人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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観覧車

スザク「僕はカルデアに行くつもりだよ、ルル」

ルル『やはりな。しかし…自罰ではあるまいな?』

スザク「そうじゃない。もういなくても…ここはユフィが生きた世界だ。滅ぼされる訳にはいかないからだよ、ルル」

ルル『…お前は強いな、本当に。友達として誇りに思うよ』

スザク「それなら、君も今すぐ強くなれ。ルル」

ルル『──あぁ、解っている。俺は今、ゆかなとレストランに来ている。決着を付けるつもりだ』

スザク「決着…」

ルル『あぁ。リッカの助けになるためにも、半端なままではいられないからな』

スザク「…信じているよ、ルル」

ルル『当然だ。俺達は…友達だからな』

スザク(…僕の様にはなるなよ、ルル)


シー・キャッスル

リッカ「……」

榊原「来てくれるか不安?」

リッカ「ううん。皆の選択を信じる。来なかった人を護って、来てくれた人と一緒に戦う。それだけだよ」

榊原「…うん。そうだね」


1700話〜決意と絆の絶対遵守〜

「………」

 

「ルル?一体どうしたのですか…?」

 

最後のメンバー、いつもの友人達の集いの中核。ルルはゆかなを連れ、レストランの席を確保し座り沈黙を保っていた。ゆかなの隣で口を結び続けるルルは、何かを固く決意しているようにも垣間見える。悪い事ではないという確信はあれど、一世一代の決意を懐いているような顔立ちを見れば心配になるのがゆかなという人間である。その沈黙と決意をせめて伝えてほしいと詰め寄らんとした時、硬質な金属の如き声が響き渡る。

 

「よう!わざわざ呼び出してくれてありがとよ、兄ちゃん。お前さんが福山ルルだな?」

 

現れたのは、鋼のような肉体と白き神父服、並びにグラサンの出立ちの男。顔面に傷まみれな破戒神父、アダムスキー・レイドライバー。ゆかなの保護者である。ルルは深々と礼をし、迎え入れる。

 

「すみません、わざわざ御足労を。僕の…僕なりの決心を聞いていただきたくて」

 

「え?え…?二人共、これはどういう…?」

 

ルルの横顔を見てみれば、微塵も揺らがずにアダムスキーを見つめている。その表情は、何かを自身に『遵守』しているかのような不動ぶりだ。アダムスキーもそれを知ってか知らずか、不敵な笑みを浮かべている。

 

「さぁて、聞かせてもらおうかい。お前さんの…決心ってヤツをな」

 

「はい。──僕達は今、カルデアという組織への就職を果たすか否かを考えています。資料はこちらに」

 

アダムスキーに提供するパンフレット。彼は手慣れた手付きでそれを確認し、全てを把握する。日常から、非日常と波瀾に飛び込まんとする証の資料であるということを理解した。

 

「降って湧いた様なチャンスじゃねぇか。君もゆかなも把握してるのか?」

 

「…はい、お父さん。カルデアは、私達に選択肢をくれました。日常か、非日常かの選択を」

 

そう、それは既に示された選択。カルデアに赴くか、夏草に向かい征くか。紛れもなく人生の岐路。それを──ルルは全て承知した上で宣言する。

 

「僕はカルデアに行きます。世界を救うために頑張る友達を置いて平和を享受する気はありません。僕は…彼女の心が波乱に壊れない為に共に戦うと決めました」

 

ヒュウ、とアダムは口笛を吹いた。彼好みの、たくましい男の開拓心。荒野に飛び出す流浪と勇気を神父は称賛する。

 

「そいつは素晴らしいじゃねぇの!よく決心したぜおい!ゆかな、聞いたか?ボーイフレンド、随分と骨太じゃあないか!こりゃあ…」

 

「──そこで、僕はあなたに…そしてゆかなにお願いをしたいと思います。どうか聞いてください」

 

勿論、宣誓だけでは終わらない。むしろここからが本番だった。彼は全身全霊を込めて、アダムを見つめている。──そして、口にしたならばあっという間だった。

 

「僕は…ゆかなと離れたくない。ゆかなと一緒にカルデアに行きたいんです。アダムさん…僕に、ゆかなと共にカルデアへと向かう許可をください!」

 

深々と頭を下げるルル。目が白黒し停止するゆかな。なんと彼は先んじて告げたのだ。ゆかなと共に戦いに身を投じたい。離れたくはないのだと。

 

「…聞かせてくれよ。ゆかなと一緒に行きたい理由をな」

 

アダムからは軽薄さが消え、重厚な迫力が満ち溢れる。サングラスの下の瞳が、しっかりとルルを見つめていた。

 

