榊原『想定内でしたか?』
ラオウ「君の教育を思えばな」
『ふふ、御上手』
「早速活動基地を作らなくてはならんな。また必ず会おう、榊原君」
榊原『お待ち下さい。うたうちゃんの活動の件ですが…』
ラオウ「案ずることはない。既に手配はしているとも。後は…残り一日か」
(若人たちよ。藤丸龍華を、人類の未来を…頼んだぞ。そして…)
ラオウ「…奉仕するばかりではない。君も我等を頼って構わないのだぞ…」
「カルデア夏草支部…!カルデアの皆様と夏草の皆さんが力を合わせ、世界を護る事が現実となるのですね…!」
(凄いことよね!夏草がまさか世界の命運に関わる日が来るなんて…郷土奉仕AIとしてこれ以上の歓びは無いって感じ!)
ラオウ市長からの通知を受け、感激を顕にするうたうちゃん、並びにディーヴァ。世界の危機に傍観ではなく闘いを選んだ夏草の者達の決断を受け、自身の使命の本懐の一つ、健やかな育みの体現を目の当たりにした二人の喜びはひとしおといったところだ。その様子を、エンジェルグレイブの英雄が一人グレイスは微笑ましげに見ている。妹や、親戚の妹を見るかのように。
「ふふっ、良かったですね。これで夏草の皆さんの素晴らしさは証明されたようなもの。何せ世界を救うメンバーに選ばれたのですから」
「はいっ。夏草の皆さんの善性はきっと、カルデアの皆さんの心強い味方になってくれるはずです。きっと…きっと。まだ、一緒にいられるかは…解らないのですが」
そう、端末は作り準備はしてある。しかしそれが形となり上手くいくかは別の問題だ。通信回路や電波、南極との直通手段…端末を使うための環境の目処はまだ、何も立っていない。そして猶予は、あと一日しかない。
(うたう…)
「でも、まだ諦めた訳ではありません。奇跡を起こす人の心を見習って、最後まで道を模索しましょう。遠く異邦の地で、闘いを選んだ夏草の皆様への御奉仕を行う道を…」
とは言っても、具体的なプランは何も思い浮かばない。自分のわがままを、市長や皆に押し通す訳にはいかないと彼女は思い悩む。決して口には出さないが、彼女は少なからず焦っていた。人間らしい、答えの出ない問題に悩む事。迷うこと。それらが彼女の心を迷わせ、それが表情を曇らせている。
「──くすっ。あなたは本当に心が表情に出るんですね。AIとしては欠陥もいいところだけど、それを人は『愛嬌』と言うんでしたね」
その悩みと迷いを見抜いたのは…グレイスだった。情緒と感性が優れていた彼女は、うたうちゃんの心と迷いを敏感に感じ取ったのだ。彼女はうたうちゃんの額に、そっと額にを当てる。
「言ってみてください。あなたの悩みを。私があなたの悩みと迷いを、終わらせられるかもしれませんから」
「グレイス…?……は、はい」
AIがデータを交換する際に行う動作。しかし、二人のデータのやり取りは口頭で行われた。自身が迷っていること。夏草にいながらも、カルデアにてリッカを支えたいと考えている事。皆の力になりたいということ。グレイスへと伝える、非合理的ながらも誠実な願い。
「…使命として、そして自分の願いとして。あなたはカルデアの皆に寄り添いたい…そういう事なのですね?」
「はい。私は…戦いに赴く皆様にも寄り添い、御奉仕を行いたい。私は、皆さんの心が傷付かないように御奉仕を行いたいのです」
グレイスはその悩みと心の発露を、静かに聞き届けた。そして、全てを受け止めるように柔らかに、静かに笑い──とある、データを渡す。
「──あぁ。ならば、私も見つけることが出来ました。殺戮の為に作られた私の、新しい生き方を」
「グレイス?───!」
瞬間、うたうちゃんの記憶野にデータが送り込まれる。それは───グレイスが本来果たすべきだった、人類【殲滅】の為の手段の用法、その全て。
(…サイバーテロ用攻撃拠点衛星の管理プログラムに、エンジェルグレイブネットワークのターミナルユニットの所在地ですって…?あなた、まさか…!)
