人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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サタン【ぐすっ…これだから楽園の旅路はいいんだよね。僕なんかよりずっとずっと美しいものを見せてくれる。応援するのはやめられないよ】

ベルゼブブ【同意します】

サタン【娘さん達も、皆一緒で楽園に行けて良かったよ…ね?ベルゼブブ。手を出さなくて良かったでしょ?】

【はい、心からそう思います】

サタン【でも、確かそろそろ節目のお祝いなんだよね。僕達も何か、催しを考えてみる?】

ベルゼブブ【……やめておきましょう。無粋になります】

サタン【そっかぁ。ベルゼブブがそういうならそうなんだよね。でも、お祝いしたいなぁ…】

ベルゼブブ【……では、聖杯にて時空を調節して…こういったものはいかがでしょう】

サタン【それ…面白そう!じゃあ試してみよっか!】

ベルゼブブ【たまには、赴くもよい経験になるはずだろう】

サタン【翅ぶちぶちー】

【……あまりやりすぎぬよう…】


無罪放免、そしてその先へ

裁きは、覆された。様々な思惑と純粋な願いが引き起こした早すぎる最後の審判は、其処に生きる者達の手と互いを思いやる気持ちによって無罪放免を勝ち取ったのだ。

 

「カルデアの皆様、大変お騒がせ致しました。アンゴル・モア…あらためまして、皆様のお仲間に加入させていただきたく存じます!」

 

「だ、そうだ。こやつの加入に異があるものは聞き届けるが?」

 

 

「「「「「「異議なし!!」」」」」」

 

アンゴル・モアは正式にカルデアの一員として、ニャルラトホテプの新しい家族として迎え入れられる事が決定する。ウルトラウーマンフィリアと同じく、地球外生命体対策の切り札として、カルデアと月の最大戦力の一人として。そして一人の娘としてこの星で生きていくだろう。それは彼女が放浪の果てに手に入れた、アンゴル星以来とも言える『安らぎ』の形でもあった。

 

『へー。こうやればモアと変わったりできるんだね。便利じゃん!ありがとね、皆!』

 

それに伴い、モアの別人格であるピア・シファーを有する為、うたうちゃん、並びにディーヴァの端末を参考にし、なんとルシファー・スピアをスマートフォンデバイスに変化させる事に成功。それに伴い、彼女の人格を保護する事に成功した。

 

「そのうちカルデア技術部総出でマテリアルボディとかも作ってやるからな!待ってろよー!」

 

「その際はぜひ!僕に宇宙航行の際の機体強度の推論を教えていただけたらと思います!」

 

「携帯の中にだけ、というのも味気ないからねぇ。私達も出来ることはさせてもらうよ。それが仲間と言うものだからね!」

 

カルデア技術スタッフ一同の熱意と根気、そして発想力こそが楽園の最も強力かつ偏執的な側面かもしれない。副所長の若干引き気味な総評には、一般スタッフも頷くばかりであったという。

 

【──では、君の名前は『メシア』だ。苗字の候補はいくつもあるから、その時に好きな名前を名乗ればいい】

 

恐怖の大王の側面たる存在も保護したカルデアに与えられた急務、それは彼女の個体名──つまり、名前である。彼女は精神生命体たる存在。故に精神的な人格は容易く増える。そんな眉唾ものの予測推論に押され、彼女は1人格として数えられ、名前を授かることとなったのだ。

 

それに伴い、集合無意識回線インターネット『部員ネット』により提出されたいくつかの候補、メア、シアといったネーミングなどのアイデアを掛け合わせ、救世主の意味たる『メシア』の名を冠する事となる。星の審判者であり断罪者である彼女に救世主の名を冠させたのは皮肉の意味合いでなく、これからの彼女の在り方が明るく希望に満ちている事を願ったが故の名前…。ニャルはそう告げた。

 

【先輩、よろしくお願いします】

 

『も、勿論なのだわ。これからよろしくね!』

 

彼女はルシファー・スピアの管理AIでもあるため、ハザードアラームとしての役職を見出し、カルデアのAIサーヴァント達の後輩として活動する事を選択した。彼女は災厄をもたらす恐怖の大王から、星を見守り脅かす者達を打ち払う救世主としての役割を見出していく事となっていくのだろう。

 

【今回の一件は、一重に私の軽率な行動にある。全責任は私が負う。楽園の皆様に迷惑をかけてしまい、本当に申し訳ない】

 

