正邪『楽勝。だった…楽勝だった!』
ニャル【ご苦労さま。陰ながら大変感謝する】
ベリル『いいっていいって。ゴキゲンな礼装ももらったし、後輩のためだからな!』
コヤンスカヤ『万魔殿の怪物…流石にこちらを商品にはできませんね。尊厳の問題です』
ニャル【あぁ。リッカちゃんはリッカちゃん一人だけだ。死にたくなければこの場の事は持ち出さないことだ】
コヤンスカヤ『ビーストとは関係無しな極悪案件が目白押し…普通のカルデアなら百は滅びておりません?絢爛の裏にいくつ詰みポイントがあったのやら』
ニャル【本当にな。王や姫がいるからといって、犠牲がないからと言ってヌルい旅路では決してない。敵も味方もダイナミックで地球がまずい。だからこそ──】
この朝日のように、彼等の旅路は輝いている。そう、ニャルは信じているのだ。こやつもその詰みポイントの一つなのだがそれは置いといて。
コヤンスカヤ『…時に、新しい娘さんの件ですが』
【あぁ。きっちり向き合うさ。…きっちりな】
そしてまた、新たな戦いにニャルは向き合う──。
リッカ「……ベリパパ」
アトロシアスカプセル『どうした』
リッカ「父さんとして助けてくれて…ありがとう」
『気にするな。オレ様はお前の魂の父だ。父が子を助けるのは当たり前だ』
リッカ「………………」
『涙するな、娘よ』
リッカ「はい………」
『おーい!皆ー!お疲れ様ー!見事な演目だったよー!』
リッカ達が邪龍を征伐し、オガワハイム前に帰参した際に迎えし者、それはダンテだった。満面の笑みと拍手喝采を合わせ、心からの祝福を贈りカルデアを称える。
『邪悪なる魔王は、人の心と善に目覚めた龍の魂に退けられる。まさに最高のお題目だね!王道にして痛快無比な物語が、結局一番誰も彼もの心を動かすものなのさ!勿論、詩人や語り部の心もね!本当におめでとう!』
その称賛に屈託のない…のかはわからないが、少なくとも裏は見受けられない。感激のままに称賛を紡ぐ存在を疑うことは、勝利の余韻を壊すことになるとリッカは判断する。
「ありがとう。なんだかんだで…あなたが母さんと父さんを呼び寄せた事はプラスになったと割り切ることにするね」
『君の御礼は重すぎて受け取れないなぁ。三流の演目を、一流の物語にしてくれたこちらこそ感謝だ。ルシファーの取引に感謝だね!』
【そうでしたわ!今回の件は冥界の不手際として題材に出さなくては!そして二度と再発しないように入念な対策の議論を所望しませんと!】
彼にはあまりにも謎が多い。リッカの対話スキルにすら探知されないその言の葉はどこまでが本当かは解らない。だが、事実として解ることは…今回の件で彼が味方で助かった事である。理解なら、おいおいしていけばいい。
「ははっ、最後の最後で失敗しなくて一安心だ。邪龍が去った今、俺の役目も終わりだな」
見ると、ルドラから光の粒子が溢れている。特異点是正により、はぐれサーヴァントの退去が始まったのだ。ルドラはカルデア召喚ではないため、その例に倣う形になる。
『サルワ…いえ、ルドラ。私達に力を貸してくれたこと、心から感謝するわ』
【インドには感謝しかねぇな。糞のゴミ溜めからこんなイイ奴に習合してくれたんだからよ。私からも礼を言っとくぜ】
「気にすることはないさ。オレはいつだって正しいものの…いや。『正しくあろうとする』者の味方だからな」
ルドラは満足気に微笑み、最後の言葉を投げかける。それは、彼の信じる正義の信念の一端だ。
「見ての通り、この世に絶対の正義はないかもしれない。正義は見方を変えれば別の正義が存在し、気づかないうちに悪を育む時がしょっちゅうある。万物流転するこの世界で、唯一無二の価値観なんてものは持っちゃいけないんだろうが…」
「ルドラ…」
「それでも、一つくらいはあると気合が入るだろうさ。何を犠牲にしても守りたいもの…その一つの為に頑張れるもの。そいつを生きているうちに見つけられるよう、日々を頑張って生きていけるといいな。色んな人と出逢ったり、話をしてればいつか辿り着ける筈だから。あと、えーっと。そうだ、カーマは知ってるか?カーマに…」
最後にカーマへの言伝を伝えようとしたルドラは、ふっと笑い…
「…いいや。こういうのは自分で伝えるもんだよな。じゃ、またな。今度はあいつを連れてくるよ。カーマに申し訳無さそうにしてたあいつをさ。真面目すぎて堅物だから、仲良くしてやってくれ──」
そのまま、シヴァへの縁を紡ぎつつ退去していった。恐らくまた、彼には出会えるだろう。世界を脅かす悪が、あるかぎり。
『現世に神に選ばれる逸材多すぎ問題』
『天空海はその中でもダントツよね!なんせ私とアナーヒターに選ばれたんですもの!』
(これからもよろしく、アナーヒター!)
