人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ピアとニャルがカルデアを人知れず渡り歩いている、少し前の時間にて。

ヴィマーナ甲板部

エル「これが思考と同じ速度で天空を駆けるとされる天翔ける王の玉座ヴィマーナ!!いずれ僕のロボットがこの玉座の直衛になる未来を思うと!あぁ!!」

アカネ「く、雲が下に!雲が!!落ち、怖い!下見えない!見たくない!」

ディーヴァ『特殊なフィールドありとは言え、生身で音速体験だもんね。そりゃあ怖い人は怖いかぁ』

リッカ「この美空色のスマホで、いつでもディーヴァとうたうちゃんとお話ができるんだね!」

ディーヴァ『そゆ事!改めて、これからリッカちゃん専属のナビゲーターを担当するAI、ディーヴァよ。うたう共々、カルデアであなたをサポートしていくわ。よろしくね!』

リッカ「ああ…!こんな美少女AIが私を支えてくれる日が来るなんて!今は近未来だった!?ロックマンワールド!?」

大和「プラグインしたくなっちゃうね。技術部に所属したら作ってみようかな」

リッカ「あ、皆所属は決めたの?」

ルル「基本オペレーター業務の他に、進路と資格を取れる教育ができる部署に入っていいみたいだからな。大和は技術部、開発部だったか?」

大和「うん。護衛型マシンナリーロボットとか、よりリアルなバーチャルシミュレーションとか作ってみたいからね。アスカはデザイナー部で、サラは礼装部署だって。ゆかなはどうしたの?」

ルル「彼女は聖人部に招かれていたよ。納得だが…ボクシンググローブとミトン貸与ってどういう事だ?」

リッカ「行けば解るよ…カルデアの聖人のなんたるか!じゃあ会長と先輩はどこなんだろ?」

ルル「それがあの二人、昼寝してたんだよ…流石の余裕というか、肝の据わりぶりというか…」

大和「狼狽えない強さってやつだね。でもなんだろ。アキはともかく、先輩はうなされていたような…?」

リッカ「うなされ…?」




それぞれの神との邂逅

『聞こえるか、当代の女傑よ。わらわの玉音を聞き及ぶ栄に応え、魂を起こせ。この神の女王の御前なるぞ?』

 

黒神愛生…ヴィマーナに乗り、うたた寝をしていた彼女の脳裏に響く圧倒的な威厳。そして大いなる神威。それらを叩きつけられれば流石の彼女も目覚めざるを得なかった。即座に覚醒し、眼を見開く。するとそこに有りしは、驚天動地の光景。

 

『わらわの手にそなたは在る。その魂、噴くも潰すもわらわの気まぐれ一つぞ。精々気を損ねぬように礼を尽くすのだぞ?』

 

見渡してみれば、自身が足をつけている場所は掌の上。そして目の前には、黒と紫の落ち着いた威厳ある神衣に黒き夜空のような長髪。そして凛とつり上がった鋭い目つきに藍色の瞳。絶世の美貌と苛烈な表情、手にする笏。見上げる巨大なそれは、人を遥かに超えた存在と認知させるに十分な威光であった。

 

『さて、人間。はじめましてと言っておこう。夏草、カルデア。それらを耳にしたそなたは人理を救う戦いに身を投じる覚悟を…』

 

「黒神愛生。2年、生徒会長を務めている。好きなものは天下泰平、嫌いなものは傲岸不遜だ」

 

『は?』

 

尊大に語らんとしていた女神の鼻を折る、自己紹介。あまりの尊さに面食らい目を白黒させる神に、黒神は怖じずに告げる。

 

「礼を尽くそう、見知らぬ女神よ。リッカから聞くに女神は基本我を通すものと聞いている。ならばまずは挨拶からだ。気軽にアキちゃん、と呼んでほしい」

 

『──貴様。わらわの言の葉を遮った挙げ句に自己紹介だと…?礼を尽くせと言ったのが聞こえ』

 

「あなたのお名前は?」

 

『は?』

 

「あなたの、お名前は、なんですかと聞いているッ!礼を尽くせと言うならば、そちらも模範を見せ応えるのが道理であると思うが如何に!見知らぬ女神よ!」

 

並の人間なら狂死する覇気にも仁王立ちで応え、真っ直ぐに目を見据えてくる魂。そうかな…いや、そうであったかも…等と思うほどの揺るぎない自信に圧されつつ、かの女神は応える。

 

『知りたいのだな。本来ならばわらわを知らぬなど不敬の極みだが…赴いた以上は名乗るつもりだった。本当だぞ?』

 

「その笏、権力を示すものであるならば心当たりがある…が。あなたの口から聞きたい。貴女は何者だ?」

 