「ルル…あなたは…」

 

「──理由の一つは、俺は彼女を傷付けてきました。魔女だと、淫売だと。彼女の上辺ばかりを見て酷いことばかりを告げてきた。あなたの娘に対する罵詈雑言と言葉を捲し立ててきたのです」

 

それは懺悔であり、告解であった。彼女の本当の顔を知った時…彼の心には後悔が大挙したのだ。自分は何ということを…と。

 

「僕はその償いを一生懸けて行いたい。彼女へと告げた心無い言葉を、その責任と贖いを果たしたい。だからこそ、僕はゆかなから離れたくない。これから彼女の傍にい続けたいんです」

 

「そんな、私はそんな事なんて…」

 

「少し聞き届けててな、ゆかな」

 

静かに、優しくゆかなを諭すアダム。サングラスの位置を直し告げる。

 

「そんなにブルっちまうなって。別に断罪なんぞしねぇよ。むしろよく言ったな、ルル坊。ゆかなの素を見て態度を変えるだけだったらガチで殴ってたぜ」

 

「……はい」

 

「そこはオレがゆかなに教えた護身術だ。むしろお前さんはゆかなに誠実に付き合ってくれてたって事で感謝もしてやりたいくらいだ、心配しなさんな。…だがよ」

 

アダムは言う。それだけかと。娘を死地に道連れにする理由は、贖罪だけなのかと。

 

「自己満免罪符オナペットにゆかなを選ぶ…っていうつもりなら、首を縦には振ってやれねぇな。罪を償いてぇなら夏草でも出来るだろう?お前さんがカルデアにいるリッカちゃんが、仲間が大事なのはよく解ってる」

 

胸ぐらをそっと掴む。全てを見下ろす瞳が、ルルの有り様を冷徹に見届ける。

 

「ルル坊。もっと踏み込んだ答えを聞かせろよ。南極くんだりまでウチの娘を連れ回したい理由は、理屈はなんだ?」

 

「お父様…!」

 

ゆかなが割って入ろうとするも、ルルはそれを制する。一歩も引くことなく、ルルは彼に宣言する。

 

「僕は…、いや。俺は…俺は…!」

 

「何だよ?」

 

「俺は…!ゆかなに相応しい男になりたいんです!その目標を達成する為に、俺の傍で彼女にいつも見ていてほしいからです!」

 

言った。告げた。それは…ゆかなに対する、人生を奉じる宣誓であった。アダムはそれを、静かに受け入れる。

 

「…カルデアに行く理由は、武者修行って事でもあるってことかい?」

 

「はい…!俺は友達を助けるのと同じくらい、あなたの娘に相応しい男に成長する為にカルデアに行きたいんです!でも俺は…俺には…!遠距離恋愛なんて無理だから!!」

 

「る、ルル…!?れれ、恋愛…!?」

 

「俺はッ!!好きになった人にはずっと傍にいてほしいんです!!ていうか!死ぬときはゆかなの美乳に埋もれて死にたいですッ!!」

 

最早勢いで言葉を叩きつけるルル。アダムはそれでも、静かに聞き続けている。

 

「ゆかなはどんな醜態を晒しても、俺を見捨てないでいてくれました!みっともないところも、情けないところも!キスまで、キスまでしてくれました!ファーストキスでした!すっごく柔らかくて、ふにゅってして舌が当たって…!」

 

小便を漏らしても、体育テスト最下位でも。みっともなくても愚かでも。彼女は側にいたのだ。自身のそばにいてくれたのだ。

 

(ぱくぱく、ぱくぱく…)

 

恥ずかしさに口が金魚めいているゆかな、童帝となったルルは止まらずに告げる。

 

「こんなに俺に寄り添ってくれる人はもう現れないです!だからゆかなを、俺は離したくない!どこにいても、どんな場所でも!彼女が傍にいてほしいんです!友情も!愛情も!俺はどっちも捨てられない!どっちも俺は懐いて生きていたいんですッ!アダムスキー神父ッ!!」

 

「────」

 

「俺は!──ゆかなと生きる明日が欲しいッ!!

