?【汎人類史、そしてムーンセル…ここが人類という種が最も可能性を有している時空か】
(そして、此処にはかの存在がいる。我等アブソリューティアンにとって排除しなくてはならぬ存在が)
【この惑星の可能性…人類の可能性…我等アブソリューティアンが頂こう。そう、我等が大いなる目的の為に──】
冥王星
フィリア『異常なし…。アルテミットワン、確認できず。よし、平和ですね!』
フィリア(何が起きるかはわかりません。私もウルトラウーマンとして、使命に邁進しなくては!さぁ、帰還しましょう!)
『ふふっ、すいーつじゃんぬにまた行きたいなー!』
地球の傍らに静かに浮き上がる、孤高の星…月。ムーンセル・オートマトンと呼ばれる先史文明より与えられたタイプライター。月そのものを聖杯とする、ハイパーコンピューター。このムーンセルの前には、地球のあらゆる演算装置が石の並びと同義と呼ばれる程の超絶記録媒体。ひたすらに観測を徹底する、意志なき月の眼。
『奏者よ。太陽系のパトロールを終え、フィリアが帰ってきたようだぞ』
「玉座に直通させて」
月の新王──ムーンセルを巡る聖杯戦争の勝者、岸波白野の手により人類の宇宙開発、第二のフロンティアとして形を変えたこの地は、カルデアと同盟を結んだ対外来種、そして侵略者への前線基地ともなっている。側近にして皇帝、ネロ・クラウディウスの意匠により黄金の玉座の間に鎮座しソシャゲをやっているはくのんの耳に報が届き、即座にフィリアと呼ばれる存在が通された。
『月の新王様。ウルトラウーマンフィリア…太陽系のパトロールを終え、此処に帰還いたしました』
1ホール程ある天井にも届かんばかりの巨体。40mは越すであろう金と銀の身体に、黄金のティアラとマント。荘厳極まる女体の存在が、はくのんの前に跪く。
「今更格式はいらない、フィリア。パトロール、ありがと」
親しげに声をかけるはくのん。そう、彼女は地球の存在ではない。O-50と呼ばれる別世界の惑星より力を授かった、ウルトラウーマン。この時空の地球を脅かす捕食遊星『ヴェルバー』の打倒、並びに『アルテミット・ワン』と呼ばれる惑星最強個体の動向を観察する為に送り込まれた存在。人類の味方である友好的宇宙人であり、はくのんとは幻想郷を護った際に一体化を果たしてから、気のおけない友人としての関係を築いた人懐こい存在でもあるのだ。
『そう?でもほら、親しき仲にも礼儀ありっていうし…キングおじい様からも礼儀は大事って教わってるから…』
「まだまだ王としては未熟者。慕ってくれるだけで十分。というわけで、報告もゆるめに」
格式といったものにこだわらないはくのんはフィリアの手に乗り、報告を念力で聞き及ぶ。感覚をリンクし、見たものと聞いたものを共有しているのだ。
「ヴェルバーの兆しは無し、アルテミット・ワンの活動形跡はなし…うん。良かった」
はくのんは常にヴェルバーの動向を観察している。ヴェルバーとは収穫の星、文明と可能性を根こそぎ奪う侵略者。かつてムーンセルも侵略され、那由多の可能性を奪い去られその尖兵に地球の文明を壊滅寸前まで追い詰められた過去がある。その事からムーンセルはヴェルバーを不倶戴天の宿敵としており、はくのんも月の新王として可能な限りの対策を講じてるのだ。フィリアに太陽系パトロールを要請しているのも、彼女である。
「ありがとう、フィリア。私と一体化してパフェ食べに行こう」
『やったぁ!すいーつじゃんぬですか?あそこのスイーツは是非とも光の国にもご招待したいくらいの美味しさですからね!ネロさんも是非一緒に!』
