人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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鬼一法眼「しかし景清に乗っ取られたままとは情けない!どこまで馬鹿弟子なのか全くなー!」

牛若丸「本人の前ですが!師匠!」

鬼一法眼「だから言ってるんだよ!」

牛若丸「しかしご安心を!リッカ殿なら必ずや義経の血迷いを切って捨てる筈!何せ現代の源氏棟梁なのですから!」

無慙「…源氏、棟梁…。──おい、急ぐぞ。飛べ、天狗」

鬼一法眼「あいたた!?どうしたどうした急に!?」

無慙「たわけめ。牛若丸が言うのが真実ならリッカは『景清の絶好の獲物』だろうが」

「「……あっ」」

「報告を受けている無軌道召喚、恐らくこれは試行錯誤だ。義経か景清の喚びたい輩など一人しかいまい」

「「頼朝!」」

「…兄妹の殺し合いなど、見ていて愉快なものでもあるまい。招かれる前に景清を消すぞ、急げ」

「無慙殿…!」

「君、怖いけど優しいなぁ!」

…見所があるな。

無慙「…?」



源平合一

「ここは…」

 

リッカとマシュが辿り着いた場所、そこは月光照らす見渡す限りの草原が広がる異質な空間。辺りにはただ、静けさのみがあり清澄な雰囲気すら漂っている。そこに、かの怨念そのものたる景清がいるなど思えないほどに。

 

「先輩、この音は…」

 

マシュの言葉にリッカが頷く。彼女ら二人には聴こえていた。清澄で静謐な空間に相応しき、透き通るような笛の音を。その音の出処を探し、歩いてみれば。

 

『……………』

 

鎧…何故か前方はざっくりと開いたデザインの…を纏う、秀麗眉目な武者が笛の旋律をただ吹き上げていた。それは見惚れる程に美しい光景でありながら、嘆くような旋律が物悲しさを添えている。

 

「義経…さん?」

 

リッカは、眼の前の存在に問い掛ける。その有り様…目を閉じ、笛を吹くその所作は敵意がかけらもない。現に今も、背を向けたまま、誰に聴かせるでもなく静かに笛を吹き鳴らすのみなのだから。

 

そのままの時が、月の光と音の旋律が交わる空間を作り上げること数分か、数秒か。やがて、義経の奏でる笛の音が止まる。

 

『──兄上を、招かんとした』

 

その言葉は、しんと冷えた鉄のようだ。牛若丸と同じ人物ながら、彼女のような人懐こさなど感じられない。無機質で、冷たい武者の声音。源氏棟梁たる魂の母、頼光の時にも通じるもの。

 

『招けど招けど、招牌はならず。ただ、私にとって無為な召喚のみが為されるばかり。景清殿の機転なくば、私はもうここにはおらぬだろう』

 

「…マスターの皆が出会った英雄たちがバラバラだったのは…」

 

義経は招かんとしていたのだ。兄上、即ち源頼朝を。それは、ある意味で景清共通の悲願であるがゆえに。殺すか、話すかの違いはあれど。

 

「つまり義経さんが招き、景清さんが敵対される前に手駒にしたというからくりなのですね!マシュ、理解しました!」

 

『…皮肉なものだ。かつて滅ぼした平家の怨霊と合一しておきながら、私は血を分けた兄妹とすら分かり合えぬ有様。皮肉がすぎると言うものだ』

 

彼女の言葉には、どこか空虚さが漂う。彼女は、義経たる彼女はどこか無機質さ、そして怜悧さが備わっている印象を振り撒く。リッカはその、静けさこそを受け止め相対する。

 

『師を欺き、兄に追われ。幾度もカルデアに敵対し、そしてまた、兄に拒まれる。…ここならぬ何処では、泥にまみれ醜態を晒したとも聞く。なんともはや…』

 

この身は、因果なものよ。彼女は音もなく、空を見上げる。

 

『英傑として召し上げられながら、こうして怨霊に堕す。私には…似合いの末路なのやもしれぬな。兄一人の心すら解らぬ、駄犬のような私には』

 

そして、その言動には…陰鬱さが備わっている。それは、景清の影響であろうか。義経とは、悲運と悲劇の武将であるが故にそういったものなのであろうか。

 

【義経…義経…】

 

それを裏付けるように、義経の背後に怨念が蠢く。義経を包み込むように揺らめくそれは、義経に語りかける。

 

【涙するな、義経…景清がおる。我等景清がおるのだ、義経…】

 

「──!」

 

リッカは、その蠢きと怨嗟が奏でるものを聞いた。それは、英雄の魂を侵す呪いでは決してない。

 

そう、それは…まるで。自身の人生に始めはなかった、しかしベリアルより貰った、父たる…

 

「ターゲット発見しました!パターン、アヴェンジャー…!あれらが景清!源氏に仇なす概念そのもの!」

 

マシュの言葉に、リッカは気を引き締める。そう──真意はどうあれ、今ここで穏便に行くはずはあるまいと気合を込める。

 

『──我が身に宿る怨霊、景清は私の願いに寄り添ってくれた。ただ、兄上に会いたいという稚拙な願いにその身を粉にしてくれた。数多無数の英霊たちは、私の願いを叶えんがために景清が行いしもの』

