──すごぉい…月や花がきれい…夜空も…。
アルクェイド〘ドクター・ロマニの魔術と、私の空想具現化を合わせ、限定的な置換を条件とした千年城の再現です。気に入ってもらえたならば、良かった。本領を振るえないながらも手を貸してくれたドクターにも、感謝を〙
──えっ?ドクター、本領を振るえないの?
〘はい。彼は自身の代名詞である『七十二柱の魔神』を誰一人使役できないようなのです。喚べないし、喚ぶ気もないし、喚ばれる相手が誰もいないとのこと。ですので今の彼は魔術の王として、全盛からかけ離れているでしょう。まぁ…『それ以外の魔術でなんとかするから大丈夫!』なようですが〙
フォウ(誇張抜きで全部使えるからね、あいつ…)
──ゲーティア…。皆…
アルクェイド〘さぁ、どうぞ。霊峰の雪解け水…を、再現したお冷です。エアは3歳を越えたばかりですので、お酒など論外なのは知っていますから〙
──あ、ありがとうございます!
〘だめです〙
──だめ!?
〘敬語はだめです。いつものように、親しげな口調で。サーヴァントシステムを使い、イフの私で話してはいますが…れっきとした、いつも一緒にいるアルクなのですから〙
──じゃ、じゃあ。ありがとう、アルク!
〘はい、どう致しまして〙
フォウ(可憐だ…)
〘それでは、お茶会を始めましょう。エア、聞かせてください〙
──は、はい?
〘あなた、そしてフォウは…一体、何者なのですか?〙
〘……全能の意志に触れ、この世界へと転生を果たした転生者。そう…、そうでしたか。あなたは、そうだったのですね〙
月の城、星を覆う天蓋の頂。二人と一匹以外はおらぬ荘厳な空間にて、エアは己の出自と来歴…ここにいる顛末を話した。己はこの世界に生まれ落ちた生命になく、外なる世界のさらに向こう…最早思い至らぬ外部からの稀人であると。アルクェイド…星の真祖はそれを聞き及び、ただ静かに頷いた。
──隠していた訳じゃないんだけれど、これは別に公言することでもないと思ったから。ワタシはギルと身体を共有してる魂だけの存在。アカシックという名前の彼が導いてくれたからこそここにいる、この世界の客人…みたいなもの、かな?
エアとしても、最早無銘以前の自身は思い出せない…というより、知覚すらできない。アカシックとのやりとりは思い出せても、自身がかつてなんであったのか…それは最早思い馳せることすら叶わぬことをアルクェイドに告げると、彼女は驚嘆を表す。
〘あなたと共に過ごすとき、得も言われぬ感覚が常にありました。奇特なようで、それでいて新鮮な心地。この世界のどこにもない、全くの未知を見受けた時の感覚…。そういう、事だったのですね〙
──重ね重ね、これは隠していた訳じゃないんだよ。ワタシは自分が何故、どういった存在なのかはあんまり考えてなくて…ただ、どうするべきかをずっと考えていたから。あんまり出自に頓着が無かったの。不興を買ったなら、本当にごめんね。
友でありながらの不誠実、それをエアは詫びるも真祖は首を振る。
〘ありがとう、エア。あなたにとって重大でなくとも、それはこの場に相応しき秘中の秘。話してくれた事実を以て、私への親愛の顕れと受け取りましょう〙
──そ、そんなに畏まって御礼を言われることかはわからないけれど…ど、どう致しまして!
