人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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彼は悩んでいた──

ルル「ふふ…」

彼はそう、楽園に来て悩んでいた。それは、最近まで女性のじの字も無かった彼に訪れた突然の春。聖女の気質を備える少女への触れ合い方。

(女の子を誘う時の引かれないやり方ってどんな感じなんだろう…フッ、自慢ではないが彼女いない歴年齢だったオレに導き出せる最適解などない。ないったらない!)

ゆかなに対する悶々とした感情。プラトニック故にどうすればいいか解らぬ問題。福山ルルは悩んでいたのだ。

ルル(スザクに相談するのは地雷だし嫌味にしかならん。かといってアダムスキー義父さんに恥じない付き合いは必須!ならばどうするか、決まっている!)

誰かに聞こう!そんな魔王とは程遠い結論に至った彼は、一人こっそりと相談に乗ってくれる施設や人物を求めるミッションを開始する。

(前提条件は多い…だが、やってみせるぞ!俺は女子のエスコートマスターとなってみせる!)

今、優男のルルの奮闘が始まる!?


コード・シンキング〜頑迷のルル〜

「どうすればいいですかね…?」

 

そんな訳でやってきたのは馴染みのあるようでない教会。楽園にもあった馴染み深い施設に駆け込んだルル。懺悔とお悩み相談はちょっと違うのだが、今の彼にそんな気の周りは期待できなかった。懺悔室の中でか細く声が響く。

 

「家族。それも妻に類する方とのお付き合いの仕方ですか。それなら私にお任せください。こう見えて私は家族との仲に恵まれ友達が一万人を越えている幸せシスター、あなたの悩みにきっちりとしたお答えを出してみせましょう」

 

自信ありげに返ってきた、無垢さと冷静さを兼ね備えた不思議な響きの女性の声は頼もしさを感じさせた。同時に、スターか何かかと思ったルルは無理からぬ話だろう。

 

「よろしいですか迷えるあなた。神は言っています。嫌いなやつも好きな人にも共通してするべきこと。それは嫌がることを知ることと、好きな事を知ることです」

 

「嫌がること、好きな事…」

 

「はい。嫌いな相手、死んでほしい相手は徹底的に弱点趣味嗜好特技家族関係通勤通学退勤交通手段に至るまで調べ上げ、一つ一つ潰していくのです。自分がやられるより周りに害が及んだ方が人心と言うのは参ってくるもの。我が神は告げています。他殺より自殺、自殺より不審死、不審死よりも行方不明。それが排除の段階だと」

 

(ここの神怖っ!?)

 

その教義のあまりの悪辣さと執念深さに戦慄するルル。言われてみれば濃紺色のステンドグラスの文様は冒涜的であったし、日蝕から漏れる血染めのような赤い光が降り注ぐ天窓は恐ろしいの一言だ。白く厳かな建物だけ見ていたが、なんだかとても禍々しくはなかっただろうか。

 

「そしてこうも言いました。大切な人へのアプローチは実はそう深く考える必要はない。一日一日をさり気なく見ていれば、自然にその人の喜ぶ事はわかる、と」

 

(!)

 

さっきとはまるで真逆な暖かく、親身な言葉に顔を上げるルル。そのアドバイスは男性や女性に何かを求めるのではなく、だた日々を大切にしなさいという真理を表していたのだ。

 

「大切な人からは自然と目が釘付けになるものだ。好きなものや嫌いなもの、何を喜び何を嫌うかは自然とお互いの間の時間が見出してくれる。だから大切なのは、大切に過ごす日々を壊しかねない言動に注意しなさい、との事です。当たり前だと思わない、初めて会った時の事を忘れない。些細な変化を見落とさない、自分を磨くのを忘れない…そういったことを意識して日々を送ることを、我が神は仰り推奨しています」

 

当たり前の事などない。すべての日々の出来事は得難い奇跡だ。だから護りたいと思うし、続いてほしいが為に懸命に努力する。愛や恋は打ち続けなくては冷めてゆく。努力するというならそこだと、神は告げたのだという。

 

(それは…確かにそうだ。その通りだ)

 

彼女の被っていた偽悪の仮面を本性と勘違いしていた頃、随分と手酷い罵倒を重ねたことを思い出す。それが目論見であるのは理解しているが、だからといって僅かも傷つかないだなんて事があるだろうか?どんな事を言われても傍らに在った彼女。それは自分を慕ってくれていたからだと今なら言える。

 

 

「思い当たる節はあったようですね。何かをしてあげたらいいのか解らないというなら、自身の過ごして来た時間を思い返してみてください。私は父の喜ぶ顔を見たいが為にしてあげられることを、家族に喜んでもらう為にできる事を常日頃考えています。答えは自身の中にあるものです。人生の価値は、満ちている幸せにどれだけ気づけるかなのだと我が神は仰っていますよ」

 

シスターの言葉に思い返す。自身が彼女にできる事…確かにある。彼女と共に、出来ることが。

 

(彼女はピザが好きだった…。しかしオレは太るし脂っこいからと、彼女の勧めたピザを食べた事がない。魔女の誘惑に負けてなるものかと意固地になっていた馬鹿な俺ッ!)

