ニャル【肝に銘じます…。それで王様、これからはどのように?】
ギル「うむ、夏草の地にて特別召喚、英霊展覧を催そうかと思い安倍晴明やイザナミに準備をさせている。せっかく別天地に足を運んでいるのだ。たまには気分を変えればセイバーめもひょっこり来るかもしれぬであろう?」
【モルガン陛下で枠は使ったのでは…?】
ギル「そこは察せよ、記念は別枠だ!というわけでこちらはまずカルデアの見学でもさせておく。午後からは職場体験ということよな」
【左様でございますか。ではこちら、モ…、…ピアの処遇をお任せしていただいても?】
「そのつもりでそちらに運んだ。精々己を焼く善なる弾劾を愉しめよ、邪神」
【ははは、王の愉しみになるなら喜んで鉄板ダンスさせていただきます。そこで相談なのですが…】
ギル「ん?」
ニャル【まず、彼女にコミュニケーションをさせていただいても?】
「ふぁあ〜…なんかよく寝た〜って感じ」
先程から一時間も経たぬうちに目覚め、活動を再開する少女、ピア。彼女は欠伸を噛み殺しながらキョロキョロと辺りを見渡している。カルデア…人工物を珍しげに観察しているようだ。
【…頭部打撲の跡…どうやらデブリ帯に迷い込みダメージを負い、擬態人格を起動させた様だな。この荒んだ態度は本体の防衛故か…】
その傍らで、ピアを冷静に見据え観察を続けるニャル。状態から推察するに、彼女は休眠の寝起きで負傷したと予想を立てる。頭部以外には傷一つ付いていないことから、前後不覚にてこう陥った様だ。
【性格はカカロット現象か?彼女が頭を打ち、性格を反転させてしまった…?いや、それも大事だが問題はこの外見だ。この見た目…間違いなく…】
そう…藤丸リッカ、その血縁に纏わるものの見た目だ。アジーカの暢気な目付きを吊り上げた、常に不機嫌そうで他人を遠ざける鋭い眼差し。リッカの快活さ、溌剌さとは似ても似つかぬやさぐれっぷりは、他者を問答無用で拒絶するかのような威圧を放っている。
【──精神生命体のアンゴル族は、生命体の姿と魂をモデルにして活動する生体を持つ。この見た目、王のUSBに登録されていた会話記録…】
そこから導き出される結論は一つだ。ピアは地球に来ていた。リッカが生まれる前、生誕する前の時代にて魔神と出逢い、その際にモデルにしコピーしたのだ。…あろうことか、リッカの血縁。遺伝子提供者の雌側のデータを。
【記録から聞いてはいる。リッカの遺伝子提供者は世が世なら大怨霊として大成したやもしれぬ特級呪霊、呪怨の魂を有した怪物だと。…よりにもよってなんというものを…】
目を覆うニャル。確かに彼女の純粋無垢さから導き出されたのは、自分を護る為にうんと悪い人、歪んでいる人をモデルにしようなどという考えなのやもしれん。しかしそれが、まさか。まさか…
【この外観からして、まだ挫折を知らぬ学生の頃をモデルにしたのか…?記録は確か、歪み始めたのは社会に出て、自身と周囲の認識のズレがキッカケだった筈だ】
ならば彼女は、藤丸の遺伝子提供者の雌の全盛期…学生時代の頃に地球に来訪し、姿形をコピーしたという推測が立つ。となればこの人格はどのような由来なのか。モデル側か、肉体の防衛反応か?
「ねぇ、おっさん」
【おっさ…】
童話を歌いきかせれば子どもが震え上がるような透き通った声で、ピアはニャルを手招きする。早く来なって!そう急かされるニャルの姿は邪神ではなく、反抗期を迎えた娘に顎で使われるパパさんだ。
「…あのさ、お腹…減ったんだけど」
【空腹?】
「うん。なんか…食べたいんだけど。いい?」
…驚いた。ニャル的には「つまんない!なんかないの!?早く用意しろよゴミクズ!」くらいは言われるのを覚悟していたのだが…
「いきなり頼んで、ごめん。でもいまんとこ、おっさんくらいしか頼れるのいないからさ。お願い!なんか食べさせて!」
話してみれば、根の善良さ故なのか…悪いのは言葉遣いとおっさん呼ばわりと目付きとおっさん呼ばわりなだけのようだ。もちろんピアの本質もあるだろうが…
(モデルの遺伝子提供者は…歪む前はそれなりに真っ当だったのか?善良とは言わんが、少なくとも怨霊になる目は無かったと?)