今まで触れ合ってきたアルクェイドとは何もかもが違う、箱入り娘のような淑やかさに気圧されるエア。英雄姫とはあくまで称号であり、彼女のような生まれながらの姫と争える上流階級礼節はまだまだ未熟なのだ。ただ…贈ったマフラーをしてくれている事が、いつもの彼女であることの証明だった。
〘星の獣。あなたも…そうなのですね?〙
そしてアルクェイドは、次いで問いかけを行う。そう、フォウもまた…この世界の正しき在り方から少し外れている。
(あぁ、御察しの通りさ。ボクもまた転生者であり、ティアマトも同じだ。全能の管理者アカシックに呼ばれ、ボクはエア…無銘を見る者として。ティアマトは今度こそ子に味方するために転生を果たしたんだ)
──あ、改めて聞くと驚きだよね…。そっか。ずっと見ててくれたんだね…
今までの旅路で聞き及んでいたかは定かでなくとも、その行動で合点がいく。フォウは無銘の頃からエアを見ていたのだ。
(初めの頃はイヤイヤだったけれど、無銘からエアになっていく過程と研鑽にボクは夢中になった。散々バカなことをやったりもしたけど、今はここにいれて本当に良かったと思っているよ)
──ありがとう、フォウ。
〘えぇ、それはもう一目見るだけで解ります。──あぁ、そう。そうだったのですね。これで解りました。そう、だったのね〙
アルクェイドはそれを聞き及び、何度も頷く。彼女は、エアを見て懐いていた気持ちを言葉とする。
〘エア。実は…私は星の触覚、頭脳体として。あなたにずっとずっと惹かれていました〙
──ぇ…?
〘この星にありながら、この星の法則の何者にもそぐわない魂。王に擁される頼りない魂でありながら、それでいて何よりも輝く魂…まるで、見たこともない宝石のように、あなたは私の気持ちを逸らせていた。その理由が、漸く理解できたのです〙
そう。万象織り成す星に記されていないもの。降臨者達すらも及ばぬ法則の外からきたもの。根源接続者すら及ばぬ、『根源選抜者』。それが、彼女やフォウであることを理解したアルクは告げる。
〘この気持ちは…運命だったのですね。とても、とても儚く眩しいあなたとの運命。ようやく、理解できました〙
──運命…?
〘はい。だって──数多無数にある時空、次元、世界、宇宙、星。それの何処から貴女は見出され、那由多を越える時空と星の中から、私のいるこの地球へとやってきた。その事象、この出会い。運命と言わず何と言いましょう〙
その口調は弾んでいるようでもあり、浮かれているようでもあった。異なる概念、異なる法則の彼方からやってきた魂。そんなエアに、星のあらゆる出来事が及ばぬ魂との語らいこそが奇跡だと、アルクは告げる。
〘ならばこそ、心置きなく御礼が言えますね。ありがとう、エア。私と仲良くなってくださって。素晴らしい貴女に、至尊の理を見出してくださって。あなたと触れ合えた事、誇りに思います〙
──えぇえ!?あ、あの、御礼と御祝いは今日はこちらの領分なのですけれど!?
一挙一動が高貴そのものたるアルクェイドの礼に、慌てふためくばかりのエア。至尊モードが入っている時はともかく、普段の振る舞いでは真祖に太刀打ちできる筈もないのである。
〘そして、改めてお願いします。宙の彼方よりやってきたあなた。私とどうか、これからも良くしてくださいますか〙
──な、何をおっしゃいます…?
〘あなたは私に会いに来てくれた。私は、あなたとの出逢いを素晴らしきものと考えています。願うなら、私はあなたを見ていたい。この星に降り立ったあなたが、一体どこまでこの世界を見据えるのか。あなたの見るものを、私も見ていたいのです〙
ともすれば、彼女は意志持つ触覚として彼女に希望を見出したのかもしれない。全てを織り成す星にやってきた、全く知らないメッセージ。胸の高鳴りを促す、乙女が夢見る星の向こう側。
〘といっても、いつも皆と仲良くしてくれていますから…改めて、個人的な友誼を誓うといったところですね。どうですか?お赦し…いただけますか?〙
難しい概念や観点はピンとこなかったが、『改めて、今後ともよろしくね』といった意味を見出したエアは、当然とばかりに差し出された手に手を重ねる。
──勿論だよ、アルク。ワタシはまだまだあなたを知りたい。あなたと、この星と、星が織りなすセカイを。だからワタシは、あなたともっともっと仲良くなりたい。
〘────。〙
──だから、ワタシで良ければ…フォウや皆共々、よろしくお願い致します。
どれだけ誰かに認められようと、讃えられようと、エアの心は変わらぬままだ。万物に感謝を。万象に尊重を。世界の全てに、ありがとうを。
そんな彼女が、自身を受け入れてくれた星そのものに向ける感情など…語るまでもないほどに解りきっていた。
〘───。あぁ、なんて…〙
彼女は、間違いを侵さなかった過去の在り方。サーヴァントのフレームを使い、一時的に顕現させた一面。運命に出会う事のないファニー・プリンセスである。
ここにいる彼女は、なんの因果か見出してしまったのだ。見出すことで人の鼓動のように胸を高鳴らせる、鮮烈なる開闢の星を。
〘…よろしく、お願いします。この私は仮初なので、明日には戻ってしまいますが…時々、遊びに来てください。私の部屋に、千年城に〙
──うん、よろしくね!そして本当に、ホントのホントに!おめでとう、アルクェイド!
