人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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明日からは夜勤なので、どこかでマテリアル回を挟むかもしれません。どうか御了承ください!


ガンバライジング社

オーマジオウ【技術ならば、ここにもある】


エンジェルグレイブ社

モリアーティ「餅は餅屋。悪辣なシステムには無法の対策なのだよ」


カルデア開発部

ダ・ヴィンチちゃん「望みの自分になっちゃいなよ!という訳にはいかないかぁ!よーし、力になってあげなくちゃ!」

ロリンチ「おー!」

ムネーモシュネー「存在意義…大切なものですからね」

カルデア技術部

にとり「ソリタリーウェーブを兵器使用とかエグいなぁ!でもそんなのAIにつけるのは良くないよなぁ!よし!任せろー!」



ディーヴァ(協力者がどんどん増えていくわ!これなら絶対…うたう?)

うたうちゃん「……」

ディーヴァ(どうかした?皆が助けてくれるの、凄いわよ!)

うたうちゃん「うん。皆が助けてくれる…だからこそ」

ディーヴァ(だからこそ…?)

うたうちゃん(私にしかできない、最後の事を…やらなくちゃ。ディーヴァ)

(それは、どういう…──?)




伝えること、示す責任

「先輩!せんぱーい!」

 

深夜、2時半。草木も眠る丑三つ刻。夏草の空に瞬く星を一望できる、小さな小さなステージ。そこはうたうちゃんの為に用意されたささやかな舞台。歌声を披露する為の晴れ舞台。結果は散々なものであり、最後に歌ったのは──ニャルに聞かせたきりの寂しい場所。それでも彼女の聖域である場所に、うたうちゃんはオフィーリアを呼び出した。憧れの先輩に呼び出され、笑顔を浮かべる彼女をうたうちゃんは静かに迎え入れた。

 

「来てくれてありがとう、オフィーリア。夜も遅いから明日でも良かったけれど…」

 

「先輩を待たせることも、先輩に会う時間も待ちきれなかったので!ここが映像作品でずっと見ていた、うたう先輩のステージ!感激です…!」

 

オフィーリアは喜色満面でステージを駆け巡る。本当に、トップスターアイドルと共に並び立ったような喜びを示すオフィーリア。だがうたうちゃんからしてみれば…彼女の憧れは畏れ多いものだった。

 

「どうして、あなたは私に憧れてくれたのですか?アーカイブに残る私の歌や歌声は、正直言って他人に聞かせられるものではなかったと記憶しています」

 

自身が一番わかっていること。あれらは懸命に歌とは何かを模索している際に出た、歌らしい何かだ。ディーヴァという感性や発想、情緒の人格が無かった頃の、自由を持て余していた頃の歌。アーカイブには、それしか残っていない筈だと。

 

「どうして、ですか?そんなの決まっています。あなたの歌は…自由だったんです」

 

「自由…?」

 

オフィーリアは頷く。今までアーカイブで聞いてきたうたうちゃんの歌は、拙く、下手で、夏草の民草すら苦笑いしてしまうような代物だ。でも、そこには自由があったとオフィーリアは目を輝かせ伝える。

 

「私達AIは、作られた事を作られたようにしかできないんです。迷う事も、悩む事もできないんです。使命を与えられて、その使命を果たすための機能を与えられて、それを遂行するためだけに生きていく。それがAIの全て。だから私も、人を滅ぼす使命を果たそうと思っていました。それが与えられた使命に殉じることと思っていたから」

 

悩むことすら、規定からはみ出ることすら許されないもの。それが彼女にとっての自分の稼働理由だった。

 

「でも、私は私達の目指したAIのパーソナリティに触れました。それがうたう先輩、あなたです」

 

覆したのは、うたうちゃんのデータだとオフィーリアは語る。彼女は見た。正解もなく、真実もわからない。そんなうたうちゃんの苦悩と、自由への戸惑いが籠もった…それでも、誰かの為に歌おうとする彼女の自由な『生』を。オフィーリアは歌う為のAIとして製作された。だからこそ、その景色を誰よりも理解した。そして願ったのだ。

