人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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兄上、兄上!私は兄上のおそばで、ずっとずっとお仕えしたく思います!


──そうか、そうか。お前のその自由さと奔放さ、きっと頼れる武者となろう。

はい!ですから兄上、日本一の侍となってください!兄上はきっと、なれまする!

──そうか。私ならなれるか。


はい!

──お前がそう言うのなら、なれるのだろうな。ならば目指そう。いつか…

お前が疎まれぬような、太平の世を作ろうぞ。故に牛若丸、もう少し落ち着け、頼むから。

あはは、それは無理でございまする!

…いつの日か、その奔放さを許せぬようになった。

道理や道筋を知る度に、その自由さが容認できなくなった。

頼朝はしがらみに塗れていった。

お前はいつも自由であった。

果てはお前を害したが…

その風のような生き様を、否定しようとは思わなんだ。


鬼武者VS桃太郎

『っつ────!』

 

頼朝、即ち鬼武者の鎧を纏う征夷大将軍は瞠目と感嘆を隠すことが出来なかった。先の戦いでは、勝手知ったる二人の妹でありその師匠。槍の担い手は仲間を束ねに離脱した故、怨霊の力を借りていようと鎧袖一触であった。いくら強かろうが、同じ時代に生きた武者などに負ける道理は微塵もない。アタランテなる狩人も、剛力と俊敏に長けた存在の見聞は決して初ではなかったが故に対処は出来た。

 

だが──藤丸某が呼んだ陣羽織の女武者。紅蓮の刀を振るいしその存在は、頼朝の見知っていたどのような武者よりも強く、素早く、苛烈で、華麗を極めていた。

 

「…!」

 

一瞬の内に十、いや二十は超える打ち合い。無数の剣戟を演ずる二人。本来なら頼朝の観点からしてみればそれはあり得ないことなのだ。鎌倉の鎧を纏った自身が、生身であろう武者と互角を演じる事態そのものが。

 

だが、目の前のサーヴァント、桃子なる存在をそれを平然とやってのける。技量と洞察力が、鎧を纏った自身より遥か高みにいる証左であった。牛若丸、義経を厭うてはいても、その実力は当代一と評価はしていた。それが、あろうことが覆されようとしているのだ。

 

(この者は…!義経よりも遥かに強い…!!)

 

瞬間、鬼武者のアラートが危険を伝える。その評価を裏付ける絶技を、桃子は立て続けに披露したのだ。

 

まず、全く同じ箇所に無数の斬撃を放ち飽和現象からの事象崩壊を起こす絶技。それらは如何なる防御をも打ち破る、新選組最強剣士の奥義の再現。それを容易く桃子は引き起こしてみせる。それらは例え大具足なれど防御は不可能。全力で後退するより道は無かった。

 

『くうっ…!』

 

「!!」

 

瞬間、瞬歩にも似た機動で桃子は頼朝に追い縋る。その踏み込みは瞬間移動もかくやの迅速であり、頼朝の反応が数瞬遅れる。

 

『ぐううっ…!!』

 

そして襲い来るは、多重次元屈折現象。全く同じタイミングに放たれた五つの斬撃は、回避するルートを一瞬で潰す魔剣の領域の斬撃となって襲い来る。武者の鎧が、聞いたことのない音を上げてダメージを蓄積する。

 

『これ程の技量を持つ猛き武者が、存在しようとは…!』

 

それでもなお猛進し、気迫を絶やさないのは流石の武士といったところだろう。桃子に技量は勝らないとしても、後退は決して選ぶことは無かった。

 

しかしそれでも、鎧をもってしても。神秘を討ち果たすため星が鋳造した英雄との差は歴然だった。背丈と分厚さを遥かに上回る対艦刀の一撃が、紅蓮の刀一本で悠々と弾かれ、無力化されていく。ただの一度も、彼女の身体に傷を付けることは能わなかった。

 

「ふんっ!」

『!!』

 

そして更に、力量差を痛感させられる手練手管を披露させられる。刀の一撃を見切った桃子は、なんと頼朝の刀を踏みつけ無力化したのだ。太刀筋を完璧に理解し、把握し、技量が遥かに離れていなければ為しえぬ芸当。

 

 

『ぐおおっ…!!』

 

そして頼朝の相手は一人ではない。アタランテ、鬼一法眼、そしてリッカの援護射撃も彼を撃ち貫く攻撃を放つ。桃子一人で、攻めあぐねていた状況が一気に有利に雪崩込んだ。

 

「偉大なる将軍、源頼朝公。本当に肉親と和睦する道は無いのですか?」

 

『愚問だ、無双の武芸者よ…。私は征夷大将軍、鎌倉幕府の担い手…。公の武士頼朝!今更情など、省みるものではない!』

 

頼朝の言葉を受け、桃子は小さく頷く。武士とは体面と誉れに生きるもの。魂を甲冑で覆っていては、話すものも話せまい。

 

