人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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「フォウ様・・・悩みがあるなら仰ってくださればよろしいのに・・・私が手取り足取り、えぇ手取り足取り教えて差し上げますのに・・・」



「Aaaaa(あの、よろしいですか?)」

「まぁ、ご相談ですかティアマト様。原初の母のあなた様の悩み・・・未亡人で身体がうずいて仕方ないとか」


「Aaaaa(今の生態系を壊さず、かつ私が母としてみなさまに受け入れられるにはどうすればよいでしょうか?)」

「――・・・そう、です、ねぇ・・・・・・」


獣の憂鬱、姫の思慮

(・・・・・・)

 

 

 

――先刻から、フォウの様子がおかしい

 

 

 

 

意味もなくうろうろしたり、ふせをしてすぐ起き上がったり、どこか遠くを見たり

 

 

特に何かを話すわけでもなく、ぼんやりとしているフォウは、様子が変だと判断させるには十分なものだった

 

 

「・・・大丈夫?フォウ」

 

 

今は『王』は眠り、『姫』の姿を取っている

 

 

あの後、王は眠りについた、話すだけを話して満足したらしい

 

 

・・・自分は、どうしてもフォウの様子が気になったので。英雄姫の姿を取り、フォウを部屋に招いたのだ

 

 

「大丈夫?お腹壊したり、へんなもの食べたりした?」

 

 

(・・・あ、あぁ。ごめんごめん。大丈夫、大丈夫だよ?ボクは最強無敵のフォウくん。使命に萌える美しきケモノだよ?そんな不調だなんて)

 

 

「そうは見えないよ。自分の目を見て言える?」

 

(う・・・)

 

 

ジッとフォウを見つめる

 

 

・・・余計なお世話、お節介にもほどがある行為だとは思う

 

けれど、親しい人の不調や変調を見て見ぬふりをする賢い選択は取りたくない

 

「何かあるなら、遠慮なく話してほしい。魂だけだった自分に君がしてくれたように、誰かに話すというのは、ずっと心を楽にする行動なんだから」

 

 

(無銘・・・)

 

「相談相手にしては、ちょっと人生経験とか、頼もしさが足りないけど・・・真摯に話を聞く、という点なら、自分は誰にも負けない自信はあるよ」

 

 

えっへんと胸を張る

 

 

(エビフ山が揺れている・・・)

 

 

「だから、何か不安や悩みがあるなら。遠慮なく相談してほしいな。・・・フォウは」

 

(無銘・・・)

 

 

「大切な友達だから・・・苦しそうな姿を見るのは、こっちが辛いよ・・・」

 

 

――そう。フォウは友達だ

 

 

人じゃなくても、普通じゃなくても。自分を気遣い、身を案じてくれたただ一人の存在だ

 

 

・・・されるばかりじゃない。自分も何かをしてあげたい

 

 

たとえそれが、話を聞くなんて他愛ないものだとしても・・・友達の為に、何かをしてあげられるなら

 

自分の心と行動に、一片の曇りはないのだから

 

 

 

(・・・キミは本当にキレイだね)

 

 

呆れたようにフォウがはにかむ

 

(ボクは本当に、何度キミに打ちのめされればいいのやら・・・)

 

「ほら、おいで」

 

 

フォウを招く。彼が好きなものはもう解っている

 

 

「いつもみたいに、飛び込んでおいでよ。ここが君の位置でしょ?」

 

 

(ふふっ、見抜かれたかぁ。わぁい)

 

 

ひょいっと胸に飛び込んでくるフォウを抱きしめる

 

 

(あぁ~・・・ボクを包むエビフ山・・少女の若々しい張りと妙齢の女性の熟れた柔らかさを兼ね備える至高の芸術・・・柔らかさで沈みこみながらボクを弾き返そうとする張り・・・こんな楽園に包まれたらボクはもうだめだ・・・霊長類最強は君に譲るしかない・・・)

 

「ようやく本調子になったね。ふふっ」

 

回り始めるフォウの持論を聞いて、安心する

 

 

・・・思えば、フォウだってそうなのだ

 

 

会話し、意思があり、きちんと意志をもった一つの命。でありながら、会話や意思疏通ができる相手はあまりにも少ないと思う

 

簡単に通じあう人はいるかもしれないけど・・・こうしてしっかりと話ができる存在は、世界にあまりいないはずだ

 

 

「似た者同士だったんだね、お互い」

 

頭をなでながら、そんな事を呟いてみる

 

「お互い、会話相手に飢えていたのかな?」

 

 

(ふふ、そうかもしれないね。マシュは意思疏通はできるけど、流石にこんなディープな話はできないし。マーリンは面を見るだけでマーダーしたくなるし。知り合いは存在自体が赦されない連中だし)

 

ゆっくりと伸びをする。胸が振動に合わせて弾むように揺れる

 

