人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
南極
ピア「えっと…王様へ、と」
ギル『随分と思い切った決断をしたな、邪神の娘?連絡を寄越した以上、考えはあるのだろうが』
ピア「うん。頼みがあるんだけど…一人分の席、用意してほしいんだ」
ギル『フッ、これから我等と一戦交えると言うに。戦後処理の要請とは余裕よな?』
ピア「皆の事はよく知ってる。おっさんと一緒に絶対にやってくれる。…モアのこと、よろしくお願いします」
ギル『──おのれを代わりと卑下もせず、相手への敬意と信義を揺らがせぬか。ならば、認める他あるまい』
「?」
『貴様は無二の一個だ。貴様の望み通り、席は『二つ』開けておくぞ。ではな、宙の審判者よ』
ピア「え、あ…は、はい?」
──また逢いましょう、ピアちゃん!
「─────は、背後霊…?」
「マリー!グランドマスターズ、全員揃ったよ!」
「カルデア職員ロマニ・アーキマン。同じくスタッフも全員配置についている。いつでもブリーフィングを始めてくれ!」
先に起きたピア…恐怖の大王アンゴル・モアの決心を受け、カルデアは滅多に起きない厳戒態勢を敷いている。相手は星を破壊することを生業としている宇宙の存在、その生き残り。同時に──大切なカルデアの仲間である。皆の気持ちと心は一つだ。
「予断を許さない為、前振りは無しで行くわ。数十分前、ニャルラトホテプ氏の養子であったシファー・ピアがカウンセリングにより自己存在意義を定義。己の使命と私達の生存を両立させるため、自らを打倒してもらうための行動を取りました」
モニターに南極の吹雪にて佇むピアが映される。右手には星と月が両端に付いた意匠の槍を持ち、じっと何かを待っているように動かない。
「彼女は恐らく、私達と戦うことを望んでいる。自身が倒され、地球が破壊されなくなるならそれでよし。眠っていた人格が目覚め、説得できるならそれでよし。カルデアと地球において、益にしかならない選択を自ら取った。…自己を疑似人格と割り切った、合理的な判断の下に」
「ピア…それはダメだよ…!」
リッカの言葉に皆が頷く。そう、それはピアが消えることを前提にした選択だ。ピアは皆が認めた一人の個人。楽園の財の一つなのだから。
「その通りよ、リッカ。カルデア所長として、自らを犠牲にした利益など受け取るわけにはいかないわ。故に私達はピアの提案を拒否。本来の人格、そしてピア。両方を保護しカルデアに恐怖の大王を招き入れる事を第一として動きます」
今更誰を犠牲にするなど、どちらかを取るかなど貧相な発想は出てこない。オルガマリーは皆の力を合わせれば必ずや不可能を可能にできると信じているが故、その選択は常に最難関を選択するのだ。
「私のゼウスも言っている。『かわいそうなのはぬけない』と。絆が繋がっているなら、なんとしても幸福な結末に導いてあげよう!」
「ドクターとしても旧友としても、もう君へのエリート的な認識は木っ端微塵だよキリシュタリア…」
「夢と希望はあんたらに任せて、嫌な物言いはこっちがさせてもらうぜ。正直な話、そんな認識で止められる相手なのかよ?」
「こ、今回は流石にベリル君に同調してしまうのを許してほしい。私達は今、世界を賑わせに賑わせた恐怖の大王、その本物に挑もうとしているんだよね?ピア君は私達に少しでも勝つ可能性を残してくれた。それはつまり、本気で戦った瞬間星もろとも…」
「確かに無茶にも程があるだろうな。僕達は今、正真正銘の宇宙の摂理に立ち向かおうとしてるんだ。…正直、魔術師が束になろうがどうこうできる相手じゃない」
「だがカドックの言葉はこう続くはずだ。『それがどうした』とな」
「あぁ、デイビッド。開拓や新天地に挑む者の事象に前例なんてない。数多の星が迎えた裁き…無罪を勝ち取ってやろうじゃないか」
「熱いわね。ホント、ここは素敵な場所。だってイケメンはますますイケメンに、可愛い子はホント可愛くなっちゃうんだから!」
「仲間と友達は大事にするんだ!妖精もカルデアも一緒だぞ!」
「正直、怖さが勝ります。でも…彼女を見捨てちゃったら、気持ちよく眠れなくなるだろうから」
「そうよね、アルトリア。親より先に子供がいなくなるなんて親不孝、認めるわけにはいかないものね!」
「不死のまま宇宙空間で生きられるかどうかなんて試す気はないわ。なんとかするわよ、後輩!」
「うん!ニャルの大事で大切な娘さん三人のうち…二人を全力で助けよう!!」
マスター一同は手を重ね、意志を示す。難題であることも困難であることも承知の上。ならばこそ挑む価値がある。その果てにある結末は、誰も見たことのない境地であるだろうから。
