ラオウ「顔にライダーと書いてある御仁から話は聞いている。オフィーリアの機能、個性を有したまま本来の使命を果たさせたい…そうだね?」
うたうちゃん「はい。安全に、危険なく。彼女が彼女でいられるまま歌えるように力になりたいんです」
ラオウ「君の熱意は解った。君には夏草の奉仕にて大変力となってもらった。私たちもその恩に報いたい。その問題の力になれるとある人物たちと、私と榊原君は約束を付けてある。オフィーリアを連れ向かうといい。場所は…ガンバライジング本社社長室。そこに、君達の力になってくれる方が待っている」
うたうちゃん「社長室…」
ディーヴァ(まさか…!)
ラオウ「そう。私の知己…ガンバライジング社の社長だよ」
「紹介には預かったな。俺がガンバライジング社社長…社長の方が通りやすいからな。白倉士(しらくらつかさ)だ。まぁ適当に覚えておけ」
長大なガンバライジング社のビルの最上階フロア、仮面ライダーの当時のプロップやスーツ、歴代変身者達のスチールや衣装などが飾り付けられ、社長の椅子の真上にはショッカーマークの鷲が鎮座している歴史の詰まった部屋に招かれたうたうちゃんとオフィーリア。それらを迎え入れたのは、社長と名乗る尊大な若者…カメラを首から提げ、マゼンタのインナーに黒いスーツを着た男性であった。二人を見るなりシャッターを下ろし、一枚の写真を撮る。
「はじめまして、白倉社長。私はうたうと言います」
「オフィーリアです!よろしくお願いします!」
「ロボット娘二人がわざわざ来てくれるとはな。仮面ライダーにもパーフェクトサイボーグっていうのもいるが、完璧なロボットって言うのはまだまだ未開拓だったか…」
ネタに使うのか、サラサラと紙にて記していく。この莫大な富を産み出しただけはあり、自身のアンテナは非常に広く張っていると二人のAIは感じ取る。
「それで、要件はなんだったか?そちらのお嬢さんの殺人音波歌唱を上手く中和してほしい…だったかな?」
「さ、殺人音波…そ、そうです。私は自分の歌で聞いてくれる皆を幸せにしたい。その為に、望まない破壊をもたらす問題を絶対に乗り越えなくちゃいけないんです!」
オフィーリアの決意を静かに聞き届け、士は椅子に深くもたれかかる。その意志を真摯に受け止めているのか、聞き流しているのか…態度からは掴みかねた。
「歌で皆を幸せに…か。歌自体に破滅の呪いがかかっているのなら、いっそ歌わないのが一番なんじゃないのか?それが誰も傷付けない、お前も傷付かない最良の選択だと思うんだが」
「そ、それは…」
「それに、破滅の歌をなんとかしたところで聞いた人間が幸せになれるかどうかは別の話だ。そこのうたうも、奉仕活動は皆に認められているが…歌の方はニッチなファンも付かない酷いものだ。ただ歌えれば、誰も傷つけないようになれば人を幸せにできる。そういう心積もりは少々甘いと言わざるを得ないぞ」
士の言葉に、オフィーリアは押し黙ってしまう。歌とは芸であり、生き様の投影であり、それでいて魂の芸能だ。それらを軽視してはいないかと、士は問うたのだ。
「何も嫌がらせで言っている訳じゃない。エンジェルグレイブで開発されたお前なら理解できるだろうが、人とは残酷な生き物だ。これから先、ますます発展していく情報発信の場…レッドオーシャンと化していく自己表現の場に、歌うAIという触れ込みだけじゃ飽きられるのがオチだ。それに夏草の市民は寛容で優しいが、歌で皆を幸せにするのなら、お前は人間の悪意に向き合わなくちゃならん。匿名を得た人間の、剥き出しの悪意と攻撃性を跳ね除けて大成する覚悟はあるか?」
「社長さん、それは…」
「夢を見るのは結構だ。人を幸せにする動機も美しい。しかしその夢を実現する為に、お前の生まれた心は人間社会の中で産み出されるストレスに晒され続ける事となる。その覚悟があるのかどうか俺は聞きたいだけだ。悪意に染まり、人類滅亡を簡単に結論付けられては夏草に消えない汚名を刻む事になる。この世界は人間の世界…お前が幸せしたい皆は、ほとんどがお前の敵になるぞ?」
人間の歌手の仕事も奪う競合をするわけだからな、と士は告げた。彼の発言は露悪的だが、極めて現実的な問題でもあった。使命に邁進したところで、望むような結果に到れるかどうかは未知数だ。その時に世界を呪うような歪んだAIなら、いっそ歌わない方がいいというもの。
「改めて聞かせてもらおうか。誰にも認められなくても、誰にも褒められることがなくとも。自身を貫く覚悟がお前にはあるのかな?」
社長は真剣にオフィーリアに問う。その質問は、AIにとって避けられないものだからだ。自身を害する人間すらも虜にするほどの気概と気迫を、お前は有しているのか、と。オフィーリアはその質問を受けて──。
「…はい。どこまでやれるか解らなくても、どこまでもやってみたいんです。私は自分の生まれた意味を、自分で決めて生きていきたいんです!絶対、暴走なんかしません!聴いてくれた人達を絶対に傷つけたりしません!」
はっきりと、その主張を口にした。士は更に、問を返す。
「何故、そう言い切れる?」
「私は一人ではないからです!私に歌の大切さや素晴らしさを教えてくれた先輩や、大切なお姉ちゃんたち…そして私の夢を後押ししてくれる人間の方々がいる!だから絶対に悪意に負けたりしないです!だって私はもう、善意を教えてもらったから!」
