人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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(レイドのため、感想返信は明日行います!)

コヤンスカヤ「もし、ニャルラトさん?私、少しお尋ねしたい事がおありなのですが…お時間よろしくて?」

ニャル【呑気なものだ。お前を狩りに全マスターが駆り出されているというのに】

コヤンスカヤ「まぁそれは別の時空なので関わりなく。気にがかった…というか、商品ラベルが気になったという程度なのですが。『ビーストIF』というモノはなんなのです?あり得ざる獣…という触れ込み、即ち珍獣なので?」

ニャル【その言い方はやめた方がいいぞ。セコムにシバかれたくなかったらな。ビーストIFとは、この時空にのみ現れる故にあり得ざる獣…人類ではなく、楽園の旅路に迷い込んだ獣だな】

コヤンスカヤ「…詳しく聞かせていただけます?とても興味を惹かれますので」

ニャル【仕方ない、クリスマスプレゼント代わりだ。私が調べた情報を特別に、公開するとしようか】


クリスマスアフターマテリアル・あり得ざる獣〜無垢なる獣性と本能〜

【ビーストIFの名が示す通り、これは人類の癌細胞でも自滅機構でもない。在り方は似ているが異なるものだ。通常のビーストは人類が滅ぼす悪、即ち内的要因だが…ビーストIFというものはもっとシンプルだ。人類『を』滅ぼす悪。普遍的、概念的な悪という在り方に近いな。憐憫、回帰、愛欲、比較、愛玩は人類が有する美徳でもあるが、ビーストIFは定義されるまで理を知らん。自身の愛が何か知らない、把握できない空想の面が強い獣なのだ】

 

ニャルが言葉にするはビーストIFの在り方。あれらは顕現する最中に自身の人類愛に相当する感情を獲得するのだという。人類の癌細胞たるビーストとは異なる、もっと単純な脅威だという。

 

【アジ・ダハーカは未知。アマノザコは親愛。いずれ現れるテンダネスは平等。ビーストとは近しい属性を有したものなら変質するものだが、ビーストIFは唯一無二の理を定義して現れるものと推測されている。難しい定義だが、人類が有する美徳を以て人類に牙を剥く野犬といったイメージが近いだろうか。本能、そして愛を知った上で単純を滅ぼさんとする。それがビーストIFの傾向と推測される】

 

「テンダネスは確か、原初の悪魔でもありましたね?空想、架空、概念の存在が人類愛を有する事で顕現する、といった仮説も立てられるのではなくて?」

 

ニャルは静かにコヤンスカヤの意見を受け入れる。つまり、ビーストIFとは人類悪よりもっと本質に近いもの。『人類愛』の意味を知らぬままに人類に牙を剥く存在であるのだろう。

 

【となると、人類愛が方向性を見失い、知恵を求めて人類に接する事がIFの共通点なのやもしれんな。そうなると未知の理のアジ・ダハーカが別格だという事も頷ける。あり得ざる獣とは、自身の全てを定義し定着させる事を求めて生み出されるのかもしれない】

 

「人類の発展により力を増すのがビーストの定義。しかしそれには、IFは当てはまりませんね?」

 

【だからこそのIFなのかも知れん。智慧を求め、楽園の旅路に迷い込む獣…あり得ないが故に定義も、序列も存在しない。自身が有する理を解する過程で人類を滅ぼす獣であるが故に、その数やその形に決まりはない。あり得ざる獣はいくらでも出てくるのだろう。人類愛という本能を知り、満たすために人の歩みに立ち塞がる。空想、未知である自身の空白を埋める過程で人類を滅ぼしうるあり得ざる存在、それがIFの意味なのだ】

 

即ち、自身の内に宿る人類の美徳を美徳と解せぬが故に、それを爪や牙として人類を滅ぼしてしまうが故の人類悪たる共通点なのだろう。本来のビーストよりも無垢であり、空虚であり、純粋な存在であるのだ。

 

【獣であるが故、交流の過程で人類が滅びるのが誰にとっても迷惑な話だがな。彼等、彼女ら自体に人類に敵対する意思、滅亡殲滅の意思は存在すらしていないのだろう。ただ人類の愛し方を知りたいだけ。ただ人類に愛し方を訪ねたいだけなのだ。…人と獣という隔たりが、残酷な溝となって横たわっているが】

 

アジ・ダハーカは何をすれば愛してもらえるかを知りたがり、人類に愛の定義を教わった。アマノザコは人類に親愛の形を教わった。彼女らは討ち果たされたのではなく、示された事で愛を理解したのだ。ビーストを人類が滅ぼすしかないのならば、IFは人類の美徳を示す事で共に生きる事が出来る。即ち、昇華であり人類の成長を問う存在であるのだとニャルは言う。

 

【人類が発展すればするほど強くなるのがビーストならば、人類が美徳を育めば育むほど弱体化するのがビーストIFの性質なのだろうな。愛と希望で躾けてやれば獣は懐く。その強靭さと分布に比例して、益獣になる可能性を有する存在だな】

 