「夏草出身スタッフも覚悟はできています!」
「僕のロボット製作とマルドゥーク神の宇宙進出を見届けるまで、死ぬつもりはありません!」
「「「「おーっ!!」」」」
「ボク達カルデアスタッフだって当然覚悟は決めてある!シバとの子供が産まれる予定のこの世界、滅ぼされてたまるもんか!」
「クソァ!!…と、言いたいけど。人の幸せは俺の幸せ!ムニエル以下スタッフ!やってやる!」
「所長!これが私達の総意です!さぁ、遺憾なく私達に勝利の道筋を示していただければ!」
その勇猛と決心にオルガマリーは頷く。特別な事ではない。ずっとそうやってきた。これからも、そうするだけの話なのだから。
「そう来なくては。では作戦を説明します。皆の力を最大限に引き出して、完膚なきまで勝つための策を!シオン!」
「はいはいお任せあれ!結論から言って、あの恐怖の大王を討ち果たすにはマルドゥーク神の御力が必須です。データにあった、ティアマト神の頭脳体と同じくらいの出力と現文明では解析できないブラックボックスを彼女は兼ね備えている。撃破と消滅を勝利条件としたなら、皆さんの勝ち筋は固有結界をバトンのようにリレーしつつ、マルドゥーク神の一撃のための時間稼ぎしかありません」
楽園最大最強にして最終戦力が必須であるという事実に、アンゴル・モアという存在の凶悪さが否応なく理解できてしまう。だがシオンが言うのはあくまで討伐の話。
「しかし、これが説得だと言うのならば難易度はナイトメアからベリーハードに変わります!キリシュタリア、アイリスフィールを基準にした精鋭マスター達が死ぬ気でピアのスキを作り、そのスキにリッカさんがアンゴル・モアの精神内部に潜入。モアを起動し保護するという筋書きで今回の作戦を進めるのです!」
対話能力に優れたリッカを切り札に、マスター達の全力でアンゴル・モアの星の破壊を食い止める。そしてピアとモア、両者を繋ぎ止める。それを果たすためのプランは用意されている。
「私、殺生院キアラが作りましたセラピーソフト『万色悠滞』…それをディーヴァさんに組み込む作業を今行っております。これにて魂に直接ダイブが可能になり、そして」
『その道のプロたる私、岸波白野がリッカを導く。ピアの人格の保護はフィリアに任せる』
『はい!虚無にいたころから自我の確立ノウハウはマスターしています!』
『準備が出来次第、私がリッカを転送するわ。任せて、これも奉仕の一環よ!』
全員が出来ることを、完璧に追い求める。それは力を合わせ、心を重ねて到れる境地。藤丸の母が見つけられなかったもの。
「良い気合だ。最早我の激も不要な程に貴様らの士気は高まっているようだな」
そしてそんな彼等の、彼女らの活躍を見定める者はただ一人。御機嫌なる英雄王、ギルガメッシュ。傍らの姫は今、祈りを捧げている。
「最悪と星の崩壊への対処として、我等はマルドゥークの完全起動を進めておく。解っているであろうが、これは貴様らの奮闘の駄目押しの為の切り札よ。加減などできぬ故、くれぐれも我等に財を壊させるなよ?」
「充分だよ、ギル。後ろで姫様と一緒にドーンと構えてて!」
最早リッカ一人の組織ではない。頼れる仲間が、バックアップが、サポートが、あらゆる全てが自分を支えてくれる。
【私の家族の問題に、こんなにも真摯に尽くしてくれる皆様には最早感謝の言葉もない。どんな御礼をすればいいのかすら…】
「なら…ピアとモアさんを受け止めてあげて。お父さんとして、家族として。優しい家族より素敵な宝物なんてそうそう無いんだから!」
【…約束するよ、リッカちゃん。必ずや、ピアとモアを愛し受け入れることを誓う】
「──よし!我等はこれより宙の意志に意地を見せる!それは我等が漕ぎ出す星の大海へ挑む資格があるか否か、最期ならぬ始まりの審判だ!」
成すべき事は定まった。王が高らかに、開幕を告げる。
「我等の道筋が果てなき宇宙へ至る事を、断罪者へ高らかに示すのだ!謳え我が財!!貴様らの進歩はこれからであると!貴様らの果ては遥か彼方で在ることを──!!」
「「「「うぉおぉおぉおぉおぉおーーッ!!!」」」」
高らかに吼える王の財たち。
たった今南極にて、始原の審判が下される──!
南極
ピア『……来たね、皆』
カルデアより溢れ出る、流星のような光。それらは一直線に自身へと向けられている。
ピア『さぁ始めよっか。皆も、モアも…全員なくさない為の戦いを!』
ピアにとって、星も、仲間も、モア自身も決して喪わせない為の戦い。星の断罪者としての力が目覚めきれない今が、最初で最後の機会。
ピア『頼んだよ、皆!モア、叩き起こしてやってね…!』
恐怖の大王なる彼女の願いと、彼等が護るべきもの。それらの審判が今、幕を開ける──!