人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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アフラ・マズダ『しかし、アジ・ダハーカ…可愛くない方のアジ・ダハーカがカルデアの下へと立ちはだかろうとは。これは中々由々しき事態』

キラナ『ゆゆしき』

『魂と心は彼女のものなれど、しかし肉体と本能は予断を許さないものだ』

『よだん』

『というわけで、こちら善側の英雄も派遣する事とする』

『はけん』

『以前からアジ・ダハーカと因縁があり、独善を忌むとの理念に忠実なるもの。きっとカルデアにて奮戦しよう』

『ふんせん』

『差し向ける。頼んだぞ。そしてキラナ。お前も準備はしておくように』

『はいっ』


善擁し悪悼む救世勇士

『ちょっとー。なんで私たちが召喚に立ち会わなきゃいけないのよー。私とアナーヒターだけいればいいじゃない?もう最強じゃない?花鳥風月と水って最高の組み合わせじゃない?ね、ね!天空海もそう思うわよね!』

 

「知能デバフが酷すぎて中堅ぐらいになってる自覚あんのあんたは!」

 

『知能デバフって何よぉ!?私は正真正銘の女神で最高最強なんですけどぉ!?』

 

アナーヒターの導きにて、ゾロアスターコーナーから招かれた天空海とアクア、アナーヒター。変わらずコントめいたやり取りを微笑ましく見ていた彼女は、ふっとその空間を見据える。

 

『なんだか、同郷の匂いを感じたの。カルデアに数少ない…ゾロアスターの英霊が招かれる気配が』

 

「ゾロアスターの英霊…」

 

今のところはアナーヒターとアジ・ダハーカ、そして魔術王の影が産み出した真正悪神アンリマユという、中庸と悪側の最高存在が二人いるという少数精鋭の極みのゾロアスター勢力の、同郷が招かれるという。

 

『あ!もしかしたらあのアフラ・マズダの子が来るんじゃないかしら!御神体として大分キラキラしてたし!招けたら縁起良さそうじゃない?そうじゃない!?』

 

「招き猫かなんかの扱いよそれ…でも、敵側のアジ・ダハーカに関わるやつなら願い下げよね」

 

オガワハイムにて現れし、邪悪と外道の権化たる悪龍の存在を忌避する天空海。アジーカと違い、あの存在は絶対悪だ。和解など出来よう筈もない。

 

『根本的に協力するつもりもないだろうし、あちらも召喚には応じないだろうからそこはきっと大丈夫。…ちょっと気がかりなのは…』

 

アナーヒターが気にかけること、それは善神の側の英霊が抑止として招かれることだ。悪神が世界を守護する状況を看過してくれればいいが、そうでなければ問答無用で無機質な善の英雄が招かれる恐れもある。

 

『その時は私達が間を取り持ち、諍いを収めるわ。アクア、アクア。よろしくお願いね』

 

「了解よ!後輩を守るのも先輩の務めよね!」

『了解よ!アクシズ教信徒を守るのも神の務めよね!』

 

アクシズ教信徒なんていたかしら…?生真面目に受け取るアナーヒターの前に、召喚の気配が巻き起こる。

 

『ッ…この気配は…!』

 

幸いな事に、その気配は邪悪なものではなかった。善側、アフラ・マズダの勢力たる存在であることを確信するアナーヒター。だが…

 

『なんか凄い荒れ狂ってない!?とんでもないのが来る予感しかしないんですけどー!?』

 

アクアが招く通り、感じられる魔力と召喚規模は正しくトップクラスのサーヴァントのもの。紛れもない大英雄のものだ。アキレウス…いや、ヘラクレスにも匹敵するやもしれない程の。

 

『…あなたは…!』

 

そして召喚の儀式が収まり、その姿が顕となった時。アナーヒターは息を呑む。それは、ゾロアスターを知るものならば知らぬ者はいない存在。正しく大英雄。

 

「よう!善神アフラ・マズダの命に応じ参上したランサー、クルサースパだ。…ん?なんだか嬢ちゃんからアナーヒター殿の気配がしないか?」

 

『何この細マッチョー!?超イケメンなんですけどー!?』

 

ペルシャ神話における大英雄。あらゆる魔を討ち果たし、やがては悪竜アジ・ダハーカにすら打ち克った程の最強にして最上の善勢力の切り札が一人。槌矛を有し、2メートルをゆうに超える体躯の巻毛の男。

 

「こ、こんにちは…雨宮天空海です…」

 

モデルでもそういない程のスタイルの存在に、完全に出鼻を挫かれた天空海はつい下手に出てしまった。それほどまでに精悍で、彼は威風堂々たる英雄だったのだ。

 

『私はここよ、クルサースパ。よくやってきてくれたわ、本当にね』

 

「おぉ、女神アナーヒターよ!やはり確かにそこにいらっしゃいましたか!クルサースパ、馳せ参じてございます。気高き中庸の水神よ」

 

アナーヒターに礼を尽くす姿は完璧なる貴公子、清廉なる勇者を思わせる気品と勇壮さを感じさせる。アクアだけが唯一、首を傾げていた。

 

