人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
天空海(何こいつ)
「言葉も出ないかしら?フフン、流石私の転生体!敬虔、奥ゆかしくそして貞淑!ますます気に入っちゃったわ!グーよ!グー!」
(何こいつ)
アクア「経歴を調べさせてもらったところ、あなたはアイドルみたいね?ますますぴったり!私ね、楽して信仰に満ち足りて、崇められて生きていきたいのよ!アイドルってあれでしょ?華やかでファンが貢いでくれる華形なんでしょ?私にピッタリだわ!」
(あ、駄目なやつだわコイツ)
アクア「というわけでよろしくね!天空海…天空海?私と名前同じじゃない!この漢字の振りめっちゃオシャレじゃない!でも紛らわしいわね…じゃあこうしましょう!私が女神版!そっちが人類版!使い分け、区分けは大事よねっ!」
?『天空海ちゃん…天空海ちゃん。私の声が聞こえるかしら』
(!)
『そちらも一応女神なのは変わらないわ、だからあまり邪険にはしないであげて。あなたなりのやり方で、付き合ってあげて?』
天空海(…。私なりのやり方かぁ)
アクア「もしもーし?聞こえてるー?無視しないでよー。ねーってばー!」
天空海「女神版、でいいのよね?じゃあ…お話しから始めましょうか」
アクア「待ってました!このアクシズ教の女神、アクアになんでも聞いてね人類版!答えちゃうわ!」
「だからもううんざりなのよぉ!!周りの連中は私を甘やかしてくれないしいつまで経ってもアクシズ教の皆はそっくりさん扱いしてカズマは私に対する敬意がぜんっぜん足りてないの!私女神よ!?もっともっと皆にちやほやされて生きたいのよぉ!」
先程の辛うじてあったカリスマはどこへやら、神聖な空間に突如できたバーカウンターにて、そっくりな二人は聖水をあおりながら会話を紡ぐ。正確にはアクアが一方的に愚痴不平不満を捲し立て、天空海がひたすらに聞き役に徹しているというポジションだが。どちらが女神か解ったものではない。目付きと表情が精悍な方が天空海で、コロコロと表情が変わるのがアクアである。
「というと、エリスとかいう女神様が私を依代にあんたの魂をなんとか置換サルベージして、分霊としてここに至った。そして下界に連れて行かれた本体の募った不平不満がくっついて生まれたのが私の目の前にいるのが女神様ってわけね」
元々は死んでしまった魂を回収し、特典を渡し異世界に転生させる業務をしていた高位の女神…それがこの自分の目の前にいる女神らしい。下界にて上手くやっていた様だが、エリスと名乗る同僚の女神が自分を楔にして魂を回収する救済措置に全力に乗っかろうとしたが、自身を道連れにした転生者に阻まれ、こうして魂が半分程やってきてしまったらしい。プラナリアか何かか。それが天空海の感想であった。
「あのクズマさんマジでもうクズなんだから!!私があるべき場所に帰るっていうならもうそれは一大昇天ってことよ!?崇め敬うは愚か邪魔するって何よぉ!?私は低俗な下界での暮らしはもうお腹いっぱい堪能したの!そろそろ女神の本分に立ち返りたいの!だからワンチャンかけて魂を分けたの!次は上手くやるって決意と共に!でもその、なんかそっちの世界って神様が行くにはなんか強度がヘボいっていうか、チャンネルが合わないわけね?だからあなたを選んだわけ!」
彼女いわく、魂の波長が完璧なシンクロを見せ、私にそっくりな清らかさと強さと愛しさと切なさと心強さやその他諸々が完璧に見合ったらしい自分を選んだのだとアクアは告げる。
「郷に入っては郷に従えって言うじゃない?カズマに引き千切られた私の半身はご愁傷さまだけど、この私はもうミスらないわ!楽園カルデアに行って、悠々自適な女神ライフを送る!そのためにも、あなたの協力が必要不可欠ってわけ!」
(女神って随分俗なのね…)
自分も破天荒さでは自信があったが、魂を半分にわけてもへこたれない不屈さと、元に戻ろうともせずに新しい幸せを求めるバイタリティは自分以上かもと認めざるを得ない天空海。あと出された聖水めっちゃうまい。
「私こう見えて、アクシズ教の御神体の凄い女神さまなの!アクシズ教って知ってる?神の教えを可能な限りシンプルにした、あらゆるものを肯定するありがたい宗教よ!はいこれ、経典!是非あなたも入信してね!」
渡されしアクシズ教の経典とやらに目を通し…天空海はあまりの無法かつ型破りなその教えに引きつった笑いを浮かべるのを抑えられなかった。
(楽な方に流されろ、趣味嗜好を肯定しろ。それが犯罪でない限り、全てが赦される…犯罪者養成プログラムか何かかしらこれ…)
神様など全く信じていない天空海ですらも閉口せざるを得ない自由…いざ自由を飛び越えた無秩序、放任の領域の肯定。気ままな水のようといえばそれまでだが、堕落を是としているようにしか聞こえないこの経典から読み取れた事はただ一つ。
(駄目になる…こんな高きから低きに流れる宗教に入信したら確実に人として大事な何かを失っちゃう!向上心とか気遣いとか、人間が人間として生きていくのに大事な何かが、絶対に!)
