人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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死は救いであるのか。

それは人による。

死の先は何が待つのか。

それも人による。

どちらにせよ…

見ていて樂しければ、どちらだって構わない。

地獄の業火の苦悶も、洗礼の懺悔も同じことだ。

見世物として樂しければ、なんだっていい。

この世界は素晴らしい。

だって、苦しめれば苦しめる程最高の音を奏でる楽器ばかりなのだから。

そしていつか──

僕だけの、宝物が欲しい。いつか会いに行こう。

自分だけの宝物をくれるであろう、あの人へ。

全てを尊び、慈しんでくれるあの人へ。

僕に、どうか…

僕にだけの、尊重をくれますように。


最期の告解

【ダンテ…人間でありながら地獄と煉獄、そして天国を渡り歩いた暇人か。神曲はそれはそれは影響を与えたな。コキュートスにいるルシファー、そこで噛み砕かれている裏切り者たち。神話や信仰に篤いものは知らない筈のない名前だ】

 

ニャルの言葉、挑発を含んでいたそれをダンテと名乗る少年はさらりと受け流す。光の様な金髪を託しあげるその美貌は、この世のものでは無いほどの端正さを誇る。

 

『すまない、連絡先を教えてほしい。私と一夜を過ごしてくれ!』

【ゼウス!!】

 

バシィ!とペルセポネーに引っ叩かれるゼウスとキリシュタリア。そのやり取りを笑いながら、ダンテは琴を鳴らす。

 

『この世界には価値がない』

 

【ぁ?】

『…』

 

『僕はそう感じてね。同時に人間の行き着く先がどんなものかを知りたくなった。そんな僕は世界の裏側、そして別の高次元…神霊の領域へと足を運んだ。そして見てきた。人間の落ちる果て、地獄というものを。異端、異教徒、悪人が落ちる永劫の罪科を償わせる地を』

 

正しく地獄。罪を重ねた者が落ちる、死してなお開放されない無限の弾劾。そこで彼は──感動し、感銘したという。

 

『…そこで見る人間達は美しかったんだ。自らの罪に焼かれる人間たち。そして許しを請うその必死さ。あれを奏で、爪弾くために人間は生きているのだとしたら…人間は、世界は素晴らしいものだと思えた。そして僕はあの喜びと、素晴らしさを皆に知ってほしいと考えてね。だからこうして、英霊として活動している』

 

【なんという倒錯した解釈だろうか。死とは安寧だ。確かに罪業の償いは必要な事だ。だがそれを皆に知ってほしいとは】

【そうですわ。誰が断末魔の絶叫を、苦悶の嘆きを欲しますの?そもそもそちらの神話体系は唯一神以外の神を悪魔に貶める陰湿なもの。それにインスピレーションを得たからそんな歪みを抱えたのではなくて!?死とは公正で、公平で、平等ですわ!】

 

冥府のニ神の言葉にダンテは肩を竦める。理解されず残念がっているのか、或いは蒙昧を嗤っているのか。天使のような美貌からは読み取れない。

 

「そんなことどうでもいいし!ていうか、その後ろの人は何!?誰!?」

 

(ピア、落ち着いて!あの人は…)

 

『藤丸立香の父親さ。君の被っている化けの皮の番だよ、傲慢の友、星の断罪者』

 

ピアにも躊躇わずダンテは告げる。その言葉に、リッカは違和感を感じる。

 

(読めない…嘘なのか本当なのか、もやもやして掴めない…?)

 

リッカは対話にて全てを見抜く。それがどんな存在でもだ。だが、ダンテと名乗る存在の言葉へ、いつものように伝わる真偽の閃きが起きないのだ。

 

(…そうか!対話する気がないんだ!あの人…誰一人として自分と同じだと見ていない…!)