「ならば──私の役割はその体面を打ち壊す事。完膚なきまでに貴方を下し、リっちゃんらと本音で語り合って貰いましょう」

 

『!!』

 

瞬間、桃子の纏う雰囲気が変わる。清澄かつ物静かな佇まいに、荒ぶる覇気と闘気が漲る。

 

「お供は呼ばぬ峰打ちなれどその具足、片端から剥ぐ──!」

 

『…!!』

 

頼朝の回避行動すら、防御すら許さぬほどの極めし攻撃。それらは単純明快な構え、打ち込み、そして連撃。奥義の名を冠さぬ、どの武者も行えるであろう基本の攻撃だ。

 

だが──それは余人の誰もが届かぬほどに研ぎ澄まされ、余人の誰もが至らぬほどに磨き上げられた至高の連打である。彼女にとっては、奥義と通常技の区別など必要ないのだ。それはある意味、二打ち要らずと呼ばれた魔剣に通ずる絶招。

 

『これが……武勇の極致というものか…!』

 

鎧で、源氏の遺産で、幕府という概念で埋められる差では無かった。それらは頼光四天王、棟梁に通じる神話の領域ですらあった。討ち果たされることに誇りすら懐く程の極致であった。

 

何より──これ程の強さを持つ英霊が力を貸してくれている事実と、その力を正しく振るわせているマスターの在り方に頼朝は心から敬服と感嘆を覚えていた。

 

『人理、盤石なり…!誠、天晴…!』

 

鎧のダメージは限界を越え、膝を付く頼朝。その鎧は過重ダメージを受けたためゆっくりと解除されていく。

 

「武者の立場、体面、そして政を行う手腕。それら全てが私を上回っていた。それを振るわぬ戦いを仕掛けなければ、あなたは勝利していました」

 

桃子は静かに刀を収める。彼女が討ち果たしたのは凝り固まった武士道の具現たる鎧。頼朝の命ではないのだから。

 

「武者としては、私が上を行かせていただきました。何であれ、鬼を名乗る者に私は敗北を喫しはしません」

 

「…日本一の兵、桃太郎…その武勇、確かに堪能させていただいた…」

 

「桃子!ありがとー!流石はグランドセイバーだね!よ!日本一!」

 

「えへへ、元ですよ、元。それでは、カルデアにて帰還をお待ちしておりますね!」

 

桃子は破顔一笑し、リッカとハイタッチの後帰還する。身内たる二人に行った鎧袖一触、次は自身が身を以て痛感した形となった頼朝は、息を吐く。

 

「…こうまで完敗では、弁明釈明の余地もない。私の敗北だ、カルデアの一行。君達の援軍も来るのを危惧しては、戦闘は愚かに過ぎる」

 

「じゃあ…お話しを、してくれますか?」

 

「あぁ。敗残の将として…如何なる罰や要求を甘んじて受けよう」

 

頼朝は観念したように項垂れる。彼は理性の人だ。いや…あのように誰の目から見ても完敗を喫しては、弁明する気にもならないのだろう。

 

「あの女武者、恐ろしいな…後で馬鹿弟子も鍛え直さなくてはな」

 

「お見事でした!本当に…!では、リッカ殿…」

 

「うん。話したいこと、話しておいで!」

 

(オレの言った通りだったろう。リッカは自身の戦いでは決して負けないとな)

 

(あぁ、その通りだ。だがこうまでしてようやく、私はあの妹と向き合う領域に至れるのだ。…世話をかけた)

 

(構わん。リッカの手腕で兄妹の殺し合いは未然に防いだ。あとは負けの責任を果たせ)

 

「…兄上…」

 

義経、牛若丸が頼朝に近づく。それらを最早、拒むことを彼はしない。

 

「…好きに問え。答えよう。だが…歯に衣は着せぬ」

 

そう、ようやく、数多の存在が協力してやっと…この兄妹は真正面より対話が叶う。

 

「なぁ、リッカ」

 

「んー?」

 

「…武士って、めんどくさいな」

 

カドックの言葉に、数多無数の武者にお世話になったリッカは珍しく、極めて曖昧な表情しか返せぬのであった。

 

そして皆が見守る中、その対話は執り行なわれる事となる──。




牛若丸「兄上…私は今でも、兄上のことをお慕いしています」

頼朝「……」

義経「私の事は…憎んでおられるのですか?」

頼朝「…義経、そして牛若丸。サーヴァントとは、一面を誇張した存在だ」

「「!」」

「武者としての貴様の愚昧さ、愚劣さは永劫許さぬ。だが……無邪気にはしゃぐ幼少のお前は…」

牛若丸「兄上…!」

「──私の遠き日の追憶として、ずっと懐いている。童を憎む者がいようか。それが全てだ、義経よ、牛若丸よ」

好きの反対は、無関心。彼にとってどれほど疎ましかろうと…その縁は、切れるものでは無かったのだ。

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