分を含んでいる…!つまり口にするとすげぇしょっぱいんだ!迂闊に口に入れるな!すげぇしょっぱいからな!」

 

「すげぇしょっぱいのか!じゃあ喉が乾いたらどうやって飲めばいいんだ?」

 

「それはな!海には近くに海の家があるみたいだからそこで飲食すればいい!とりあえず海は飲めるもんじゃあない!迂闊に飲んだら殺されるんだ!海にな!」

 

「海こわいなー!よし、あたいは海の水を飲まないぞ!」

 

「若干オツムがマシになったな!よし、では実験を開始するぞ!今回は多目的移動ツールの開発の為のデータ収集だ!気合い入れてけぇ!!」

 

テンション高くにとりは海辺にて背負ったバッグをゴソゴソし始める。それを興味深く眺めだすチルノ。

 

「たもくてきいどうつーる?」

 

「カルデアの作戦は多岐にわたる。記録見てみたけど砂漠だったり森林だったり、人間には非常に厳しい悪路も当たり前の様に挑んだりしなきゃいけない厳しい組織だ。ダヴィンチのおっさんは見事に陸路のバステニャンを作っていたのを教えられてなぁ。なら私は海と空を制するぞ!と言うわけでこれを使ってみろ、チルノ!」

 

にゅっと取り出したのは月のサーフボードと、海を爆走できそうな河童のイメージがあしらわれたボート。試作品と銘打たれたそれは、チルノの好奇心を狂しく刺激する。

 

「なんだこれ!かっけー!!すげー!!」

 

「こっちは魔力と反重力を使って空中の気流に乗ってスカイサーフィンが出来るってコンセプトのにとりフライ一号。こっちは海上から急にサメに追いかけられたりした時に素早く離脱できるがコンセプトのにとりダッシャーα!どっちも試作品でデータがほしい!と言うわけでどういう訳かカルデアのマスターになってるお前さんに実験台になってほしい訳だ!」

 

「じっけんだい?それってすごいのか?」

 

「お前無くして発展はありえないくらいに凄い役割だぞ!」

 

「すげぇ!やる!!」

 

即答するチルノに満足げに頷くにとり。人間と異なる精神性と狂しい上昇志向を兼ね備えた彼女は心の底から本心を口にしているのだ。

 

「念の為にお前のサーヴァントのブリュンヒルデに連絡しておこう。もし爆発四散したとしてもルーンで元素を集めればチルノは蘇るだろうしな。人間と違って単純な所が妖精のいいところだ!」

 

「おー、すげぇ…この板はどうやって使うんだ?乗るのか?」

 

にとりは連絡と準備に夢中でチルノから目を離してしまっていた。その僅かなスキに、チルノはひょいとボードに飛び乗ってしまう。

 

『生体反応、確認。令呪確認。カルデアのマスターと認証。移動マニューバ、起動』

 

「お?お?お?」

 

『モードを選択してください。どのモードにしますか?』

 

「もーど?あたいはサイキョーだぞ!」

 

『サイキョー。最大レベルと判断。フライト開始』

 

チルノの言葉に、ボードは自己判断しモード設定を行う。そして──

 

「よし!じゃあまずは初心者モードからだな!いいかチルノ、まずボードに乗ってイージーと」

 

「うわああああぁあぁぁぁーーーーーーーーー!!!」

 

「何ィィィィィィィィィィィィ!?」

 

チルノ、空へかっ飛ぶ。魔力と反重力装置を最大稼働させて飛来するボードは、後部から猛烈な魔力放出を行いチルノを蒼き空へと舞い踊らせていた。

 

「すげぇーーーーーー!!!はぇーーーーーー!!!」

 

速度をぐんぐん上昇させていき、重力を無視するような軌道を描き夏草の空を舞うチルノ。にとりの手元のモード設定は『ルナティック・エクストラ』と書かれており、にとりの顔を蒼白と真っ赤に行き来させる