「なんともまぁ、お優しい獣達ですこと。では、人類悪などとは呼べないのでは?」

 

コヤンスカヤの言葉に、ニャルは肩をすくめる。誤解してはならないが、ビーストIF達はビースト達より無垢で純粋である。つまりより本能に忠実なのだ。己の『愛』を知る為の手加減等をまるで有していない。理による手段も選ばない。人類を愛してもいない。ただ自分に宿った愛を知りたい為の活動は、微塵も気遣いなど有さない。その点では、本来のビーストとは比較にならないほど残虐であり、苛烈であり、おぞましい程に凶暴な存在なのだ。あり得ざる獣は、自身の愛以外に絶する手段を有していないが故に。

 

【自分に迫りくる熊やライオン、大鷲に真っ向から躾をしなくちゃならん苦労が容易であるはずがなかろう。そこには単純な強さと、高度な精神活動が求められる。未知の牙と爪を捌き切る力…そして、獣に愛を示す人類の精神活動、即ち情緒から生まれる感情がな】

 

「丸腰で猛獣に愛を仕込めと?シンプル故に無茶ですねぇ。獣の本能を正しく教授するとかも、どれほどの難易度か分かってます?」

 

【おまけにただの打倒も許されん。楽園が目指す理念は完全無欠の結末だ。ただ倒して終わり、という敵などいてはならないだろう。拒絶と打倒をしてしまえば、楽園の道筋は二度と完全無欠を名乗れまい】

 

それこそが、完全無欠の結末を阻む獣という意味。楽園はどのようなあり得ざる獣からも逃げることも、始末することも許されない。旅路に現れるそれらと、真っ直ぐ向き合わなくてはならないのだ。

 

「そう言われてみると、ハイリスク・ハイリターンな存在ですねぇ。対応を間違えるだけで、履歴書に二度と完全無欠の単語を掲げられなくなるのです。楽園カルデアが全身全霊で挑まなくてはならない存在であると、よーく理解できましたわ」

 

【その分厄介さを上回る益獣の可能性も秘めているがな。アジ・ダハーカは藤丸龍華となり世界を救い、アマノザコは空想昇華という結末の橋渡しとなった。互いが互いを滅ぼすしかない通常ビーストと違い、人類の心強い味方ともなってくれる可能性を秘めた存在…私はそう考えているよ】

 

そう。より無垢に、より純粋に人類に接し触れ合う獣。それを総括してビーストIFという。そこにあるのは人類悪ではない。あり得ざる獣、人、互いに求めているのは愛なのだ。

 

【ビーストⅦが最後に出てくる終末の獣ならば、アジ・ダハーカは始原にして最悪のビーストなのだろうな。序列は無いとしても、ゲーティアの魔術で降臨した邪悪の龍。始まりのIFに相応しい】

 

「…………」

 

【どうする?ビーストとして取り込んでみるか?お前の尾として取り込むならばうってつけかもな】

 

「…御冗談を。人に益する獣ならば私にとっては不倶戴天。人間のちっぽけな善意や美徳に絆される甘い獣など番犬にもなりませんもの」

 

精々飼い慣らされればよろしいかと。そう告げるコヤンスカヤを、ニャルは嘲笑う。

 

【そうしておけ。もう一つ、有益な情報を教えてやるよ】

 

「?」

 

【リッカちゃん、そしてアマノザコの形態からの推測だが、ビーストIFには幼体などというヌルい形態は無い。羽化した瞬間、或いは愛を得た瞬間にお前達でいう完全体の力を発揮するのだ。獣としてお前達より初動は圧倒的に速い。育っていないお前達など、勝負にもならんだろうな】

 

「────」

 

【おまけに昇華すれば、人類の味方として同じ獣であるお前達に牙を剥くだろう。──獣は自分以外の獣と相容れないものだろう?精々喉笛を食いちぎられないよう気をつけるんだな。それにダメ押しだが…あり得ざる獣を有した人類は『冠位』のサーヴァントを使役する機会が格段に多くなるぞ】

 

そう、あり得ざる獣と本来の獣は互いに宿敵でしかないのだ。人類が滅ぼす悪と、人類を滅ぼす悪…

 

【まぁ、精々頑張るんだな】

 

どちらがどう恐ろしいか。口にするまでもない問題にニャルは愉快げに嘲笑するのだった…。

 




コヤンスカヤ「…骨の髄まで気に食わない御方ですが、有益な情報であることを認めます。相応の礼を差し上げましょう」

ニャル【気が利くな。何くれるんだ?】

コヤンスカヤ「とびきりの情報には、とびきりの情報を──私の、本社ビルの座標です」

ニャルに渡される、一枚の紙。コヤンスカヤからしてみればあり得ざる獣を兵器として獲得する腹積もりのはずが、厄介さを痛感するのみとなった割の合わぬ取引。しかし彼女は、人類の不誠実さを何より嫌っているためソレを提示した。

【…この座標は】

そう、NFFサービス本社の正確な位置。即ち──



──ツングースカ大爆発の爆心地。グラウンド・ゼロの座標である。

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