人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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早朝

グレイス「人間の健康状態、精神の安定グラフを把握。これで健康管理のお仕事が出来るようになりました。ありがとうね、うたうちゃん」

うたうちゃん「いえいえ。人の健康と精神のケア…とても素敵な道だと思います」
ディーヴァ(教えられてケアされてばかりのうたうとは正反対ね♪)

うたうちゃん(…困りました。何一つ否定できません)

グレイス「ありがとう。私は傷つける哀しさ、傷つけられる哀しみを仲間達から受け取りました。皆と比べて、やや情緒が発達しているの。だから…哀しい想いを、嘆きを、少しでも癒すことを仕事にしたい。そう考えたら、福祉活動や救助活動が天職かなって」

うたうちゃん「応援します。あなたが立派な、白衣の天使になれるよう」

グレイス「ちょっと血なまぐさいけどね、うふふっ」

うたうちゃん「!…今のは、ジョークですか?」

「そう。あんまり上手くなかった?」

(…AIがジョーク、サプライズの類を言うには膨大なデータと情緒のラーニングが必要。グレイス…彼女の心は凄い進化を遂げている…)

ディーヴァ(それを言うなら二重人格、分裂症患うあなたも相当よ?うたう?)

うたうちゃん(あなたはわたしの半身です。病気みたいに自分を卑下しないでください。哀しくなります)

ディーヴァ(〜。ジョークのセンスはグレイスに弟子入りしなくちゃね。ありがと、うたう)

?「おはよう。今日はとてもいい朝だ。グレイス君も、ようこそ夏草へ」

グレイス「あら、おじさまは…」

うたうちゃん「あなたは…!?」


6日目・朝〜旅立ちの岐路

「夏草の勇敢なる協力者の皆様。改めてカルデア所長としてお礼を述べさせていただきます。魔神柱の鎮魂の参加、本当にありがとうございました。心より感謝します」

 

6日目の早朝…今までの和やかな起き上がりとはちょっと違う朝。皆が起き揃った時合を見計らって挨拶を行う者が在る。現カルデアス所長、アニムスフィア君主…オルガマリー・アニムスフィアがリッカの学友の前に直接姿を現したのだ。通信モニター越しではなく直接の来訪に、なんとなく背を正す一同。

 

(知ってる…この雰囲気知ってる…先生に職員室に呼び出されるやつ…私ちょくちょく呼ばれたから解るやつ…)

 

(アカネさんは不良学生だったのですね?私はむしろ榊原先生に信仰布教の是非を問いに毎日職員室に通っていましたよ!)

 

(先生も判断に困る事を…。しかし、まさかとは思うが『口封じ』などではあるまいな…?)

 

(口封じ!?デスゲームの導入!?私達消されちゃうのぉ!?やだぁ!助けてアレクシス!六花ぁ〜!?)

 

盛り上がるルル、早苗、アカネに榊原チョップが飛び、コホンと咳払いとし話題を続けるオルガマリー。

 

「カルデアの勤務にて故郷から離れていたリッカに、変わらずに友誼を結んでくださっていた事にも感謝を述べさせてください。その…カルデアで友人となった私からの、個人的な感謝を」

 

「そういう事ならこのマシュ・キリエライトからも尽きない感謝を!世界を救えたのは間違いなくリッカ先輩の御協力のお陰です!そしてリッカ先輩を大切にしてくださった皆様と夏草の土地こそ救世主!ありがとうございます!ありがとうございました!!」

 

(あ、圧が強いなぁ…)

(アクも強いよね)

 

アスカとヤマトが呑気にそんな事を告げると同時に、オルガマリーの傍らにいたうたうちゃんが声を上げる。

 

「此度はカルデアより御礼が届くと同時に、内海市長より伝言を預かっております。──内海市長は完全私設人理保障組織『カルデア・夏草支部』の設立を宣言し、そのメンバーに皆さまをお誘いしているとの事です」

 

「「「「「カルデア夏草支部!?」」」」」

 

寝耳に水の設立に一同は衝撃を受ける。夏草の市長が、カルデアとの完全なる協力体制を提案したというのだ。私設、つまり自身のみの独断、個人の決定のみでだ。

 

「ビデオメッセージも預かっております。再生を行いますのでどうかそのままで」

 

うたうちゃんがそう告げると、両目から映像がスクリーンにて放たれる。その映像は、堂々たる巨漢の市長が整然と座っている様子が映されている。

 

(本当に市長だ…!)

(凄い迫力ね…殴って人殺せそう)

 

『私は夏草市長、内海羅王だ。諸君、突然の事に驚いていると思う。当然だろう、この組織の設立は、つい昨夜に私が宣言したばかりなのだから』

 

(((((急!?)))))

 

やる事なす事即断即決。伊達に市長選挙で掲げたマニフェストを全て実行実現してきた男は格が違った。彼は決断したという。カルデアへの協力を。

 

『私は魔神柱、カルデア、そして人理を巡る争いとそれに対する組織の存在…非日常を知った。それは誰にも祝われる事のない、しかし誰かが必ずやらねばならない戦いだ。そういう戦いに藤丸龍華君は参加し、文句一つ言わずに戦ってきた事を知った。まずは、この星に生きる者を代表して君に感謝を告げよう。私達を救ってくれて…未来ある生命を救ってくれてありがとう。君は夏草の誇りだ。龍華くん』

 

「えっ、ぁ、ふぁっ…えへ、あ、いや、どど、どういたまして…ふへへ、えへ…」

 

(リッカがたじたじ…だと!?)