 

はっきりと宣言する。彼は──今、願いを口にしたのだ。自身を明日に進める明日を。

 

「……ゆかな。お前さんはどうだい?ルル坊のコレを受けてよ」

 

アダムはゆかなに告げる。お前の意志はどうなんだと。彼を、受け入れるのかと。

 

「──はい。私は…ルルの気持ちを受け入れます。人としての弱さから目をそらさず、魔女の私の言葉を受けても私を拒絶しないでいてくれた彼に…彼の心に私は…私は、惹かれています」

 

ゆかなもまた、真っ直ぐに告げる。その為なら…その為なら、死地であろうと世界の果てであろうと。恐れる事は無いのだと。

 

「フッ──そうかいそうかい。相思相愛だったか、めでてぇこった」

 

満足気に頷き、アダムはルルから手を離す。腰が抜け、チェアにへたり込むルルとゆかなに神父は告げた。

 

「なら互いに支え合いな。富める時も貧しき時も、病める時も二人で支え乗り越えていけ。今ここで誓え。いかなる波乱も、二人でずっと挑んでいくとな。このアダム神父に誓ってみな」

 

「───誓います、お父様」

「俺もです!アダム神父!」

 

「よぉし!なら今からお前らは俺様公認の付き合いだ!南極のカルデアで、立派な人間になってこい!!」

 

娘の自立、男の誓い。いつか来るであっただろう巣立ちの時がこんなにも真っ直ぐで痛快である事実に感激しながら、アダムは二人を心から祝福した。

 

「俺の娘を頼んだぜ、ルル」

 

「はい、アダムスキー神父!」

 

「あー違う違う。こういう時はあるだろ?もっと相応しい呼び名がよ」

 

僅かに逡巡しながら、ルルは頷きゆかなと手を繋ぎ、真っ直ぐ希望に満ちた決意と共に祝ぐ。

 

「よろしくお願いします!──お義父さん!!」

 

「おうっ!頼むぜ、息子!!」

 

「──。………」

 

自身にとっての最愛が、最良の縁を結んだ。その奇跡に、ゆかなは言葉もない感銘に満ち、その光景を見つめ続けた──。




そして──

榊原「……」
リッカ「……」

天空海「ちょっと先生!ここで合ってるー!?」


リッカ「!」

城の玉座の間、志願者のみが通れる空間にて待っていたリッカと榊原の下へと言葉が届く。

天空海「やほ、リッカ!カルデア、行くことにしたわ!色々よろしく!」

リッカ「天空海先輩ーーー!!」
天空海「おっほー!いいタックルぅ!言っとくけど、私だけじゃないわよ?」

黒神「エクストラクラス、警告者だ。リッカ、よろしく頼むぞ!」

リッカ「愛生…!愛生も来てくれたの!?」

飛鳥「ま、あなた達は来るって思ってましたよ」
サラ「考える事は一緒だったな?」
大和「私達も力になるよ。よろしくね、リッカ」

リッカ「三人まで…!」

アカネ「い、一応。私達もいたりして…」
エル「崇高なる絆にて結ばれた勇者達!鋼の魂を継ぐに相応しい面々ですねっ!」

リッカ「後輩二人も…!?」

スザク「ここはユフィが生まれた世界だ。護る理由はそれだけでいい」

ゆかな「あなただけに重荷は背負わせません。皆、みんな一緒です」

ルル「そうだ、リッカ。君の護りたい日常には、明日には…君もいるべきだからね」

リッカ「……皆……うそ……皆、来てくれるの?」

ルル「当たり前だ。友達って、そういうものだろ?」

スザク「辛い事は分け合おう。嬉しいことは皆で言祝ごう」

エル「リッカ先輩は一人ではありません!僕達は、貴女を孤独から護ってみせます!」

アカネ「リッカ先輩みたいな女の子に…ヒーローになりたいんです。私…!」

黒神「もし君が迷ったら、友人として我々が連れ戻す」

天空海「世界も幸せも、どーんと掴めばいいだけの話よ!」

飛鳥「運命を切り拓きましょう!一緒に!」

サラ「私は、君の正義を支えたいんだ」

大和「やろう、リッカ。誰もが自由に選べる未来を目指して」

リッカ「…うんっ!うんっ…!カルデアでできた親友も、後輩もちゃんと紹介するからね…!」

榊原「…。素敵な友情。流石私の生徒…なんてね」

ルル「見ての通りです、榊原先生。我々全員…カルデアへの就職を希望します!」

榊原「──解った。それじゃあ…リッカ?」

リッカ「ぐすっ、ひっく──んっ!」

手を差し出す。リッカの手に、全員が手を重ねる。絆と、誓いの証。

リッカ「世界!!絶対救うぞーっ!!」

「「「「「「「おーーーーっ!!!!!」」」」」」」

榊原(……ありがとう、皆。教師として、こんなに嬉しいことは無いわ。こんなにも…)

こんなにも真っ直ぐに育ってくれた事。希望と未来に溢れる目の前の生徒達に心からの祝福を贈る榊原であった。

──この、1700の節目を結ぶ奇跡達に。

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