人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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全てを識る事にはニ種類の絶望が待っている。


それは、識る事に終わりが無き事。人の頭脳では、その智識を有することは叶わないという事。


それは、識る事に終わりがある事。この世の全てを解き明かした時、無限の虚無と絶望が待つこと。

未知とは希望であり、生きる意味そのものだ。だが人類は『全知』の在処を知ってしまった。


さぁ、あなたは何を識りたい?その全てに、『■■■■■』は答えてくれるだろう。

──無限の絶望と引き換えに。


平家にあらずんば人にあらず

『おぉ…!』

「おぉ…!」

 

特異点に派遣されしキリシュタリア、並びにゼウス。リッカに比肩、或いは次ぐエースでありグランドマスターズの比類なき主力。その二人にも当然、楽園に招かれんとしたサーヴァントと相対する事となった。そして二人は、実際にそのサーヴァントと相対し、感嘆の息を漏らした。それほどに、目の前に存在する『サーヴァント』は圧倒的な威容を示していたのだ。

 

『……………、………』

 

日本の意匠を込められた黒鎧。いや、それはフルアーマーといったレベルではない。ロボット、或いはメカとすら呼んでもいいものだ。おおよその背丈、見上げるばかりの偉丈夫の外観がそれなのだ。スーパーロボット、そんな単語すら適用する程に。そして何より目を引くのが、身体に備わった巨大にして長大な得物。それはどう形容しても『弓矢』と呼ぶしかできないものだ。この圧倒的威容、巨大さから放たれる弓矢の威力。想像するだに戦慄する他無きものだ。

 

『ポセイドンもこんなんで撃たれたらただじゃ済まんだろうなぁ…ギリシャにこんな英霊いたかな…』

 

ゼウスがしみじみと頷く。すると、物言わず鎮座していたその英霊の眼に、光が宿る。

 

『…マスター反応、確認。ジャミングカット、対話に移行する。──貴様、カルデアのマスターか』

 

その物腰で、ギリシャはないなとゼウスは判断する。こんな格式高い名乗りはギリシャにはあんまりできないはずだ。その問いに、キリシュタリアは答える。

 

「あぁ。カルデアマスターチーム、グランドマスターズに所属する者だ。名をキリシュタリア・ヴォーダイム。ゼウスを宿しもしているがれっきとした人間さ!」

 

『魔術回路、確認。…噂に名高い『藤丸龍華』ではないが、間違いなく朋友なのだろう。貴様を信用する。そして、我が素性を返礼として公開する』

 

機械とも形容できるその外見から出る言葉と行動は、紛れもなく気高く誇りを有した英雄のものだ。彼は、自身の境遇を語る。

 

『我が名、源為朝。クラスはアーチャー。カルデアに人の英霊として招かれんと召喚に応じたところ、外部の干渉により傀儡としてここに縛り付けられた。無念だが、魔力供給も制限され指の一つも動かせぬまま今に至る。源氏として、耐え難き恥を晒しているのだ』

 

『源為朝!!弓を射つ手が反対よりも長かったとされる源氏の誉れ高き英霊その人!!弓矢を放ち数多を貫き、戦艦すら落としたとされる剛勇無双の大英雄ですね!』

 

なんと別口、通信のエルから感嘆が飛ぶ。彼は源氏のファンだったのか…といえばそんなことはなく。琴線に触れたのはその圧倒的『ロボット』な威容だった。

 

『まさか日本の誇るアーチャーがこのように雄々しく凛々しく格好いい鎧武者即ちロボットサムライだったなんて!あぁ!!平家にあらずんば人にあらずとは源氏皆様のロボット兵ぶりを指した言葉であったなんて!僕はカルデアで、新たな歴史の神秘に触れているのですね!!』

 

感動を抑えられない、といったトークは全くいつものことだったのだが、その物言いは、なんと為朝を名乗る彼の心に届いていた。

 

『…噂に違わぬ良い場所のようだ。兵器たる私を、斯様にあっさり受け入れる者が現れようとは』

 

『なぁに、気に病む必要はない。当代では迫害されたか敬遠されたか忌避されたのだろうが、今の君を顕す言葉は現代にキチンと残っている』

 

「そう──重武装、大火力。それは即ち、ロマンと呼ばれるのさ!」

 

『ロマン…。そうか。人でなければ招かれぬと恥じ、仮想の可能性である人の自分を召喚に応えさせようとしたが…要らぬ世話だったか』

 

為朝は自らの卑屈さを笑い、身体をゆっくりと動かす。それだけで、人の世からは収まらぬ程に雄大な威容が持ち上がる。

 

『為朝さん!!こうして対話できるのなら、あなたは人の心を有する英霊(ロボット)とお見受けします!是非その雄々しく、逞しく、力強い鎮西八郎為朝のパワーを僕等に貸してはくださいませんか!』

 

『……その言葉、その信頼に応えるために必要なものがある。決定的に足りぬものがある』

 

「それは…」

 

資格や、資質という話であるのだろうか?確かにこれほどの超弩級のサーヴァント、やすやすと使役の叶う存在ではないという自負を有していてもなんら不思議ではない。為朝は規格外の暴れん坊としても知られる英霊だ。しかし、現代の源氏棟梁とまで呼ばれるリッカを知ってもらえばきっと…

 

『魔力だ』

 

極めてシンプルな問題であった。

 

『我が身に課せられた戒め、『敵を排せよ』とされ召喚されたが、その『敵』が『カルデア』とは定義されていない。貴様らカルデアは私を『味方』、『隣人』『英雄』と接した。ならば私は貴様らを『同胞』として認識する』

 

(人の合理的判断と機械の融通の効かなさを完璧に使いこなしている!)

