人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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――天と地の間には、貴様の想いもよらぬ哲学があるのだ――


There are more things in heaven and earth, Horatio. Than are dreamt of in your philosophy

《さて、切れ味を上げ、注意はしておくか》

 

 

 

『エヌルタの油』『王律権ダムキナ』を発動し、財の総ての切れ味、宝具ランクを上昇させ、更にそれを十全に使用する魔力を確保する

 

 

 

《海神の加護だ、魔力は尽きぬ。神の横槍なぞ無用ではあるが、念には念をというヤツよ》

 

 

さらに、『王律権キシャル』を発動し、霊基の強度を一時的に大地の神に限り無く近付け強度を補強する

 

 

《更に駄目押しだ。さぁ、大地の化身を崩せるか?》

 

 

受けるダメージを概念、物理問わず完全に半減する

 

神々の時代の頑健、頑強を、王がその身に纏う――!

 

《さて・・・む?》

 

「『人理に寄り添う、希望の華(カルデアス・アニムスフィア)』――!!」

 

 

オルガマリーの固有結界が展開され、世界が書き換えられる

 

 

『ギル!どうか!全力を――!!』

 

 

《何時いかなる時も全霊の献身、か。無銘め。誠良き拾い物をしたものよ》

 

 

「――――」

 

 

両手を高く掲げるソロモン

 

 

呼応するかのように受肉し屹立する魔神柱

 

 

熔鉱炉。音を知り歌を編むもの

 

 

ナベリウス、ボディス、バティン、サレオス、プルソン、モラクス、イポス、アイム、ゼパル

 

 

 

情報室。文字を得て事象を詠むもの

 

 

 

フラウロス、アンドラス、ヴァプラ、ザガン、ウァラク、オリアス、アンドレアルフス、キマリス、アムドゥシアス

 

 

観測所。時間を嗅ぎ事象を追うもの

 

フォルネウス、ブネ、ロノウェ、ベリト、アスタロス、フォラス、アスモダイ、グラシャラボラス

、ガープ

 

 

管制塔。統括を補佐し末端を維持するもの

 

 

バルバトス、バイモン、ブエル、グシオン、エリゴス、カイム、シトリー、ベレト、レラジェ

 

 

兵装舎。戦火を悲しみ損害を尊ぶもの

 

 

ハルファス、ラウム、フェニクス、フルフル、マルコシアス、ストラス、マルファス、フォカロル、ウェパル

 

 

 

覗覚星。論理を組み、人理を食むもの

 

 

アモン、バアル、アガレス、ウァサゴ、ガミジン、マルバス、マレファル、アロケル、オロバス

 

 

生命院。誕生を祝い接合を讃えるもの。

 

 

サブナック、シャックス、ヴィネ、ビフロンス、ウヴァル、フルカス、バラム、クロケル、ハーゲンティ

 

 

廃棄孔。欠落を埋め不和をおこすもの

 

 

アンドロマリウス、ダンタリオン、ベリアル、デカラビア、セーレ、オセ、ムルムル、グレモリー、アミー

 

 

『嘘だろ!?あのソロモン、ギル相手にここまでやることを決めたのか!?』

 

 

目前に蠢く肉の海

 

目前に広がる魔神達

 

おぞましき肉塊が蠢き、ひしめき、王と財達に立ち塞がる

 

その数――正しく72。ソロモンが使役した総ての柱の投射也――!!

 

 

《末端ではあるが総力をつぎ込んできたか。良いぞ。余さず平等に、肉塊一つ一つを念入りに踏み潰してやろう。採集決戦と言うヤツよ。・・・部員どもの時空ではクリスマスだったか?よし、ならば奴等の残骸たる素材は総て部員に渡るようにしておくとするか。我からのクリスマスプレゼントだ、有り難く受け取っておけ》

 

 

「令呪を全部ギルに!!受け取って――!!」

 

 

マスターの令呪が総て、英雄王の力へと変わる

 

 

《良いぞリッカ。マスターとはそうでなくてはな。――さて》

 

 

 

うねり、ひしめき、うなりをあげて英雄王に殺到する魔神たち

 

 

 

鼻をならし嘲笑い。ゆっくりとエアの切っ先を突きつける

 

 

 

黄金の波紋、財を納めし蔵に続く門が展開する

 

 

《まずは軽い牽制だ。上手くかわせよ》

 

 

その砲門、総数10000――無限の財を穿ち放つその圧倒的という言葉すら生温い蹂躙の制圧射撃が無限に放たれる――!

