『我が妻よ』
『学べ』
『学んでくれ』
『学んでください』
『お願いします』
『なんでも焼くのは 俺の役目だ』
『適温で 食材を焼け』
『雑は 止めろ』
『クク 我が妻』
『学べ』
「私のシグルド、そしてあなたのブリュンヒルデ。上手く連携ができるようになればとても強力な戦力になるわ。一緒に頑張りましょう、チルノ」
オフェリア・ファムルソローネはチルノと共に行動していた。彼女のサーヴァント、シグルドの意思を尊重し妻のマスターであるチルノとの交友を深め、ツーマンセルの練度を高めようと思い至りこの特異点へと思い至ったのである。
「任せておけレミリア!あたいとぶりと、おまえのちくるぞがいれば最強に無敵だ!絶対安心だぞ!」
「マスターの言う通りです。シグルドに、マスターがいてくれるのならそれはもう…困りません」
(困らないのね…)
『とはいえ、チルノは連携とかできるような知能はないからこの私、にとりが専属サポートするぞ!それに、ワルキューレ共もサポートしてくれる!』
『オルトリンデです』『ヒルドだよー!』『スルーズ。大神オーディンのルーンを借り受け、マスター・チルノの知能をサポートします』
力は強いが、頭は悪いチルノのバックアップは万全である。滾るブリュンヒルデの愛の炎を優しく受け止めるチルノの心は、彼女の理性をクールダウンさせることに繋がっておりマスターの中でも絆の深さは上位に来る程だ。あとの課題は戦術などである。
「我が愛、並びに親愛なる妖精。我がマスターよ、このシグルド、最早万に一つも敗北は有りえないだろう」
「えぇ。その確信と自信に伴う指示を目指すわ、シグルド。私の英雄」
オフェリアもまた、その返答に頷く。彼女もまた、シグルドに絶大な信頼を寄せている。シグルドは実直で豪胆な英霊であり、オフェリアを尊重する度量の大英雄。親交の深まりに時間はかからなかった。
(シグルド、チルノ、ブリュンヒルデ。北欧を代表するチームとして、恥じない活躍をしなくては。マシュ☆コンマネージャーとして、あとグランドマスターズとして)
そんな決意を持つオフェリア、並びに四人の前にサーヴァント反応が至る。その存在もまた、敵対の意志を植え付けられし存在…の、筈なのだが。
「──こちらに敵対の意志はありません。召喚に干渉、敵対の術式を確認しました。それらは既に対処済みです。どうか理性的な対応を求めます」
ロングスカート、そしてコートを有した、赤髪のセミロングと銀眼を有す女性。真面目ながらも、その堂々とした物言いは並々ならぬ格式を伺わせる。
「我が真名、シンモラ。このままでは退去の危機なので、至急保護を要請します。端的に言いますと助けてください」
『『『シンモラ!?』』』
ワルキューレ3人が声を上げる。そう、シンモラとは北欧の存在であり、彼女たちにとっての重要人物だ。
「ぶり、誰だこいつ?知ってるか?」
「…シンモラ。北欧の巨人スルトの妻であり、『レーギャルン』、つまりレーヴァテインの管理者とされる方です」
神々の黄昏ラグナロクの果て、ムスペルヘイムより来たりて全てを焼き払う炎の巨人、スルト。その得物、杖とされしレーヴァテイン、あるいはレーギャルン。それを管理しているのがこのシンモラだ。スルトの妻たる彼女、燃えるような赤髪はその管理者たる証であろうか。
「私を御存知でしたか。それならば話が早い、保護を求めます。敵に操られた、といったアクシデントは私においては許されません。早急に私を回収なさってください」
彼女の物言いは真面目で事務的だ。それは彼女が保管するものに由来しているのだろう。彼女が管理するレーギャルン、それは地球のテクスチャを焼き払う力そのものだ。
「こちらも確認した。シンモラ殿に敵対の意思や策謀の跡はない。安全と判断する、マスター」
「仲良くなりたいならいいぞ!あたいの子分にしてやってもいい!」
『そこは知り合いにしておけよなー!んー、でもシンモラって何か逸話あったっけか?英霊になれるようなエピソード』
にとりの疑問に、シンモラは応える。それは、保管しているレーギャルンがあまりにも名高いものであるが故だと。