それは乙女が見上げ、願いと想いを馳せる夜空の一番星のように。或いは別の彼女が見出した、かけがえのない運命のように。
〘もしよろしければ、姫としてのマナーや所作、振る舞いを教えてあげます。王との来賓の際にも慌てぬよう、あなたをたっぷり鍛えてあげますね〙
──う、うん!でもその、ワタシは生まれながらの姫様とかでは全然ないから御手柔らかに…
〘楽しみです。成長して、あの黄金の王を驚かせてあげましょう。期待していますよ、エア〙
──は、はいいっ!
(でも…アルクが楽しそうならいっか!)
──……星と月は、共に輝く。喜ばしき想いを、共に分かち合いながら。
アルクェイド〘聞いてばかりでは、礼に欠けますね。私が気付いた事を、一つ〙
──なんなりと!
〘エア。結論を言うと…貴女は生きています。魂だけであろうと、サーヴァントのような影法師ではなく。確かに、いまを生きる生命としての輝きを宿している〙
──生きている…魂だけでも、生命として…
〘サーヴァントはどれほど強大であろうと、終わった生命の影法師、奇跡の具現。影が何かを、成すことはない。ですが、エア。あなたは確かに、魂として生きているのです。これは、星の精霊たる私が保証します。今を生きる生命であるからこそ、あなたとあなたを有する王は万象に奇跡を齎すことができる。今を変えられるのは、生きている者だけなのだから〙
──…それは、きっとアカシックのお陰なんだと思う。ワタシがなにかすることを信じてくれたからこその…
〘ですが、気をつけて。生きているという事は、死ぬということ。あなたや、王が死した時…もうきっと、次はない〙
──…うん。死んだら、本当はおしまいだもの。3度目なんて、あっていいはずが無いものね。
フォウ(そうはさせない。ボクと、アイツが護る)
──フォウ…!
フォウ(それが、ボクが彼女に出来る全てだからね)
アルクェイド〘…頼もしい親友ですね、エア〙
──うん!かけがえのない、親友だよ!
〘では、そんなあなたの願いを後押しします〙
アルクェイドは、フォウに剣を託す。彼女の丈よりも長い、一振りの剣。
〘運命に出逢いし星の獣よ。我が運命を護り、遥か星の海へと導かんことを。これは、その願いとしてあなたに貸し与えましょう〙
フォウ(いいのかい?)
〘いいのです。私のともだちを…よろしくお願い致します〙
その剣は、彼女が有するもの。フォウに託されたのは、願いであった。
──じゃあ、アルク!乗ろう!
〘乗る?〙
──フォウに!フォウはね、凄く凛々しく雄々しく、カッコよくもなるんだよ!きっと大好きになるよ!ね、フォウ!
フォウ(ボクの背中は、エアとエアがオッケーした誰かのものさ!さぁアルク、乗っていいよ!)
アルク〘…ふふ、では、失礼して〙
…そうして、エアの夜ふかしは幕を下ろす。フォウと千年城を駆け回り、月の光に懷かれ瞼を閉じる。
〘お休みなさい。どうか、いい夢を〙
──すぅ…
(むにゃむにゃ…)
〘そして、変わらぬ絢爛が在らんことを…〙
フォウとエアを慈しみながら、真祖は静かに星の天蓋を眺め続ける。
──それは、記念にのみ許された夜月の一幕。
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