人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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カドック「よし、リッカが探索するならこっちはサークル確保だ。試練に挑むとしよう」

ベリル「そういう事なら俺も付き合うぜ?一緒にやってやろうや」

「ベリル…よし。肉体的と精神的があるらしいが…」

ベリル「精神的だろ。それは幸い一家言あるぜ?絶対上手くいくぜ!ニャル旦那仕込みだ!」

カドック「…解った。よし、行くぞ!」


観覧車

『お二人様でお入りください』

「「は?」」


観覧車の試練〜精神編〜

「確かに、精神的な負担や苦痛はあると言っていたよ。あのヴリトラは」

 

「おぅ、確かに言っていたな」

 

「その言葉に偽りは全く無いことが解ったよ。あぁ、これは確かに精神的に凄く苦痛に感じるものなんだろうな」

 

「あぁ、何せ…」

 

そうである。精神的な試練を選んだカドックとベリルはまさに精神的に苦痛を味わう感覚に陥っていた。そう、何故ならば…

 

「野郎二人で観覧車乗ってるんだからな…」

 

「あぁ…」

 

狭い個室、向かい合う座席。そして顔を突き合わせる二人。そう、今彼らはゆっくりと動き上がる観覧車の個室に閉じ込められ、密室にて二人きりなのだ。男二人の、濃密な観覧車である。

 

「なんか…僕の思ってた精神的な苦痛とは違うんだが…!」

 

そう、それは男やもめ。独身男子の悲哀。女性という存在が神秘の塊である者の生き様。ベリルはともかく、カドックは誘えば来てくれるであろう女子の誘いを蹴ってベリルと来たとしか言えないような状況が一層悲哀を誘う。

 

「いやこれ大分キツイだろ…何が哀しくて男だけで観覧車、いやさテーマパーク巡ってんだって話だぜ…百歩譲って連れ合いで来たとしても、なんで観覧車選んだんだって話だぜ…女っ気なさ過ぎだろ…」

 

ベリルは当然の如くガチ凹みである。彼は恋愛観や人付き合いはまともなので、このなんとも言えない空間に心をやられてしまっているようだ。まぁ彼に一緒に行く女性などいないのだが。清楚なマシュはカルデアで死んだのだ。リッカの盾であるために。

 

『十分間、のんびりとした一時をお楽しみください』

 

(長い…!!)

 

カドックからしてみてもこの間の保たなさは痛感するところだ。5分でもキツいというのにその倍である。非常に辛い。逃げ場の無いこの空間が非常に狭苦しい。

 

「まぁ、命を懸けたデスゲームとかじゃなくていいじゃねぇの。こいつがグランドマスターズの働きに繋がるなら楽なもんよ。そう割り切ろうぜ、カドック」

 

「まぁ…それはそうだけど」

 

「だろ?のんびり…あ?」

 

そんなベリルが、向かい側の観覧車部屋のリザードマンカップルの姿を認め青筋を立てる。

 

(描写憚られるイチャイチャ)

(描写憚られるイチャイチャ)

 

「カドック、ガンド撃つぞ。ぶち当てんぞ」

「早まるなベリル!男の嫉妬はみっともないだろ!」

 

「るせぇ!トカゲ野郎どもが盛りやがって!人間様の前でイチャイチャしてんじゃねぇ!」

 

「大丈夫だベリル!今のアンタはもう人間と呼べるか怪しい!」

 

「何が大丈夫なんだよオイ!?吹っ切れてからいい性格になったよなお前!」

 

「止めろ暴れるな!落ちたら死ぬぞこの高さは!堪え忍ぶんだ、どんな苦痛にも終わりは来るんだ…!堪え忍ぶんだ…!」

 

ベリルをなだめ、そして改めて席に付く二人。暴れれば暴れるほど狭苦しい個室が男臭くなる。地獄である。

 

「じゃあ…互いのカルデア近況でも語るか…」

 

「そうだな。色々、本当に色々あったからな…」

 

カドックとベリルはせめてもの時間を有意義にしようと考えぽつぽつと語りだす。普段なら会話をスムーズにしてくれるリッカもペペロンチーノもここにはいない。

 

「ニャルラトホテプと接触したんだよな、アンタ。…大丈夫だったのか?」

 

ニャルラトホテプは神出鬼没で、少なくともカドックはあまり出会わず会話もあまり覚えがない。割と謎の人なのである。だが、カルデアの暗部を受け持つ者であることは確信している。だって邪神だし…

 

「あぁ大丈夫だぜ。旦那に会ってから、この世のあらゆるもんは恐るるに足りなくなったって意味でな。苦痛も恐怖も、あの人に比べりゃ屁でもないぜ」 

 

それは人格とか壊されてないか…?笑い方とかがなんだかおかしいベリル。相当に恐ろしい目に遭ったのだろう。知りたく無いし…

 

「生き残りたきゃ関わるな。まともな人間でいたけりゃあな…」

 

【な ん だ そ の 言 い 草 は】

 

「うぉぁああぁ!!窓に!窓に!!」

 

