──いいか、よく聞け牛若丸。
「無慙どの!?」
この騒乱、丸く収めたいならばオレの指示を聞け。
牛若丸「──しょ、承知!なんだかその圧、兄上を思い出します!」
無慙『…通じるものだな』
頼朝(返事だけはいいのだ。返事だけはな…)
『そうか。なら手短に教えろ。指示を出せ』
(うむ。牛若丸に伝えてほしい事柄は…)
【頼朝…源頼朝…!我等、景清の御敵…!】
忌々しげに睨む景清、弱々しげに見上げる義経。反応は異なれど、それは待ちわび、望み続けた存在の来訪だった。源頼朝…鎌倉幕府創始者にして義経の兄。紛れもなく、日本にその名を刻む誉れ高き英雄そのもの。日本の歴史の、礎が一人。その存在は、何故か無慙の身体を有している体制だったが…揺るぎなき強さを感じる佇まいは、見間違うはずもない。
「兄上、私は…義経は…!貴方と、もう一度…!」
義経はただ話をしたかった。怨みも愛も、有する相手だったが故に。待ち望み続けた相手はしかし、情を有する素振りはない。
「義経。お前の召喚に応じなかった理由など知れた事。お前が怨霊などと迎合し、カルデアという大義ある組織に仇なす道を選んだからだ」
「!」
ただ冷淡に、極めて現実的に。彼は義経の行いを切って捨てる。言うように、そこにはただ嫌いであるとか、気に食わないという感情などは排されていた、道理的で論理的なモノだった。
「我等は英霊、人理を護るために招かれるものだ。カルデアに招かれ、お前が景清と狂わせた英霊達もその志の下に招かれた。それをお前は自らの願いのために狂わせた。私と話をしたいなどという私的な理由でだ。反英霊に迎合し、あまつさえ仲間である英霊にすら手を出すなど。逆に問うが、そんな蛮行に何故私が応えると思ったのだ?どこまで侮れば気が済むのだ、お前は」
「そ、れは…」
痛烈な批判、そして弾劾。頼朝はただ紛糾する。義経の、肉親の不甲斐なさと浅慮を。
「私を招きたければ、するべき事はカルデアに参列し、その上で縁を辿り召喚する手法を取ることだ。お前とは分かり合えぬまでも、人理を救う旗印の下でならば轡を並べたものを。その慮りの無さでお前はカルデアの祭りを乱し、開催者と組織の体面に泥を塗った。武士として許されざる無礼である」
「……返す言葉も、ございませぬ…」
「手段を間違え、英霊としての無様を晒し、あまつさえカルデアの中核の命すら狙った。お前の行動には何一つ成すべき事、果たすべきものがない。生前と同じ、自らの本能と才覚にかまけ世を乱し、私を脅かし続けた頃より何も変わらぬな、我が愚妹よ」
(せ、先輩。これは…)
マシュはリッカに耳打ちする。その言葉は静かで淡々としている。だからこそ、それがマシュには恐ろしかった。リッカのように魂に突き刺さる熱が全く備わっていない。冷徹に、冷厳に、残酷なまでに事実と真実のみを持って妹と話すそれは、無慙と確かに同じ、しかし真逆の絶対零度の苛烈さだった。
「そしてお前は私を怨んでいると言っていたな。同じ気持ちだと。少し考えれば分かることだが…」
そして頼朝は告げた。端的ながら、簡潔に。
「要らぬことを行い、しなくてよいとしたことを行う。私の枕元に首を並べるような蛮行を忠義などと言うように私を見上げるお前の何を愛せという。世を創る務めにおいてお前のやることなすことが全て私を苛立たせた。自業自得の因果応報で滅びておきながら、私を怨む厚顔無恥さ。お前を好む筈などなかろう。己を知れ、源義経」
それは、義経の望んでいた願いの末路だ。義経は話をしたいと思った。そしてここに至り、頼朝は現れ話をした。答えは──絶望的なまでの、拒絶と隔たりであった。
【言うな、頼朝…それ以上、言うてやるでない…!】
だが──それに待ったをかけたのは。頼朝を憎み、怨み、敵対しているはずの景清だった。怨霊達は、義経を庇い立つ。
「景清…平将門公は日ノ本の大いなる守護神になったと言うに、貴様は未だ稚拙な怨霊であろうとは」
【義経は…義経は、お前を愛しているのだぞ…!我等景清に合一してなお、お前との再会のみを願った!肉親として、何故そうも冷淡にこやつを切って捨てる!】
「情深き事だ。そして知れたこと。私にとって、義経など敵の一人でしかなかったというだけだ」
徹頭徹尾、頼朝は己を客観的に見ていた。それは、妹すら世を作るに仇なす存在と切り捨てる程に。
