人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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邪悪なる龍は夢を見ている。

それは、幸福に満ちた暖かい夢。人として、善を為すあり得ぬ夢。

山の遥か下にて、龍は眠り続けている。その封印は解かれていない。

いや…龍はこの夢が醒める事を拒否している。とても、良い夢であるのだ。

それが、もし終わりを迎えた場合。

いや、解かれる事があるならば。それは夢の自分が消え去る事だ。

夢から醒めた龍は、やがて本懐に立ち返る。眠りから覚め、再び翼を広げるだろう。

龍を起こしてはならない。魂を消してはならない。

心と魂なき龍目覚めし時──世界は、真に終焉を迎えるだろう。

龍は夢を見ている。それは微睡みの心地よき夢。

醒ませば、その怒りのままに世界を喰らうだろう。

人理を護らんとするのならば、龍の夢を終わらせてはならない。善なる夢から醒めた龍は即ち…

絶対悪へと、立ち還る。


裏道行進〜理解してはならぬもの〜

【直接攻略するのは危険だ。なので我々は正々堂々…裏口攻略を使わせてもらうとしよう】

 

ニャルの方針は真正面からのオガワハイムの攻略ではなく、問題の中枢たる四階へのショートカットを提唱した。楽園の普段では選択しないであろう、電車道の王道制覇ではなく最小の労力で最大の功績を出す方針だ。

 

【式さんの見取り図からすると、セーフティルームから反対にエレベーターがある。階段のさらに向こうにあるため一手間はかかるが、乗れさえすれば一気に道筋を短縮できる】

 

【楽をするために正しい道から外れ困難な道へ飛び込む。なんだか矛盾していませんこと?】

 

【本来ならそういう矛盾こそが我等外なる神なのですよ、婦人。そして皆様はギルガメッシュ王からお預かりしている財…万が一は断じて許されませんので】

 

それが例え王道でなくても、最適解ならば躊躇わず選ぶ。楽園の影、そして闇。しかしその暗さは安らぎの夜闇の穏やかさ。ニャルの方針に、ペルセポネーとハデスは頷き了承する。

 

「なるほど、理解した!つまり私とゼウスが道を切り拓き蹴散らしていけば良いのだね!」

『私はともかく、キリシュタリアは魔術師でも上澄みだからね。リッカちゃんズの埋め合わせは超できるよ。任せなさい』

 

【あぁいや、進む際に一々敵を倒していたらキリが無いのでここは『相殺』して突き進もうと思います。具体的には…アフラ・マズダ。ケルベロス。そして──】

 

ニャルが提案した作戦。それはどこまでも王道とは異なるながらも、影が如く勝利に帰結する道筋──。

 

 

『うぎゃあぁあぁめっちゃキモいんですけどー!?浄化魔術!浄化魔術!浄化魔術!!』

 

肉塊、おぞましき物質の万魔殿にやかましく騒がしい絶叫と清澄なる気配が染み渡る。彼女の行く先、醜悪な肉の宮から聖なる浄化の道となる。

 

『やっぱり中身がアレなだけで、浄化性能半端ないのねこの神様…』

『私の神殿でも水を振るえたのだもの。悪の独壇場なんてものの数じゃないみたい』

 

そう、ニャルが選択し助力を頼んだのはアナーヒター…そして三者揃った水の女神である。アクアを前面に押し出し、進む道を清らかなものへと変える。領域からしてアウェイもいいところだが、その魔法に触れた先からあらゆるものが浄められていく。

 

『ゾロアスターってこんなキモイやつなわけ!?私ちょっと生理的に無理なんですけど!?アナーヒター!アナーヒター変わってぇ!?』

『ダメよ。私は天空海をこの穢から護らなくてはならないの。浄化のレベルでは私より上なんだから、ファイトファイト!』

 

『今実力認められても全然嬉しくないんですけどぉおぉー!?ぎゃあぁ跳ねたなんか跳ねたぁ!?助けて汚れる穢されるー!?』

 

(ゼウスよ、彼女はタイプかな?)

『声で萎えそう…』

 

そんな陰気臭い雰囲気を吹き飛ばしていく浄化にて、アフラ・マズダが展開していた防衛領域を増やしつつ安全を確保。霊基の侵食や変質を抑えることに成功する一行。道の確保が出来ればやることは一つ。速やかな進軍である。

 

【さぁ行きなさいケルベロス!貴方の進軍を阻む事は何者にもできませんわ!】

 

【【【アォオォオォオォオォオ!!!】】】

 

ペルセポネー、ハデスの親愛なる家族ケルベロス。三ツ首の番犬が一気に疾走する。浄化を受け弱体化したエネミー達を一気に踏みつぶし、蹴散らし、整えられた道を一息に踏み鳴らす。

 

『いけいけー!』

『粉砕、玉砕、大喝采』

「でかっ…でっか…」

 

ケルベロスの背中にアフラ・マズダ、ピア、アジーカを乗せ、祝福と防護機能を重ねがけし安全に目的地へと運び往く。残りのメンバーは後方と不意打ちに備え、入念な警戒と共に注意深く道を進んでいく。この行軍の態勢により、闇雲に進軍するより何倍も手早く目的地への道が開ける事となった。

 

『やはり一人でなんでもするより、皆で力を合わせて物事を果たすのがいい。カタルシスと分かち合う喜びが違うね』

 

『あら、あなた方も水の礼装を使うのね?』

 

「えぇ、アナーヒター神。これはリッカと対を為すスプリーム・オロチと言います。リッカと!対を為す!スプリーム・オロチと覚えてください!」

 

(キリシュタリアがめっちゃ私と張り合ってくる!?)