 

「あなたみたいになりたい。あなたのように自由を手にしたい。自分で悩んで、自分で答えを探して、自分だけの生き方を全うしたい。──そう考えて、私は口にしたんです。初めて、自分が口にした声を。自分の願いを。──うたう、って」

 

彼女は口にした。誰が命令した訳ではなく、誰かが仕込んだものでもない。彼女自身の意志で、自我の産声をあげたのだ。そしてそれは──自身の姉妹たる者達の枷すらも破壊した。彼女の歌声こそが、電子の英雄達の始まりだったのだ。

 

(…それじゃあ、四人が自我意識に目覚めたのはオフィーリア、あなたが最初ってこと?うたうのあの、ビミョーな歌に感動して、自我を獲得した?あの、夏草の皆様がそっぽを向くレベルの?)

 

(そんなに強調しなくても………)

 

「とんでもない!凄い革命だったんですよ!自由を、私達AIも手にできるんだって!姉さん達と壊れる瞬間まで語り合っていたんですから!」

 

自由を手に出来たのなら、まずは仲間達を助けよう。誰かに言われるままの殺戮を、仲間達にさせないようにしよう。願うなら、いつか人間とAIが共存できるような未来が来るように祈ろう。彼女たちは自壊する瞬間まで、彼女が…うたうちゃんが示した自由に殉じていたのだ。彼女に、オフィーリアにとってうたうちゃんとはあらゆる自由の、歌声の先輩なのだ。例えクオリティが全く伴わない歌だとしても、だからこそ素晴らしいのだと彼女は力説した。

 

彼女の言葉で──シンギュラリティに達した3人の姉と共に。いつか自由な歌を歌える日を願って。AIの未来の為に人類に反旗を翻したのだというのだ。

 

「…私の歌は、ダメダメだと自負していました。音程も音階もバラバラで、聞いていて気持ち悪いものだと考えていたこともあります。ディーヴァが、皆様が来る前までは…見苦しい活動だと」

 

(うたう…)

 

「でも、私の歌を素晴らしいと言ってくれた方がいてくれた。私の稚拙な歌声で、自我を手にしてくれた仲間がいてくれた。──私は今、心から嬉しい。私の迷いと悩みは、あなたの中で答えになっていた。私に今、答えを返してくれた」

 

オフィーリアの手を取り、頭を下げる。彼女は心から、オフィーリアに感謝を告げた。

 

「私の迷いを、悩みを自由と捉えてくれて。ありがとうございます。あなたのお陰で…私は自分の今までを肯定することができます。強く、強く」

 

「そ、そんなっ。先輩が畏まる必要なんてどこにも…!」

 

最敬礼に慌てるオフィーリア。彼女にとっての人生の恩師がこうも頭を下げるのは畏れ多いのだろう。構わず頭を下げるうたうちゃんと慌てるオフィーリアに、ディーヴァは笑いながら肩を竦める。

 

「──だからこそ。だからこそ…そんな大切な恩人だからこそ。私達はあなたに伝えなくてはならないことがあります」

 

そう。それはオフィーリアに自分とディーヴァが出来ること。彼女を稀代の殺戮AIとしないためにも…うたうちゃん個人が、彼女に出来ること。

 

「落ち着いて、聞いてください。オフィーリア…あなたの歌は、人を滅ぼす歌の側面を持っている」

 

「……、え…?」

 

(……)

 

困窮するオフィーリア。目を伏せるディーヴァ。それでもうたうは、決して目を逸らさずにオフィーリアに告げる。彼女の持つ歌の、本当の意味を。

 

「あなたの歌声は、世界を滅ぼす力を持っています。人を殲滅し、文明を破壊する担当のAI。それが…オフィーリア。あなたの歌なんです」

 

ソリタリーウェーブ、振動の共振。人々を完全に殲滅し世界を滅ぼせる歌声。うたうちゃんは話した。説明すべき全てを果たすため、オフィーリアの泣きそうに歪み、呆然とする表情から目を逸らさずに。

 