 

振り返ってみれば事あるごとに彼女はピザを自身に分けてくれていた。それが誘惑だと認識し、照れもあり、事あるごとに拒絶していた事を思い出す。一度思い出せば後は芋蔓式だ。そして思い至る、彼女の見せる哀しげな顔。

 

『一口くらい、食べてくれてもいいじゃないか…』

 

「ぬぉおぉおぉおぉおぉおぉお!!」

 

懺悔室で叫ぶ童帝ルル。振り返ってみれば確かに答えがあったのだ。自分は彼女に寄り添えていない日が、どれだけあったというのだろうか。

 

「俺は…俺は…!懺悔しますシスター!俺、ピザ食べていませんでした!!」

 

「?ぴ、ピザですか?そうですか、じゃあちょっと我が神にデリバリーを…(ピッ)」

 

【ヘィ、愛娘。ドコデモオクルヨ(電子音声)】

 

「(ブツッ)気付いたようですね…。答えはいつだってあなたの胸の中にあります。日々の積み重ねにて、人の絆は紡がれていくのです。さぁ、迷いのトンネルを抜け、光溢れる世界への道筋を見出す事はできましたか?」

 

シスターの言葉に頷き立ち上がるルル。もう彼に迷いは無かった。彼が出来る、最高の一手は考えついたのだから。

 

「ありがとうございます…シスター!これで俺のやるべきことは見いだせました!具体的かつ親身なアドバイス!あなたの仰る神とはどんな方なのでしょうか!」

 

「ニャルラトホテプと言います」

 

「えっ?」

 

「私の父です」

 

「…………………………ありがとうございます!!ここに来て良かったです!」

 

いやまさかそんなクトゥルフのアレじゃないよなまさか。名前が同じなだけの別の神格だよ多分。そう信じ、優しいニャルラトホテプのアドバイスを信じルルは懺悔室を飛び出す。

 

「また何かあったら相談させてください!ゆかなも今度は一緒に連れてきますので!」

 

「えぇ、頑張ってくださいね。光溢れし世界に、汝らの住まう場所があらんことを」

 

その後ろ姿を笑顔で見送り、シスターの被り物のヴェールをそっと上げる…シスター・ナイア。

 

「ゆかなちゃんとどうかお幸せに。アダムスキーさんもそれを願っておりました」

 

『ゆかなもルルも、善良だが悪辣さには疎いとこがある。楽園のシスターさんよ、オレからの依頼だ。あの二人を見守り、導いてやってくれ。神に仕えるものとして、一つ頼まれてはくれねぇか』

 

楽園に帰参する前、ゆかなとアダムスキーと面識を作っていたナイアは依頼を受けていたのだ。それは彼等の幸せを支え見守る事。シスターとして、闇を狩る狩人として。彼らの幸福が闇に呑まれぬようにと。

 

「アダムスキーさんに素敵な報告ができそうですね。彼等はとても元気です、と」

 

闇の狩人としての依頼としては珍しい、真っ当に人の幸せを祈り護るもの。生まれてから数えるほどあるかも解らないその善性の依頼を、彼女は断固たる決意で遂行することを誓っている。

 

 

「お父さんにも感謝しなくては。大切な人への具体的なアドバイスをこんなにも具体的にしてくださったのですから!」

 

その事を話した数時間後には、極めて緻密で膨大な返答神託マニュアルを渡してきた父の感謝を込め、厳かな教会の清掃に入るナイア。これが終わったら家族でご飯なのだ。

 

「そういえば、紹介したい人がいるとおっしゃっていましたが…一体誰なのでしょうか?」

 

気にはなるが、今の父が勧める方が悪い人のはずがない。新たなる出会いがとても楽しみと前向きに考えるナイア。彼女の中にある父への評価は変わらない。滅びるべき邪神であり、最愛の家族であり父なのだ。

 

…そんな家族の団欒の中、麻婆を巡ったあれこれが家族の中で起きるのだが。それはまた、別のお話──

 




ゆかな「きのこピザと、シーフードピザと、ビーフピザと、とろけるチーズピザと、イタリアピザをLサイズで!」

ルル「うぶっ…ぐっ…!」

好きなだけ食べていいぞ!そうゆかなに告げてしまった自身の軽率さを呪いながら、幸せそうにピザを頬張るゆかなと脂っこい一時を過ごしたルルであった。

残りピザ、二十四切れ也。

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