推測するならば、高校生など根拠のない全能感に酔いしれる時期真っ盛りだ。若さと情熱に満ち溢れていた頃。青春の日々。彼女を産む頃には、つがいを見つけた頃には歪み果てていたのだとしても。もしかしたら…
【私の手作りで構わんかな?キッチンあるんだ】
「いいの?作ってくれんの?私に?ありがと!マジ感謝!」
は?キモいこと言ってんなよおっさん。くらいは言ってくるかと思ったニャルの予想、また外れる。
【あ、あのだね。そのー…おっさんは、その。ほら、私、自分で言うのもなんだけどほら、ヴィジュアル系イケメンじゃない?メッシュとか赤眼とか、ね?】
「ん、あー…そだね。イカしてると思う。鼻とかめちゃ高いし。でも、んー…なんでかなぁ。おっさんって以外呼ぶ気しないっていうか。あんたは絶対、おっさんっていうか」
(絶対におっさん…これが星の抑止力か…)
「なんでかな?なんていうか…あんたはこの呼び方以外しっくり来ないっていうか…あんたは絶対におっさんっていうか…」
【こちらは?(ギルのブロマイド)】
「ん、超イケてるにーさん?」
【こちらは?(モリアーティのブロマイド)】
「うわ、ダンディ。素敵なお爺さんじゃん。…ん?ダンディって何?」
【私は?】
「おっさん」
どおおぉしてだよおぉぉお!!!をニャルラトホテプ神体ボイスでやりかけたがすんでのところで踏みとどまる。アザトースが起きかねないとっておきのやつなのでやるときは別次元にて。左手を抑えモノマネしながら邪神は推察する。
(ひょっとして、これが彼女の再現できる最高の邪悪なのだろうか…)
口の悪さや、目付きの悪さ。言われてみれば蝶よ花よのいい子の箱入り娘が、一生懸命悪っぽくしている感じ…の気がする。本当に悪いやつは悪い部分を隠して笑顔から入る。騙すための実体験故だ。
「んー…?おっさんだけはおっさん以外やっぱムリ、全然しっくり来ない。じゃあおっさんね。決定」
『おじさま』【おっさん】似ているようで雲泥の差。でも、意味するものは同じ。ならばこれは、少女の本来の人格の呼称を、モデルがアウトプットしているということなのかもしれない。とすれば悪いのはモデル側であり、そこに悪意は無いのだろう。無いと信じる。あってほしくない。
【ま、まぁそれはともかく。料理をつくろう。しばし時間をくれ】
真面目に不真面目、ってやつなのか…ニャルは不思議に思いながら、特設クリーン厨房に引っ込んでいくのだった。
〜
「うまっ!うま、うまっ、うまっ!」
そして作られた軽い食事。ホットケーキ、サンドイッチ、おにぎり、肉まん。とりあえず和洋中を網羅して作ったニャルの料理に、ひたすらピアはがっついていた。際限なく口に料理を突っ込み、ひたすら食べ漁っている。
(これもリッカちゃんには見せられな…いや、ベオウルフステーキ食べてるときはこんなんだったか?)
失礼かな?等と思い、それにしてもよい食べっぷりに、ニャルはかつての日を思い出す。最愛の愛娘…ナイアに初めて料理を振る舞った事を。
初めは、信じられないものを見るように料理と邪神を交互に仰ぎ、震える手で手にして口に運んだ。
躊躇いと迷いは即座に舌鼓に打ち消され、もう二度と味わえない事を恐れつつも空腹に耐えれず懸命に口に運び続けた。
涙と鼻水でぐしゃくしゃぐしゃな顔を料理に突っ込み、食べ終わった後、食器を抱いてずっと泣いていた事を思い返す。何かを言っているようだったが、涙声で全然聞き取れず、泣き続ける娘の背中をずっと隣でさすり、泣きつかれた娘をベッドに運んで。
【その時は小さい手で握り返して来たりもして。…懐かしいなぁ。ナイアは覚えていないだろうけど】
そんな彼女を思い返していながら微笑んでいると、ピアは完食したようだ。満足げに頷いている。
「めっちゃうまかった~!ホントありがと、おっさん!マジ頼りなるね!」
【当然だとも。私は──】
そう、彼が告げようとしたとき。
「ありがとう、おっさん!」
『ありがとうございます、お父さん!』
否が応でも、娘と重なることは避けられず。
(……モデルでこんなに喜んでくれるなら、彼女ならどれだけ喜んでくれたのか。もっと早く作ってあげられたら…)
3人で、今は家族皆で食卓を囲むこともできたろう。…今は遠い幻想の風景に、胸を刺され。
「?どしたの、おっさん」
【大丈夫。…なんでもないよ。なんでもね】
ニャルはふたたび、犯した罪と向き合わねばならぬのであった。
ピア「さーて、美味しいものも食べたし!」
ニャル【ドキッ…】
(まさか…まさか、ハルマゲドンの時…!?お腹いっぱいハルマゲドン…!?)
ピア「ねぇ、この星の文化に触れたいんだ。連れてってよ」
ニャル【文化…】
「あたし、なんにも思い出せないんだ。自分がなんなのか全然思い出せない。だから…記憶の手がかりがほしいんだ。手伝ってほしいの」
ニャル(…そうか…)
「あ!そうそう!あたしこう見えて『人間不信』だから。誰も信じられないから。よろしく!」
【………】
(人間不信、自己申告…やっぱりそうかぁ…)
「ほら、はやくはやく!」
君にやっぱり、悪い子は無理か…。そう、笑みをこぼし。
【よし、じゃあ…友達を作りに行こうか、ピア】
とびきりの悪い子に会わせてあげよう。具体的にはセイレムの魔女に。そう告げ、悪ぶる自称人間不信のピアのオーダーに気合を入れ、付き合う事を決める邪神でありましたとさ。
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