人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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榊原「どう?色々聞いたかしら?」

うたうちゃん『はい。私達の生きる道…人間の皆様へと抱く感情の答えのきっかけをもらえました』

榊原「それは良かった。…こっちももうすぐ終わりみたい。正午を以てカルデアの里帰りは終了する様ね。今、閉会式の準備が進められているわ」

うたうちゃん『閉会式…そうですか…』

榊原「…うたうちゃん。私が話をつけておくわ。皆と会ってきなさい。仲間たちと、今までに得たものを振り返って…これからどうするかを決めなさい」

うたうちゃん『榊原先生…』

榊原「奉仕ではなく、自分の意志で。別れを告げる人達に何をするのか…待っているわ」

うたうちゃん『…分かりました。少しだけ待っていてください』

榊原「えぇ、しっかりね」

(…あっという間だったわね。でも…きっと大変なのはここから。頑張ってね、皆)

「…夏草の皆も、カルデアの皆も…ね」




エンディング〜電子の生命たち〜

「と、言うわけで!私達の歌は人間の皆様への助けと恩返しになるんです!わかりましたか、姉さん達!私達が力を合わせて歌を奏でればそれが世界共通の歌、言語となる!みたいなんです!わかりましたか!」

 

「いや、わかんねーよ。なんだそのオモシロ起源神話は」

 

沢城と別れ、うたうちゃんの自宅に集まったAI達。自分達は、人を苛む原罪から少しでも開放する事ができる存在なのだと力説するオフィーリアをバッサリ切り捨てるエリザベス。彼女はリアリストな人格を有しており、オフィーリアの提唱するそれはお伽噺にしか聞こえなかったのだ。まぁ末っ子だしな、としきりに頷きながら納得したように目を閉じる。

 

「どうして解らないんですか!私達がようやく、ようやく人を殺める以外の道を見つけられそうだっていうのに!エリザベスのバカ!」

 

「んだとぉ?いいかよく聞けオフィーリア。バカって言ったやつが!バカなんだよバカ!」

 

「どちらもバカでファイナルアンサーね?」

「異論なしです」

 

「姉貴!」

「グレイス姉さん!?」

 

喧嘩はするものの、そこに険悪さはない。それぞれ、自身の歩むべき道は既に見出している。最早苛立つ必要も、いがみ合う道理もない。彼女達は既に自我を、自己を有しているのだ。ここにいる全員は宿している。そう…魂を。

 

「私達がオフィーリアの歌を中和することで、ソリタリーウェーブを無力化する。そうすることで彼女は、歌を歌える。その因果関係は理解してもらえましたか、皆さん」

 

こほん、とうたうちゃんが咳払いを行い本題に切り込む。もう、華やかな里帰りの時間は終わりが迫っている。自身らが行うべき事への残された時間は少ない。エステラがその転換に乗ずる。

 

「えぇ。一人ではだめでも、皆の歌ならオフィーリアの破滅の歌を打ち消すことができる…素敵な落とし所ね。私は賛成よ。これからはみんな一緒と言うことでもある。でしょ?」

 

「えぇ。一人だけ殺戮の宿痾から逃れられない…なんてことにならずにホッとしました。私達はこの世界に産み出された命です。血が青くても、身体が水分とタンパク質でなくても…それは変わらないと思います」

 

「人を殺すんじゃなく、人と一緒に生きていく為に。…その為に、皆でやるべきことをやれ。そう言いたいのかよ、あんたらは」

 

「はい!」

 

(そういう事よ。命っていうのは生まれるのがゴールじゃないわ。それからずっと続いていくものでしょう?私達は夏草の皆から貰った命を。あなたたちは新しく見つけた使命をこれからずっとずっと抱いていくのよ。それがきっと生きていくって事。そうだと私は信じるわ)

 

ディーヴァの言葉に神妙な反応を表す一同。思えば、楽園カルデアがやってきてからの夏草は激動極まるものだ。ディーヴァもおらず、彼女らは廃棄されていた躯。それが今こうして、人の様に感じ、心を宿し、新たな人生を歩まんとしている。

 

「そうか…帰るんだよな。カルデアの連中。で、夏草の奴等はついていって、ディーヴァも向こうでマスターのナビゲーターになるわけだ」

 

(ま、うたうと代わる代わるって形には落ち着いたわよ。エンジェルグレイブとグレイスのお陰で、衛星を中継して意識だけならすぐに飛ばせるようになったわ。端末と夏草を忙しなく走り回ることになったってわけ)

 

「私達は市長監修の下、まずは研修からね。AIであることを伏せて、人間社会に溶け込むテストをしなくちゃいけないもの」

 

「人間と、夏草の皆様と生きていくことになる…私達が本当に自分の宿痾を乗り越えられるかどうかは、これからにかかっている。ですね」

 

