人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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うたうちゃん「スピーチ、ですか?」

ラオウ「あぁ。君から見た夏草と、楽園。その想いを形にしてもらいたいのだ」

ディーヴァ(責任重大じゃない。頑張りなさいよ?)

うたうちゃん「…。…はい、やります」

ラオウ「ありがとう。…思えば君には、たくさんの恩がある。これからはそれにも報いなくては。君達も頼むよ。新たなるうたうちゃんの仲間たち」

エリザベス「お、私達もステージに上がっていいんだな?」

オフィーリア「行きましょう、皆で!」

グレイス「初ライブ、ですね」

エステラ「これからずっと、できるようにしましょうね」

うたうちゃん「市長。…行ってきます」

ラオウ「任せたぞ。人を支える隣人たちよ。願わくば、この縁がいつまでも続かんことを──」


To each future〜Fluorite Eye's〜

「それでは、この地に招かれた人理の守護者達…ひとときの来訪を終え、新たなる使命と動乱に挑み飛び込む勇者達に…夏草が誇る電子の隣人、うたうちゃんとその遠き姉妹達の心を込めた締めくくりの言葉を」

 

榊原の言葉に一礼し、ステージに登る正装のうたうちゃん、並びにエリザベスら姉妹達。オフィーリアがうたうちゃんの後ろ、姉妹のセンターに類する位置に立ち、そっと息を吸い───

 

「──人の幸せの為に。受け取ったものは一つの使命──」

 

声を上げ、歌い始める。オフィーリアの歌う歌はフィーネがこっそりと託していたもの、こことは異なる時空にて彼女が耳にした、オフィーリアと同じ使命を有していたAIが作り上げた、最初で最後の歌。

 

「「「もしも、総ての出会いの結晶が。魂の後に残る──」」」

 

発生するソリタリーウェーブを、三姉妹が合唱する形で中和を行う。かつての呪いの歌とは全く異なる、AIが心のままに歌う、彼女達なりの祝福の音階。

 

 

「皆さん、こんにちは。うたうちゃんです。カルデアの皆さんも、夏草の皆さんも、たくさんお世話になっております。郷土奉仕AIの…相方はディーヴァと言います」

 

たどたどしく事務的で、それでいて懸命な挨拶。ディーヴァは何も言わない。彼女の生の言葉を肯定しているからだ。

 

「この度は…カルデアの皆様。夏草をたくさん楽しんでくださり、ありがとうございました。そしてお礼を言わせてください。藤丸リッカさんをとても大切にしてくださって、ありがとうございました。市長や皆様に聞いていたリッカさんより、凄く魅力的で、快活で…素敵な女性だと心から思いました」

 

リッカは目を潤ませながら、その言葉を受け止める。グドーシとじゃんぬに肩を抱かれる程、彼女は誠実な善意に形無しなのだ。

 

「リッカさんの所属するカルデアの皆様とも交流しました。初めは、マスター…ニャルさんに、お前の歌は酷いものだと言われたのが始まりでしたね。あの時の真摯で誠実な批評は、今の私もしっかり覚えています。おじい様は、私に沢山の素敵なものをくれて。護る力、戦う力、ディーヴァ…素晴らしい、素敵な王様だと自信を持って言えます」

 

舞台裏でウォズと笑うソウゴ。ナイアとエキドナにどつかれるニャル。歌声に合わせ、うたうは言葉を紡いでいく。

 

「リッカさんの友達は、離れていても彼女を誰も忘れていませんでした。後輩もあなたを慕って、同学年はあなたを待っていて。先輩はあなたを強く引っ張ってくれていました。それももちろんのことですが、何よりも私が嬉しいのは。リッカさんがここ、夏草をずっと故郷と思っていてくれた事です」

 

教えを受けた場所、輝かしい思い出の場所。そしてとある一つの別離の場所。南の果てに行った後も、彼女はこの場所のあらゆるものを、忘れずに持ってくれていた奇跡を、AIならではの端的さと着飾らない素直さで、夏草の皆の意志を告げる。

 

「沢山の思い出が、沢山の出会いがこうして繋がっていて、そして距離と場所を超えて巡り合った。その奇跡は、頑張りすぎてしまっていた魔神の方も癒やし留めてくれた。皆様の心や、生き方。素晴らしいものとしてずっと私はラーニングして来ました。私は、皆様の様な方々こそ人間の本質だと信じる事が出来たんです。皆さんにそのつもりが無かったとしても。私には、皆様の全てが輝かしいものだと映ったんです」

 

うたうちゃんはステージに立ち言葉を紡ぐ。台本や、スピーチ原稿はない、彼女の心のままに紡ぐ言葉。

 

「そんな夏草の皆様、私達がこうして生きていられるのはカルデアの皆様…そして、楽園と呼ばれるまでに素晴らしい場所となったカルデアで世界を救うために一生懸命に頑張ってくださった皆様のお陰です。返しきれないし、全然足りないけれど。それでも言わせてください。世界を救ってくれて、本当に本当に、ありがとうございました」

 

「「「「──生きた事象(こと)が、少しずつ明日(未来)を変える──」」」」

 

うたうちゃんも、ディーヴァも、夏草がなければ存在しなかった。四人も、屍のままに廃棄されていただろう。それが今、こうして共に生きている。その奇跡は、当たり前に生きている人間には理解しきれないものかもしれない。生きることを後天的に手にした、彼女達にのみ許された歓びなのかもしれない。うたうちゃんが口にしているのは言葉であり歌だ。生命の歓びを歌う、祝福の歌。

 

