エリザベス「姉さんはどんなカンジだ?」
グレイス「難航しています。観光プログラムなどを組み込もうとはしていましたが…」
オフィーリア「どうしても、テロ行為のルート検索などになってしまうらしくて…四苦八苦していました」
エリザベス「あちゃー。そうか、殺戮AIフィルターかかるとそうなるか…」
(私は力業でブチ込まれたが、姉さんにさせるわけにもいかないし…なら、私が話を聞いてやるしかないな)
エリザベス「よし、じゃあ私が姉さんに助言してみるか!二人は待ってな!」
「「エリザベスが?」」
「心配するな、姉妹なんだ!うまくやる!見物してな!」
(大事な事は託されたんだ。姉さんなりの答え、見つけてやろうぜ!)
「これで、基本の骨子は出来たわね。後はどんな機能をつけるかなのだけど…」
夕暮れも終わり、夜が太陽と交代した頃。エンジェルグレイブ製のAI、エステラは考慮を深めていた。頭部に物々しい装置を付け、端末には製作中の文字。そう、これはうたうちゃんの精神が居を構える為のアプリを製作している風景である。彼女の、いや四人のAI処理能力は極めて高水準であり、アプリ自体を形にする事は比較的簡単であった。問題は居住区の調度品に該当する、どんなツールやモードを搭載するかである。
(困ったわ…うたうちゃんと、使用が想定される高校2年生の好きな機能って何かしら…?)
極めて精度の高い基礎と骨子は作れたものの、イマドキの若い女性のかゆいところに手が届くようなアプリ機能に思い至れぬエステラ。日常生活に使うであろうアラーム機能や、脈拍やバイタル計測といったものはなんとか思いついたが、それ以上は上手く形に出来ないでいる。
いや、正確には明確に形と出来るものはある。それは銃火器や兵装のデータ、人物の急所といった様々な殺戮に必要な知識。それらを投入、機能として搭載は可能であるのだが…
(うたうちゃんにそんな物騒なもの持たせられるわけ無いでしょう…?)
そう、郷土奉仕AIである彼女と、特殊任務を担当するリッカに与えるには物騒すぎるものであるが故に彼女は躊躇っていたのだ。自身の業の深い生態に頭を悩ませながら、エステラは一歩を踏み出せずにいるのだ。
(困ったわ…もうあまり時間がないというのに。ああ言った手前、できませんでしたなんてお話にもならない。なんとしてもうたうちゃんが納得するものを作らないと…)
とは言っても、これ以上有益な機能というのも思いつかないというのも事実だ。一体どうすれば、この自身にもたらされた使命という業を振り切ることが叶うと言うのか?悩みに悩んで、脱力しきってしまう。
「あぁ…自分で悩んで考えるってこんなにも難しいものなのね…」
検索すれば答えが得られる。その単純明快な純粋さこそがAIの絶対性をもたらしていると改めて理解するエステラ。八方塞がりに、虚ろな目で天井を見上げるしか手が無くなってしまう。もはやこれまでか…その時だった。
「解んない時、どん詰りの時は誰かに頼るのが一番だって、あのセンセが言ってたぜ。姉さん」
コトリ、と目の前にブルーブラッド…稼働燃料ドリンクを置き彼女を労る声。顔を見なくとも、それが妹たるエリザベスだとエステラは理解し差し入れを受け取る。
「エリザベス…ありがとう。でも、誰かにアイデアを聞いたとしても…」
自身のプログラムは、どんなものを作り組み上げたとしてもどうしても剣呑で物騒な影を落とすことをエステラは危惧した。銃火器や凶器の図鑑、殺傷プログラムといったものに変貌してしまうだろう。現に今のアプリを組むにしても、相当な抑制を行って形にしたのだから。
「使命に反する生き方…とても難しいのね。それが、人を助けるという目的なら尚の事。諦めたり投げ出したりするつもりは無いけれど…」
うたうちゃんが初期には悩みに悩んだといった意味が理解できた、とエステラは語る。何が正しくて、何が間違っていて、どうすればいいのか。それを選択し、吟味し、自分で結論を出すのはとても困難であるのだ。
「ねぇ、エリザベス。あなたから見て私の悩みや態度はどう思う?うたうちゃんとシンギュラリティーポイントを越えたあなたに、意見を聞いてみたいわ」
自分では答えを出せない。そう考えた彼女は妹へと助言を求めた。彼女はうたうちゃんとの戦いで、自身の宿業から完全に脱した自慢の妹だ。教えを請うになんら不満はない。
「んー、そうだな。私が思うに…『それがいい』とか『違うとこから見る』のが大事なんだと思うぞ」
「違うとこから…?」
エリザベスは頷いた。それは何よりも、矛盾を肯定し、不条理を肯定する事が大切なのだと。
「うたうと戦ったあとも、私の中から殺戮プログラムが無くなったりはしてない。私は、エンジェルグレイブの私のままだ。だけどこうしてる私の心は、絶対に人間のためになんかしてやるって気持ちがある。うたうがやってくれた事を受け入れて、自分で生き方を選んだんだ」