『…ところで、誰かしら?』

 

「バッカ、知らないの!?クルサースパ、末世にアジ・ダハーカを討ち果たす英霊じゃない!」

 

そう、天空海の言う通りに彼はアジ・ダハーカと向き合い、討ち果たす宿命を持った存在である。角竜アジ・スルヴァラを丘だと思い、背の上で焚火をして動かれた為これを討伐した、また海の怪物ガンダルヴァを海中にて戦い、討伐に至った等のエピソードなど、逸話には事欠かない。

 

 そして終末の時に復活を果たす邪竜アジ・ダハーカに対し、彼もまた復活しそれを討伐する定めだという。そして数多くの怪物を討伐してきた彼だが、このようなエピソードがある。

クルサースパの末期、神々は彼が死後に天国へ行くことを拒否した。彼は涙ながらに懇願すると、動物や天使、ゾロアスターまでもが同じく懇願したという。そして彼は天国に迎えられたのだ。

 

『ゴッドブロォオォオォオォオォオ!!』

 

「ぐわあぁー!?」

 

「いや何でそうなるのよぉお!?」

 

今の逸話の何が気に入らなかったのか、アクア懇親のゴッドブローがクルサースパの腹筋を貫いた。果てしなく無駄なことに、彼女の神格はかなり高めなため、神に列する英雄にならば無条件で攻撃を通せる。ヘラクレスだって半殺しにできるとアクアは豪語する。割と嘘ではない。

 

『よし!これでリッカとアジーカの敵は消えたわね!私の大事なアクシズ教宣教師はやらせはしないわ!』

 

「一から十まで世迷い言しか言わないしアホなことしかやんないわねアンタ!?なんなの!?ダクソ的に知力5なの!?一人称オデなの!?」

 

『そんな訳ないでしょぉ!?10くらいはあるわよ絶対!あるってばぁ!!』

 

ちなみにダクソ世界観では10で人並み20で天才30で人類最高峰、40で人外50で英雄60で無双である。5とはきっと小学生以下だろう。

 

『だ、大丈夫?クルサースパ…』

 

「腹筋が割れました、アナーヒター殿…」

 

『それなら大丈夫ね、バキバキよ』

 

そんな軽快なやり取りの後、クルサースパは立ち上がり爽やかに対処する。

 

「いいパンチだったぜ、嬢ちゃん。だが安心してくれ。カルデアのアジ・ダハーカとアンリマユと戦うために喚ばれたのではないんだ」

 

「そうなんですか?」

『ほんとぉ?』

 

「おうとも。狙いは、一神教の敵対者と手を組んだ、絶対悪アジ・ダハーカ。奴の掲げる邪悪なる律と理を破壊する為に俺は招かれたのだ」

 

彼は天に還る事を拒否されたもの。その出来事には、アジ・ダハーカとの確執が密接に関わっているのだ。ある意味で、彼にお鉢が回ってくるのもある種必然といえるものだろう。

 

『ふーん。なら早とちりしちゃったわね。ごめんなさい!私、敵ならとりあえず殴るか浄化って決めてるの!』

 

「どうか次からはお控えくださると助かります。何処か存じ得ぬ水の女神。…あれ?もしや貴女様はアナーヒター殿の別側面?」

 

『アクア!アクシズ教の御神体アクアよ!ゾロアスターってマイナー神話から来たあなたにも分け隔てなく接する心のひろーい女神よ!そして彼女は私の友達の天空海!仲良くしてね!』

 

「すみません、これはアナーヒターのおまけなんです」

 

『なんでよぉ!?』

 

「ははは、随分と人と神の在り方は変わったようだ。では噂のアジ・ダハーカとアンリマユの少女に逢いに行くとしようか!」

 

アクアの破天荒も笑い飛ばすおおらかさにて、その参戦を確定するクルサースパ。その様子をアナーヒターは、嬉しげに見やる。

 

(天国でも上手くやっているみたい。良かったわ、クルサースパ)

 

クルサースパの先の逸話、天国入りの拒絶。それもまた、アジ・ダハーカにかけられた呪いとも言うべき宿痾が絡んでいる事を知っていたアナーヒター。アフラ・マズダの寛大さを、改めて見直すのであった──。




クルサースパは疑問を抱いて問いかけていた。『なぜ人語を介し、愛という物を理解していながら、悪の側に立とうとする?』


 この言葉を聞いた時、ザッハークは『こいつは何を言っている?』と呆けた。だがクルサースパはどうしてもそれが気にかかっていた。今まで倒してきた怪物達は人語を介さず、ただ人々を貪り喰らう存在だった。だからこそ自分はそれを倒す事に抵抗は無かったのだが、ザッハーク…アジ・ダハーカは違った。


『人語を介し、愛という物を尊いと知っているのに、どうしてそれを踏みにじる悪という道を安易に選ぶんだ?悪として定義され、生まれたのだとしても、善に寄り添おうとして何がおかしいのか?悪であっても善に寄り添い、愛を以て何がおかしいのか?まして愛されていたというのなら、そのまま愛を尊んでもおかしくはないんじゃないのか?あくとして定義され、生まれたからと言って悪だけを為さなくてもいいんじゃないのか?』