この様に友人のような関わり方をしているのも、ひとえにフィリアの優しさとはくのんのおおらかさが噛み合った結果。フィリアに運ばれながら、はくのんは思い耽る。
(ムーンセルが予想するには、アラヤが活動的なら眠っているのが大半らしい。となると…人理金箔を果たした後に活動する可能性がある)
人理金箔…ムーンセルが予測した外来的侵略者の侵攻にカルデアが講じた文明惑星保護方法。星の地脈と、大地の龍脈を最果ての塔を基点に掌握し、マルドゥーク神を楔に発動する汎人類史規模の対粛清防御。空想樹の根を張らせぬようにする星のテクスチャを護るベールにしてアスファルト。3ヶ月と予測される、人類と異星の神の全面戦争。だが、その間は完全に人類は沈黙してしまう。環境ごと守護する為、地球は3ヶ月間、一人ぼっちの惑星になってしまうのだ。
(人類史が停止するなら、アラヤ…人の抑止力は弱まる。その時にアルテミット・ワンを利用する侵略者が来るかもしれない。備えねば)
『はくのん?』
「あ、なんでもない。考えごと」
でも、こちらには御機嫌なギルガメッシュがいる。ウルトラウーマンがいる。自分だけが頑張る必要はない。皆の力を借りればいい。そうすれば、どんな困難も乗り越えられるとはくのんは信じているのだ。
(今のうちに、糖分とカロリーを補充するしかない…太りはしない…)
フィリアの両掌の上でうんうんと頷くはくのん。二人は上機嫌にて楽園に赴かんとした──その時だった。
『──!』
「…?」
目の前に──黄金の奈落が開いた。空間に、黄金色の穴が突如開いたのだ。その大きさは巨大で、丁度フィリアと同じくらいの直径が観測される。
【ウルトラウーマンフィリアを発見。直ちに包囲する!】
そこから現れしは、黄金の尖兵達。フィリアの落ち着いた金色とは異なる、雄大さと雄々しさを誇示する黄金。十人を越える部隊の隊長と見受けられる存在が指示を出し、瞬時にフィリアとはくのんを取り囲む。
『なんですか、あなた達は?この御方とこの間をなんと心得ますか。月の新王並びに玉座の間…そんな戦支度で土足で踏み荒らすマネはめー、なんですよ?』
【我等は究極生命体、アブソリューティアン。この宇宙のあらゆる存在を凌駕せしもの。人間等という下等生物は勿論、ウルトラマン…貴様らすらも超越した種族なのだ】
「何故黄金のパーソナルカラーは態度が基本尊大なのか」
はくのんを庇い、マントを翻すフィリア。その言葉の通り、50メートルの巨体からは超絶高密度のエネルギーが満ち満ちている。一人一人が、ハイサーヴァントに並ぶ程のエネルギーを有しているとはくのんは冷静に見抜く。しかし…
(宿ってるエネルギーが過剰すぎる…彼等にも手に余るエネルギー供給源があるのかな。この力の強さは、破滅に通じているのかも)
洞察するはくのんには興味が無いのか、アブソリューティアンの兵士達はフィリアに武器を突き付け、尊大に命ずる。
【ウルトラウーマンフィリア。ウルトラキング、並びに伝説の存在と密接な関係を有する貴様はこの宇宙において、ウルトラマンコスモスを越える超絶危険存在と認定された】
『伝説の存在…?キングおじい様の他にはレジェンドさん、ノアさんに心当たりがありますが…ウルトラマン、コスモスさんはそんな方ではなかった筈ですよ?慈愛に満ちた戦士のはずです。ゼロにいさまから教わりました』
【アブソリューティアンの光の国掌握作戦は始まっている。ウルトラマンどもが、ウルトラマンキングが貴様を呼び戻す前に…貴様を排除する!】
