人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ヴリトラ「おぉ〜!黄金じゃ!これはよいリソースに褒美となろうぞ!」

ベルゼブブ【上手く活用せよ。招待状は既に書いた。使命を果たせ】

ヴリトラ「うむうむ。楽しい心地と至上の試練を用意してみせようぞ…うむ、ドラランド…ドラランドがよいな、うむ!」

ベルゼブブ【期待している】

ヴリトラ「カルデア側も気に入ってくれればよいのぅ。そういえばおぬしの主は今回静観かの?」

ベルゼブブ【あの方は、今…】

ヴリトラ「?」

【行方が知れぬ】

「………………なんと」


詩人の招待状〜竜のテーマパークへと〜

「そう心配することも無かろう、母よ。汎人類史の貴女である以上、根は聡明なる創造の女神…きっと素晴らしいものに仕上げる筈だ」

 

【う、うん…そうあってほしい…すまぬな、アマノザコ…】

 

温羅が色々やっている頃、親元であるアマノザコと伊耶那美命は汎人類史イザナミの血迷い…やらかし…或いは年寄りの冷や水そのものである行いに戦々恐々としていた。お婆ちゃんの写真集(健全)な展開に、威厳ある女神の方は気が気でなかったのである。それをアマノザコが宥めている形だ。

 

【汎人類史は自由だな…遙か太古の神が写真集とか出せるのか…これもまた多様性…うぅ、黄泉の女神ぞ私…】

 

「まぁあちらは創造の女神、離婚していない方とヒルコの力添えがある。本来の貴女に限りなく近しい人格と姿なのだろう」

 

本来ならイザナミ、伊耶那美命と書いてイフが前者、後者が本来だと言うのにもかかわらず真逆な辺り、色んな意味で親しまれているのが解かろうものである。そもそも何故写真集に踏み切ったのかが謎である。

 

「しかし…ふふ。貴女、あちらが素だったのだな」

 

アマノザコが見てきた伊耶那美命は、憎悪と殺意に満ち溢れた荒神、邪神、黄泉の女神たる存在である。よもや本来の清澄たる伊耶那美命があんなにも愉快な存在だなどとは思いもしなかった、というのが本心だ。その笑みに、伊耶那美命は慌てふためく。

 

【あ、あ、あんな愉快なお隣のお婆ちゃんみたいなのは本来ではないと思う…!妾はもっとこう、恐ろしさ重点の黄泉の女神だった筈…筈だった…】

 

(自信がなくなっていく…)

 

【はっ、まさか!妾もああしていかないといかないということなのだろうか…!黄泉の水、美味しい…そんな感じの企画でフレンドリーな黄泉の女神を目指していく…!?】

 

みるみる内に残っていた聡明さが汎人類史のイザナミに影響されていく。そうか、これがイザナ味…、一人納得し、アマノザコは日課の水汲みに向かう。

 

「どうやら疲れているようだ、母よ。桃源郷の水を飲んで身体を清めよう」

 

【水着で!?】

 

「普段着で。少し待っているとよい。落ち着いて桃を食べながらな」

 

あなや…あなやとは…そんな感じで大分衝撃を受けている母を宥め、マイペースにアマノザコは水を掬いに行くのであった。

 

 

「富みすれば心も豊かになる。良いことだ」

 

黄泉の女神の伊耶那美命の穢れは加具土命の焔にて浄化された。後は禊という形で桃源郷の水を口にし、瘴気や邪なる神を呼ばぬように身体を浄める必要があるため、彼女はそれを娘として行っているのだ。この場、桃源郷は人類の善性と神秘が結びついた土地であり、彼女はこの空間にてのみ浄められるのだ。

 

「温羅も楽しくやっているようだし、最早何も望むものはないな…」

 

最早自身に野心などない。ただこの場所で、美味なる歴史を静かに味わうのみ。人類愛たる彼女は、母と娘の息災を祈る日々をこそ至純の宝と成していた。

 

「それにしても、おにきゅあ…温羅めは務まるのだろうか」

 

母としてはそれを懸念せざるを得ない。彼女はやや皆より大柄だ。子供達を怖がらせたりはしないだろうか。角も4本あるし…ちょっと怖いかもしれない。

 

(怖がられても挫けるな、温羅。怖くない鬼を目指せ)

 

そんな本来の目的など忘れた平穏を噛み締めていると、不意に彼女に聞き慣れぬ声がかかる。

 

『こんにちは、温羅のお母さん』

 

「?」

 

彼女の前には、人骨と羽根で作られたハープを持つ中性的な存在が佇んでいた。旅の詩人のような出で立ち…だが、アマノザコは警戒することはしなかった。

 

「新顔か?ここでは面倒事は御法度だぞ」

 

やんわりとルールを伝えるに留まる。ここにいるのであれば、道理は弁えているであろうと踏んでの対応だ。

 

『ありがとう!僕はダンテ、流れの詩人さ。音楽と芸術を勉強する、しがないってやつだね』

 

「ダンテ…。そうか。よき芸能を見出だせるとよいな」

 

その者は些か以上にまばゆく、輝いているように見えた。そんなアマノザコに、黄金の髪と銀色の瞳を持つ詩人は告げる。

 

『御家族は大切?良かったら、一緒に行ってごらん』

 

告げると共に、ダンテはアマノザコに紙を手渡した。そこには多種多様なアトラクションと竜のデザインとイラストが書かれた、金細工のチラシ。

 

「…ドラランド、近日開園。大切な家族と素晴らしき一時を…家族招待チケット…」

 

『僕の知り合いが運営するテーマパークが開園するんだって。きっと楽しい筈だよ。素敵な思い出ができるといいね!』

 

その、一切見返りを求めない善意にアマノザコは怪訝な眼差しを向けざるを得なかった。初対面の自分にここまでする理由とは…?

