人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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終わりは近付いている



確かに、確実に


無銘の終わりは、近付いている――


魔術王

エレベーターより降り、たどり着くはロンドンの地下数百メートル

 

 

 

「さて。ここに我が財、数ある聖杯の一つを回収しに来たわけだが・・・」

 

 

器が顎に手を当てる

 

 

「うん。目の前にあるよね聖杯?どう?ロマン、マリー」

 

 

『あぁ、しっかり安置されている。装置から取り外すのはそう難しくはないはずだ』

 

「はい。取り除き、アパルトメントに帰還するのがこの作戦の完遂になる筈ですが・・・」

 

 

 

――ただの回収作業にしては、器の警戒体勢がかなり高い

 

組んだ腕には力みが入り、マスターやマシュを護るが如くいつもより一歩前へ

 

 

「うむ。此度の特異点修復は我等の勝利。勝者となった以上、戦利品たる聖杯を拝領するは当然の権利ではあるのだが、な」

 

意を決したように口を開く

 

 

「――我が話した冠位、英雄の決戦術式による上位霊基の話題は覚えているな」

 

 

『一つの悪に対する、七つの英霊、グランドサーヴァントの枠組み、だったね?それがどうかしたかい?』

 

 

「――どうやら間が悪かったようだ。その器にて分不相応にはしゃぐ雑種が、間もなくここに顕れると我が眼は見通した」

 

 

『な――』

 

 

――なんだって!?

 

顕れる、ということは・・・グランドサーヴァントの一基がこの場所に出現する、ということか!?

 

 

「な、なんで!?グランドサーヴァントって、ゴジラから世界を護る為に顕れる人類の味方じゃないの!?」

 

 

『そうだよギル!ここに、こんな地下にグランドサーヴァントが顕れる理由なんてないはずだ!倒すべき敵は、もう全て打ち砕いた筈だろ!?』

 

 

「確かにまともな理ならあり得まい。グランド等という大層な肩書きなのだ。それなりの礼節を弁えておらねばこちらとしても同じ英霊として失望を隠せぬだろうよ。――それが、グランドサーヴァントであるならばな」

 

 

――グランドなのに、グランドじゃない・・・?

 

 

「勝敗を決し、情勢を決したようにこのタイミングにて此方に干渉を成すなどまともな思考、英雄の矜持を持つ者ならばあり得まい。先の嵐の王のようにはな。ならばソレは分不相応にはしゃぐ雑種か、屍肉に群がる有象無象か。大方器の強靭さを己が威光と履き違え、位にすがり此方を見下し悦に浸る救い様のなき下らぬ小物ではあろうよ。信じられぬ話ではあるが我は恥じ入るばかり。冠位も質が落ち果てていたものと嘲笑を抑えきれぬ――まぁそれはよい。マシュ、マスター。それなりの覚悟はできているか?」

 

――そして、その問いはこちらにも投げ掛けている

 

 

「見えるクラスはキャスター辺りと見ている。小賢しい手練手管に長けている故、視線で呪いの一つも飛ばしてくるやもしれぬ。――下手をすれば、指ひとつ動かせず死に至る事も起こり得よう」

 

 

――魂と精神、肉体の繋がりがかつてないほど緩くなっている。意思があらば、即座に離脱できるほどに

 

 

これは・・・『その気があるならば、即座に遁走せよ』という、器の気遣い、慈悲なのだ

 

――かつてない警告に身が引き締まる

 

 

「この特異点で貴様らの成し得る戦いは終わった。体裁を取り繕う故、連れてはきたが・・・もし覚悟なくばここは我に任せ、アパルトメントで我の帰還を待つのもよい」

 

 

『それではギル、貴方は・・・!?』

 

「無論聖杯を回収する。この我が宝を捨て置き逃げ仰せるものか。財を集めるは我が本能。それがどのようなものであれ、宝であるのなら我が庇護し獲得するに充分な理由となる。それを阻むものは悉く粉砕するまで。例え相手がグランドを名乗る雑種であろうともな。・・・どうだ?腹積もりは決まったか?」