 

「何をやっとるんだお前はー!!勝手に試作品を起動させるとかそれでもベータテスターか貴様ァー!!くそぅ、なんて事だ、あの妖精がくたばるのは構わんが都市部や観光客に墜落するのは避けねばならん!急げにとり!きゅうり色の脳をフル回転させるのだぁ!!」

 

腐ってる様にしか思えない脳を稼働させ、打開策を考案する。緊急停止装置をすぐさま考案するが…

 

「いかん!あの速度で飛び回っている物体に急停止なんぞさせたらチルノの首が折れる!それでいて水にあの高さから叩きつけられたらコンクリートに叩きつけられるくらいの衝撃はモロに受けるぞ!」

 

「こんなに速く飛べたのは初めてだー!!たのしーぞにとりー!!」

 

「くそぅ、人の気も知らないで!停止させるにはどうする!?──はっ、そうだ!」

 

素早く思い至り、にとりはスイッチを取り出す。見るからに赤く危険そうで、ラベルには『機密保持用』と書かれている。

 

「自爆スイッチをッ!!(チルノもろとも)爆発させるッ!機密と安全を護る為にはもうこの手しかないのか!?平行世界のマスターは自爆とかを戦法に組み込むとか聞くがマジなんだろうか!?」

 

お前は間違っちゃいない。必要な犠牲です。等と言われて納得出来るほど彼女は良心を捨てきれていなかった。彼女は人間が大好きなので人間が危害を被るのはダメだがそれ以外の種族には割とドライなのでやるときはやる。アリよりのナシで彼女は機密保持に揺れていた。

 

(むぅう!流石にチルノとはいえカルデアの仲間だ!犠牲の犠牲にするには早計すぎないだろうか!せめてリザレクションできるブリュンヒルデが来るまで待った方が…!)

 

最低限の仲間意識にてにとりが迷った──その時。

 

「おーい!見ろにとりー!凄いぞ!氷のサーフィンだー!」

 

「!?」

 

にとりが目にしたもの、それはチルノの魔力に当たるエネルギーがボードから溢れ出し空気を凝固させ氷の軌跡を描く光景だった。見ると同時に、ボード自体の減速も叶っている事が取れる。

 

「おぉ!ボード自体のバランスをお前の規格外のパワーで支配下に置いたのか!暴走を暴走で上書きする!即ちそれはコントロール!タイラントアブゾーブと名付けるか!おーい!そのまま降りてこーい!!」

 

「もういいのかー!?」

 

「実験は完了だー!お前さんのガッツに感謝するぞー!!」

 

結果的に、有益なデータを手にした事でプラスとするにとり。妖精の中でも強烈な力を持つチルノならではの成果に胸を撫で下ろす。

 

(チルノ…お前は最高のテスターになるかもしれないな!)

 

妙なところで、チルノの才覚を認めることとなるにとりでしたとさ。




ブリュンヒルデ「マスター、大丈夫でしたか?」

チルノ「すげぇ楽しかったぞ!にとり!またやらせてほしい!」

『砕け散るボード』

にとり「ぐわー!?チルノのアイシクルパワーに試作品が耐えられなかったと言うのかぁ!?」

チルノ「あ、壊れたのか?」

にとり「くそぅ、やはり科学には犠牲がつきものか…まぁ命と違って発明品はまた作ればいいし、結果オーライだな…」

チルノ「〜。よし、ブリ!ルーンとかで助けてやれ!」

ブリュンヒルデ「はい、マスター。あの、よろしければ補修致しましょうか?」

にとり「マジか!じゃあ今度は魔力放出に振ったボードを作るかー!」

チルノ「あたいに任せろ!またてすとしてやるからな!あたいはサイキョーの妖精だからへっちゃらだ!わははははー!」

カルデアの発明品とはこうして生まれる。夏草における、そんな一幕でしたとさ。
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