【そりゃあそうだろ。あの愉快な兄さんはお前さんを仲間かつライバルとして見てるはずだしな】

 

アンリマユ、リッカ、ゼウス、キリシュタリア、そしてアナーヒター。錚々たる面子の防御を受け、なんの問題もなく行軍は進んでいく。最早並大抵の困難では困難にもならない有様だ。そんな余裕もあってか、アナーヒターがアンリマユに声をかける。

 

『まさか、アフラ・マズダが自分の使徒を送ってくるだなんてね。そしてあの娘は、あの村の…』

 

【やっぱり知ってたか。ってなるとあの村を滅ぼしたのはお前さんだな?】

 

アンリマユの問いに、アナーヒターは重々しく頷いた。中庸、中立として成さねばならない葛藤を吐露しながら。

 

『あの村の人々は、善も悪も有してしまった。そして、自身たちだけが正しくあろうとする独善と、自身の悪に気付かぬ大悪を有してしまっていた。…アフラ・マズダもアンリマユも、その村の人々を生かしてはおけないとの結論に至った』

 

(アナーヒターさんはその決定に異議を唱えたんですか?)

 

『えぇ。何せ、アフラ・マズダが侵攻を果たせば呪いとなったあなたは存在を赦されない。アンリマユが殲滅を果たせば善の化身たる彼女は尊厳を喪ってしまう。…どちらかの陣営に任せてしまっては、あなたたち二人を両立させる事はできなかった』

 

そしてアナーヒターに両神は伺いを立てた。善神アフラ・マズダは『あの娘をこの座へと導いてほしい』。悪神アンリマユは【肖像権侵害だからあいつらを消せ】。どちらかが攻めれば、どちらかが反撃する口実となる。…どちらも両立するには、中庸の介入が必要だったのだ。

 

(だから私が、あの村を一掃した。あなたと彼女を残して尽くを)

 

(アナーヒター…)

 

中庸とはどちらの味方もしない、どちらの肩入れもしない。同時に、こうした柔軟な対応も果たせる立場にいる。間接的に言えば、彼女は少女と青年両方を救う道を選んだのだ。それ以外の全てを切り捨てて。

 

【そうかい。なら、あいつに代わって御礼とか言っておいた方がいいかねぇ?】

 

『結構よ。今のあなたは青年でもあり、悪神そのもの。その御礼を受け取るわけにはいかないわ』

 

【真ん中しか流れられないニュートラル。大変だねぇ。…で、だ。なら中庸らしくこの現状をどう見る?】

 

オガワハイムを蝕む万魔殿。アンリマユが見知らぬとも、その心当たりは自覚せねばならない惨状。同期の意見を訪ねたところ、答えもまた不明瞭な部分が多い。

 

『間違いなく悪神側の仕業と断言できるわ。でも、それにしてはやり方に熱意と、悪意と、敵意が感じられない。外敵を排除するようなものではないと思う』

 

(外敵を…私達を倒そうとしているものじゃないってことですか?)

 

問いに頷くアナーヒター。これだけの変化と変容を有しておいて、目的は『大したものではない』という見解に驚かされるリッカ。

 

『悪神達に纏わる事で一つ言わせてもらうのなら…彼等に相互理解は期待できないわ。彼等は良心、自制心、道徳心を欠片も持ち合わせていない。アジーカ、そしてあなたの殻を被ったアンリマユが極めて異例で、他はただ同じ言葉を話すだけ、同じ姿なだけの正真正銘の怪物』

 

アンリマユがしきりに頷く。悪という側面しか持たない人格とは、同じ精神活動すら期待できないと断言される。

 

 

『だからせめて、覚悟だけはしておいてね。どんな理由でも、どんな動機でも、彼らは本気で、真摯に、そして確信を以て行っている。そこに…歩み寄る余地はきっとないわ』

 

中庸の女神が語る、悪神達の概要。あらゆる意味で一線を画すその存在達に、リッカは静かに息を呑み拳に力を込めるのであった──

 

 

 




エレベーター前

アフラ・マズダ『よしよし!はい、ハチミツどうぞ!』

【【【ワゥー!】】】

ピア「へぇ…三つ首だから怖っとか思ったけど、チャーミングでかわいいんだね、ケルベロスって」

ペルセポネー【そうでしょうそうでしょう。彼等は優しく、勇猛で思慮深くそれでいて愛くるしい!冥界の宝物ですわ!ささ、三人でそれぞれの首を労って差し上げなさって】

アジーカ『(ぺろ)これは…ハチミツ(ぺろ)』
ケルベロス【ワゥー】

ニャル【流石はギリシャとゾロアスター最高クラスの実力者達。なんの危なげもありませんでしたな。さて、エレベーターですが…】

リッカ(!待って、誰かいる!)

リッカの言葉に、エレベーターの前に視線が集まる。そこには、一つの人影。

絶世の美男子『─この門を通るものは、一切の希望を捨てよ。地獄の門にはそう書かれている。知っているかい?』

そこに在りしは──目を奪われるような男子が琴を奏でていた。腰にも届く金髪、神衣が如き衣装は、この空間に似つかわしく無い美しさと神々しさを備えていた。ただ──

『ようこそ。万魔の都に現れし者達よ。出逢えて嬉しいな。この出逢いを祝して一曲奏でるとしようか』

──人の骨で造られた琴、奏でられる怨嗟の旋律。うず高く積まれた、肉塊の山に座るその姿は悍ましさと違和感を突きつけてくる。何より、頭に生えし一対の巨大な角。

『僕は…ダンテ。地獄と天界を巡るもの。この出逢いに祝福在らんことを』

あどけない、愛くるしさすら感じるその少年は深々と礼をする。そこには…

アジーカ『…!』
リッカ(…お父さん…)

苦悶の表情で氷漬けにされている…リッカの血縁の片割れの氷塊が現れていた──

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