 

 

その声音は笑っても、怒ってもいない。ただただ真剣だ

 

 

「この人理焼却という一連の騒動の大元、下らぬ結論を見いだし我が庭を一掃した人類史上最高峰の馬鹿者共の面構えを、死を覚悟で拝んでやる気概はあるか?」

 

・・・自分は、少なくとも自分の気持ちは決まっている

 

――マスター達の返答を待つまでもない

 

 

ここに来たときから、いや・・・フォウの問い掛けに首を振ったその日から、自分の返答は決まっている

 

――財を選別する

 

 

「――・・・」

 

 

グランドが相手であるならば、全身全霊を込めて最高級の財を選びとらなければならないだろう

 

肉体の眼を駆使し、未来を予知し数手先まで設置、装填を果たさねばならないかもしれない 

 

 

――王の身体を、あらゆる敵から守護するためにも、自分はここで逃げるわけにはいかない。自分の魂の拠り所が無くなるとか、そういう問題じゃない

 

 

(――君は、逃げないんだね。無銘)

 

 

――うん。だって、誓ったから

 

 

この自分がいる限り、英雄王の威光にけして土はつけないって

 

 

何より――これは自分の気持ちの問題だ

 

 

ここまで庇護を受け、彩りを授かり、威光を目の当たりにし。共に旅をしてきた以上、自分はこの王と運命を共にする

 

 

勝利も、敗北も。砕け散る運命があるならば、もろともに

 

 

それが魂たる自分の矜持だ。それが肉体と精神に寄り添った自分の成しうる敬意だ

 

 

自分は逃げない。――そして何より

 

 

(――)

 

 

現実がどうであれ、この英雄王が負ける未来なんて受け入れるつもりはない!当たり前の結末なんて、この自分が覆して見せる!

 

 

今まで英雄王が、自分達にしてくれたように――!

 

(無銘・・・)

 

 

「もちろん逃げない!」

 

 

そしてそれは、マスターたる少女も同じだった

 

 

「もう私、一生分悩んだし苦しんだから大抵の事は平気平気!私が私である限り、私はどんなことからも逃げたりしない!だってそれが、私に決めた生き方だから!」

 

はっきりと、自らの在り方を宣言する

 

 

「マスターとして、最後までギルとマシュの傍にいる!死ぬときは、私が傍にいるから!だから私は逃げないよ!どんな相手でもね!」

 

「私も、先輩と同じです」

 

決意を共にする雪花の少女

 

「私の使命は、世界を救うマスターと。カルデアを治めし王を護ることです。だから――力及ばずとも、この心と身体は。最期まで王とマスターに捧げる覚悟です!」

 

――マスター、マシュ・・・

 

 

『そう。なら・・・私も覚悟を決めるわ』

 

そして、カルデアに咲く希望の華も決意を顕す

 

 

『どうせ一度死んだ身だもの。今更何が来ようと怖くはないわ。それに私は怯える暇なんてない。あなた達の生命を背負う責任を全うしなければならないものね』

 

「マリー!」

 

 

『嬉しいことはより嬉しく。辛いことは半分に。それが友達よ、リッカ』

 

マリーのウィンクに、笑顔で頷くリッカ

 

『マシュやリッカ君が逃げないなら、僕の道は決まってる。そもそも何がグランドだ!僕たちは何度も死にそうなめにあってるんだ!涙も恐怖も品切れした僕に怖いものなんかないぞぅ!』

 

「そう言うのをな、只の痩せ我慢というのだ」

 

『決意を台無しにしないでぇ!ともかく僕は逃げない!マギ☆マリに遺言は残した!死ぬまで生きてやるぞ!だってそれが僕の選んだ生き方だからね!そしてこの楽園で!タダスイーツ頬張って無料ネットサーフィンしまくってやるんだ!』

 

「ははは、こやつめははは。では来月から料金を取るとするか」

 

『世界はもうだめだ――!!!』

 

(煩いなコイツ。ボクもそうさ。大事な友をおいて逃げたりするものか)

 

――フォウ・・・

 

(ツーリング、必ず行くって約束したもんね。ボクは必ず、その約束を護るよ)

 

――うん!

