『桃』
ベルゼブブ【これは…】
サタン【美味しいよ!】
ベルゼブブ【…いただきます】
サタン【…どう?】
ベルゼブブ【…………あぁ。かつて、カナンの民達が私に捧げてくれた果実の味がします】
サタン【とても美味しい、ってことかな?】
ベルゼブブ【この上なく…ありがとうございます、サタン様】
【良かったね!じゃあクリームヒルトの手伝いに行ってくるね〜】
ベルゼブブ【…本当に美味い。かつて豊穣の神であった時代を思い出す…】
クリームヒルト「あなたがそんな顔、するのね」
ベルゼブブ【クリームヒルト…】
「糞山の王、だなんて酷い名前よね。取り戻せたらいいわね、本来の自分を」
ベルゼブブ【…お前も、食べるか?】
「いらないわ。口に合わなそう」
【…そうか…】
「ヴリトラはうまくやるかしら…では、またね」
ベルゼブブ【……憎悪に、恵みの入る余地はない、か】
(……サタン様も、いただいたのであろうか。汎人類史、やはり侮りがたし…)
【…もっと食べてみたいものだ…ヴリトラにも差し入れるか…】
「ここより先、おぞましき黄金の庭へは行ってはなりません。カムイの黄金を中核に作られし特異点…人は皆、狂ってしまうのです。カムイの黄金とは、北欧に伝わる黄金と類を似する財宝。破滅をもたらす富なのです」
青髪に白き鉢巻、すらりとした長身に完璧な均整の肉体と弓矢を有する淑女。アテルイ…アイヌの英雄が、なんとカルデアの前へと立ち塞がった。いや正確には、警告をもたらしたのだ。
「アテルイ…私の中のシトナイが再会を喜んでいるわ。流石はアイヌの勇士。私達の誇りねと」
「し、シトナイ…シトナイ様の事でございますか?その気配、まさか女神シトナイ…?」
同郷の女神に面食らいながらも、咳払いを一つを行い調子を取り戻すアテルイ。シトナイを有する組織、そしてマスターであるからこそアテルイは譲らない。
「私達もあの特異点をなんとかしたくてやってきたんです。アテルイさん、どうか行かせてくれませんか?」
「あなたが…カルデアのマスターですね。その志、素晴らしく思います。しかし此度だけは、人の力や人の心を持つものこそが危ないのです。強靭な心身を持つものこそ、狂ってしまえば何より恐ろしき脅威となる。抗えるかすら未知数たる黄金、名声の欲…それはあまりにも危険なのです」
「そ、それではアテルイさんは何故ここにいらっしゃるのでしょう?」
マシュの問にアテルイは迷うことなく返す。それは聡明さと勇敢さに満ちたものだ。
「我等が故郷に、人理を乱す禍津が顕れた。それを正し、鎮めることはアイヌの英霊としての私の使命と受け取ったのです。黄金の魔力を鎮め、あるべきものをあるべきものへと戻すために」
その為に、誰も巻き込まず被害を出さない為に一人でその任務に挑まんとしているのだ。責任感と使命感を強く懐く、善なる英霊と判断するに不足ない言動に、シトナイは耳打ちする。
(リッカ。知っているだろうけれど、アテルイは田村麻呂と武力や知力を競えるほどの英雄よ。是非とも味方にしたいわ)
(うん。誰かに解決を任せるなんてありえないもんね!)
頷き、リッカはアテルイと対話を行う。かといえど、素直な人格であることは見受けた。単純な問答である。
「あなたがカムイの黄金を浄化するんですか?」
「はい。アイヌに伝わる武術、占術、魔術は一通り収めています。邪悪なる目論見に扱われし黄金を浄めることが、解決への道筋でありましょう」
「狂う、と言いましたが。アテルイさんは大丈夫なんでしょうか」
「えぇ、はい。私はアイヌの英霊達の加護により、魔術や呪術に対する強い耐性を有しています。ですので、黄金の浄化に挑まんと思っています」
「でしたら私達にも協力させてください!特異点の解決は、カルデアの使命で、大切な行いなんです!」
その言葉の重みをアテルイは受け止めた。冷静に考えずとも、一人のはぐれサーヴァントよりも協力し提携すれば成功率はぐっと上がる。理性や理屈では百も承知だ。
「…数多の活躍、聞き及んでおります。どんな細やかな歪や歪みも見逃さない全霊、その在り方でこそ、今までの快進撃があったのでしょうね」
「では是非とも手を取り合いましょう!私達ならきっちり出来るはずですよ!」
だがしかし、アテルイはだからこそ危惧している。この無垢なる心や尊き志すらも下手すれば飲み込んでしまう。そんな、圧倒的な悪寒と不吉がアテルイに二の足を踏ませる。
「…駄目です。皆様の心は素晴らしいもの。だからこそ、悪辣な悪龍、更に向こうの存在にスキを見せるわけにはならないのです」
「アテルイ、あなたは…いえ、歴代のアイヌの英雄達は何を感じているの?」
シトナイの言葉に、言葉短くアテルイは答える。