【貴様ぁぁあぁっ!!】
そしてその答えに、情の化身たる景清が怒り狂うは必然であった。怨の一文字となり、佇む頼朝へと斬りかかる。
【源氏、否!情をも捨てる外道よ!死に候え!!】
「…奇特な事よ。平家が源氏を慮る。清盛の意志は宿痾となっているのか?」
【『諸行無常・盛者必衰』───!!!】
頼朝を狩る。それの為に磨かれた刃。それは義経の無念を晴らすための恩讐の刃でもあっただろう。その刃を──
【!?何っ…!?】
『巨大な甲冑の腕が受け止めた』。頼朝を守護せんとする巨大な、余りにも巨大な一部がその姿を晒したのだ。
「私も貴様には用がある。カルデアに多大なる迷惑をかけた怨霊景清。同じ源氏の恥を雪ぐには、貴様と義経の首がいるのだ」
そして頼朝が指示を出す。するとその腕は大いなる質量をもたげ、握り拳を作り──
「人を呪わば穴二つ。深き墓穴に落ちるがいい」
巨大な一撃、巌の鉄拳として──景清を、打ち貫いた。
【ぐわぁあぁあぁあぁっ!!!】
「ああっ───!」
その拳の一撃は、景清と義経を諸共に吹き飛ばすほどの威圧と風圧を以て叩き込まれた。リッカの間にマシュが割らなければ、余波で吹き飛んでいたやも知れぬほどに。
【ぐっ、う…おの、れ…頼朝…!】
ゆっくりと歩み寄り、景清と義経をむんずと掴み上げる。
「兄、上……」
「景清は無論のこと…義経、お前もまた世を乱し今回の騒動を引き起こした元凶である。その罪過は、贖わなければならん」
その言葉と共に、空間が激震する。何かが胎動し、起き上がるような振動を以て辺りを揺るがしていく。
「故に、我が宝具の礎としてくれよう。そして自らの行いをただ悔い、己の行動の浅はかさを骨の髄まで悔やむがいい。それが此度の召喚において、お前のなすべき事だ」
『あ、繋がった!マシュ、リッカ君、無事かい!?そこに無慙さんが、いや頼朝がいるはずだ!いるよね!?』
ロマンの大慌てな報告と共に、それはいよいよ姿を現す。それは、頼朝が有する『宝具』の顕現。
『超高密度の魔力反応、要するに宝具だ!二人共、頼朝の宝具に巻き込まれないよう気をつけ、て──』
…──リッカ、そしてマシュ。ロマンも含めたカルデアスタッフは往々にして言葉を失う。
「贖いの為、起動せよ。我が宝具…全ての侍、武者の総たる概念よ」
それは、紅蓮の甲冑を纏いし武者であった。刀を有し、燃え滾る関節を有し、気炎万丈を体現するかのような猛き武者。鎧武者そのもの
「我が宝具にして我が全て。数多無数の武者の総決算。この武者こそが益荒男達が仕え、仰いだものである」
ただ、その威容は想像を遥かに越えている。ティアマトすら、マルドゥークすらも上回りかねない超巨大の鎧武者。まさに城が動き出したかのような、或いは武者の全てが起動したかのような燃え滾る大存在。
「顕現を果たせ。我が宝具『鎌倉幕府』。我が妹の愚行を継ぎ、政への供物とならん」
軋むたびに、焔を噴き出す概念的な鎧武者。鎌倉幕府という逸話と存在が昇華した、超弩級武士集合体。幕府そのもの。
『きょ、巨大サムライだこれーーーー!?』
頼朝が開帳した宝具。その圧倒的スケールと神と見紛う威厳の降臨に流石のロマニも絶叫する他ない状況へと追い込まれる。
そう、これこそ妹から兄に引き継がれた祭りの大詰め。その目的は、景清と義経の企みをまとめて呑み込み喰らう事であったのだ──。
頼朝「カルデアのマスター、リッカ殿」
リッカ「頼朝さん…!」
頼朝「景清と義経を取り込んだ鎌倉幕府は、やがて暴走し夏草に顕現する。私を倒して止めねば未来はないだろう。奮闘を祈る」
頼朝はそれを告げ消え去る。恐らく、幕府の中核に移動したのだろう。
『──────!!!!!!』
黒炎を吐き、起動する鎌倉幕府。一刻を争うのは明白だ。
マシュ「先輩!」
ロマニ『ど、どうしようか!?』
リッカ「慌てる必要ないよ、二人共」
しかしリッカは──信じている。無慙が無秩序な破壊など許すはずもない。
そして──
「グランドマスターは、一人じゃないからね!」
その言葉と同時に、空間を突き破るかのように数多無数の光が奔る──。
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