 

『よって、我が召喚を妨害した存在こそを敵と認める。──射撃態勢に入るにも、単独行動でようやく動ける程度の魔力しか有していない。申し訳ないが…』

 

その先からは不要だった。先の鎧武者に続き、敵を排さんとする司令に挟持一つで抗う。日本の英霊というのは、そういった耐性が強い傾向にあるのか。

 

「ゴルドルフ、ロマニ。彼に魔力をあげてほしい」

 

『だ、大丈夫かね?その、司令が急に強くなって私達にそのとんでもない弓矢を放ってくるとか…』

 

『心配は無用だ。此度、弓矢を撃つのは一度のみ。カルデアの召喚ではないこの霊基は、その際に破棄する』

 

不本意な召喚となってしまったが故、宝具発動に全てを込めるという。その義理堅さに、エルは更に感激をもたらす。

 

『機械の身体に熱き魂!あぁ、為朝さん!あなたは素晴らしい英雄です!僕は待っています!あなたがカルデアに招かれるその時を!』

 

『…礼を言う。まさかこうまで歓迎、厚遇されるとは思ってもみなかった』

 

『本当は実は女パターンが良かった気もするが、まぁ野暮はいいっこなし。源氏いいよね。現代も平安も絶世の美女が棟梁で』

 

「ははは、君には必ずリッカ君を紹介しなくてはね!という訳で、超弩級の一撃、期待させてもらおう!為朝!」

 

『了解した。魔力提供の完了の後お見せしよう。…逸話に違わぬ一射を』

 

エルのロボット好き、キリシュタリアのおおらかさ、ゼウスを始めとしたロボット英霊たち。それらが重なったことにより、リッカの対話並みの大戦果を手にしたカルデア一行。

 

『そういえば、部員の方から提出されたマテリアルではもっと快活でかつ人間であったような気がするんだが…そこのところはどうなのかね?』

 

『人の側面が強い場合を指したのだろう。私は傀儡、機械としての役割を求められた。姿が違うが、どれも為朝という存在に変わりはない』

 

『サーヴァントシステムが生み出した姿の妙なのですね!あぁ…!もしや源氏の皆様は皆ロボットだったのでしょうか!?もしや頼朝さんも!?』

 

『頼朝…』

 

その言葉を聞いた為朝が、言葉を強張らせる。

 

『…頼朝と敵対するならば、ますますもって我が力が役に立とう。魔力装填を是非頼む』

 

「鎌倉幕府の創始者、だったかな?それ程に凄まじいのかい?」

 

『…英傑だ。紛れもなく。そして…敵対したならば、肉親や血縁すらも滅する男だ』

 

そう頷く為朝の目は、遠く決意に燃えていた。必ず、自身の射撃が役に立つ筈だと。その眼差しは、山を見るかのように天を睨み──

 

 




アメリカ・ニャルベース(仮)

モリアーティ「やぁやぁ、来てくれたね愛娘。カルデアの皆が今頑張っているときにこそしたい話だったのサ」

オルガマリー「…ジョークの類ではないようですね。何がありました?」

ニャル【まずはこれを見てほしい。君ほどの才覚ならば、この文書の恐ろしさに気付ける筈だ】

オルガマリーはニャルに手渡された文書を見やる。なんてことのない文章の羅列。

「………………、………!………!!」

だが、それを読み解く度にオルガマリーは息を切らし、動悸を起こし、やがて、おぞましいものを見るように後ずさりする。文書が、ごとりと落ちる。

オルガマリー「…マリアナ海溝、最深部の景色、生態…ナスカの地上絵の意味、アトランティス、ムー大陸の生活風景…」

ニャル【記憶処理はするし、ロックはかけてある。…分かったかな?何がおかしいか】

オルガマリー「……『人類が、知るはずのない答え』…」

モリアーティ「そうサ。この世界に解明されていない数多の謎。生物が、星がなぜ生まれ滅びるのか。全ての謎と、答えがこの場所には記され、隠されていた。ニャル君は邪神だから、人類の謎が何故おかしいのか解らなかったのが発覚の遅れにつながった」

ニャル【娘談義したとき、ふらっと口走ったらアラフィフが見つけてくれたんだ。…宇宙人どうこうなんてヌルい話じゃない。この地球に、私やウルトラマンを始めとした存在が来たる理由の全てが、この基地に存在していたんだ】

オルガマリー「…それは、まさか…」

モリアーティ「そう。…見たところ『全能』は失われているようだから…『全知』だろうネ」

人は、手にしていたという。全ての知識を識る手段を。オルガマリーはその言葉に戦慄と共に息を呑んだ──。

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