 

対話で見抜けないなら答えは一つ。目の前の存在は誰とも触れ合うつもりがない。誰ともわかり合うつもりがない。穏やかなのは、優しげなのは全てを無関心で取るに足りない虫ケラとしか見ていない故のもの。徹頭徹尾の傲慢。傲慢の友とはつまり、そういう事なのだ。

 

 

【で、そんなイカれ詩人が日本のマンションのエレベーターで何やってんだ?お忍びでライブハウスが借りれなかったんで野宿かよ?】

 

『そうだね。この世界には僕の歌や詩を聞かせるような人なんていないから…ちょっとの手伝いと、君達へのお近付きのしるしに持ってきたんだ。コレ』

 

氷の塊には苦悶の表情で固まる男性。そこから漏れ出る怨嗟は辺りに力を…否。違う。

 

『──食わせているのね、その魂を。凍らせ、形を保持して中身を使い潰している…人柱ですらない、使い捨ての消耗品以下の扱いで!』

 

アナーヒターの弾劾にダンテはにこりと答える。

 

『日本の管轄では彼は地獄行き。最下層の阿鼻という場所らしいけど、そこに届くには三千年落ちなきゃいけない。それじゃあ遅いだろう?リッカちゃんや、アジーカちゃん。アンリマユちゃんが生きている内に罰を受けてもらわなきゃ』

 

【──魂を掠め取ったのか。裁きを受ける魂をわざわざ】

 

『そうだよ、邪神。そんな時間をかける場所に置くなんてとんでもない。同じ最下層なら、ルシファーがいるコキュートスに落として、噛み砕いて氷漬けにした方が早くて簡単だ。そしてここに持ってきた。おかしいったらないや。下着一枚でコキュートスに来たときの氷漬けになっていく時の顔…噛み砕かれるときの叫び…うん。とても滑稽だったよ。こんなのが父親だなんて、とても『おかわいそう』だね、藤丸立香ちゃん…』

 

リッカへと語り掛けるその声音には存分な同情と、慰めと憐れみ…そして、嘲りが含まれていることをリッカは理解する。どうやら、人を虚仮にする時だけはその本性を表すらしい。キレイなのは正しく、見た目だけのその本性が。

 

【確かに子供は親を選べねぇ。だがな、他所の奴等が好き勝手に人様の家庭を哀れんでんじゃねぇや!】

『パパを弄んだ。万死』

 

『へぇ、まだこんなのに親の情を懐いているの?僕は皆の声が聞こえたのにな。『こいつらはもっと苦しめばいい』って』

 

瞬間、ハデスの一閃が肉塊を吹き飛ばしダンテを断ち切らんと振り下ろされる。少年はそれを見上げ、静かに琴を鳴らす。

 

【ッ!?】

『兄者!?』

 

ゼウス、キリシュタリアが慌ててハデスを抱きとめる。琴から放たれたもの…それは【命令】だった。令呪と似通った、絶対命令権。

 

『僕はこいつを届け、伝えに来ただけだよ。ね、アジ・ダハーカの魂にして頭脳体。かの龍が夢見た善なる君よ』

 

『!』

 

『これは君へのご褒美だよ。そして、上にはアジ・ダハーカの影にして本能、悪たる君がいる。僕が手助けして呼んであげたんだから、きちんと力を高めるんだよ?』

 

言うことは伝えたとばかりに、ダンテは霧散し始める。同時に、音を立て氷が溶けはじめ、中身の男が顕となる。

 

『僕の友達をよろしくね、諸君。それではまた、この世界の何処かでお会いしよう』

 

(──待って!ダンテ!)

 

リッカはダンテに呼びかける。──ダンテはミスを犯した。リッカの前に、意思を見せてしまった。

 

(あなたは──)

 

リッカの前で言葉を話せば、それだけで龍は全てを解する。

 

(ダンテじゃない、よね?)

