人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

1761 / 2530
Now Packing……


OK!

(メッセージは日曜日に返信いたします)


紅蓮の決意と辛酸の証明

「お久しぶりのー!BBー!!チャンネルゥー!!魔改造されにされ尽くしたあらゆるスイートホテルやグランドホテルを過去にする楽園カルデアで日々を邁進しているみなさーん!元気ですかー!私は今日も元気でーす!画面の前で叫んでください!私は今日も!元気でーす!」

 

突如楽園の回線をジャックして始まった久し振りのBBチャンネル。イタいノリを懸命にこなして盛り上げようとするBBの生暖かい奮闘を楽しむのが通とされる(推奨者ははくのん)チャンネルが開催された。無駄な上位権限により視界と思考をジャックしているので不参加は出来ないのが厄介なところ。

 

「ま、聞こえないんですけどねー。ヒーローショーじゃあるまいし、声援で強くなるのは私の趣味じゃありませーん。皆さんのウンザリ顔が見れないのは残念ですが、ここはBBちゃん我慢の時!オープンチャンネルにするには理由があるのです!エッチな放送はありません!お子様サーヴァントも童帝ルルさんもご安心して、このナイトメアチャンネルをお楽しみください!」

 

何故オレだけ名指し!?そんな抗議は絶対に上がっただろう。しかしスタジオは月なので届かない。平家ばりに無情なり。

 

「今回何故放送に踏み切ったのかと言いますと、なんと!スペシャルゲストが皆様に紹介したい相手がいらっしゃるとのオファーが来たからです!これはBBちゃんも寝耳に水、先輩も毛の生えた心臓が鼓動するくらいのサプライズ!気になりますか?誰なのか気になりますよね!それでは前フリもなく登場してもらいましょう!銀河レベルの愉快犯!彼に狂わされた運命は星の数!彼にロストさせられた冒険者はネズミ算!BBちゃんとキャラ丸かぶりのコズミッククソ外道〜!ニャルラトホテプさんですー!皆さん、拍手でお出迎えくださーい!パチパチパチパチー!」

 

ライトアップされ、神妙に座る褐色の神父服たる男性がモニタに映し出される。彼こそは渦中にいる存在、ニャルラトホテプその人だ。

 

【御紹介に預かりました、楽園カルデア職員にしてケイオス・カルデアの所長ニャルラトホテプです。いつも愛娘や家族が大変お世話になっております】

 

「おやおやぁ?いつもの軽快なトークも減らず口も無しですかぁ?私としてはあなたの言葉巧みな玩弄話術のレクチャーを受けたいなーとか思ったり思わなかったりしていたのになー?」

 

【此度はこの場を設けてくださった月の新王、並びに偉大なる御機嫌王の温情に預り皆様に報告すべき事がございます。先日私は、宇宙を放浪した果てにカルデアに流れ着いた知己を保護致しました】

 

BBのトラッシュトークには付き合わず、あくまで誠実な報告としての態度を貫くニャル。流石に軽快なトーク、という空気でないことは解るBB。ここは沈黙。

 

【名をピア・シファー。彼女は遥かなる旅の果て、この地球にて再会する事が叶いました。そして、その際に彼女自身の魂と心を護る核として…彼女は、藤丸リッカの血縁上の母親の姿と精神をモデルとしたのです】

 

そしてBBはピアの手を引き、ニャルの隣に座らせる。緊張からかそわそわしているピアを皆に紹介し、ニャルは普段の軽薄さを見る影もなく言葉を紡ぐ。

 

【楽園に加入した者、リッカちゃんを知るものならば彼女の家族がどのようなものかを理解していない方はいないでしょう。特に深くリッカちゃんと絆を結ぶ方からしてみれば、これは邪神の玩弄、悪辣なリッカちゃんへの嘲笑と受け取る方もいらっしゃるはず。私という存在がどんなものか…それは私自身が理解しています】

 

「おっさん…」

 

ニャルはそれを踏まえた上で、それでも楽園の皆への誠実を貫く態度を示した。

 

【ですが私は、カルデアに関わる皆様…愛娘を始めとする我が家族に誓いこの場にて宣言致します。彼女、ピアはオガワハイムにて現れた彼女の血縁とは姿型だけが同じだけの別人であり、彼女の善良さと魂は皆様と共に歩むに相応しい存在…私の、新たなる家族であることを。この場を借りて全ての方々に報告させていただきます】

 

真っ直ぐと告げる邪神。尻尾も見せず、姿も見せず、自滅と破滅をもたらすトリックスターとしての在り方を全て投げ捨てピアの潔白を証明する。

 

【リッカちゃんの事を想う皆様に、心からの嘆願と御理解をお願い申し上げます。彼女の魂は、ガイアの魂にも手をかけた彼女の肉親の類感にもけして負けない存在であり、カルデアにおける新たなる仲間、隣人として迎えてほしい存在であると。決して、その存在は凶兆を告げるものではなく…ナイアに続く娘であり、マイサンやたくさんの家族達に連なる存在なのだと。此処に告げさせていただく事をお許しいただきたい】

 

