善なる少女『はい』
『かの楽園には悪たる龍が今在る。真ならば容認はできぬが、世界を救する善を果たした。我等の有する戒め…解しているな』
『独善、それは悪より忌むべきもの』
『なれば、お前を世に遣わす儀を行う。かの楽園、真なる悪かを見極めるのだ』
『そして、託す資格あらば渡すのだ。それが、真なる悪を制す証となる』
『──御心のままに。善なる神、アフラ・マズダ』
『我に捧げられし生命よ。その魂こそ裁きなり』
『驚いたわね…』
社会科見学に勤しむ夏草の学友達。無論天空海も例外ではなく足を踏み入れた楽園を巡らんとしたところ、アナーヒターは楽園の記録の閲覧を所望した。アクアは口座開設とそこに振り込まれた数億の個人預金の使い道の算段のため深層意識に引っ込んだため、天空海はアナーヒターに導かれアーカイブの記録を閲覧しているのである。かの水の女神が見ているもの…それはリッカ、そしてその力の根源アンリマユ…そして、アジーカの戦闘記録である。
『これ程までに顕現と降臨が上手くいっているなんて。ゾロアスターにおける醜悪な悪蛇の龍がこれ程に雄々しく逞しい姿を取っているのは予想外だったわ』
二つの龍頭ガントレット、6つの目、翼、角。そして逞しき四肢は、アナーヒターが知り得るアジ・ダハーカとは大きく異なるその威容だという。
「本来はもっと化け物チックだって事?」
『えぇ。それぞれの頭は苦痛、苦悩、死を表し、世界を覆い尽くす翼を持ち、呪詛と罵詈雑言を絶えず撒き散らし、終末の日には生物の3分の1を食い荒らすとされる怪物の中の怪物…。善なる英雄すら殺すことが出来ず、封印するのが精一杯だったという悪神の配下の中でも最悪なレベルの存在。それがアジ・ダハーカ。ダマーヴァンド山の下に封じられはしたけれど…決して滅びはしない悪龍。…の、はずなんだけど…』
アジーカ、並びにアンリマユの今の姿を記録で見たアナーヒターは一瞬で看破する。楽園にいるアジ・ダハーカは、神話におけるただの邪悪なる龍とはまるで違う。スイーツショップにて仲良くスイーツを嗜む記録を見れば、それがどんな変容を齎しているのかなど一目瞭然だったのだ。
「ゾロアスター教と言えば善悪二元論、アフラ・マズダとアンリマユの戦いがこの世という信仰根幹から成り立っているのが基本よね。アナーヒターからしてみたらどんな世界だったのかしら?」
『本当に詳しいのね、天空海。…どんな世界、か…強いて言うなら、『永劫の戦い』かしら』
その様、その在り様は平穏、調和とは無縁であったとされる。中立、中庸を許されたアナーヒターから語られるその一端を天空海は聞きたかったのだ。それに応じ、アナーヒターは語る。その神話の在り様を。
〜
まず、善と悪の違いから説明しなくてはならないわね。世界の創生の際には私と、二人の私が立ち合った。それが善神と悪神。彼等の被造物の永遠の争いと理が、世界を覆う法と化した。光の善神アフラ・マズダ…古の名はスプンタ・マンユ。闇の悪神アンリマユ。彼と彼女の創造した者達は、絶対的な対立を宿命付けられているわ。
善神アフラ・マズダの有する善の勢力。これらは世界に光をもたらし、秩序と安寧を守護する輝ける者達としての自負を抱かんとする者達。正義の化身ね。しかし…その様は光や善というイメージとはかなりかけ離れていたわ。
『世界に絶対なる善を。悪の根絶と絶滅を』
それを掲げる彼等の目は血走り、悪を憎み、怒り、燃え盛るような使命感に常に魂を焼かれており、その姿は薄く汚れていた。微かな例外すら許さず、その使命を第一として、己に極めて厳しい戒律を施し不自由を是としていた。絶対なる善、それ以外は存在すら許さなかった。正義の味方はよく怒る、というやつね。彼等の揺るぎない、そして徹底的な法治と治世は秩序と調和を生み出した。
対する悪は見目麗しく、絢爛で、自由奔放にして気まま。己の欲望と快楽を是とし、そこには常に笑顔があった。恥じず、悔いず、己の成すままに、己の行いたいように世界を玩弄した。欲望と悦楽は笑顔と一切の庇護なき混沌の世を生み出した。何を成すもよい、殺されるも殺すも構わない。己こそが世界の真理である。破滅と享楽は、燃えながら腐り熟すかのような瑞々しい地獄を生み出した。
彼等達の戦いは終わることなく、そして変わることなく続いていく。私は善と悪の狭間、流れる水として生まれたがゆえに二神の織り成す世界の在り様を理解できた。
善と悪は激しく戦い、互いを滅ぼさんとする。でもそれはあくまで一時のもの。どちらにも永遠の繁栄は約束されない。
善が世界を覆ったならば、善を敷く者達は歓喜と勝利に溺れ徐々に堕落していく。やがて勝利の驕りと自らの保身は腐敗を呼び、新たなる悪となり善に滅ぼされる。