 

最早確定的だ。召喚権に秘宝で割り込み、景清はひたすらに頼朝を招かんとしたのだ。それは当然、源氏に仇を成す怨霊たる景清の本懐でもあったろう。

 

【おぉ、我等は諦めぬ、諦めぬぞ。なんとしても、なんとしても…我等の、そなたの前に、頼朝を…】

 

だが…その願いはきっと、義経のものと共鳴し共感したのだろう。復讐ではなく、ただ肉親として頼朝に会いたい。義経の願いを、景清は汲み取り続けたのだ。

 

『景清殿、そして…カルデアの者ら。随分と迷惑をかけた。随分と手間をかけた。誠に…忝ない』

 

義経は頭を下げる。その振る舞いに牛若丸の狂犬ぶりは微塵もない。彼女の所作は、怨霊あれど気高き武士そのものだ。

 

『──そして、カルデアのマスター。当代の源氏棟梁。誉れ高き童子切安綱を佩く者よ』

 

「義経さん…」

 

『ありがとう。世界を救う大役の旗印に我等源氏の魂を有してくれていること…心より嬉しく思う』

 

彼女にとって、リッカは遠き未来の源氏たるもの。愛しこそすれ恨むはずができようはずもない。その感銘と感嘆は、称賛は、紛れもなき本物だ。

 

「?…え、えっと。その。では、和解と和睦、ということで?」

 

その奥ゆかしさに、マシュは毒気を抜かれなすびとなる。彼女は戦うと決めたらシールドバッシュだが、迷うとしなったなすびになってしまう女子なのだ。よもや不戦と相成る空気か、そう思われたが…

 

『──故に、私は願いを叶える。私の願いに、景清がそうしたように。景清の願いに、次は私が沿う番である』

 

瞬間──空気が変わった。刀は持たない。しかし…笛の底から刃が現れ、逆手刀と変化したのだ。

 

「──義経さん。ううん、景清…」

 

『赦せ。もう何度目かも解らぬ敵対だ。どうやら義経という存在は、誰にも靡く事ができないようだな』

 

【義経…!】

 

その選択は、景清にも予想外だったのだろう。困惑する怨霊にも揺らがず、義経は構える。

 

『私はあらゆるものを切り捨て、裏切ってきた。弁慶、義仲、常磐、師匠、兄上…』

 

「……」

 

『そんな私に、何者も在らぬは当然。されどあなたは寄り添ってくださった。平景清、私の最期を何処か見守った情の化身。私は──』

 

そう。武士として、源氏として破綻していたとしても。兄の心を理解できなかった自身であったとしても。

 

『あなたの願いに寄り添おう。此度ばかりは、義経の刃に憎悪を乗せ、景清となりてカルデアに立ちはだからん』

 

【義経…!】

 

それは、裏切られ、裏切り、畏れられた彼女の返礼なのだろう。それが同情であれ、何者が己を慮る者を怨霊と切り捨てられようか。

 

『源氏、鏖殺。──すまぬ、当代の棟梁よ。この義経と景清の破綻しきった願い…受け止めてはもらえぬか』

 

平景清…此度ばかりは、義経にとって護るべき主であり、仲間であり、そして…共に戦う主従であったのだろう。

 

「先輩…!これはつまり、どういうことなんでしょうか!?倒すべきは景清さんで、でも義経さんも景清さんの仲間となって!?」

 

マシュの困惑も無理はない。日本人の矜持や意地というものは、利益や損得、時には道理すらも脇に置く。

 

──ならばこそ。

 

「…分かった」

 

リッカは静かに頷き、そっと…母の守刀に手をかける。それは、母の魂宿る源氏の象徴。

 

「景清、そして義経。──今を生きる源氏魂のマスターとして、その申し出を受けて立つ」

 

ゆっくり引き抜くと同時に、紫電の落雷がリッカに落ちる。静寂は破られ、轟音が響き渡る。

 

『──おぉ…』

 

そこに──義経と景清は見た。源頼光、神秘殺しにして伝説の棟梁、その生き写したる威風堂々たる姿を。

 

『その迷いを、その怨嗟を──断ち切る。母上からこの刀を託された者として。絶対に負けない』

 

其処に在りしは、白き龍鎧を纏う最悪のマスター。マシュ、並びにギルガメッシュのメインマスター…藤丸龍華。

 

『感謝を、リッカ殿。では…』

 

義経は止まらぬ。観念し、怨念を噴き出す景清。

 

『マシュ、行くよ』

 

先輩の号令!鼻息荒く、戦闘態勢に入るマシュ。

 

『『────勝負!!』』

 

此処に、怨念と矜持を両立させし源氏と、今を生きる頼光の生き写しの戦いが幕を開ける──

 

 




……嘆かわしい。そこまで愚昧か、そこまで蒙昧か妹よ。何度目だ、我が妹よ。


無慙「…?」

人理に仇なさねばいられぬというのならば。

今一度、この私自らが劾してくれようぞ。それが、肉親としての最期の情と知れ──。

「……?」

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