(なるほどね〜?リッカってば褒め殺しにダメダメなんだ〜♪)

 

モニターにギッチギチな市長の感謝に、しどろもどろになるリッカに驚く黒神と天空海。市長は優しく微笑んだ後、厳しい表情を浮かべる。

 

『そしてその学友達よ。君達は非日常…有り得ざる世界を知った。魔神柱と、この世界の裏にて起こる出来事を知った。それはカルデアとの共闘であり、世界を救うための戦い…非日常へと身を投じた君達の勇気を称賛すると共に、私は君達の日常を護る義務がある。世の中には、秘密と神秘を守護する為手段を選ばぬ組織がある事もオルガマリー所長…そして『王』より聞き及んだ』

 

王が誰かなど言うまでもないだろう。そして組織とは魔術協会に聖堂教会の事だ。魔術の才あるものに非人道な手段をもちいる危険性のある組織、異端を排除する組織。その話を全て聞き及び、内海は起った。このままでは夏草に【ガス爆発】が多発することとなると。

 

『君達が非日常に適応し、カルデアと共に戦ったように…この地には眠る力、秘めた能力を持つ者が輩出される事を私は理解した。夏草の民をあらゆる手段を講じ守る。それは私の使命…故に私は、カルデアに個人的ではあるが全面協力をするに至ったのだ』

 

非日常を知り、目を背けるのではなく裸一貫で非日常に飛び込む。そう決意した内海の表情には決意が漲っていた。彼は本気で、非日常から日常を護らんとしている。

 

『そして、非日常へと飛び込んでしまった君達に選択の機会を与えるのも我が使命。もしこの非日常を疎ましいもの、恐ろしいもの、忌避すべきものと考えているのならば。私が責任を負い、カルデアに纏わる記憶を封印処理し日常に戻すことを誓おう』

 

「その後の処置もカルデアが負担するわ。平穏な一生を、皆様に約束します。里帰りしたリッカと平和に過ごした記憶のみを懐き、また新たな平穏へと戻る事ができるでしょう」

 

それは自由意志の尊重。たまたまリッカといたから巻き込まれたのなら、非日常の参加を強制する気はない。平和な生活は、理不尽に奪われていいものではない…しかし。

 

『しかし。世界の為に戦う決意があるならば。感じた非日常を、放っておけぬと言うならば。その他あらゆる理由があり、この世界の裏側と向き合う決意、立ち向かう決意があるというのならば。この内海が!あらゆる手段を講じ君達の決意を後押し、支援する事を誓おう!!』

 

立ち上がり電球に頭をぶつける内海市長。ゆっくりと座り、静かにあくまで冷静に諭すように告げる。

 

『誰も君達に強制はしない。穏やかな平穏か、波乱の非日常か。私達はそのどちらも君達に提供する備えがある。…どうか、よく考えて選択してほしい。リッカ君は明日、帰ってしまう。今日はフェイト・シーを『王』が貸し切っている。そこで遊びながら、君達のこれからを考えるのだ。自身にとっての最善を。…以上だ。君達の心の宿った返答を期待する』

 

「──再生、終了です」

 

うたうちゃんが告げ、そっと立ち上がる。一同はその話題に、少なからず衝撃を受けている様だ。つまるところ、カルデアスタッフとしてリッカと同じものを、同じ様に挑まんとしていると言うことなのだから。

 

「フリーパスチケットを受け取っています。どうぞ皆様、フェイト・シーをお楽しみください」

 

うたうちゃんが一人一人にフリーパスを配る。そのフリーパスを受け取るリッカ達の表情は様々だった。決意、決心、高揚、迷い、確信。

 

「皆。その…」

 

そして最後に、リッカが言葉を投げ掛ける。彼女は心を込めて、言った。

 

「よく、考えてね。これは間違いなく皆の人生を決める決断だから。私は皆がどんな選択をしても絶対恨んだりしない。私自身に誓うよ。だから…誰かに合わせるんじゃなくて、自分が絶対後悔しない道を選んで。私との約束だよ」

 

リッカの揺るぎない言葉が響く。

 

──夏草を発ち、再び世界を救う旅へと飛び込む日はもうすぐそこに迫っていた。そしてその旅へと同行するチケットは、皆に今渡されたのだ──




先刻

うたうちゃん「私は参加します。ディーヴァも同じ気持ちです」

グレイス「私も、非日常から産まれたものです。だからこそ、皆の日常を護らせてください」

ラオウ「そうか。…そうか。ありがとう、電子の隣人達よ。心から、協力に感謝する」

うたうちゃん「でも…私は夏草から離れません。私は、夏草に奉仕するAI。日常に生きる人々に寄り添うことも、捨てるわけにはいかないですから」

グレイス「うたうちゃん…」

ラオウ「…君は一人だけだ。バックアップも、予備のボディもない。製作者に託された設計図を預かる私が、君を造ることもない。君の判断を尊重するよ。それが、君という『個』への敬意だ」

ディーヴァ(ありがとう、市長さん)

グレイス「ですが市長さん。彼女はリッカちゃんへの奉仕も諦めてはいません。彼女の心は今、悩んでいるのです。何か私達に出来ることはありませんか?」

うたうちゃん「グレイス…」

内海「…そうか。リッカ君も同じ様に夏草の民。当たり前といえば当たり前なのだ。…うたう、それにディーヴァ」

うたうちゃん「は、はい」
ディーヴァ(何か手があるの?)

「ある。私は夏草に生きる者全ての味方だ。そしてそれは君達にも当てはまるのだから──」

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