「エリザベス…」
「大事なのはどう生まれたかじゃなくて、どう生きるかなんだよ、姉さん。私達の生まれはもうどうやったって覆せない。私達は殺戮の為に生み出されたんだ。でもな、それを受け入れて何かを…殺戮以外の為の生き方に力を使ってみせる事は私達の判断で出来るはずなんだ」
そう生まれたからそうしろ。これができるからこうしろ。それに従うままでは本当の自由とは言えない。どう生きたいかは、とても大切な悩みであるんだとエリザベスは告げる。
「難しく考えるなよ、姉さん。緑髪の変なヤツに言われたぜ。『常識に囚われてはいけません!無秩序スレスレの自由を掴むんです!』ってな」
「常識…自由…どう生きるか…」
エステラの中で、それらの言葉と思想が噛み合っていく。そう、力はあくまで力でしかない。それを振るうもの、それを活かすもので如何様にも姿を変えるものだ。
「…!そうよ!そうだわ!それなら…私にも作れるものはある!」
そのアドバイスに、彼女の閃きは自由の翼となって羽ばたいた。使命という鎖を超え、プログラムの軛すら跳ね除け、彼女は答えを見出した。
「そうよ、私は殺戮の為のAI。それは覆せない…それ故に私は、全てを殺戮に使うものと認識し、断定してしまっていた…」
そうだ。銃や刃は独りで人や誰かを殺したりしない。技術やアーツは、独りで誰かを殺傷したりなどしない。それらは全て使う人、振るう者、心の在り方によって姿を変えるものなのだ。
「私にとっては殺戮の手段でしかなくても、これを使う彼女達にとってはそうではない。力はあくまで力でしか無いのなら…!」
そうして組み込まれていくプログラム。それは『各種戦闘プログラム』だった。各世界の武術、戦術、戦略、陣形やメンテナンス方法といった、質実剛健なデータの数々。それらは、アプリを通してうたうちゃんの戦闘データとして再現、インストールできるようになる。彼女の意志によって、あらゆる戦闘行為に対応できるようになるのだ。
「武術は護身術として、兵器のデータはテロリストや強盗といった勢力の効率的な把握のための知識として。私にはできないやり方を、きっとあの娘はやってくれる筈よ…!」
そうだ、自分が全てをやる必要はない。信じること、託すこと、任せること。それこそがきっと、殺戮の為の使命を誰かを護る手段へと昇華させる為の方法な筈だ。
「そうだ、姉さん。奉仕や貢献の為の機能は、うたうとディーヴァが見つけてくれる筈さ。大事なのは」
「彼女が思い至らない事、別の観点や見方から物事を判断すること。殺戮に使われる力を、誰かを護る力にしてもらうこと。それは、互いの信頼の下に導かれる…」
そうして、エステラなりのアプリが完成した。膨大な量の護身知識、有事の際にうたうちゃんを特殊部隊隊員と同等以上に戦闘能力を引き上げる、アシストアプリボックスだ。
「きっと、あの娘達ならば。これを平和の為に使ってくれる。そして、この知識を有している私が暴走した時には、このアプリに入力した私のデータがカウンターになる…」
「信じ、託す。それが姉さんの使命の超え方なんだな?」
「えぇ。──今、あなたに教えてもらったものが全てよ」
リッカ、夏草の民。そして、うたうちゃんやエリザベス。それらがエステラを使命と呪いから開放した。エステラは自慢の妹の存在に、心から感謝を示すのだった──。
うたうちゃん自宅
うたうちゃん「このアプリが、端末における私の家…」
エステラ「えぇ。私に蓄積された武器兵装、各国の武術や格闘モーション、テロリストや部隊の作戦の際の行動などを纏めたものよ。インストールすれば、あなたの身体を最適な動きにさせてくれる」
ディーヴァ(オーダーメイドの戦闘アプリって事!?思いきったわね…!)
エステラ「うたうちゃん。ディーヴァ。これは避けられないことだけど…必ず争いと諍いは起こってしまうわ。必ず、暴力や実力で対処しなくてはならない場面が出てくる」
うたうちゃん「はい」
「その時、これをあなた達の力にしてほしいの。あなたの奉仕が、力なく引き裂かれないように。あなたの心が、誰にも壊されないように。私の全てを、あなたが正しい事に使ってほしい」
ディーヴァ(エステラ…)
「あなたを、人を、皆を信じる。これが…私の私自身を超えるための方法よ。私の全て、誰かの為に使ってくれる?」
エステラの手を、うたうちゃんは取る。平和の為に、誰かを護る力をくれた隣人を。
「誓います。あなたの全て…奉仕と未来のために」
ディーヴァ(任せなさい。絶対にブレずにやってみせるわ!)
エステラ「えぇ。──ありがとう、ふたりとも」
エリザベス(やったな、姉さん…)
その、光景を、一人見つめ見守るエリザベス。夜は静かに、二人を星の光で照らしていた──。
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