まともな会話にならず、一斉に武器を突き立て、光線を放つアブソリューティアンと名乗る敵性宇宙人。マントを優雅に振り払い、攻撃を打ち消すフィリア。
『どうやら問答無用なようですね…はくのん、少し懲らしめちゃいましょう』
(異論なし)
玉座に現れたのは幸運だった。市民やネロに心配をかけずに済む。月の平和は、王が護らねばならないからだ。フィリアと頷き、一体化し二人は戦闘態勢に入る。
『どの様な理由があれ、人のお家を踏みにじる真似が許されるはずは無し。迅速に退治させていただきます!』
【【【【【攻撃開始!】】】】】
玉座の間にて始まる、フィリアと黄金の巨人達。武器と数で攻めたてるアブソリューティアン達に、フィリアははくのんと一心同体にて立ち向かう。
【はぁっ!】【せぇい!!】
『フィ!ィーリャッ!』
槍を構え、双方から挟み撃ちにやってきた二人の突きを両腕にて難なく掴み取り、グルリと回転させ大地に叩き付ける。グハッ、と息を吐き悶え苦しむ二人に当身し、即座に無力化させる。
【【【【【はぁあぁあぁっ!】】】】】
即座に接近戦は不利と悟ったのか、5人が陣形を組み光線にてフィリアを遠距離から攻めたてる。その攻撃を素早く片手のバリアにて無力化し、右手にロザリオ型の形状の武器を召喚する。
(フィリア・ロザリオ。ウィップモード)
はくのんがインナースペース、即ちフィリアの中にて武器を管制し、縦横無尽にロザリオが変形したムチを振るう。一体化した事により、フィリアとはくのんは互いに力を与え合う事が叶うのだ。
【【【【【ぐぁあぁっ!】】】】】
光の鞭と化した攻撃に身じろぎすらできず打ちのめされるアブソリューティアン。二人の手により、7人が瞬時に無力化される。残るは隊長格を含めた三人
【おぉお!】【はぁあぁっ!】
まずは残りの隊員が白兵戦を仕掛けてくる──と、見せかけた動きにてフィリアを幻惑する。狙いは別にあったのだ。対応しようとしたフィリアは、羽交い締めにされ動きを封じられる。
『っ!?』
【貰ったぁ!!】
躍り出る隊長格が、動けないフィリアを仕留めんと跳躍し剣を振りかざす。はじめから、隊員ごと仕留める算段だったのだ。忠誠心、練度、共に尋常ではないことを感じながらフィリアは対処を行う。
『はぁあぁあぁあぁあ…っ!!』
烈吼の気合を放った刹那、フィリアはアブソリューティアンの眼前から『消失』する。空間転移──魔術の極地に通ずる業の発露だ。
【!?何!?】
消えた──。そう認識するよりも早く、三人は薙ぎ払われ、切り払われた。即座にレイピアを握ったフィリアの一閃に、意識を刈り取られる。
【【ぐぉ…】】
【馬鹿、な…】
(令呪とフィリアのワープの合せ技)
『これが、私達の力。そして、不敬の報い。大いに反省してください』
言葉を手向けに、レイピアを振るうフィリア。静かに崩れ落ちるアブソリューティアンの兵士達。フィリアとはくのんはほっ、と息を吐く。
『只者ではない練度を感じました。目的の為なら刺し違える事も厭わないとは…』
(フィリア、体力は大丈夫?)
フィリアは圧倒的な力を有している代わりに、活動時間が短くエネルギー消費が非常に激しい。はくのんと一体化すればサポートによりマシにはなるが、それでも通常のウルトラマンと比べてあまりにも全力の期間が短いのだ。だが、フィリアは気丈に振る舞う。
『大丈夫!カラータイマーも鳴ってません!心配ありがとうございます、はくのん。…それにしても、アブソリューティアン…?聞いたことのない種族です。光の国の敵対組織…?』
(あのお人好しの善人宇宙人の皆様に敵対できる力と、恐ろしさを兼ね備えている…?)