そしてニャルはBBに目配せし、合図する。それに応え教鞭から取り出せしは、煉獄やゲヘナもかくやの紅蓮に燃え立つ料理の体をぎりぎり成している料理。

 

【その証として、私はこのルチフェロサタン麻婆を完食致します。我が家族が、楽園に微塵たりとも嘘偽りない親愛を示す証明として…邪神ではなく父としての覚悟を皆さんに、これより目の当たりにしてもらいます】

 

レンゲを取り、ニャルは静かに手を合わせ麻婆に向かい合う。そして…

 

【いただきます。これが──私の皆様へ見せられる誠意…!】

 

一気に麻婆を口に運んでいく。表情を崩さずにレンゲを動かすニャルの口に運ばれていく、料理たる劇物。

 

【!!……!……!!…!!!!!】

 

最早言葉すら、嗚咽すら許されない程の痛覚。王ですら寝込み、常軌を逸した強度の存在でしか食べられぬ至高の辛みと旨味。比喩抜きで口から火を吐けるほど、のたうち回るほど、汗と涙で水溜りができるほど、目に入れば失明、粘膜に当たれば腫れ上がるスケールの辛味を、生理現象を除けば彼は逃げることなく、むせることすらなく食べていく。

 

「うっわぁ………」

 

BBすらドン引きさせるほどにその決意は常軌を逸していた。家族の潔白を証明する。神の位はとうに捨てた。次は人の尊厳すら捨てる番なのだろう。涙を流し、汗を撒き散らし、それでも彼は一心に麻婆を口に運ぶ。

 

彼は家族と同じくらい、カルデアとその人物達を愛していた。その中心であるリッカのことを好ましく思わぬはずがない。そんな彼女のトラウマを抉るような真似を押し通す以上、彼にとっての償いとケジメはこれでもまるで足りない程だ。

 

しかしそれを、常人には死。王ですら手こずる試練に挑む事で家族の無実を証明せんとしたのだ。楽園への誠意として、ピアが奇異や警戒の視線、或いは殺意に晒されないために。

 

【…………………………】

 

そして、声すら上げられぬ苦悶と慟哭、告発の責め苦の果てに──彼は完食した。一口も残さず、口に運ぶも躊躇われる特製料理を完食したのだ。

 

「ほ、ホントに食べちゃったんですか…!?うわぁ…味覚カットは当然として一日は下痢確定と言われるアレを?うわぁ…」

 

BBの言葉に、ニャルは答えなかった。もう彼の意識は無い。自身の限界は3口で迎えていた。大盛りの麻婆の最後のひと口で、彼の精神は断ち切られたのだ。

 

だが、確かに──彼は決意の証明として。王の覚悟に通ずる試練を乗り越えた。

 

「…皆さん?見ましたか?これが娘のために命をかけるパパ、レベル100です。これだけして、裏切るとか下心とか絶対にありません。だから皆さんも彼女を…」

 

「ねぇ、BBっての!私にもちょうだい!そのまーなんちゃら!」

 

すると声を上げしはピア。なんと彼女は麻婆を所望したのだ。邪神の意識を刈り取るほどの麻婆をだ。

 

「え、えっ?でも…」

 

「いいから!早く!」

 

勢いに押され、困惑しながら麻婆を召喚する。ピアはその麻婆を、猛烈にかっこみ始める。

 

「ちょ、何やってるんですかぁ!?ショック死も有りえますよその食べ方!放送事故にならないようニャルさんは往生したのに…って…」

 

なんと、彼女は苦もなく、外傷も無くそれを完食してみせた。そしてニャルをそっと横たわらせ、カメラに叫ぶ。

 

「あたし、皆に迷惑かけないから!おっさんも絶対ウソついてないから…だから、だから!あたしと、おっさんを…この人を!信じてほしいの!お願いします!」

 

もはやドン引き通り越してあ然とするBB。頭を下げたきりのピア。流れる沈黙。そして我に返った彼女が慌てて舵を取る。

 

 

「え、あの、なんでそんな簡単にそれ…と、とにかく!今回の放送はここまで!皆さん!彼女にどう接するかはこの放送を見てよく考えてくださいね!それではまた会う日までー!ちょっと大丈夫ですか!?もしもーし!?」




…今回の放送は、ニャルが彼女の存在を認知してもらうために企画を考え、ギルとはくのん、そしてBBに協力を仰いだものだった。

自分の言葉にはなんの重みもない。痛みと覚悟を皆に示す必要がある。

そして、ピアが楽園の仲間である事を…潔白を証明するために。彼は己の全てを曝け出し、挑んだのだ。

…この放送が終えて数日が経った後。しばらくニャルの姿を見るものはいなかったが。

代わりに、ニャルの家族として…皆に受け入れられるピアの姿が楽園で見られるようになったという

どのキャラのイラストを見たい?

  • コンラ
  • 桃太郎(髀)
  • 温羅(異聞帯)
  • 坂上田村麻呂
  • オーディン
  • アマノザコ
  • ビリィ・ヘリント
  • ルゥ・アンセス
  • アイリーン・アドラー
  • 崇徳上皇(和御魂)
  • 平将門公
  • シモ・ヘイヘ
  • ロジェロ
  • パパポポ
  • リリス(汎人類史)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。