(こんなに互いを尊重しながらコミュニケーションを出来るのは、君だけだよ。無銘の英雄姫)

 

「フォウ・・・」

 

(改めて、ありがとう。ボクを友達と受け入れてくれて。数多の時空の中で、ボクは最も幸せなボクだと胸を張っていえる。いや、ボクはむねのなかにいる、なんだけど)

 

見上げてくるフォウと、目が合う

 

 

その目は綺麗な藍色から、七色にキラキラと光っているように見えた

 

 

(ありがとう、無銘の魂よ。ボクは獣の中で、最も幸福な存在になれた。・・・君のお陰でね)

 

「――」

 

(ボクの総てで、キミを祝福しよう。比較の理を捩じ伏せ、幾度も尊いものを見せてくれる人類最新の希望よ)

 

 

「・・・・・・・・・ぁ」

 

(ふふっ、驚いたかい?キミに討伐されているばかりじゃないんだよ。たまにはぷらいみっつまーだーパンチをくらうのだ。えいえい)

 

ぺちぺちと手を叩きつけてくる。肉球の感触がおしつけられてくすぐったい

 

「これが、霊長類最強のぱんち・・・!」

 

 

(そうだよ。本当ならこの一撃でマーリンは500回ほど死んでいるんだ。・・・そうだ)

 

コホン、と向き直るフォウ

 

 

(一つだけ、たとえ話をしよう)

 

――?

 

「たとえ話・・・?」

 

 

(あぁ。軽い気持ちで答えてくれて構わない。たとえ話だからね)

 

そうおどけていうフォウだが、じっと瞳をのぞき込んでくる

 

 

「・・・うん」

 

 

(ありがとう。・・・もし)

 

 

フォウが語り始める

 

(ボクが『悪』だったとする。誰もが恐れ、戦き、滅ぼさなければならない『悪』だったとする)

 

 

――!

 

(それは必ず産まれるものであり、打倒が必然であり、排除が最適解な最悪の存在だ。・・・キミの友達が、そんな存在だったと仮定しよう)

 

 

・・・それはまるで、王が語った・・・

 

(キミはどう思う?)

 

「え?」

 

 

(そんな存在が、キミの友達になろうと語った事・・・浅ましい誘惑だと軽蔑するかい?)

 

フォウの口調は淡々としている

 

だが、茶化す余地がないほど真剣だ

 

 

・・・これは、彼の大事な事を教えてくれている

 

(そして、もしボクがキミに牙を剥くしか『なくなってしまった』時・・・キミは総てを悔やむかい?『自分は騙されていた』『あの時に仕留めておけばよかった』と・・・ボクを呪うかい?)

 

――これは、フォウとの関係を定める大事な問いだ

 

・・・

 

『苦しかったら、止めてもいいんだよ』

 

・・・思い浮かぶ、フォウの様々な言葉

 

『キミのものがたりは、まだ続く』

 

 

 

『ソイツが寝てれば話しやすくていい』

 

『出来たぞ!カルデア大冒険日記だ!』

 

 

『ボクは君が気に入ってるんだ』

 

 

――・・・

 

『キミの物語は、まだ続く――』

 

 

 

――答えなんて、考えるまでもない

 

 

 

「呪わない」

 

 

ぎゅっと、フォウを抱きしめる

 

 

(!)

 

「悔やまないし、嘆かない。君がどんな存在だとしても、キミと、キミと過ごした時間を後悔したりしない」

 

(・・・無銘・・・)

 

「誰もが恐れる悪だって、誰もが嘆く怖い存在であるからって――」

 

そうだ、そんなのは結果、主観の話だ

 

 

そんなのは・・・

 

「自分とフォウが、友達として過ごした時間は。誰にも無かったことにはできないよね?」

 

 

(――!!)

 

 

「自分はフォウを尊重してる。フォウの優しさと思い遣りにたくさん救われている」

 

 

――そうだ。だから

 

 

「そんな恩人のフォウを・・・どうやって呪うことができるのか、どうやってもわかんないや」

 

――例え、別離の形がどんなものでも

 

 

今まで積み重ねた時間は汚されない

 

 

「だから、約束するね、フォウ」

 

フォウがどんな姿になり、自分がどんな最期を迎えたとしても

 

 

「――自分とフォウは、ずっとずっと友達だ――」

 

・・・この絆は、けして手放さない

 

この世界で初めて自分を見つけてくれた、大切な友人を

 

けして、手放さないと魂に誓う――

 

 

(――――そうか。あぁ、そうか・・・)

 

黄金の粒子に弾け飛び、即座に再生する。それを3セットほど繰り返すフォウ

 

 

「フォウ!?」

 

消滅がパワーアップしている・・・!?

