「くっ――!!」
(負けるわけにはいかないのよ・・・!マスターの為に、負けるわけには・・・!)
「ハレルヤッ――――!!!」
「がふっあ――!!」
(何度叩きのめされようと、負けるわけには・・・!負けるわけには・・・!!)
「終わりです――貴女に主の御加護を――!!」
(マスターの為に!!――負けるわけには・・・!!)
「――負ける、わけにはぁあァアァア――!!!」
「なっ――!!」
『ク ロ ス カ ウ ン タ ー』
「がっ――――!!」
「くあっ――――!!」
「停止していたヘルタースケルター、総て再起動、か」
ソファを占領する器、英雄王が嘆息と共に漏らす
「一つのスイッチ代わりのヘルタースケルターのみで操っているか、それともやはり宝具の所有者を仕留めねば止まらぬか・・・灰色ではあったが・・・物事はうまくいかぬモノよな。フハハ」
それでも愉快げに笑う器だが、それを追求する声はない
「ツッコミ待ちなら無駄ですよ、ギル」
呆れたようなアルトリアの視線が突き刺さる
・・・居間にいるのは、アルトリア、ジキル、マスター、そして自分だ
作家は締め切りに追われ修羅場、では、三人は何処に行ったのかと言うと――
「・・・」
項垂れた様子のマシュとモードレッドが降りてくる
「その様子、説得判定にすら失敗したか。まぁ、ファンブラーに期待などしておらぬが」
「あぁ、ダメだ。宥めすかしてもダメ、いっそ脅してもダメと来た。すっかり殻に閉じこもってるぜ。・・・ったく、繊細なこった」
フランはすぐに、自室に引きこもってしまい、二人はその説得に追われていたのだった。だが、その努力は実を結ばず、降りてきた、といったところだ
彼女に衝撃を与えた存在――チャールズ・バベッジ。話に聞いたところによると、実現叶わなかった機関の到来を夢見た偉大なる『碩学』の一人だという
『そちらの新聞、資料も確認した。本来なら10年以上も前に亡くなっている人物なんだけど・・・確かにその時代に実在していたようだね』
「人類史が焼け落ちたのだ。たかが一人の存命の時期など些末であろう」
『・・・困りましたね。ギルの眼を除けば、ヘルタースケルターの出所を探知できるのはフランだけなのですが・・・』
――彼女とチャールズ・バベッジは何度か対面したことがあり、会話すら交わしたことがあるという。その際に彼から教えを授かったらしく『先生』と呼んでいるのはそれが要因らしい
「ショックだったろうね・・・自分が慕っていた相手が、悪に荷担していたなんて・・・」
「ソレ、言うなよ。口にしたら電気飛ばして来やがった」
「まるで子供の癇癪よな。・・・いや、正しく子供であったか。どうする?諦めて我にすがるか?」
冗談半分に酒を煽る器
――周りに強靭な人ばかりで忘れがちだが・・・これが当たり前の心の機微、なのだろう
信じていた人間が敵に回る。築いてきた信頼が無に還す
・・・その衝撃と苦悩は、自分が想像も叶わない衝撃だったのだろう。フランは見た通り、無垢で幼い精神性だ
・・・自分が何かしてあげるには、明らかに人生経験が不足している。器の力を借りても、フランの心を抉る激励しか送れないだろう
・・・仲間である彼女を放ってはおけない、だが、心の機微をどうにかできる財は『洗脳』の原典くらいしかない。そんなもの、使うかどうかなど論ずる必要すらないものだ。・・・マインドコントロールを行う敵を仮想し、『催眠にかかっている』という事実認識を予め行わせ、他の干渉を防ぐ、といった事くらいだろうか
・・・難しい問題だ。さて、どうしたものか・・・
「――よし!」
パン、と頬を叩き立ち上がるマスター
「様子を見に行こう!ギルも来る?」
「ほう、いよいよ我等がマスターが出立するか。なにか突破口を見つけたか?」
「引きこもりのケアは慣れてるよ。こう見えて私は10人以上の不登校を更正させた実績があります!」
えへん!と胸を張る
「マジかよ・・・リッカは多芸なんだな・・・」
「そんな人の心が解る騎士が、ベディのような騎士があと五人は欲しかった・・・」
ソファにて体育座りを発動するアルトリア
「・・・我が言ったことではないが。貴様らに必要なのは円卓の誓いではなく川原での殴りあいだったのではないか?」
「意思疏通とほうれんそうを徹底しておくべきでした・・・こんなだから酒の席で訳の解らない論破に呑まれるのです・・・話し半分聞き流せばよかったものを・・・それはそうとランスロットの困ったお方発言は人類史史上最大のおまいう発言だと自認しています貴方ほどじゃないですよ傍迷惑の騎士ぃ!アロンダイトでガンガンガンガン殴ってきてアレスッゴく痛かったんですからね!!」
「では、セラピーの手並みを拝見しようではないか」