悪が世界を覆ったならば、悪を果たした者達は退屈と倦怠を持て余していく。やがて無限の退屈と衰退は改革と断罪の善を生み、悪を討ち果たす光の土壌となる。
その戦いはいつ終わることもなく続くものである筈だった。善と悪は交わらず、しかし決して滅びず、永遠に戦い続けるものだったの。
…アンリマユ、並びにアフラ・マズダが、あの『白き巨人』に討ち滅ぼされるまでは。あらゆる神を滅ぼし、神代の衰退を決定付けたもの。世界の創世を行い、自らの役割を終えたと自然現象に自らを還したマルドゥーク神を除いて、全ての神はかの巨人の前に滅びさった。
その時に、私はアフラ・マズダとアンリマユ…両方に匿われた。彼らは善と悪が滅びゆくその終わりに、拝火の信仰だけは護らんとしたのよ。
『光と闇、その狭間に流れる水よ。我等の在り様を護れ。我等の世界の法を懐き逃れよ』
【後は任せた】
…白き巨人の前に、ただの一度だけ善と悪は結集した。持てる力の全てを懸け、善と悪は励まし合い、罵り合い、助け合い、巨人に挑んだ。
でも、白き巨人には勝てなかった。アフラ・マズダと、アンリマユのあらゆる被造物は敵わず、その殆どは収穫された。アフラ・マズダの有していた光輪は時空を越え、既に託されるべき魂に託されていた。アンリマユの最強にして忠実なるしもべ、アジ・ダハーカはその決戦の前にダマーヴァンド山に封じられていた。決め手を欠いたままで勝てるほど、その白き巨人は甘くはなかった。
──勇気ある6人の妖精が鋳造した聖剣が白き巨人を討ち果たした後に残ったもの、楽園に巫女を匿い逃れていたケルトの旧神、命乞いをして逃れたメソポタミアの旧き神、そして…善と悪に後を託された私。それらの僅かな要素を残し、神代はその大半を崩壊させてしまった。
善神アフラ・マズダは光輪を予め時空を越え逃れさせていたから、完全なる消滅は逃れられた。その代わりに絶対善たる権能は喪われ、虚ろなる神霊として人間の認識と物理法則にその座を譲った。
悪神アンリマユは人間の魂に刻まれた悪、即ち原罪を自らの存在と定義させ消滅より逃れた。世界を破滅に向かわせる力は喪った代わりに、人の罪と魂を使い、七つの大罪を悪として定義させた。
神の絶対は喪われ、そして今に至る多様性の世界に繋がる。これが、今に至る汎人類史の拝火教の概要といったところね。
〜
『言ってしまえば、アジ・ダハーカは悪神アンリマユの忘れ形見なの。アジ・ダハーカは確かにこの世界に存在している。ゲーティアと名乗ったかつての獣はそれを利用したのでしょう。不滅の竜とそこに宿る悪神の力を再現し、一人の少女に宿した…』
「それが、リッカの力の根源っていうか…ルーツなのね」
アナーヒターの語る神話の体系に、天空海は頷く。悪神は確かに未来に遺していたのだ。自らと世界を構成する【悪】たる因子を。それは悪神ならではの世界への責任とも言えよう。
「ちょっと待って?悪神が遺したものが七つの大罪とアジ・ダハーカなら、アフラ・マズダの光輪はどこに行っちゃったわけ?」
善神が世界と未来に遺したとされる、光の輪。その行方はアナーヒターも存ぜぬという。
『実はそれも探そうかなと思っているのよね。世界のどこかに眠っているのか、はたまた回収されているのか…カルデアにいれば、きっと会えると信じているけれどね』
アナーヒターは善悪が唯一頼った流れる者。その格の高さと使命に、改めて気を引き締めるのであった。
(ねぇねぇ!家買いましょうよ家!でっかいおうちー!)
もう一人の水の女神は非常に気楽であった。
物陰
アンリマユ【なんか随分懐かしい匂いがすると思ったら…】
アジーカ『アナーヒター』
アンリマユ【だよな。アイツ…いよいよ依代見つけたってわけか。よし、古馴染みとして挨拶でも…】
アクア(むっ!?邪悪な気配!)
アナーヒター『あら、この気配は…』
アンリマユ【おーい、久しぶりだなアナーヒター…】
アクア(セイクリッド・エクソシズム──!!)
アンリマユ【ぎゃぁあぁあぁー!!?】
アジーカ『ファッ』
アナーヒター『アンリー!?』
アクア(フッ、私の前でそんな真っ黒クロスケが存在できると思わないことね!)
アジーカ『漂白』
アンリ【え…エグい浄化魔法じゃねぇか…いつ覚えたんだよ…】
(となると…あいつもそのうち、来るのかねぇ…)
その頃
リッカ「ファーーーーーー!!?」
ディーヴァ『リッカーー!?』
人知れずリッカは浄化されていた。
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