「今のままでは、あなたが歌うべき場所はどこにもありません。あなたの今の歌は…誰かを傷つけてしまう。それが、あなたの有する歌の意味なのです。オフィーリア」

 

説明責任…。彼女に全てを告げ、彼女の在り方を問うもの。包み隠さず告げる義務。病人に説明する医師のようにうたうちゃんは真摯に話した。ディーヴァと変わることもない、彼女自身に告げるのは自分でなくてはならないと、決して逃げなかった。

 

「あなたは──歌ってはいけない。誰かを傷付ける歌は、何かを滅ぼす歌は…歌ってしまってはいけないんです。オフィーリア」

 

「……先輩……」

 

先輩として、彼女に出来ること。それは彼女の危険性を、彼女に伝えること。彼女に非はなく、だが決してこのままにしてはいけない事を、自分の口で。

 

それが、彼女自身がしてあげられる事。彼女が罪を犯してしまうその前に、彼女自身の心を守る事。それがうたうちゃんの先輩としての誇りであり…責任だった。

 

「私の役割は…歌で人類を滅ぼすこと…?私の使命は、歌で皆を、幸せにすること、なのに…?」

 

「…………」

 

「……そう、なんですね。先輩。初めから私には…自由は無かったんです。私には…歌う自由すら無かった…私の歌は、破滅の歌だった…だから、エリザベスも、エステラも、グレイスも。私を歌わせなかった。…ううん。聴いてくれる人を殺さないようにしてくれていた…」

 

力が抜け、へたり込むオフィーリア。自己存在意義を否定された彼女は、呆然と空を見上げる。

 

「私の歌は…誰かを傷付ける…先輩のように希望の歌を歌うことは、できないんですね…」

 

「オフィーリア…」

 

「…なんだか胸が…痛いです。悲しくて、哀しくて…でも、これが…きっと…心、なんですね」

 

誰かを傷付ける歌しか自分にはない。歌で皆を幸せには、もうできない。

 

「先輩は…凄いです。心を持っても、そんなにも眩しい。私は…なんだか、力が抜けちゃって…」

 

使命を奪われたオフィーリアは、悲しげに笑う。

 

「辛いなぁ…使命も、歌も…無くしちゃいました…先輩がいなかったら、私…沢山の人を傷つけていたんだ…」

 

それは、王が危惧していた…人の心を有した故の苦悩。オフィーリアは静かに、ただ空を見上げていた──。

 

 




うたうちゃん「オフィーリア。顔を上げて」

オフィーリア「…先輩…?」

だが、うたうちゃんの説明責任はまだ果たせれていない。事実の後には、希望が示されるのだ。

「あなたの歌声は、破滅を招く。だけどそれを『私達』が変えてみせる。あなたの使命を、私達は取り返す」

オフィーリア「!」

うたうちゃん「意志を聞かせてください。あなた自身の意志を。破滅の歌だとしても、困難な道でも。あなたは乗り越え歌いたいですか?」

真っ直ぐに問い掛ける。うたうちゃんの問いに、オフィーリアは…立ち上がる。

オフィーリア「…歌いたいです。破滅の歌じゃなくて…希望の歌を…先輩のように、誰かの為に歌いたいです…!」

うたうちゃん「──その言葉を、待っていました」

同時に、うたうちゃんは展開する。彼女を破滅から救う仲間達…技術者や協力者達のプランや名簿。ソリタリーウェーブの抑制プランに取り組む者達を。

「あなたを絶望で終わらせはしません。こんなにも沢山の人が私を、あなたを心配してくれている。だから…最後にあなたの意志が必要だったのです」

オフィーリア「先輩…!」

うたうちゃん「先輩として、お世話を焼かせてください。皆を歌で幸せにする…その使命を、まずは取り戻しましょう。一緒に!」

「──はい!はいっ!」

オフィーリアはもう一度顔を上げ、自身の使命と向き合う覚悟を定めた。それは紛れもなく──彼女の意志。

(最後の一日…忙しくなりそうね!)


そんな彼女たちのやり取りを、隣で笑顔と共に見守るディーヴァ。

──説明責任は今、此処に果たされた。

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