そう尋ねられたヘラは、空間を軋ませる程の神威を迸らせながら謳い上げる。

 

『わらわは──オリュンポスにて最も偉大なる女神。大神の妻にして、神々の女王。かのヘラの栄光と謳われる人間に、祝福と栄光を与えし女神の中の女神。──女神王、ヘラである』

 

その身こそ権力の権能。その身こそ天の河の創始者。オリュンポスにてゼウスの妻を務めし、女傑にして苛烈なる女神にして女王──その名をヘラと、かの女神は名乗った。その満ち満ちた神威の充溢に、黒神は腕組みと仁王立ちで相対する。

 

 

「女神ヘラ…。ギリシャ神話を知るなら知らぬものはいない、権力と栄光を司る女神。まさかこの目で目の当たりにする日が来ようとは」

 

ヘラ。ヘラクレスとの確執や、トロイア戦争、不和のリンゴなどのエピソードに事欠かぬ女神の中の女神。その存在が今、目の前にいる。流石の黒神も瞠目を抑えられなかった。それほどの存在ゆえ、当然ではあるが。

 

『畏怖してよいぞ?本来ならば拝謁の栄を得ながらわらわを知らぬなど縊り殺しているが、貴様はわらわの見初めた魂だ。多少の無礼は許すとしよう。では、本題に移ろうか』

 

初めて可愛らしい態度を見せた黒神に機嫌をよくし、彼女は語る彼女の目的…邂逅の理由を。

 

『わらわは神霊。故に本体の召喚は叶わぬ。アルテミスの蒙昧はオリオンの召喚に割り込んだ特例らしいが…本来は神を使役するなど叶わぬもの。愚昧な人間に従う道理もないからな』

 

「………」

 

『だが──数多の英傑、数多の人間が世界を救わんと足掻く組織…カルデアだったか?アレには興味が湧いた。人理などどうでもよいものだが、世界を担う組織にオリュンポス最高の女神がおらぬなどあまりにも雅に欠ける。そこでわらわが力を貸してやろうと思い至った訳だ。ぎじ、疑似サーヴァント?アレの形式ならば、神もまた霊基という手狭な椅子に収まることは可能と聞き及んでいるからな』

 

故に、その過程で貴様は選ばれたとヘラは告げる。この地球で、貴様ほどの女傑の才覚有する者はいないとヘラは頷く。

 

『知力、体力、気品、雄々しさ、生命力、そして美貌。純粋な人間では無く、調整されたデザインベビーというやつなようだが…だからこそ良い。わらわに捧げられた巫女と思えばその歪さも愛しいものよ』 

 

「───」

 

『生まれは不細工であるが、その魂は眩い。何より人の上に立つために生まれた貴様の気品と風格はまさにわらわと同じ女王のそれ。これ程わらわと合致する波長を出す人間がいたなど…フフ、ゼウスの移り気とはこういう出会いから始まったのであろうか?』

 

ヘラは依代を求めているのだという。そして──人類の可能性を突き詰める施設にて秘密裏に制作された出生を持つ黒神の事を見初めたというのだ。

 

『デミ・サーヴァントというものでもあるのか?まぁなんでもよい。ただ歓喜に震え、我が器となる栄誉に預かれば貴様はそれで良いのだからな。人理の世を救う戦い、わらわが手を貸してやろう。その魂、その身体…わらわと解け合い、一つになろうぞ。さすれば貴様は、合一せし神にも至れよう。世が世なら、貴様が創世の理すら担い──』

 

ヘラの言葉が、最後まで紡がれる前に──。

 

「ふんっ!!」

 

『いったぁっ!?』

 

足を付けていた掌に、思い切り踵を突き刺した。運良く私服のハイヒールになっていたので、女神の掌に深々と踵が食い込む形となる。

 

『いたっ、いったっ…!き、貴様!何をする!?』

 

「黙って聞いていれば痴れ言を。噂に違わぬ醜悪ぶりだな嫉妬の女神ヘラよ!人の生い立ち、人権無視!ヘラクレス氏の人生を狂いに狂わせた逸話に違わぬ性悪め、黙って聞いていればぬけぬけと!」

 

黒神、髪を逆立て乱神形態。生い立ちは自身としても忌むべき過去。超人を制作せんとどこぞの結社が秘密裏に編み出したデザインベビー、人工子宮により調整された自身の生誕を掘り返され、彼女は今激していた。

 

「生憎だがな女神ヘラよ!人理を救う為に力を貸すなどと宣っていたが…ぶっちゃけるぞ!そもそも貴様の助けなど誰も必要としていないっ!」

 

『!?』

 

「既に人間と英霊は力を合わせ、世界を一度救っている。それも私ごとき及びもつかぬ壮絶な人生を送った少女がだ。私はただ救われる側でしかなかった。そしてそれを貴様は傍観していた!そうだな!」