『えぇ、勿論よ』
『私はぁ!?』
『皆様、本当にお疲れ様でした。此度の成果は我が神、アフラ・マズダも大いに喜ばれるでしょう』
見ると、アフラ・マズダも退去が始まっている。これは退去というよりも、彼女の神の使徒たる使命の行使のようだ。
『私は神霊の座に戻り、この記録を我が神へと伝えます。カルデアは世界に善を成す者…きっと善神達も認めてくださるでしょう』
【あー、もしかしてお前が消えたらアウト判定だった訳か?カルデアは悪の組織案件で抹消?そういう試練は先に言えって!】
『ふふっ、ごめんね。さぷらいずだったの』
下手すれば善の七大天使が殴り込みにくるような試練をサプライズで済ませるなよ…アンリはそのマイペースに呆れ果てながらも、座に還る自身の片割れを見送る。
【じゃあな。次はこんなゴミ溜めじゃなくて、もっとマシな場所で会いたいもんだ】
『大丈夫。必ず会いにいくから。…リッカ、アジーカ』
そうして、最後に声をかける。悪を有し、善を宿す現代の二元の体現者に。
『次に会う時には、二人に渡したいものがあります。どうか楽しみにしていてくださいね』
『すいーつ所望』
「は、はい!謹んでお待ちしています!でも…アンリの言った通り、また会えるだけで十分ですから!その日までどうか、お元気で!」
『うん!それとアナーヒター。光輪はもう、探さなくて大丈夫』
『…えぇ。そういう事なのは理解したわ。あるべきところにあった。そういう事ね』
『ふふ…。あ、そうだ!ついでに返すものがありました!アンリ、あなたの名前!』
【ついでに!?】
アンリマユには剥奪された名前がある。呪術により奪われた、誰でもない生贄の名前。今更あったところで、とアンリマユは全く気にしていなかったが…
『解呪びーむ!』
【ギャァァァーーー!!?】
『ファッ』
「ほわぁああぁあ!!!?」
アンリが光輪で浄化され、ついでに連鎖でアジーカとリッカが光に呑まれる。彼女らは一心同体。善神に大切に大切に慈しまれた天真爛漫なるアフラには色んな意味で勝てないのだった。
『ねぇやっぱりこいつもヤベー奴じゃないの!?』
【我等のマスターがあっという間に敗北するとは…】
『ははは、ゾロアスター教は相性ゲームの極地だね!』
【あー、死ぬかと思った…。…………あー。そういや、そんな名前だったか】
そして彼女は思い出す。かつて、アフラ・マズダに呼ばれていた自分自身の名前…彼女との、思い出の名前を。
『うん。あの時は、優しくしてくれてありがとう』
その優しさは、彼女が信じる善そのものだった。彼女が世界を善いものと思えたのは、かつての彼の献身があったからこそ。
『また逢おうね。──
笑顔のまま、あの日の笑顔そのままに、アンリマユに贈り物をして消えるアフラ・マズダ。あの日の思い出は、神の使徒であろうと色褪せない。
サンスクリット語で、世話するもの。助けるもの。貢献する側、誰かや他の者を助けるという意味を持つ単語。それが──アンリマユが奪われた真名だった。
【…せっかくだが、その名前はお前しか呼ばねぇよ。今の私はカワユイ女の子に転生してるんでな。私の名前は…藤丸リツカだ】
返してもらった名前を懐かしみながらも、今更リッカから離れるつもりもない。自身の力と存在は、リッカの世界を救う旅の助けになっているのだから。
『藤丸セーヴァー』
「改めてよろしくね!藤丸セーヴァー!」
【呼ばんでいい呼ばんで!どっかのファラオと違って、ありがたい名前でもなんでもねーっつーの!】
両親がラベルとして付けた名前と、自分に付けられた名前。それらが彼女の邪魔にならないよう、改めて背負う覚悟を決めつつイジられるセーヴァー…悪神アンリマユであったとさ。
「あ、そうだ!ナナシのお姉さんは!?」
『彼女は行ってしまったみたいだ。彼女の至る楽園を求めて、ね』
その行末を、ダンテが示す。彼女の安らぎはどこにあるのだろうか。それを憂いながら、偽りの詩人は告げる。
『嘘だらけの僕だけど、これだけは信じてほしい。僕もそちらの邪神の様に、君達の旅路に魅せられた者なんだよ』
【解る。気が付いたら手助けしてたところに同類みを感じてた】
『だから僕は、これからも君達を応援している。ちょっぴり今回は出し物をトチってしまったけれど…これからも君達のファンでいてもいいかい?』
ダンテの言葉には真偽があるかすら掴めない。嘘か真か、どんな意味なのか。掴めないリッカのえらんだ答えは──
「…ん!」
無言で差し出す、右手。握手…言葉のいらない、相互理解のコミュニケーション。
『…えへへ。嬉しいなぁ。ありがとう、素敵な君!』
その対応に、破顔しながら応えるダンテ。握り返されたその手には、確かな温もりがあった。
『じゃあ、御近付きの印にもうひとつ。リッカ、耳を貸して?』
「ふぁ?」
言われるままに、ダンテに耳を貸すリッカ。そして──。
『僕の名前は──。──だよ。忘れないでね♪』
「…え────」
『おっと、時間みたいだ!それじゃあまたね!君達に、明けの明星の祝福あれ!』
リッカにとある『真実』を告げ、彼等の前から消えていくダンテ。たった一つの、偽りない真実。
「…リッカ?大丈夫?」
「あ、え…う、うん!じゃあみんな!コンビニでお婆ちゃんにお礼言って帰ろー!」
リッカはこの真実を、王…ギルにのみ告げる決心をし、皆を鼓舞する。この特異点は、誰も失わずに完結した。
【ピア。…後で、ちょっと話がある】
「…うん」
親子の、更なるステージの足掛かりを残して。
僕の名前は──
サタン。
サタンだよ。
忘れないでね♪
真名失墜
『ダンテ』
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サタン
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