窓!?青空が澄み渡る景色を指差し泡を吹くベリル。もうこれはダメみたいだな…落ち着かせながらカドックはぼんやりと思ったのだった。

 

「わ、悪い…なんか窓に三つ目の旦那がへばりついててよ…」

 

「なんだそのホラー…」

 

「あぁ、これも精神的な試練か…俺のことはいい、カドック、お前の事を聞かせてくれや…」

 

なんか勝手に瀕死になってるベリルに促されるまま、カドックは思い返す。カルデアに来てからの事。リッカを目標にしてからの事を…

 

「………………」

 

「カドック?」

 

「…………悪い。時間が足りない」

 

それが答えだった。最低でも一時間は…3時間は…5時間は…半日は使う。それくらいの濃密な時間なのだ。さらりと語れる話など何もない。第二の人生と言ってもきっと大袈裟で無いことは確信している。

 

「へぇ、そうかいそうかい。ならどうだ?リッカ相手に勝ちの目は少しは出来たか?」

 

「あるわけ無いだろ…今は」

 

「今は。へぇ…今はねぇ。そうかそうかカドック。じゃあ頑張れよ。その今が、いつかになるまでよ。先輩として、陰ながら応援させてもらうぜ」

 

そういえば、リッカがベリルにはケジメを付けると言っていた。あれはどうなったのだろうかとカドックは問う。

 

「そういえば、ケジメというのはどうなったんだ?リッカと戦ったのか?」

 

「………………」

 

「ベリル?」

 

「…俺から言える事は一つだ。マシュに手を出すのだけはやめとけ。俺らはとんでもない後輩ができちまった、って事だけは言っておくぜ」

 

この人色んな人の地雷踏んでるんだな…。叩けば叩くほど埃が出る人だと改めて思う。まあ、ロマニが助走つけて殴ったって話も聞くし、ベリルの名前聞いたリッカの目が据わりきってた時期もあるし、妥当なのかもしれないが。

 

【あんまりリッカを怒らせんなよー?】

『屋上で私達に圧殺』

 

「だから窓に!窓に!!」

 

「だから誰もいないって…。…でも、なんていうのかな」

 

「んぁ?」

 

「…まさかこうして、皆でまた人理を救う戦いができるとは思ってもみなかったよ。してもしきれないが、リッカには感謝してるんだ」

 

彼女が投げ出していれば全ては終わっていた。彼女がやってくれたから、今自分たちはここにいるのだ。その恩義は、これからも忘れることはないだろう。それもまた、自分の大切な戦う理由の一つだ。

 

「へっ、逞しくなっちまってよぅ。…で、だ。こっから先は大人の話をしようや」

 

「大人の話?」

 

「浮いた話はねぇのかよ?ほら、気になるヤツとか…」

 

「…途端に会話の水準が下がったな…特に話すことなんてないぞ。根暗な方だからな、僕は」

 

「ホントかよ?探せば色々あるんじゃあねぇの?」

 

「無いものは無い。アナスタシアはトレーニングメニュー組んだり足したり差し入れしたりしなかったりだし、アタランテは僕がアップルパイ焼かないとやる気を出さないし、フランドールはいっつもベッド占拠してるし、マシュはリッカに影響されてゲームやりに部屋に乗り込んでくるし、それくらいだぞ?話せる事なんて」

 

滅茶苦茶あるじゃねぇか…。ペペロンチーノが言っていた、カドックは本気と気運が巡れば物語の中心に立てるといった見立ては全く間違っていないことを実感する。

 

『お疲れ様でした。またのご利用をお待ちしております』

 

そんなこんなで、観覧車は一周し地上に二人は降り立つ。弾む会話は、体感時間をぐぐっと縮めてくれる。

 

「ここで話した事はオフレコだぜ、カドック?」

 

「誰に向かって話せっていうんだ、こんな話」

 

「そりゃあ、ペペロンチーノやキリシュタリアやヒナコにデイビッドにオフェリアに…」

 

「ほとんど全員じゃないか…。まぁ…それなりには楽しかったな」

 

「あぁ、それなりにな!」

 

挑んだ試練、無事クリア。ちょっと想像と違った毛色の、他愛もない語らいを終え、扉に手をかける。

 

「…扉開いたら旦那いたりしねぇよな?」

 

「どれだけトラウマなんだよ…」

 

関わらないのは正解なのかもしれない…。ベリルの深淵っぷりにゾッとするカドックであった。

 

 

 

 

 




キリシュタリア「やぁふたりとも!お疲れ様!試練はどうだった!?」

ベリル「窓がめちゃくちゃ気になった」

カドック「たまには悪くないな。今度は男5人で乗ってみるか?」

ベリル「マジかよ!?勘弁してくれよ…」

キリシュタリア「ほう!それは楽しみだ!じゃあお互いの好きな人を曝け出そう!」

ゼウス『えー?私の好きな人はねー』

カドック「待 っ て く れ」

無事にサークルを確保。リッカの戦いに、確かな成果を繋げたカドック達であった。

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