「うん!」
アルトリアの怨嗟を背に受け、自分達はフランの部屋に向かった・・・
『しょーしんちゅー かえれ』
稚拙な拒絶を表した立て札のかかる扉の前に立つ
「・・・鍵がかかっているな。それだけか。南京錠の一つも・・・いや、それが当たり前なのだが。だが常に絶え間なく変わる金型くらいは用意せねば、防犯とは言えぬぞ?」
ドアノブを捻ってみて、当たり前のようにロックがかかっていることを確認する
――念のため、呼び掛けてみよう
「フラン。息災か?小腹は空かぬか?美味なるビーフジャーキーがあるのだが」
・・・・・・
『・・・とびらのまえに、おいてください』
――会話には応じてくれるのか
「そうはいかん。我はおまえがビーフジャーキーを貪る姿を見たいのだ。どうだ?その麗しきオッドアイを、我に見せてはくれぬか?」
歯の浮く話題をすらすらと放つ器
『・・・だめ、です』
「む、失敗か。ままならぬモノよな」
拒絶されながらも笑う器。怒りはない。あるのは愉しみだけだ。驚くことに
「スッゴいビックリした!無礼者が!とか言うかと思った!」
「我が儘や癇癪など笑顔で流すが御機嫌王の流儀よ。一々気にしてはいられぬ。まぁ、探索が手詰まりになるのはそれなりに困るがな?トラブルやアクシデントもまた、旅の醍醐味というだけの話よ。・・・無念にも(笑)王は万策尽きた。さぁ、出番だぞマスター」
一歩さがり、腕を組む
「意志が通じるなら、神とでも通じ合えるという持論、拝見させてもらおうではないか」
視線を交わす。こくりと頷くマスター
「了解!・・・えと、フランの精神年齢から考えて・・・会話の仕方は・・・よし」
ぶつぶつと呟いた後、意を決して扉の前に立つ
「ここは私に任せて、ギル。あ、とちったらフォローお願い」
「良かろう。言霊、使いこなして見せるがいい」
「うん!・・・ねぇ、フラン」
リッカの、対話が始まる
「バベッジ先生のこと、聞いたよ。フランに優しくしてくれた、凄い立派な人なんだってね」
『・・・う』
「フランは会ったことがあるんだよね?会話したこともある。私達の誰よりも、バベッジ先生を知ってるのがフランなんだ」
『・・・』
「私、聞いてみたい。知りたいな。バベッジ先生の事、フランの知ってるバベッジ先生の事」
『う・・・』
「ほう・・・」
――フランに語らせる方法を選んだ・・・!?大丈夫なのだろうか・・・?
「聞かせて、フラン。バベッジ先生の事、ゆっくりでいいから。フランの言葉で、フランが感じたことをそのまま教えてほしいな」
『う・・・うん・・・!えっと、ばべっじせんせーは、いだいなるせきがくで、けんらんなるじょーききかんのかんせいをゆめみていたんだって』
マスターの真摯な問い掛けに、フランはあっさりと警戒を手放し、語り始める
――そこからのマスターは見事の一言だった
フランの言葉の一時一句に真摯に聞き入り、的確な相槌を打ち、感嘆し、笑い、時にはおどけて疑問を返す
『ばべっじせんせーは、いだいなるじょーききかんのぱわーをしんじています。ふらんに、じょーききかんのすばらしさをたくさんおしえてくれました』
「蒸気機関!まさにロマン!それでそれで、どんな事を教えてくれたの!?」
『はい、けんらんなりしじょーきせかいは、じんるいがゆめみたもうひとつのかたち、ちょくりゅう、こーりゅうにもまけないすばらしいものだそうです』
「凄い!人類に欠かせない機関の成立者なんだね!ちゃんと理解できたフランもえらい!」
『えへへ、ふらんはゆうしゅーな、ヴぃくたーのむすめだから、です』
フランの語りはますますなめらかになり、話しやすいように扉の近くに来ていることが解る
『バベッジせんせーは、あーまーをまとっています。わたしがゆめみたせかいが、このなかにつまっている、といっていました』
「アーマー!?凄い!!見たい!見たいなぁ!もしかして・・・変形するのかなぁ!?」
『できる、かもといっていました』
「キタァー!!ヒューゥ!バベッジせんせーはマジロマンをわかってるぅ!」
『そうです!バベッジせんせーは、いいひとです!』
(大したものよ。語り聞かせるのではなく、逆に語らせることで突破口を見出だすとはな。相手を饒舌にさせる会話運びが抜群に巧みではないか。余程下らぬ世間話を聞き捌いていたと見える)
一度もフランの会話は途切れることなく、とうとう会話は核心へ向かう
『・・・バベッジせんせーは、いってた』
「何を?落ち着いて、話して?」
『う。・・・わたしがゆめみたせかいがうまれなかったのはむねんで、かなしいが、わたしがゆめみたせかいとおなじくらい、にんげんたちはすばらしいせかいをつくった。ならば、せきがくとして、そのせかいをみまもり、ささえていかなくてはならない、と』