「私はレーギャルンの管理者。それだけで逸話としては充分だと判断されました。パンドラも同じ理由で招かれているとかどうとか。管理者は、それだけで切っても切れない関係を有します」
「担い手ではない英雄も、サーヴァントとして逸話複合などのパターンも見受けられる。それに倣えば、レーギャルンは知らぬ者なき黄昏の象徴だ」
「…かけられた術式を、焼き払った跡が見られます。熱量は、令を焼き切ったのですね」
ブリュンヒルデ、シグルドの予想通りシンモラにかけられた令はレーギャルンの熱量が焼き払った。ただし魔力パスまで焼き払ってしまったため、契約無くば数時間で消滅の危機なのだが。
「助かりました。スルトは手加減というものを知らないものでして。『クク レーギャルンはいずれ 癌に効く』と自信満々で聞く耳持たず。断ち切りすぎてふざけんな案件でしたが、なんとかなりました」
「良かったなぁ!だがなんか熱くないかおまえ!」
「!?」
見ればチルノが汗をだらだら流し溶け始めている。妖精として、神秘乏しい現代では不安定なのだ。シンモラが有する熱に敏感察知即ち効果抜群なのである。
「あぁ、すみません、私を防護する熱は氷の妖精には辛いでしょう。シグルドさん、ブリュンヒルデさん。お手数ですが遮熱のルーンをお教えしますので、彼女に」
「うむ」
「マスター、どうかしっかり…」
ぐったりしているチルノに遮熱のルーンを刻みながら、シンモラは告げる。
「本来なら召喚はされない身ですが、『クク メシマズを治せ』などとほざかれたので勉強に参りました。これからよろしくしていただけると幸いです」
「え、ええ。もちろんです。北欧部門担当として、あなたとは良好な関係を築きたいわ」
「感謝を。北欧の神、魔獣、具体的にはニーズヘッグやフレスベルグ、世界樹の焼却はお任せください。レーギャルン、その熱量を人理の為に振るいましょう」
こうして、赤き髪のシンモラはレーギャルンを楽園へと運び込む事となる。そして彼女は、聡明な存在でもある。
「解除するついでに、術式を解析してみました。今回の事件の首謀者の召喚、あまり上手くいっていないようです」
「本当ですか?」
「はい、英霊の年代や術の効き方がまばらに過ぎ、計画性が無いことから予想したのですが、あちらもまた不備を抱えていたと思われます。マスター多数を分散させるため、召喚に踏み切ったと考えればしゃらくせぇ召喚の説明がつくかと」
マスターの撹乱に召喚を行ったようだが、その妨害の不備の産物という。それに、にとりだけが得心する。
『紫の扇子だ!奪われたときにセキュリティでも仕組んでいたな!それで召喚を横取りするくらいが精々だったって事だな!あのスキマ女、狡猾だな!』
賢者はやられっぱなしではない。それは確かに、紫の反抗の賜物でもあったのだ。
「私の役目といえば、どうしようもなくなった特異点を跡形もなく焼き払うが精々でしょう。どうぞちゃぶ台返しをしたくなったならお声をかけてください。我が夫のアカン火力をお見せします」
「頼りになる…頼りにしてはいけない気もするが…頼りにさせてもらおう。北欧の英霊に仲間が増え、喜ばしいばかりだ」
「マスター、大丈夫ですか…?」
「あついが…大丈夫だ!あつい!大丈夫!」
(レーギャルン…とても恐ろしいものを有す英霊がやってきたものね…)
チルノが軽くダウンしつつも、シンモラが新しく契約を結ぶ運びとなる。彼女が言うには、それは失敗の召喚だという。
ならば黒幕は、何を考えるのか。それは、リッカが目の当たりにするであろうという信頼をもってチルノを介抱するオフェリアであった。
オフェリア「ちなみに、スルトとの夫婦仲は…」
シンモラ「あまり一緒にはいませんが、互いを気にかけてはいます。此度の召喚もスルトの補助ありですから」
「愛妻家、なのかしら…」
「正直口下手の言葉足らずですが…単純に大きく熱いですね。いずれ出会う日をお楽しみに」
オフェリア(不安…)
シンモラ「チルノ、でしたか。ひんやりしていますね…触れても?」
チルノ「あついのは苦手だが…いいぞ!」
にとり『遮熱のルーンか!私も使えるか!?』
珍しく平和的に完遂された、一幕であった。
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