 

『そ、そうだ。わらわは神だ。人の世がどうなろうと関わりは』

 

「私は人だ!人の世を軽んじ、そこに生きる者を蔑む貴様などに選ばれて何処に栄誉を見出だせるものか!その醜悪な自尊心の肥大化故に、神は人の世に座を譲ったのではないのか!?」

 

『ぐ……貴様っ…よくもそんな、本当の事を…』

 

「貴様は私の過去と生誕を侮辱した。尊厳の侵害には断固とした対応を取らせてもらう!貴様は嫉妬で数多の生を狂わせてきた!ヘラの名を知らぬはずがないだろう!神話における唾棄すべき嫉妬の化身、それが貴様の後世の評価だからだ!」

 

黒神は神などに気後れなどしない。彼女の女傑の資質はヘラすら認めるもの。その気風はまさに女傑…否。女帝とすら言えるほどだ。

 

「大神ではなく、配偶者や子に浮気の咎を求めたな!それは何故だ!」

 

『そ、それは。不貞を働いたからだ』

 

「貴様は自身の魅力すら信じられんのか!偉大なる女神ヘラが愛する夫を誘惑など誰がする!ゼウスの性根は!」

 

『う、移り気で…好色だ。大抵、声をかけるのはゼウスからだ…』

 

「なら何故ゼウスに報復しない!?」

 

『………私では、ゼウスに…勝てないからだ。いや、ゼウスに勝てるものなど、いないからだ…』

 

「だから八つ当たり気味に嫉妬をぶつけたと!?」

 

『……そうだ…私は、ゼウスに勝てないと知り、無力な側に報復をした…』

 

黒神はすっと息を吸い、空間を震わせて咆哮を吐き出す。尾を踏まれた虎のごとくに。

 

 

「恥を知れ!!貴様は女神王などではなく、権力と美貌に胡座をかいた醜悪な女以外の何者でもない!!」

 

『あ、ああっ───!』

 

「二度と私に姿を見せるな!!貴様に選ばれるくらいなら、私は喜んでタルタロスに身を投げよう!私は起きる!!」

 

怒りも顕に、背を向け掌から飛び降りようとしたその時だった。

 

『ま、待て!待ってくれ!黒神愛生!分かった、私が悪かった!私と縁を切るのは待って、待ってほしい…』

 

呼び止める声はあまりにも弱々しく、威厳など微塵もない。その声に多少なりとも怒気をそがれ、黒神は振り向く。

 

『…毎回アルテミスからラインが届くのだ。親友が出来た、ダーリンもいて毎日幸せだからと写真付きで…』

 

「私になんの関わりがある?」

 

『神は成長しない。完成されているが故に。だが、人間と触れ合い不完全となったアルテミスは、奇跡にも成長したのだ。あやつが友を作るなど…親友など…』

 

「何が言いたい?」

 

『わ、らわも…わらわも…自身を、磨くために…その…貴様と…わらわの生き写しのような貴様、いや、そなたと…』

 

最早消え入りそうな声で、いつの間にか黒神の前に、ヘラは座り込んでいた。

 

『あの…楽しそうな場所で…もう、浮気されないくらいに自身を、磨きたいのだ…頼む、わらわを…わらわを見捨てないでくれ…わらわに、チャンスをくれないだろうか…もう、浮気の度に止められぬ怒りに疲れたのだ…』

 

「…それが、貴女の願いか。女神ヘラ」

 

消え入りそうに小さく頷くヘラ。彼女の報復の苛烈さは…裏切られた愛情の大きさなのだろう。

 

『…………』

 

「──神の玩弄ではなく、ヘラとして自身を高めたいというのなら。それは私の信条と重なる。即ち、日進月歩だ」

 

『黒神…』

 

「ならば共に歩もう。我等は力を貸し借りする間柄ではなく、共に高め合うものとして力を合わせるのだ。──こちらからもお願いしたい。女神ヘラ」

 

女神ヘラに、凛と手を伸ばし。

 

「私に──友を支える力をくれ!女神王よ!」

『…!』

 

その手をヘラが取った時──新たなる、女神にして女傑が降臨する。




?『聞こえますか…わたしの声が聞こえますか…』


天空海「出勤の時間!?」

アクア『ぎゃぁあ!?いきなり起きないでよねびっくりするじゃない!?順序があるの、順序が!』

天空海「あ?」

アクア『いい!最初から行くわよ!…ようこそ、水の女神に選ばれし清らかな』

天空海「アホみたいな夢…カルデアまだかなー(ゴロン)」

『二度寝しないでよぉおぉ!?話聞いてよぉおーー!?』

天空海もまた、変な神に出逢っていた。

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