「――」
『せんせーは、りっぱなひと。ふらんを、ヴぃくたーのむすめとよんでくれた。・・・そんなせんせーが、どうして・・・わかんないです・・・』
(山場だぞ、マスター)
「(うん)・・・フラン、一緒に考えてみよう?バベッジせんせーに、なにがあったか」
扉に寄り添い、語りかける
「フランの話を聞いてわかった。バベッジ先生は絶対に悪いことをしたりしない立派な人だって」
『う』
「でも、バベッジ先生のヘルタースケルターは、悪いことに使われてる。どういうことだろう?」
『・・・わかり、ません・・・』
「ゆっくり、ゆっくり考えてみて。私達の敵は、色んな人を悪いことに使ってる。パラケルススも、悪いことをしていたけどいい人だった。じゃあ、バベッジ先生は?」
『・・・いいひとのまま、わるいことを・・・、う!』
バチり、と電気が走る
『バベッジせんせーに、わるいことをむりやりさせているやつがいる!』
「うん!きっとそうだよ!フランの大好きなバベッジせんせーは、悪いやつになったんじゃない!本当に悪いやつに、従わせられてるんだよ!」
『ウゥ――――!!』
――あ、まずい
「離れよマスター。巻き添えを食うぞ」
「へ?」
『――ウァアァアアアァアァアァアァア!!!!!』
閃光、そして雷撃
「ほわぁあぁあぁあぁあ!!?」
扉が消し飛び、マスターが吹っ飛ばされる。ギリギリでバックステップを行ったため、大事には至らなかったが
――扉と共に、迷いを断ち切ったフランが現れる
「ゆるさん!!ふらんはいま、いかりにもえています!バベッジせんせーを、かいほーしなければならぬ!」
「そうだ。やれるな?フランよ」
「もち!ふらんは、たたかいます!バベッジせんせーを、とめる!・・・ますたー!」
倒れているリッカに歩み寄るフラン
「うんっ」
「はなしをきいてくれて、ありがとうございます。かいぶつのことばに、こんなにみみをかたむけてくれたのは、せんせーいがいで、ますたーがはじめてです」
ゆっくりと、てをさしのべる
「・・・かっこいい、すてきなますたー。わたしにちからをかしてください。バベッジせんせーを、とめたいです」
「もちろん!お帰り、フラン!」
ぎゅっと、フランを抱きしめる
「う、う~・・・やわらかいのに、がっしりなからだつき」
「決意はよいが、最悪の事態も考えておけ。聖杯の力で、意思を塗りつぶされ戦いになるやもしれぬ。・・・貴様に、恩師を処断する覚悟はあるか?」
「あります。ふらんの、ほどほどのぜんりょくをかけて、バベッジせんせーをかいほーしてみせます」
「――そうか。覚悟は決まったか」
「かいわして、わかりました。つらいおもいをしているなら、とめてあげるのがにんじょーです。わたしも、やるだけはやりたいです。だから・・・おうさま、ちからをかしてください。あとビーフジャーキーください」
ぺこり、と頭を下げる
――もちろんだとも!
「良い!許す!フハハ!対話交渉は完遂したか!見事だマスター!貴様は交渉人の才もあったとはな!」
「言ったでしょ?私は、意志が通じるなら神様とだって仲良くなってみせるって!」
「その座右の銘に偽りなしと我が認めよう!さぁ案内せよフラン!マスター!出陣の支度をせい!!」
「「おー!!」」
――マスターにより、迷いを断ち切ったフラン
さぁ、人理を取り戻す旅を再開しよう!
「フラン!ようやく覚悟決まったかバカヤロー!」
「ごしんぱい、おかけしました。あんないします」
「よかった・・・!流石は先輩です!」
「会話に応じてくれるだけですっごく優しいよフランは!中には一ヶ月通ってようやく一言しゃべった引きこもりもいたし、屋上で飛び降りる五秒前の子も説得したことあるよ。あと、合コンの幹事やったり、ストーカーの撃退、交際の取り持ちにも付き合ったっけ?、生徒会長のスピーチ文考えたり、中には人間不振で刃物持ってなきゃ話せない子もいたなぁ。懐かしいなぁ・・・」
「・・・よもや貴様、余程の不運な星の下に生まれた災難王か?」
「女王!そこは女王って言ってくれなきゃ色々終わっちゃうから!」
――神と仲良くなれるのだから、人間など容易いというわけか・・・
「――貴様が魔道に堕ちた未来はさぞやおぞましい結末を迎えような。童話作家めが言っていた邪本、発禁本とはそういった意味であったか」
「?」
――彼女に傍らに立たれ、言葉を交わし、心酔しない人間はどれ程いるのだろうか・・・
目の前にいる少女は、何かが違えば人類を脅かす災厄か巨悪と成り得たかもしれないのだ――
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