オフィーリアの使命を受け入れ、そして新たな道を願い示してくれた者達がいる。それがオフィーリアの始まりにして、誰かを幸せにしたいという始まりの理念。心の核となるそれを、オフィーリアは毅然と語りかけた。
「私が皆を幸せにしたいという気持ちは、確かに使命としてもたらされたものだけど。でもその気持ちを後押ししているのは紛れもなく私の心…!こんな素晴らしい人達にお礼がしたい、恩返しがしたいという心からの願いなんです!」
「……。夢や願いがいつまでも美しいとは限らない。希望に満ち溢れて飛び込んだ世界で打ちのめされ、絶望と挫折に苛まれ諦めるなんていうのは関の山だ。その場合、お前は本当に誰も傷付けないと保証する事ができるのか?」
「──保証します。もしそうなったとしても、オフィーリアは誰も傷つけはしないし、誰にも襲い掛かる事は無いでしょう」
士の言葉に反論したのはうたうちゃんだった。その根拠は希望的観測や予想といったものとは違う、リアリストを黙らせる鶴の一声。
「私が──オフィーリアを破壊します。暴走したのなら、破壊をもたらす事しか出来なくなってしまったのなら。人に奉仕する使命の下に私が彼女を止めます。彼女の夢を、彼女の使命を彼女自身が壊す前に」
「うたう先輩…!」
「だから──彼女は誰も傷付ける事はありません。最後の最期まで、私はオフィーリアと…遠き姉妹達と一緒です。社長が見据えるような絶望は…私達が打ち砕きます」
(うたう…)
オーマジオウから、その決意と力は託されていたのだ。仮面ライダーディーヴァは人を護るための力。それを果たす為に、彼女は力を授かった。ならば自分は人を仇なす力を討ち果たす為にこの力を使う。そして仮面ライダーは、哀しみの涙を仮面で隠すヒーロー。これは、魔王よりの声無き言葉でもあったのだ。そう、ディーヴァがあの殺人音響に平然と出来たのは。
──朋友を討ち果たす為に仮面を纏え。それがその力の意味なのだと、かの魔王は自分に託したのだと…うたうちゃんは受け取ったのだ。
「…狂い果てた同胞は自身の手で、か…。それは確かに極めて現実的で、仮面ライダーの心そのものだ。噂以上だな、夏草の奉仕AI」
パン、と手を叩き士は立ち上がる。──その顔は、笑みを浮かべていた。
「合格だ。お前達の心、確かに受け取った。ガンバライジング社とこの俺が、お前達の夢に協力してやる」
「「!あ、ありがとうございます!」」
「気にするな。上手く写真を撮ること以外、俺に出来ない事はない。じゃあよろしく頼むぞ?電子の歌姫さんたち」
(……この人、案外最初から断るつもりはなかったりして。現実のシビアさと覚悟を、偽悪的な物言いで試した…?)
考えすぎかしら。ノリノリで契約の準備を果さんとする社長の姿を見て、ディーヴァは静かにそんな事を思い耽るのであった。
士「では協力の話だ。まずオフィーリアにはガンバライジング者の技術である『ステージセレクトワープ』を提供する。自在に歌える場所の立地と、そのデータをくれてやる」
ディーヴァ(仮面ライダーエグゼイドのヤツね)
士「少なくとも、無人の場所は咄嗟に用意できるという事だ。そしてオフィーリア、お前には拘束具代わりのライダーシステムを開発してやる」
オフィーリア「ら、ライダーシステムですか?」
士「喉だけのシステムより、全身のプログラムを律する方が今は容易い。小型化の目処が立つまで、お前には顔出しは控えてもらうぞ」
オフィーリア「う、歌えるのなら甘んじます!」
士「よし、なら次は榊原の知人を訪ねろ。お前の歌声、それ自体を抑するノウハウを持った大学教授がいる。名前は…沢城だ」
うたうちゃん「沢城…」
士「そいつからデータを貰ったらまた来い。とびきりのベルトを作ってやる。無事に事が進むといいな」
オフィーリア「ありがとうございます、社長さん!」
うたうちゃん「御協力、感謝致します!」
士「白倉士だ、覚えておけ」
(…人とAIの新時代、か。次の番組に使えるかもしれないな)
情けは人の為ならず。未来の夢に向かって、AIを後押しする士でありましたとさ。
ベンチ
うたうちゃん「オフィーリア」
オフィーリア「はい、先輩」
うたうちゃん「さっき言った事は…その場しのぎではありません。もしオフィーリアや、姉妹達がどうしようもなくなってしまったなら…私があなた達を止めます。例えあなた達を破壊する事になったとしても」
オフィーリア「先輩…」
うたうちゃん「それが、皆に自我や心のきっかけをもたらした私の使命だと思うから。どんな事になろうと、皆から目を離すことも、誰かにあなた達を任せることもしない。だから、その…」
オフィーリア「…先輩」
うたうちゃん「はい」
オフィーリア「もしそうなったら…私達の魂を、どうかよろしくお願い致します」
うたうちゃん「…はい!」
ディーヴァ(ま、そうならないように皆がいるのよ。気負いすぎない事ね、おませさん?)
うたうちゃん(頼りにしています、ディーヴァ)
木陰
ソウゴ「…フフ…」
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