人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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──リッカちゃん!?何故…!?何故リッカちゃんと瓜二つの顔を!?

フォウ(そもそも彼女がなんで空から降ってくるんだ!?リッカちゃんは宇宙外生命体とか無いよね?生まれは地獄育ちは夏草だよね!?)

ギル「………………」



怨嗟の呪詛【お前だけ幸福になるなど!認めるものかぁぁぁ!!】



ギル「…………邪神めに連絡を回せ、珍獣」

フォウ(えっ?)

「今、こやつを我が龍に見せるわけにはいかん。里帰りの余韻が台無しとなろう」

──ギル…。その慧眼にて、真理をお捉えになったのですね。

《聞きたいか?》

──いえ。王が語るその時までワタシは伏して待ちます。王の言の葉は、王の思うままに。

《我が姫よ、その敬愛を嬉しく思うぞ。──こやつを保護する。保護先は…ケイオス・カルデアだ》


?「ぅ…」

《──いつぞやのイシュタル郵送、その礼をしてやるとしよう》

──…???


断罪〜序章〜

【──────】

 

…王よりの連絡にて、ケイオスカルデアへと単身とんぼ返りしたニャルは絶句した。その溝色の脳細胞は空白となり、邪智の笑みを浮かべる口角は震えていた。目の前にある奇跡を前にし、彼はその善性を有した心を震わせていたのだ。

 

【…夏草上空にて爆発が起きたと聞かされた時は、もしやと思ったが…まさかこんな事が起きるとは…】

 

そこに横たわっていたのは──彼がかつて見捨てた少女。見た目は些か異なっているが、魂の色を見間違えはしない。この白き無垢なる魂。彼はこの短期間でそれに連なる魂を数多見てきた。故にこそ、見失う筈がない。その傍らに安置される、断罪の神器。

 

【生きていて、くれたのか…。アンゴル族最後の生き残り。私が見捨てた後も生き抜いてくれていたか…】

 

かつて、星狩りの友と嘲笑と共に放逐した娘。自身をおじさま、などと呼んだ物好きな娘。故郷も、隣人も、家族も、何もかもを喪いながらも決して復讐に堕ちず使命に邁進していた審判者。それがこんな辺境極まる星にて再会を果たしたこと、これを奇跡と呼ばずとしてなんというのか。楽園という力場が招く縁に、彼はナイアを授かってから実に那由多を越える回数の感謝を今一度捧げる。

 

【……。……………】

 

彼は声もなく泣いていた。それは再会を喜ぶ涙と、自らを突き刺す慚愧の涙。いつか謝りたいと、紡いだ善性と親愛を込めて名前を呼んでやりたいと、また会いたいと思っていた存在が目の前にいる。

 

しかし、彼にはそれは許されない。彼は彼女を利用し、嘲笑い、放逐し、見捨てたのだ。彼女を蒙昧と嘲り、昏き孤独の旅路に背中を蹴り飛ばし、放り出した。それは彼にとって呼吸にも等しいもの。己以外の全てを玩弄し、嘲笑う悪辣にして最低最悪、宇宙最凶の愉快犯にして邪智暴虐、悪逆無道のゲス野郎。それが彼、ニャルラトホテプ。本来の彼ならば即座に彼女を叩き起こし、地球に蔓延る人間の断罪を示唆しただろう。

 

──しかし彼は、善性を知った。命よりも大切な愛娘、大切な家族達を得た。息子…それに等しき者たち。妻、仲間たち。居場所。彼を永遠の敗者にして運命の道化から、勝利者にして光溢れる世界に導いた者達。彼の心には、大切な宝物としてそれらが根付いている。トラペゾヘドロンよりもまばゆき輝きを示している。

 

そして、その光が今──彼の身体を焼き尽くしている。ともすれば、邪神の断罪は今この時なのだろう。彼は今、シナイの神火に身を焼かれ尽くしている。

 

【…今更。今更どんな面を下げて君に逢おうと言うのだ、私は。君を、君を広大な宇宙に放り出しておいて】

 

アンゴル族。星の審判を行う精神生命体。かの頃と比べれば成長しているだろうが…その年齢はナイアとさほど変わるまい。それが意味するものは何か。それに自身がした事は何か。

 

──見捨てたのだ。あの日助けた、ナイアの鏡写し。彼はコインの裏で、彼女を見捨てた。助けを求めるナイアを見捨てたのだ。娘の重さ、大切さを知った彼だからこそ至る結論。

 

邪悪なままでいれば良かったものを。邪神のままでいれば、なんら痛打に至らなかったものを。胸を貫くような悔恨を、慚愧を、感じることなど無かったものを。

 

【…これが、善に目覚めた悪の末路。そういう事なのだな。納得だ】

 

悪逆無道を征き、咲き誇らせた悪の華。それらは美しく、園の主を彩った事だろう。それを美しいと感じ、血を吸わせ、肉を食わせ、美しき漆黒の大輪を咲かせてきた。

 

しかし、善に目覚めた彼は知る。食わせてきた贄の希少さを。吸わせた血のかけがえの無さを。薄ら笑いで背中を蹴り飛ばした、可憐なる生き物の大切さを。そうして咲いた、華々のおぞましさを。その庭園を抜け出そうと思えば、その華を掻き分けていかなければならない。咎という棘を存分に備えた花畑を。