そう問いかけるクルサースパ、しかしアジ・ダハーカはその三つの頭部で呆れたように溜息を吐いた。


【問われるまでもない。そんなのは楽しいから、面白いから、そして何より、美しいものを見たいからに過ぎない】


その返答に呆気にとられるクルサースパ、そんな彼の姿を愉快気に見下ろしながら邪龍は語る。


【人の不幸は蜜の味、という言葉があるだろう?まさにそれだ。俺が悪を為すのも人を絶望させるのも、それが何より楽しくて面白いからだ。
 尊いもの、愛、確かにいいものだ。だが飽きる。人間どもはどうかは知らんが俺はすぐに飽きた。そして俺は、この飽きた代物を有効に使おうと考えた。
 人間というのは尊いものや愛をありがたがる。ならばそれを壊せば、奪ってしまえばどうなる?どんな面白い姿を見せてくれる?
 そうして初めて実験したのは、かつてザッハークであった頃の俺の父と母だった】

【愛する我が子である俺に殺されそうになる父と母の姿は実に素晴らしかった。まるで信じられないものを見るかのような顔、俺ではない別の誰かを見るような顔、それが絶望へと変わっていくあの瞬間、父と母が死に際の断末魔を挙げるあの瞬間……!!今でも思い返せる、たまらなく美しい光景だった。
それから王に即位してから、俺は何度もそのような美しいものを作り出してきた。
臣下、臣民、老若男女身分も問わず……ああその中でも最も美しかったのはかの聖賢王、ジャムシードの姿だったなあ】


 うっとりとした表情で三つ首をもたげて回想するアジ・ダハーカ。その姿を見ながらクルサースパは唖然とする。


ーなんだこいつは。言っている意味が分からない。他者を絶望させるのが楽しくて面白い?他者が絶望する姿が美しい?訳が分からない。同じ言葉を話す存在だというのにその思考がまるで理解できない。


 もっとも邪悪なるものとして定義されたから?悪の存在として生まれついたから?そんなものではない。もっと根本的な、同じ生命体として根本からしてこの龍は己たちから逸脱している。


【……とまあ、そのように彼女が絶望し、かの至高なる聖王が憎悪にまみれた復讐者となる姿をこの目で見ることができたわけだ。ああ、あれは本当に美しいものだった。今思い出すだけでも感動のあまり涙がこぼれ、体が震えて絶頂しそうになる。と、まあこれが俺が悪を為す理由だが……理解いただけたかな?善の英雄殿?】


 いつの間にか終わったらしいかの聖王を堕とし殺した話を終えたアジ・ダハーカはそうクルサースパに話を投げかける。彼は怒りに震える拳を抑え、さらに問いかける


『お前は、国の王だったんだろ?多くの人間を治める立場だったんだろ?人間の事を、民の事をなんだと思ってたんだ……?』

 
 クルサースパの絞り出すような問いかけに、アジ・ダハーカはまるで幼子に教え諭すかのように穏やかな優しい口調で返事を返す。

逆に聞くが、お前は屠殺する家畜を可哀そうだと思うか?彫刻を彫るために削られる石を、木を、装飾品を作るために加工され磨かれる宝石を哀れだと思うか?】


 この返答を聞いた瞬間、クルサースパは完全にこの邪龍の本質を理解した。


 こいつは己たちを対等な生き物とみていない、もっと言えば生き物としてみているかどうかも怪しい。ただ己が遊ぶための、楽しむための玩具か餌、そんな程度にしか見ていない。


 悪と定義して生まれたからではない、悪神が創造したからでもない、こいつ自身が生まれながらにそういう人格を持って生まれたからなのだろう。どこまでもどす黒く、悍ましく汚らわしい暗黒の魂、いかなる光も色も塗りつぶせない邪悪極まりない精神を。


 愛も、尊いものも、善も、悪も、全て全て己が相手を絶望させて奈落へ沈め、その様を楽しみ眺めるための、奴の言う「美しいもの」を作り出すための道具に過ぎない。理解しているが興味もないのだ。所詮道具程度の価値しかないがゆえに。


『…そうか、よくわかった』



『──お前は、生きていてはいけない生物だ。ここで殺す』


【酷いことを言う。生きる権利は平等だろう?】

そして…

【俺を憐れみ、悪を悼んだお前に開かれる天の門はない。地べたを這い回れ、至高の英雄よ】

【【【ヒャハハハハハハ!!】】】

マテリアル クルサースパより一部抜粋

…この一連の逸話は、アフラ・マズダに『独善』の危うさ、恐ろしさを確信させた。

クルサースパという輝ける者を、たった一つの悪ともいえぬ憐れみ、悼みを受け入れられぬ善の瑕疵。

そう、クルサースパこそ…。アフラ・マズダの『独善』を赦さぬスタンスの一端を形作らせた英雄であったのだ──

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