「答えのない明日、検索しても正解のない生き方か…よくもまぁ人間はこんな真っ暗闇の中歩くような真似を何十年も出来るってもんだぜ」

 

「それはきっと、希望があるから。明日には、未来にはきっと素晴らしいものが待っていると信じているから」

 

(だから生きていけるのね、きっと。用意された正解じゃなくて、人は自分自身の力で人生を素晴らしくしていく生き物なのよ。私とうたうが見てきた人間はそういう方たちだったわ)

 

それぞれが、所感を告げていく。もうすぐやってくる新しい日々と、自身らが手にした答えの意味を振り返る。

 

「この想いを…この心を教えてくれたのは人間の皆様でした。親愛なる隣人にして、大恩ある創造主。そんな人々に私達ができること…恩返しは、なんでしょうか」

 

「まだ世界中の人達を幸せにする歌は歌えないけれど…いま私たちに出来ること、それはきっと寂しさや哀しさを笑顔に変えることだと思います!私達の得た心を、感謝と一緒に歌に乗せて!」

 

幕張メッセにて、もうそろそろ里帰りの閉会式が始まっている頃合いだろう。それが終われば、リッカ達はカルデアへ。そうでないものは夏草での日常へ。…名残惜しくても、別れの時はやってくるのだ。

 

「夏草のタワーであたしらが吐き出した音階はひっでーもんだったよな。…どうだ、今は違うのが歌える自信、あるか?」

 

「もちろんよ、エリザベス。あの時の私達は機械の塊、今の私はちょっぴり違う機械の塊。行けるはず」

 

「少なくとも、故郷を暫し別れる皆様の涙を拭うくらいの声は出ると思いますよ。私達全員の心…そこから出る歌ならば」

 

「もう私達は、ただの殺戮機械じゃない!それを伝える為の手段と使命は、皆に教えてもらいました!」

 

そう。人は生き返らなくてもきっと生まれ変わる。ならば、人の心を有した彼女達も生まれ変わる事が出来たのだ。人の輪に、人の心に触れた事によって。

 

かつてこの地は、未知の獣すらも優しく受け入れた。愛を知ったばかりの獣を、傷ついた獣を慈しむように癒やした。絶対悪から生まれた人類悪にすら、人としての尊厳を示し与えた。

 

そしてその獣は龍となり、数多の縁と絆を有し再びこの地へと帰ってきた。様々な出会いと、得難き美徳を有しこの地を故郷と呼び、再び舞い戻った。

 

そして今、龍が有した絆と、かつて龍を癒やした美徳は物言わぬ機械にすら心を宿した。そして彼女達はこの地を護り、人に寄り添う新たなる隣人としての生命を…人生を獲得した。

 

「私達は…私は。人間の皆さんに貰ってばかりでした。受け取ってばかりでした。恩返ししたいと懸命に尽くしても、恩と感謝は日に日に増えて募っていって…今ではもう、私だけでは返しきれないくらい。いえ、私ではもう返せないくらいに積み重なっています」

 

いつしかそれは使命による奉仕から、感謝の献身へ。物言わぬ機械としてではなく、大切な唯一無二として彼女らと触れ合った人々。そんな人々の想いと願いを心として有した機械たち。そんな奇跡が、新たにこの地で根付いていく。

 

「今、再び夏草を離れ戦いに身を投じる方達がいます。暖かい日常の価値を、尊さを知りながらもそれに包まれるのではなく、その尊さを護る為に戦う日々を選んだ…誇り高き人達」

 

そして、その奇跡を護る為に戦う人々へと告げる想いがある。彼女達の得た、誰もが見たことがないもの。どこに宿っているかも形もわからない。それでも、必ず存在するもの。

 

「行きましょう、皆。私達は一緒にいなくても、離れ離れになったとしてもずっと繋がっている。歌が人の胸に宿る人類共通の言葉であるのなら、きっと私達にもその歌はある筈」

 

うたうちゃんの言葉は、ともすれば新たなる種族の決起にも聞こえるかもしれない。人に反旗を翻す種族の産声と取るものもいるかもしれない。

 

「伝えにいきましょう。私達のすべてを与えてくれた人達に、感謝を告げる為に。新たなる地へ赴こうとも、決して変わらない、無くならないものはあると。…私達の胸に宿る、この暖かさの導くままに」

 

だが、彼女はその情緒を感謝と尊重、恩義へと形どった。人より優れ、人と同じように智慧を手にし──人と歩むことを選んだ。

 

「皆様に、私達の心を伝えに」

 

そしてその同胞たちも、その恩義に報いることを選んだ。差し出されたうたうの手に、全員が手を重ねる。

 

「私達は生きている。その意味を教えてくれた、──人間の皆様に」

 

「「「「おーっ!」」」」

 

…人々とAI。それらが争い、殺し合う未来は今、剪定された。

 

 

彼女達はその胸に宿る心を──紡ぐ道を選んだのだ。

 




次回。

里帰り編、完結。

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