 

 

(ありがとう、無銘。最愛なる友よ。キミのお陰で、ボクの心は晴れ渡った)

 

「そ、そう?それなら、良かった・・・」

 

(キミの優しさと無垢さに祝福を。やはりキミこそ、ボクというケモノを討ち果たす英雄の姫だ)

 

「・・・大袈裟だなぁ」

 

 

友達の悩み事を聞いただけの事なのに。フォウ、身体の結合が緩いのでは?

 

(ボクの心も決まった。――キミが望む旅路の終わりまで、ずっとずっと傍にいるよ)

 

すりすりと身体を預ける

 

(必ずツーリングをしよう。無垢なる姫と打倒されてばかりのケモノ。お似合いだと思わないかい?)

 

「ふふっ、ギルギルマシンに専用のシートをつけなきゃね」

 

(シートもいいけど、ボクはやっぱりここがいいな)

 

「向かい風や空気抵抗で危ないよ?」

 

(いいのさ。柔らかいし!)

 

すっかり本調子に戻るフォウ

 

――友達の悩み事を、なんとか張らすことが出来たみたいだ

 

 

・・・あ、そうだ

 

 

「ちょっと待ってて、フォウ」

 

フォウを机に下ろす

 

 

(どうしたんだい?)

 

 

「落ち込んでたフォウが、元気の出るものを作ってあげる」

 

 

――言葉だけじゃない

 

 

 

確かなカタチで、感謝をあわらすことも悪くはないはずだ

 

「ちょっと待ってね。すぐ終わるから」

 

 

 

 

そうして、十分後・・・

 

 

 

「はい、お待たせ」

 

 

 

机に、一つの皿をおく

 

 

(これは・・・)

 

 

「名付けて『フォウくんケーキ』。中々の力作でしょ?」

 

 

フォウの姿を象ったミニケーキだ。有り合わせの材料にしては上出来だと我ながら思う

 

 

「自分なりの、感謝の気持ちをカタチにしてみたよ。量が少ないのはごめんね?独り占めしていいからね」

 

(・・・いいのかい?ボクに)

 

 

「もちろん。・・・くどいかもしれないし、しつこいかもしれないけど、感謝の気持ちは形にしても変わらないってキミが教えてくれたから」

 

――これは、感謝をカタチにしたものだ。フォウの姿は、お手本がなくてもカタチに出来た

 

 

だって・・・魂に、しっかりと記憶されているのだから

 

 

「いつもありがとう、フォウ。これは自分なりの感謝だと思って、遠慮なく食べて」

 

(・・・――)

 

「今小さく切り分けてあげるからね。・・・あ、深夜を考えて甘さは控えめだから、ごめんね」

 

 

・・・当然だが、フォウはフォークを使えない。だから・・・

 

「はい、フォウ。あーん」

 

こぼさないように、フォウの口許に運ぶ

 

 

「いつもありがとう。なにかあったら、また相談してね――」

 

 

感謝と、親愛を込めて

 

(・・・――おめでとう、無垢なる姫よ)

 

一口食べ

 

 

 

(いつものように――いつもより、ボクはキミに倒された・・・)

 

 

黄金の粒子に還元されていった・・・

 

 

「フォウ――!?」

 

 

そのあと、復活と消滅を一口ごとに繰り返し

 

 

この一時で、フォウは15回倒されたのであった・・・

 

 

 




(・・・)



(・・・人間一人に、魂二人分の魔力かぁ)


(・・・やるだけやってみよう。ボクも、この物語を彩れるように)


「なぁに?フォウせんぱい、悩み事?この全能少女ビースト☆マナカに聞かせてくれれば、サクッと解決しちゃうわよ?何を壊して、何を造ればいいかしら?私としては、ブリテン以外の歴史なんて滅びたって一行に構わないんだけど・・・あ、ねぇねぇせんぱい!結婚式にはちゃんときてね!セイバーと私、二人であるくヴァージンロード・・・きゃっ☆」

「オマエ後ろから貫通されて不法投棄されたじゃん。臭いんだよファブリーズしろよ」

「しーてーるー!毎日してる~!」


「・・・オマエと話してると、カレがどれだけ尊いか解るよ」

「ナナシの魂の事?確かに真っ白ね。――まるで新雪の雪みたい」 

「詩的だね、オマエにしては」

「でしょう?恋する乙女は詩的なの♪」

「――ビースト見習い、根源接続者マナカ」


「?」

「――ボクと、取引をしよう」

「――?」

「これから人理の修復までセイバーが敗北しない事と、かつ魔神を一人で討ち果たす戦果を挙げること。この二つを果たした暁に、キミに果たしてほしい願いがある」

「・・・なぁに?大抵のことはできるから、大体の願いは叶えてあげますわ。セイバーの大活躍の果てに何を願うの?プライミッツ・マーダー様?」

「ありがとう。――その頼みは――」

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