 

 

「ハッ、解りきった事を聴いた我が愚かであったわ!揃いも揃って豪胆な馬鹿者ばかり!全く、呆れるほどに輝きを放つ我が財たちよ!ふはははははははは!!」

 

膝を叩き大笑いする英雄王

 

「あぁ――もはや貴様らは我が磨くまでもなく、自ら輝き、我を魅せる彩りを身に付けていたのだな。フッ。雛鳥であった頃が遠い昔のようだ。引率の看板は外さねばならぬか!」

 

 

――はい。自分が、王が大好きな、最高の人間達です

 

 

――今になって確信する

 

 

自分は・・・此処に来れて良かった

 

 

「解りきった問いを投げたこと、笑顔で許せ!ならば良かろう!我等が取るべき大将首!有り難く拝み、品定めしてやろうではないか!!」

 

 

ふはははははははは!と響き渡る笑いと共に

 

 

 

 

『――笑わせる。嗤わせる。決意だと?輝きだと?そんなものが何になる。下らない、実に下らない』

 

 

冷えきった声音、圧倒的な威圧感

 

 

「そら来たぞ、取るに足らぬ黒幕とやらのお出座しだ!」

 

『ロマニ!あれは!』

 

『――そんな、バカな』

 

愕然と呟くロマン

 

 

「見覚えがあるのか、ロマン」

 

 

『あれは、間違いない・・・そんなバカな!そんな・・・!あれは、『ソロモン』!魔術王ソロモンだ!』

 

「魔術王・・・ソロ」

 

「阿呆。無闇に口に出すな。言葉に乗せられ呪詛の一つもかけられよう。誠小賢しいにもほどがあるがな」

 

放たれる魔力を風と流し涼しげに腕を組む器

 

しかし、こちらは意識を保つだけで精一杯だ・・・!

 

――なんて、威圧感・・・なんて、凄まじい風格だ・・・!王の庇護がなければ、即座に消し飛んでいた・・・!

 

 

英雄王の廻りを除く一帯を覆い尽くす魔力と威圧。天使と悪魔を越え、神にすら至らん魔力

 

 

これが――グランド・・・サーヴァント・・・!

 

『――――』

 

――?

 

「誰に赦しを得て我を見ている、下朗。王の前では面を伏し、膝をついて待つのが礼儀であろう」

 

――こちらを、見ている・・・?

 

 

『『不在』。――我が前に立つ愚かな生命。焼却されし世界に漂う頼りの無い船、カルデア。それに乗る憐れな足掻きを繰り返すのがお前たちという存在だ』

 

 

その言葉は、ひたすらに無感動で、抑揚のないものだった

 

『マシュ!リッカを護りなさい!離れてはダメ!』

 

 

「はい!先輩!」

 

 

「うん!――貴方がグランドキャスター!、レフが言っていた『王』なの!?」

 

リッカが問いを投げる

 

『黙れ!!』

 

「ッ!?」

 

途端に、動揺、いや、狼狽といっていい程取り乱すグランドキャスター

 

「――ほう。成る程、そういうことか」

 

 

『我等を見るな、見るな、見るな、見るな!!そんなモノは見飽きた、見飽きた、うんざりだ!!飽きるほど見た、眼球を抉り、死角を抉り、ただひたすらに見せつけられた!我等は結論を出した!もう無価値と見定めた!!だからもういい、捨てたのだ、乗り越えるのだ!!我等が視界に入るな、我等が決意を揺るがすな!そんなものはもういらない、必要ない!止めてくれ、これ以上そんなものを見せないでくれ!醜い、醜い醜い醜い醜い!!!』

 

 

顔を覆いながら、嘆きと憐憫を撒き散らす魔術王

 

 

「な、なに?どうしたの?」

 

「貴様の深淵を覗き、生まれた精神を焼かれ蝕まれているのだ。滑稽よな。我ですら見抜けなかった深淵だ、ヤツめに読めるはずもなかろう。――例え話ではあるが。有象無象が鏡に写った貴様の闇を迂闊に覗けば気が触れるは自明の理。貴様の抱える深淵は、貴様でなくば堪えきれぬのだ」

 

――マスターの心を、視てしまったから・・・ああなったというのか・・・?