楽園の皆に迷惑をかけた事を謝るのであり、地球やその他に迷惑をかけた事など露とも感じていないなんとも邪神らしい心持ちの謝罪を楽園に呈したニャルは、体面的な罰則としてトイレ掃除一ヶ月を命じられる。その間、通常業務も並行するため中々の重労働が課せられることとなるが、彼はそれを甘んじて受け入れ、贖罪に粛々と励んでいる。

 

「天下の邪神様がトイレ掃除だなんてねぇ。尊厳破壊もいいところってヤツ?いい薬になるでしょ、これでね」

 

【私にもう壊れる尊厳などないさ。そんなものは家庭を護るためにトイレに流した。詰まるかもしれないが…】

 

「順調に流れてるよ、安心しな」

 

【邪神に大層なプライドなんてないということかぁ】

 

今回の一件で、邪神は思い知ったという。贖罪の困難さや、新たなる自分として生きていく事の容易ならざる事。そして善意が必ずしも良質な結末に導いてくれるものでは無いことを。

 

【モアも、ピアも、そしてメシアも、その行為に悪意は欠片も存在していなかった。にもかかわらず、今回の一件は何かが足りなければ地球は滅び去っていた】

 

「今までの特異点やロストベルトの案件でも、ここまで一極的にピンチになったのは記憶にないんだってさ。アタシらの娘、偉い事やらかしたんだねぇ」

 

【悪意は跳ね返し、敵意を踏み潰す楽園。僅かではあるが弱点に通ずるものが見つかった形だな。身内、或いは純粋な善意には後手に回ってしまうということがね】

 

それは楽園の致命的な弱点、欠点ともなり得るのか。その疑念に、邪神は『否』を掲げる。

 

【情や寛容、慈悲。それらを貫く事は容易ではない。なぜならそれを悪用し、付け込もうとする輩が現れるからだ】

 

「そういう奴等を見ると、真面目に生きようとしてる子も嫌になっちゃったりするもんね」

 

【あぁ。だが…それでも最後に勝つのは善意や正しい心なんだ。今回の件のように、ひたむきな想いや行動、そして正しくあろうとする者には必ずや救いの手を差し伸べんとするものが現れる。悪意より緩やかで、ささやかではあるが…善意もまた、心から心に伝わっていくものなんだよ】

 

「…ん。あたしも、そう思うよ」

 

思えば、エキドナがこうしていられるのはニャルラトホテプが懸命に彼女の『心』を護ろうとした為であった事を思い返す。彼が懸命になったのも、善意や想いが彼を変えたからだ。娘から、カルデアの皆から。そしてその想いが再び巡りに巡って、こうしてここに繋がり紡がれていく。

 

【この繋がりと、この螺旋。それらをこれからもこの楽園の人々には未来へと繋げていってほしい。その先にはきっと、私達のようなものをも巻き込んで成し遂げてくれるものがある】

 

「それって、アレでしょ?皆がしょっちゅう言ってる…」

 

【あぁ。『完全無欠のはっぴぃえんど』ってやつだよ。この響き、尊くゆるくて好きなんだよね】

 

その様な事を休憩室で語り合っていると、手にした端末より連絡が来たる。

 

『お父さん!始まりますよ!皆様の『地球滅亡審判回避ありがとうパーティー』!』

 

『パパもママも早く来いってさ!皆で待ってるよ!あたしたちのスピーチが始まりの合図なんだって!』

 

【色々、伝えたいことがあります。伝えられるか、伝えきれるかどうか不安なので…見守ってもらえたら】

 

『マスター、トイレ掃除は充分に規定レベルに達していると推測します。ですから…』

 

『はやく戻ってきて!って事!』

 

【…………】

 

「気持ち悪い顔してニヤついちゃって。それじゃあ、待ってくれてる皆の為に…」

 

【あぁ!行くとしよう!私達の──安寧の地へと!】

 

…こうして、夏草から始まった恐怖の大王を巡る一連の騒動は幕を下ろす。

 

そして一同の旅路は一つの節目を超え…新たなる境地と領域に向かって進み続けるのだ。

 

──いつの日か、星を飛び出し。昏い宇宙の果てにその火を灯すその日まで。

 

 

 




ギル「よし、者共!グラスは持ったな!!」

──宝物庫は完全開放しております!ご存分にお楽しみください!自らの手で無罪を勝ち取った皆様へ!

所長「それでは皆様、僭越ながら音頭は私が。せーの!」


「「「「「かんぱーーーーい!!!」」」」」


これから先は誰もが待ちわびた、記念の催し──。

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