 

「何か、我等に返礼を求むるか?或いは、取引か?」

 

よもや異聞帯の自身らを利用せんとする者ならば、軽率にこの誘いを受けることなどできない。そう疑惑を浮かべたアマノザコだったが…

 

『そうだなぁ。じゃあ、思いきり家族と皆で素敵な思い出を作ってね!』

 

その言葉は清廉で、清澄で、蒼天に響き渡る鐘のように爽やかだった。僅かでも疑惑を浮かべた自身を恥ずべきと断じるほどの、一切の混じりけのない言霊だった。

 

「あ、あぁ。感謝する。必ずや活用してみせよう。家族と、共に」

 

『うんうん。そうしてくれると僕も嬉しいからね。きっと僕の知り合いも一生懸命催しを頑張るだろうから、そこにも注目してみて!』

 

喜びを顕し、ハープをかき鳴らす。しかし不思議な事に、その音色は空虚で淡白。心になんのさざめきももたらさぬ無機質なものだ。

 

『それじゃあ、確かにお渡ししたよ。御家族を大切にね!』

 

「あ、せめてお茶でも…」

 

そう呼び止める暇もなく、ダンテを名乗る詩人は足取り軽く去っていってしまった。いつの間にかもいでいた、桃を美味しそうに頬張りながら。

 

「……不思議な輩だった…」

 

掴みどころがなく、それでいて嘘偽りのない言動。その揺るぎ無い絶対性、疑いを持つことが許されないような、そんな正しさを思わせる純白。そんな雰囲気を持つ者。

 

ただし楽器の演奏の才能は皆無。これだけは確信しながら、用意されたちらしと羽根を見やる。

 

「カグツチ、茨木、母に声をかけてみるか。温羅はカルデアでの運営側であろう」

 

「あ!あまのさーん!」

 

ぼんやりと呟くと、温羅の家族たる娘、はるえが走り寄ってくる。髪には、絶世の白細工と見受ける羽が飾られていた。

 

「おや、はるえ。どうした?」

 

「歌と楽器がへたっぴな人、見なかった?凄く綺麗な羽根をくれたから、おむすびをお礼に作ったんだけど…」

 

どうやら桃源郷を一通り回っていたらしい。正体が掴めぬその詩人は、温羅の家族にも触れ合っていたようである。

 

「ダンテ、といったか?あやつはもう去ってしまった」

 

「そうなの?この髪飾り、凄く綺麗で貰っていいのか聞いてきなさいって母さんに言われたのになぁ」

 

見ると、それはこの世の物ならぬ繊細さで編まれた神の御業たる装飾であることが見受けられる。神々ですら、これを巡り争うやもしれぬほどの。

 

「話してて凄く面白い人なのに、歌も楽器もへたっぴだったんだよ。変な人だったけど、キレイだったなぁ」

 

「…カルデアの知己、なのだろうか」

 

考えてみれば、このタイミングで来客などやや不自然であるかもしれぬ。最早片付いた自身らを尋ねる者は、カルデアゆかりのものであろうが…。

 

「でも、桃は美味しいって言ってくれたよ!また食べに来るって!その時、きちんとお礼を言わなくっちゃね!」

 

「…あぁ。そうだな。きちんと御礼を告げるとしよう」

 

その奔放なあり方に訝しみを覚えながらも…ただ単に益をもたらしたのみのダンテなる詩人にアマノザコは首を傾げるばかりであった。

 




クリームヒルト『いきなりいなくなるとか徘徊老人ですかあなたは。縁は結んでくれました?』

ダンテ「バッチリだよ。これであの家族はカルデアの皆と一緒に特異点に招かれる。そう因果律を固定したからね」

『助かります。あなた、力だけは絶対なので利用しがいがありますね』

ダンテ「それほどでも。そっちも条件は護ってね?」

クリームヒルト『桃源郷とやらには手を出さない、ですね。何か利用できる資源が?』

ダンテ「桃が美味しかったんだよね〜」

『はぁ…?』

ダンテ「じゃ、期待してる!ヴリトラの次は君だからね!」

(この桃も、僕の羽と同じくらいキレイだなぁ。うん、護ってあげよう!)

…この不明の来訪の翌日。カルデアにて特異点が観測されることとなる。

それは、アマノザコと伊耶那美命がカルデアに赴いたタイミングと全く同じであったという。

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