 

 

「え、えぇ?私の心ってそんな酷い代物なの・・・?どうせならグドーシと会ってからの思い出を見てくれればいいのに・・・」

 

 

がっくりと肩を落とすマスター

 

 

『――視る、悲劇・・・あー・・・成る程、そういうこと・・・なのかな?』

 

『・・・ロマニ?』

 

『あ、いやなんでも!マシュ、ヤツに話しかけるんだ!多分ギルやリッカ君では会話にならない!』

 

――マスターはともかく、器ですら話にならない・・・?

 

「は、はい。貴方は本当にグランドキャスターなのですか!?」

 

 

『――答えよう。問いには返答が必要だ』

 

 

先程の剣幕が嘘であるかのように、理知的に振る舞うグランドキャスター

 

『――・・・あー・・・』

 

『我はグランドキャスター、魔術王ソロモン。世界が招きし世界最強の七騎が一つ。貴様らの人理を焼却せし偉業を果たした者である』

 

『――メディア師匠が言っていた、魔術師では勝てないという意味はこれだったのね・・・!グランドキャスター、それが敵の首魁・・・!』

 

『そうだ!そうだ!なぜ今まで解らなかった!なぜ今まで気付かなかった!!』

 

再び変わる。今度は、ヒステリックに喚く女子のように

 

 

『それだけの情報が集まっていながら何故私に気付かなかった!?そこまで愚鈍か!?無能なのか!?私が取りこぼした組織の程度がこれか!?弾劾する、弾劾する、弾劾する!情けなさと絶望で憤死も検討されようものだ!』

 

「あ、出逢った頃のマリーそっくり!」

 

『だろうね。あのソロモンは多分、相手によってコロコロ態度変わるよ。鏡みたいにね』

 

――鏡みたいに・・・?

 

「ほう、ソロモンファンには何かが見えたか?」

 

『使い魔使いすぎて頭おかしくなったんだと思うな』

 

「そうか、では我も遊んでやるとするか。――我が言葉に耳を傾けよ、有象無象」

 

 

 

――ピタリと、動きが止まる

 

 

『――――』

 

 

「どうした有象無象。我に返す言葉の一つも浴びせてみよ。それともあれか?『我に見合う者がおらぬ』か?そら、返答してみろよ。『越える』としながら『使役される』矛盾を抱えた魔術の王よ。それとも――王との語らいの席にも着けぬ雑種か貴様?」

 

器が楽しげに投げ掛ける

 

 

『――対応する御柱、不在。対話、無用と判断』

 

――なんだって?

 

 

『――邪視による監獄塔への幽閉を提案。受諾』

 

刹那

 

「っ!」

 

リッカがぐらりとよろめく

 

「先輩!?」

 

「?だ、大丈夫大丈夫!睨まれてくらっとしちゃっただけ!」

 

 

「貴様――」

 

(――まずい!無銘!!気を確かに持つんだ!!)

 

 

――っ!?

 

 

 

 

『――内部に潜む魂と対話を開始する』

 

 

決議が下りし瞬間

 

景色が暗転し

 

 

「何?――・・・・・・・・・」

 

 

瞬間、英雄王が停止する

 

 

「ギル!?」

 

 

(あいつら――!!)

 

 

 

『ギル!?どうしたのですか!?ギル!?ギル!?』

 

「英雄王っ!?」

 

 

「――――――――・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

『肉体』と『精神』を束ねる『魂』は

 

 

 

今、72の魔神の手に堕ちる――

 

 

 




『無銘の魂』



――その魂の終わりの刻は、すぐ其処まで迫っていた――

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