天空海の決意を、入信の決心と勘違いしたのかますます上機嫌になるアクア。
「どう?思ってたんだけど、日本人や現代人って頑張り過ぎだと思うのよ。毎日電車にすし詰めになったり、死にそうになるまで働いたり。エジプトやローマの奴隷のほうがよっぽどいい待遇受けてるのよ?信じられなくない?まぁワーカホリックな人間が何人死のうが構わないのが本音だけど、あなたにはそうなってほしくないのよ!私の分身であるあなたにはね!」
「だから私を助けたいってこと?」
「そういう事になるわね!安心しなさい、私の言うとおりにしてくれれば絶対大丈夫よ!あなたに苦労は絶対させないから!えぇそうよ、クズは転生したって魂がクズ、そんな奴等の面倒を見ようとしてた私が間違っていたの!私が女神みたいな魂を選んで私が転生すればよかったのよ!私に任せて!あなたを絶対に幸せにしてみせるから!だってあなたの幸せは、これからの私の幸せだもの!」
…更に困った事に、彼女は本気で自身の幸せを願ってくれている。本気で自分の幸せだと考えているし、女神として自身の幸せを追い求める気でいる。その上で自分の幸せを考えてくれているのだろう。自分への愛が転じて結果的に自分も含まれた、というだけのことなのだが、自己保身と欲望と面倒見の良さが高い次元でミックスされたのがこのアクアという女神ということを理解した。そして…
(受け入れたら私が終わる…!私の今までの人生の頑張りとかその他諸々が、アクアの天下り先になってしまうってことよね!?)
そもそも天空海的に裕福さや幸福さなど人生において全く興味がない。ただ生まれた命として、自分にも誰にも恥じない人生を送る。親に捨てられたからそう決めて、自分にひたすら厳しく生きてきたのだ。言うなれば彼女と天空海は静水と激流。天空海は停滞した安寧などを享受する気は微塵も起きず、アクアの提案に魅力を微塵も感じていない。むしろ自身を駄目にする女神…駄女神とすら感じるほどだ。
(ふざけんな!願い下げよそんなもん!…って言いたいのは言いたいんだけど…彼女も苦労したのはホントよね、多分)
話を信じるならば、転生者に特典として連れて行かれ、慣れない環境でも奮闘しつつもいまいち認められず、高貴なる女神の不満が爆発したという状況にも同情出来なくはない。なんだかんだで救いの糸に飛びついたカンダタのように魔が差したようなものなのだろう。結局邪魔されたようだし。
「………」
なら、一度だけ問うておきたかった事がある。神様という存在がいるのなら聞いておきたかった事があるのだ。彼女が神様を信じていない理由が一つある。
「わかったわ、女神様。じゃあ私の質問に一つだけ答えてほしいの、それで私を魅了してみてよ。それなら納得するから」
それは彼女が秘めていた、たった一つの質問。神に問おうとしたが、結局会えなかったので誰にも言わなかった事だ。彼女は自分と、頑張る人間しか信じていない。
「いいわ!なんでもドンと来なさい!」
アクアもそう告げ、質問を待つ。天空海の質問は簡単だった。
「じゃあ早速。…私は生まれつき水色の髪色に生まれたわ。両親とは違う髪の色に」
「オシャレでいいじゃない!神の祝福ね!」
「そのせいで忌み子扱いされて、クソ親はいつも喧嘩してた。母親も父親も、私を利用するだけしてどっかにいなくなったわ」
「…へっ?」
「アクア、あなた神様なんでしょ?じゃあ教えてよ。何で…私に普通の幸せをくれなかったのか。私が一番助けてほしい時に、神様は助けてくれなかったのか」
彼女は神を信じていない。なぜかは単純である。彼女は誰よりも祈っていたからだ。
お父さんとお母さんが仲良くなってくれますようにと。
お母さんが帰ってきてくれますようにと。
お父さんが幸せになりますようにと。
その願いは裏切られた。母に、父に、家族に。何より──祈りを捧げた神自身に。
「……ぁ……えっと…その…」
アクアはすぐに答えられなかった。天空海は頷き、席を立つ
「答えが出たら私に教えて。納得できたら、私はあなたを信じるわ」
背筋を伸ばし。誰にも寄りかからない気高き魂は現実へ歩みだす。
「できれば──今度は裏切らないでよね。神様」
怒りも、悲しみももうない。ただ、神への諦観を示し天空海は立ち去る。
「……え、エリスー?ちょっとお話があるんだけど…?」
一人残されたアクアは、同僚に助けを求めるのだった。
?『…ここまで諦観が強かったのね、あなたは。その強さは、神に頼らぬと決めた決意ゆえ、か』
(その答えは、私にとっても大切なもの。…私なりの答えだから納得させられるかはわからないけれど、必ずあなたに伝えてみせる)
天空海(さっきのアクアじゃない声はなんだったのかしら?)
(だって──私もあなたに力を貸してあげたい、女神なのだもの)
彼女を庇護する神は、果たして。