 

『─────』

 

リッカの言葉に、キョトンと目を瞬かせるダンテ。彼はその天使のような美貌に笑みを浮かばせ──。

 

『………───』

(ッッッ───)

 

消える間際、言葉なく笑みを返した。…その表情は、リッカが戦慄を覚えるものだ。口は耳まで裂け、眼はまるで縦に割れたかのような瞳孔。ビッシリと呪いが刻み込まれた舌。あまりにも人とはかけ離れたその姿は、決して忘れる事など出来ないほどに衝撃的なもので。

 

【う…】

『パパ…!』

 

男のうめき声で我に返る。アジーカはその男に駆け寄った。もはや魂は消え入る寸前だ。凍傷と裂傷で、魂の緒は断ち切られている。

 

【う…う…きみ、は…】

『パパ…』

 

アジーカの事を理解しているのか定かではないが、その男は目を向け、言葉を辿々しく紡ぐ。アジーカの頭を撫でながら。

 

【君は、たしか…私達の傍にいてくれた…娘だな…私達を、認めてくれた…看取ってくれた…知っているよ…】

『……パパ…』

 

【…あんな、出来損ないなんかじゃなく…君みたいな…優しい、愛らしい…子が、欲しかった…】

 

…その言葉を最後に、魂は砕け散った。最早永劫、現れはしないだろう。

 

(……、……………)

 

最後の間際、男は…アジーカに血の繋がり以上の絆を見出した。彼は最期に、自分自身の傍にいてくれた魂に感謝を示した。

 

それが救い。彼女には温もりが残された。

 

だが──血が繋がっていただけの娘には、自分を殺した娘を最後まで呪詛を残した。

 

それが報い。彼女には、断絶がもたらされた。

 

【……リッカ、ちゃん…】

【……】

 

(いいの。…いいの)

 

だが、リッカはそれで良しとした。父だった男は、最期にアジーカの献身と肉親の愛を理解してくれた。最後には、彼女を娘と認めてくれたのだ。

 

それは、殺すしかできなかった自分ではなく、最後までパパと呼んだアジーカに与えられた救いなのだから。

 

(これで…良かったよ。良かったね…アジーカ)

 

親殺しに、救いなどもたらされるはずもない。これも自分の業だと、リッカは泣きじゃくるアジーカの肩をそっと叩く。…その背中を、アナーヒターと天空海、ゼウスとキリシュタリアが優しく撫で、ペルセポネーはあまりの残酷さにハデスの胸で涙を流す。

 

【…この世界に価値は無い、か。よくもほざいたな。ならお前は──我等の敵だ】

 

その言葉に込められた最大の宣戦布告を受け取り…ニャルは静かに暗い炎を燃やす──。

 




ピア「おっさん…なんで」

ニャル【ん…?】

「なんで、親が子供に出来損ないとか言えるわけ?訳わかんない…おっさんと全然違うじゃん…!訳わかんないんだけど!家族って、そんなんじゃないじゃん!」

ニャル【……そうだな。産まれた、授かった奇跡を理解してない人間が…世界にはちょっといるんだよ】

ピア「そんなの…リッカが可哀想すぎるじゃん…血も繋がってて、ちゃんとした親子なのに、なんで…」

リッカ(ピア…。…ありがとね)

?「…あら?私、なんで…」

ダンテの代わりにそこにいたのは、身体中を拘束具と、マントで覆った人物。口には面頬を付け、露出しているのは左目だけというさながら搬送中の重罪人のようないで立ちだ。

ゼウス『むっ、美女!しかもとびきりの!推定バストサイズは110以上はあるな』
キリシュタリア(なんだって!?)

?「…あら?あなたたち…あぁ、そういうこと。また放浪癖が出たのね、私の」

その女性はエレベーターを動かし、一同を促す。

「特異点攻略でしょう。なら中心に案内するわ。…どこかに消えるまでだけど」

アンリマユ【何よ、オメー】

「ただの放浪者よ。…帰る家はもう無いけどね」

女性の導きにて、一同は核心に至る。

アジーカ『パパ…おやすみなさい』

アフラ・マズダ『…』

アフラ・マズダはただ、全てを見つめた後…何も言わず、アジーカをそっと抱きしめた。



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