『それは間違いなく。…何か事情がありそうですし、お話を聞いてみましょう。意識を取り戻してもらわないと…』
はくのんの言う通り、ウルトラマンとは善人の集まりだ。侵略などしなくても、可能な限りの力を貸してくれる者達だ。このフィリアのように。リッカの前に突き出してお話するしかねぇと歩み寄ろうとした、その時。
【流石は伝説の存在に薫陶を受けたウルトラウーマン…我等アブソリューティアンの兵士をものともしないとは。やはりその力、我等の障害になり得るな】
『!』
先の兵士達と似た、それでいて桁が違う覇気、そして力。圧倒的な風格を醸し出しながら、黄金の奈落が再び開く。そこから現れし者に、フィリアは最大限の警戒を飛ばす。
(この声…エミヤ?)
【フフフ…貴様はこの私直々に手を下すに値する存在だ。光栄に思うがいい】
『ありがとうございます。願わくば、所属と目的を教えていただきたいのですが…』
油断なく間合いを計るフィリアに、その黄金の存在は高らかに答える。その名乗りは、玉座に響き渡った。
【我は究極生命体!アブソリューティアンの戦士…アブソリュート!タルタロス!!】
『アブソリュート…』
(タルタルソース?)
【ウルトラウーマンフィリア。キングの隠し子たる貴様を葬るつもりでやってきたが…ムーンセルの王と一体化していたとは好都合だ。我がザ・キングダムに、このムーンセル・オートマトンは大いに役立ってくれるだろう】
アブソリュート・タルタロスと名乗る巨人はそう頷き、二人に告げる。自身にも、互いにも有益な提案だと。
【岸波白野。ウルトラウーマンを捨て、ザ・キングダムにムーンセル共々下るのだ。さすればお前をアブソリューティアンの同胞として迎え入れよう。人間に向ける恩赦としてはこれ以上ない申し出だ。光栄に思え】
『!?』
(……)
理性的な、そして端的で傲慢な──服従宣言。突きつけられた黄金の宣告に、フィリアとはくのんは晒される。その返答は──。
(お断りします)
【ほう…】
迷いも無く、即答。月の新王としての矜持を黄金の侵略者に端的に告げたのであった──。
フィリア『はくのん!…月の新王は告げられました。そもそもあまりにも一方的だとは思わないのですか?あなたからは、自身らが銀河の覇者であるかのような傲りを感じます』
はくのん(端的に言って何様)
タルタロス【それは事実であり、真理だ。我等アブソリューティアンは全ての種族を超越した存在…お前達劣等種は我等に従い、貢献できる事こそ栄誉と預かるべきだ】
フィリア『本気で言っているのですか…?それに私はともかく、何故はくのんとムーンセルを狙うのです?全ての種族を超越しておきながら、何故他者の力を求めるのですか?』
タルタロス【貴様が知る必要の無いことだ。今ここで消える貴様にはな】
はくのん(なら私が当てちゃうよ)
『はくのん!?』
はくのん(タルタルソース。あなたは今、アブソリューティアン全体の問題に直面してる。それこそ、他人に侵略しなきゃいけないくらいに。例えば…【母星の危機】とか)
タルタロス【ほう…】
(ウルトラマンの皆さんの持つ科学力や、母星を得る為というなら侵略行為も頷ける。ムーンセルを求めるのは…未来を変えるための力として。違うかな)
タルタロス【聡明だ。実に素晴らしい…人間にしておくには惜しい程に】
フィリア『星の、危機…』
タルタロス【王を名乗るだけはある。よし…貴様をアブソリューティアンに迎えた後は、ムーンセルの生体ユニットにしてやろう。我等が星の礎になれること、光栄に思うのだな】
フィリア『させると思いますか。この私がはくのんを護ります!』
タルタロス【用があるのは岸波白野とムーンセルのみ。ウルトラウーマンフィリア…貴様はここで滅ぶがいい!】
王と月の簒奪を阻む為──黄金の戦士に、ウルトラウーマンフィリアが挑む!
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