「…黄金、試練、そして光輝の翅と、深く暗い龍の坩堝…アイヌの英霊たちは、星見にてそれらを見出しました。そしてそれは、地の底より来たるかのような不吉でもあると」
「だからこそ、たった一人で挑もうとしているのね?」
「…アイヌ縁のものがカルデアに仇なしたとあれば、我等にとって耐え難き恥。召喚された理由が贖罪であるなら、私は決意を以て挑まんと考えました。故に、どうかここは私にお任せして…」
『そういう使命を懐いたヤツは危なっかしい。何故なら自身を省みないからだ。…そうオレに教えてくれたのはお前だろうよ、アテルイ』
アテルイが息を呑む。その声、言葉は…かつて共に語り合った至高の友宜を結んだ者だと理解する。
「田村麻呂…!カルデアに招かれていたのですね!」
そう、坂上田村麻呂である。かつて戦い、そして夢を語り合った存在。普段以上に冷静に思える彼の言葉がアテルイの頑なさを解きほぐす。
『一人がいくら強くても、出来る事はたかがしれている。オレらはそれをよく知っているじゃないか。なぁ、アテルイよ』
「…ですが、未来を護る組織の大切な人達を、ただ一人でも狂わせるわけには…」
『見くびっちゃあいけねぇな。このカルデアに惰弱はいない。狂いや苦難などに物怖じなんぞ今更、って話だ。故にアテルイよ…』
田村麻呂は言葉をぐっと抑えた。伝えたいことは万とあるが、賑やかで愉快な面ではなく、静かで落ち着いた征夷大将軍としての彼はアテルイを理でもって説く。
『彼女らが狂わぬように、お前の力を貸してはくれないか。お前がカルデアの皆を慮るように、オレや、きっとシトナイ殿も、お前が狂い果てる結末は御免なんだよ』
「…田村麻呂…」
田村麻呂の物静かに語る姿にカルデアスタッフは驚愕している間に、リッカも田村麻呂の助け舟に全力で乗る。
「使命を果たしましょう。私達皆で力を合わせて。そうすればきっと、何も喪うことなく乗り越える事が出来るはずです!」
「田村麻呂…カルデアのマスター様…」
その決意の力と強さを、何よりも知っているアテルイ。それらを折り曲げるにはまさに命を賭さねばならぬだろうと確信したアテルイは、そっと弓を下ろす。
「此度の異変は、我等アイヌの不始末。我等が相対するが道理。ですがそれを承知で、恥を忍んでお頼みいたします」
どうか、自分と共に異変解決を行ってほしい。そう願うアテルイに、シトナイは返答する。
「初めからそう言ってるでしょう?こういうのは頭数が多い方が絶対に上手くいくんだから」
『あぁ。船頭多くして船山に登るってやつだな』
「それは多様性の欠陥と危うさを示した言葉よ、田村麻呂。…かたじけありません、シトナイ様。そして、カルデアの皆様」
説得を受け、アテルイははぐれサーヴァントではなく、カルデアと仮契約を結んだサーヴァントとして力を振るうことを決心した。カムイの黄金と、それを利用するものを討つために。
「アテルイ、皆様へのお力添えをさせていただきます。どうか黄金、そして光輝の輝きに惑わされる事のなきように…」
深々と頭を下げるアテルイ。話は無事にまとまった。後は田村麻呂がひと騒ぎするのやもしれぬと目線をやってみれば…
『よし、じゃあまずは情報共有だアテルイ。お前が感じ、読み取ったものをカルデアに教えてくれ』
「勿論よ、田村麻呂。カルデアの皆様に迷惑はかけていない?」
『あぁ。クールでかっこいい征夷大将軍だぜ。アテルイも招かれるよう、オレも後方で尽力するつもりだ』
「「………た、タムーラ…」」
「鈴鹿と接する時とはまるで違うのね…」
いつもとまるで違う冷静で理知的な姿に、シトナイを含めた全員が面食らいながらもアテルイを歓迎するのであった。
「それではこちらへ。混沌と憎悪の坩堝、ドラランドへと御案内致します」
そして一行は、アイヌの英霊によって件のドラランドへと導かれる──。
リッカ「……………」
マシュ「……………」
シトナイ「…………」
本来、竜種というのは生物の頂点である。それらは極めて希少たる生き物であり、滅多に現れるものではない。
だがそこには、大量のワイバーン、ドラゴンがスタッフとして空を舞い、リザードマンといった亜竜種達が受付を行っている。
アテルイ「ここが、カムイの黄金を元に生み出されたテーマパーク…竜達の楽園、人と鬼、竜種が集う場所たるもの」
シトナイ「それが、ドラランド…」
アマノザコ『受付はそこなのだな』
リザードマン「ようこそドラランドへ!素敵な一時をお過ごしください!」
気後れする皆に、スタッフリザードマンは朗らかに挨拶する。咆哮と歓声に満ち溢れたテーマパークが、口を開けたドラゴンのように構えていた──。
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