「皆様がいなければ、私も、ディーヴァも、夏草の全ても、世界も何もかもが無くなっていました。…とても、とても恐ろしい結末を皆様は乗り越えてくれたんです。本当に…ありがとうございます」

 

その時、ラオウが立ち上がり拍手を送る。それに続くように、夏草メンバー達がカルデアのメンバーに祝福を贈った。それはラオウの言った、誰にも讃えられぬ偉業を誇りとして掲げる孤高の組織への礼賛、そして世界からの祝福でもあった。オルガマリー、ゴルドルフ、シオンは乾杯し、ロマンとシバは肩を寄せ合う。

 

「夏草は、どうだったでしょうか。私は、皆様が命をかけて救ってくれた功績と頑張りに、決して恥じない都市だと思っています。私は、夏草の皆様が大好きです。風土も、人柄も、名産も。全部がとても大好きです」

 

今度はカルデアスタッフが拍手を返す。ムニエルがオタクグッズに身を包み、スタッフ一同が着ていた夏草うたうちゃんTシャツを誇示する。心は今、一つとなっていた。

 

「ありがとうございます。…短いようで、とても長かったこの出逢いも終わろうとしています。カルデアの皆様は、カルデアへ。夏草に残る方は、平穏へ。また、暫しのお別れが私達に訪れます」

 

「…君はどうするのだ、榊原」

 

「うぅん…どうしようかしら」

 

ラオウは当然、夏草支部運用の為に残らねばならない。ただ、榊原は未だどちらに所属するかを決めていない。

 

 

「夏草からカルデアに行く方も、カルデアを知り夏草に残る方もどうか忘れないでください。終わりやお別れは、決して悲しい事ではありません。胸の痛みはあるかもしれません、思い出して、恋しくなることもあるかもしれません。だけど…けれど…」

 

彼女にも、暫しの別れはある。ディーヴァはサポート端末としてリッカらカルデアの下へ。うたうちゃんは使命の下、夏草へ。いつでも会えるとしても…そこには、暫しの別れがある。

 

(うたう…?)

 

声を詰まらせるうたうちゃんをディーヴァが見てみれば──そこには小さな奇跡があった。いつも見知った夏草メンバーがいなくなること、半身として目覚めたディーヴァと離れる事。それを悼んだうたうの目から、白き宝石が流れ落ちる。

 

「けれど、忘れません。皆様も、私も、きっと忘れない筈です。こうして出逢えた事で、たくさんの思い出や記憶が生まれた筈です。その記憶は薄まるかもしれない、思い違いがあるかもしれない。でも、決して無くなることはない永遠として、この胸にずっとある筈です。私にも、人間の皆様にも」

 

「「「「胸の痛みと、あなたの記憶を──忘れない」」」」

 

歌と重なる、うたうちゃんのエール。人理を救う上で、リッカが昇華される上で欠かせなかったもの。アジーカとアンリマユは物陰で、輝く者たちを隠れ見ていた。

 

「離れていても、時間がかかったとしても。私達はずっと一緒です。楽園の皆様。夏草から楽園に向かう皆様。私は、私達はあなたたちを絶対に忘れません。決して、世界を救う為に頑張ってくれる皆様への感謝を忘れません」

 

うたうちゃんの声は震えていた。最早その声音は、AIに備わった機能を越えた──情感を有していた。

 

「だから、どうか。夏草を…夏草を忘れないでいてほしいです。あなた達が救おうとする世界には、こんなに素晴らしい方々がいるんだよと、こんなに素晴らしいものがあるんだよ、と。世界を滅ぼそうとする誰か、世界に価値を見出だせない誰かに…どうか、伝えてほしいです」

 

人間の価値を断ずるものに、否と告げる。人間は素晴らしいと、世界は美しいと謳い続ける。その為の力となりたい。それが、うたうちゃんの懐く歌なのだ。

 

 

「忘れないでください。私達は世界を救う事はできないけれど。──皆様が世界を救いたい、ちょっぴりの理由でい続けます。私はずっと…ずっと。人の素晴らしさを謳い続けます。世界の美しさを、心の限りに。皆様から受け取った、大切な──命と共に」

 

(………──)

 

ディーヴァがそっと、背中をさする。それが決壊の合図だった。

 

「…ごせいちょう…──ありがとうございましたっ…!」

 

へし折れるように頭を下げるうたうちゃん。コーラスが最高潮に達する四人。拍手喝采の嵐。

 

「…。リッカ殿」

 

「うん!──帰ってこれて、本当に良かった!」

 

 

…彼女の里帰りは、幕を下ろした。彼女はまた、非日常へと赴くだろう。夏草とはまた、暫しの別れだ。

 

しかし彼女は、この光景を忘れないだろう。人と、英霊と、AIが等しく笑い合う光景の尊さを。彼女が護った世界の美しさを。

 

 

──日常の暖かさを懐き、少女は再び、宙を目指す。




そして──

?「かんら、から、から!うんうん、鍛えがいのある者ばかり!ようし、少し稽古と縁をあげようか!」

紫(マジかこの人みたいな顔)


水の女神(あら、この娘…)

水の女神?(みーっけ!)




エア(アンドロマリウス…)

ギル《エアに悼まれるとは役得ではないか。これで迷わず召されるであろうよ》


地球衛星軌道上

?「むにゃむにゃ……ん、んー…?」

スペースデブリ帯『ティアマト』

「はうっ!?」


?「にゃーお」

?「あれ、君どこから来たのー!」


夜魔【………】

はくのん「おや?」

新たな旅路の萌芽は、数多無数に。

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