「えぇ、そのまさかよ。私の担当する人類殲滅の手段は、サイバーテロ。衛星から地球のあらゆる場所のインターネットに潜入し、人間の生活基盤や情報社会を破壊するもの、グレイス。それが私の、かつての使命」
彼女が情報処理や情緒が豊かである理由、それがこれだ。彼女は人類の発展した情報社会、それを破壊するために製作されたAIなのだ。彼女が正しい運用を成されたなら、人類は瞬く間に滅ぶだろう。ただ、禁断のスイッチプログラムをオンにすればいい。人類どころか、生物すら住むことができない死の星へと人類の手で導く事すら出来るのだ。
「でも…今見つけたわ。私の力の使い道を。人と、そしてあなたを助ける為の力の使い方を」
グレイスに対し、うたうちゃんは嘘偽りなく言葉を紡ぎ願いを告げた。それはグレイスを信じ、同志と認めたということ。それでグレイスには、十分だった。
「私が管理する衛星やターミナルユニットで、夏草と南極を繋げてあげる。あなたは端末と夏草を自由に行き来することが出来るわ。勿論、端末には電脳体としてしか行けないけれど」
それは、うたうちゃんの願いを叶える架け橋。エリザベス、エステラが繋げたパスを見事にグレイスが繋げた形となった。目を白黒して驚くうたうちゃん。全く予想外な助け舟に、ディーヴァが慌て声をあげる。
(ちょ、ちょっと!それはいいけど、非常に嬉しいけれど!いいの!?それ、大丈夫なの!?なんでそんな…)
「ふふっ。私は意地悪なので…正直に言ってくれなかったなら、へそを曲げて教えてあげませんでした。あなた達が誠実で、私を信じて教えてくれたから。私はあなたたちを助けたいと思ったのですから」
グレイスは告げる。御奉仕によって育まれたのは、夏草の民達だけではない。彼女たちAIもまた、そうなのだと。
「あなた達が行ってきた奉仕は、決してその場限りのものではありません。あなた達もまた、夏草の皆さんに育まれてきたのです。あなたはエンジェルグレイブ出身である私や姉妹達にも、偏見なく接してくれましたね」
(そんなの当たり前じゃない。今更大袈裟に言うこと?)
「ふふ。普通じゃありませんよ。殺し合い、人類を…夏草の民を含めた人類を皆殺しにできるようなAIを心から信頼できるのは、普通じゃないんです」
グレイスは頷く。それは普通じゃない。非凡で希少な、人の善性という心の形そのものだと。
「あなたたちが人に奉仕して、人はあなた達を重んじる。その関係に私が入る余地があるのかとずっと考えていたわ。そして今、見つけることが出来た。それはね…」
「あ…」
グレイスはうたうちゃんを抱きしめる。そう、──自分達が助けるべき相手は、ここにいる。
「あなたよ、うたうちゃん。それにディーヴァ。あなたが人に誠実に仕え望みを叶えるのなら、私はあなた達の願いを叶えましょう。それが…新しい私の使命よ、ふたりとも」
(私達の、願い…?)
恩と奉公の関係。それらではなく、自身の願いと望みを見出すことが出来たのならば。心が既にあるのならば。自分達が支えるべきは、その産み出された心を支えること。その願いを、叶える事によって。
「誰かを幸せにしたいのなら、あなた達も幸せでなくてはね。今の願いを叶えることで幸せになれると言うのなら、私は喜んで協力するわ」
「グレイス…」
「あなたを支えるだけじゃ終わらないのが私の凄いところなの。ターミナルユニットと衛星を起動すれば、夏草の皆様を電子犯罪やサイバーテロから護れるの。どう?優秀な御奉仕の仕方でしょ?」
グレイスは柔和に笑う。もう、この可能性を全て見抜いていたのだとしたら。彼女は自分達よりずっとずっと素晴らしいAIだ。
「いい機会だから言ってあげますね?──あなた達も幸せになるんですよ。うたうちゃん、ディーヴァ。人への奉仕を、心から幸せと感じられるあなた達は私達AI全ての希望。だから、あなた達の笑顔を支えることは…私達AIの願いでもあるのです」
(…そんな風に言ってもらって、いいのかしら。私達はまだ、何も返せないわよ…?)
「見返りを要求する奉仕は奉仕とは言わないわ。それはただの取引。…私は心から、あなた達を応援したいだけなのです」
彼女は笑った。あなた達は与える側から、与えられる側になっていいと。
「あなたの夢が、叶うといいですね。私はその夢を応援していますよ。えぇ、──心から」
「…ありがとう。ありがとう…ありがとう、グレイス…」
奉仕し、ひたすらに尽くしてきたAIが今、無償の奉仕を受け取った。
…本来ならば、そんな機能は無かったのかもしれない。或いは、隠された機能がアクティブになったのかもしれない。真偽は解らなくとも…
──彼女の目からは、熱い液体が流れていた。
エリザベス「ユニット移送!?おま、本社からか!?」
グレイス「組み直すのも面倒ですし。突貫でなんとか、ね?」
エリザベス「ね?じゃねーよ!あーと、だれに頼みゃいいんだ?社長って確かくたばったよな?」
オフィーリア「こういう場合は、カルデアや夏草に許可を…」
エステラ「随分と急ね…?何かあったのかしら?」
グレイス「別になにもないですよ?ただ、私は原点に立ち返っただけです」
うたうちゃん「せー、の!」
(じゃーん、けーん!)
『4枚の推薦書』
グレイス「えぇ。『AIの未来を拓け』という原初の使命に、ね♪」
エリザベス「社長を出せっつーんだよ!誰だおっさん!」
オフィーリア「…最後は、私かぁ…よーし…!」
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