 

だが、それだけしても時間を巻き戻すことはできない。華は種には戻らない。懸命に懸命に、華の肥料になった糧を探してもそれはもうどこにもない。血塗れになりながら、傷だらけになりながら、自らが咲かせてきた花畑を彩るのみだ。胸の内を業火に焼かれ、身体のあらゆる場所から血を流し、のたうち回りながら大切であったものを探し続ける。捨てたものが、大切であったと知ったが故に。

 

これが邪神に与えられた、罰の始まり。彼は再会を願った彼女に触れることも、声をかける事もできない。それが彼に与えられた罰なのだ。道徳を知り、愛を知り、光を知ったのはこの為に。

 

──断罪者が、邪神に罰を与えにやってきた。胸に宿した、けして変えられぬ過去を燃え盛る火種として。星の彼方から、彼を焼き尽くしにやってきたのだ。

 

「……う、ぅ…」

 

【…!】

 

彼に呆ける事など許されない。少女は目覚め、身じろぎをする。女子高生の制服を着ている事から、本来の姿ではない事は明白だ。

 

(人格にダメージを負い、擬態人格を起動したな。モデルにしたのは…。──なんという巡り合わせだ。これは、まずい…)

 

恐らくかの王は見出したのだろう。この少女が誰を、何をモデルにしたのかを。隔離も同然の形でこのカルデアに招いたのかを。

 

「……あんた…」

 

リッカに瓜二つの少女…擬態人格となった彼女は口を開く。彼女は辺りを見渡し、第一声を口にする。

 

「誰?おっさん何?つーか、ここどこ?」

 

【おっさ……】

 

ナイアに言われたら自決できる台詞第三位に位置するキラーワードを突き刺され、硬直する邪神。まさか、馬鹿な。可愛らしく愛くるしい時代をすっ飛ばしてもう反抗期…?そんな馬鹿な…!早すぎる…!

 

「つーか頭いった…ねぇ、なんなの?誰なのおっさん?ヘンタイさんなの?らちかんきんに、ふじょぼーこーするつもりだったの?」

 

【拉致監禁!?婦女暴行!?そんな悪い事だれがするものか!?】

 

「しないんだ。てゆーか…それどーゆー意味?」

 

マジで意味分かんない、とポリポリ頭をかく少女。ニャルは脂汗をかきながら思案する。彼女は生ける地球破壊爆弾だ。対応をミスれば即地球は吹き飛ぶ。辺りに漂う断罪神器、ルシファー・スピアを手に取ればジ・エンドだ。

 

(記憶の混濁、ショック性記憶喪失か?本来の人格は眠りについている、か)

 

ならば、使命もおそらく忘れているのだろう。首を傾げている様子から何も覚えていない様子だ。ならば、無理に正体を教えれば本来の人格と擬態人格が衝突を起こしてしまうだろう。

 

無垢なる人格が戻ればいい。だがもしこの疑似人格が主人格となり使命に目覚めれば…JKのノリで地球がチリになってしまう事態になる。王達の帰る故郷が無くなってしまう。楽園在住として、それは最悪の戦犯行為だ。

 

(──結局のところ、私はナイアという奇跡以外にはこういった手段しか取れないのだな)

 

それを無念と、自嘲する暇もない。彼の手で彼女を枠に嵌めねば、最悪の結末が齎されるやもしれない。里帰りのちに星が滅ぶなど、ジェットコースターにも限度があろう。

 

【知っている。君が誰か知っているぞ、私は】

 

楽園の光を護るためなら、いくらでも闇となり影となる。決意を定めた邪神は父の顔を仕舞い、邪神の風貌を取り出す。

 

「え、マジで?教えて教えて。嘘だったらひっぱたくよ」

 

【嘘じゃない。君の名前は──】

 

名前を付ける。一大イベントすらもまともに出来ぬもまた罰の一つ。邪神は目を泳がせ、一つの物体に目を付け。

 

【──ピアだ。シファー・ピア。君の名前は…シファー・ピアだ】

 

彼女を彼女たらしめるもの。その存在意義から名前を授けるのであった──。

 

 




ピア「シファー・ピア…か」

ニャル【……】

ピア「いい名前じゃん。なんかしっくり来る。ありがとね、おっさん」

ニャル(…人の良さは隠しきれない、か)

ピア「ふぁ〜…ねむ。寝るわ」

【寝る…!?】

「起きたら案内して、楽しいとこ。じゃ、おやすみ」

【お、おい…】

「……………すぅ」

【マジで寝た…】

(…ひとまず星の破滅は避けられた、か)

【…私の罪と、君の出逢いは別のものだ。せめて君を招くとしよう】

「すぅ…」

【私の光溢れる世界…楽園カルデアへ。それまで寝ているといい。今までの苦労を癒やしながら】


(…王よ、ナイスセーブです。心から、感謝します)

見守るように、決して触れることは許されず。彼は静かに眠る少女を見つめていた──。

【…おっさんは、おいおい改めてほしいかも…】

ニャルは辛かった。

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