 

 

 

魔神を名乗る柱は抉られ、蹴散らされ、吹き飛ばされ、回復したそばから削り取られていく

 

 

殺されては生き返り、生き返っては殺されるのまさに、無限地獄

 

吹き出る血飛沫、耳を覆いたくなる断末魔

 

――英雄王には、ほんの牽制にしか過ぎないそれは、魔神の大半を絶望させるに充分な物量であった

 

 

《呆けるな。楽には死なさんぞ》

 

 

左手につがえた弓を高く掲げ、固有結界のソラにエンキの存在を示す

 

《次は貴様らに、終末の波を味わわせてやろう》

 

 

黄金の矢を、遥かなる天に撃ち放つ

 

 

同時に、魔神の柱の攻撃が王に迫る

 

 

だがその攻撃は辺りを漂う鎖が自在に舞い、友の玉体に到達する前に打ち払う

 

 

《手間をかけるな、友よ》

 

 

王は鎖を眺め、懐かしむように言葉を漏らす

 

 

「ギル――」

 

声をあげたマスターとマシュをヴィマーナが掬い上げる

 

「わっ――!?」

 

「これは・・・!?」

 

同時にヴィマーナを更に巨大な船、『天地引き裂けし黄金の巨神(マルドゥーク)』が回収、格納する

 

 

そう、かの戦艦には世界が滅び、無に還る中で王が認めし生命を庇護する『方舟』としての大役も担っているのだ。かの戦艦の生命区画には、単体コロニーとして最上級の備えも完備している。数千の刻をあの艦一つで乗り越えられるのだ。――ソレは、いずれ漕ぎ出す遥かな外宇宙の果てを目指す為の機能でもある

 

 

《其奴らを庇護せよ、シドゥリ。未だ目覚めてはおらぬが最低限の仕事はできよう。――さて》

 

回収を完遂した事を認めた王は、魔神を呑む、洪水の到来を厳かに告げる

 

《天を見よ。滅びの火は満ちた。天の星は潮となり、地に満ち、やがてまた天に帰すがいい。神よ、人よ、あらゆる万象を呑み込む大終末の波(ナピシュテム)よ、王に仇なす愚者どもを一掃せよ》

 

 

――それが、合図であった

 

 

黄金の矢に呼応する、7つの天空の弓矢が固有結界内に飛来する

 

 

――終末剣エンキとは『水を呼ぶ剣』。所持している王が顕れし瞬間から滅びのカウントダウンが始まり、七日を迎えし時に威力が満ちる

 

 

そう、其は『ノアの大洪水』の原典――世界を洗い流し、一掃し、あらゆる生命を葬り去った『ナピュシュティムの大波』を再現し――

 

 

地上の森羅万象を洗い流し、押し流す――!!!!

 

 

「――――・・・」

 

 

異次元へ転移し逃れるソロモン

 

 

ほぼ全ての魔神柱は波に飲まれ、終末の大瀑布を受け、粉々の塵へと還っていく――

 

 

《何、案ずるな。所詮は末端。いまここでどうなろうと支障はあるまい。何憂う事なく死ぬがよい》

 

ゆっくりと、かつ厳かに英雄王が告げる

 

 

《貴様らが束になろうが我が歯牙にもかけぬ芥子粒以下の存在であるということ、我が余すことなく骨身に叩き込むまで果てるなよ?我が庇護する魂への狼藉、酌量の余地なく誅を下すが・・・貴様らの安易な死への逃避は赦さぬ。さぁ――まだ貴様らに下す我の裁定は始まったばかりよ。――矢を構えよ、我が許す》

 

 

王の号令と共に、かつて英雄王が手掛け、デザインした城塞が顕れる。そこには無数の砲台、砲門、発射装置が仕掛けられている

 

 

更に、『部員ネット』にて王に捧げられたあらゆる時空、あらゆる次元のテクノロジーの兵器、概念、そして畏敬の概念を形と成した様々な供物が、ウルクの城塞に搭載されし兵器として偉容を放っている――!

 

 

《至高の財を以てウルクの偉容を示してくれる。――大地を照らすは我が威光》

 

左手を振り下ろし、一斉掃射の合図を放つ

 

 

《『王の号砲(メラム・ディンギル)』》

 

 

放たれし大地を染め上げるディンギルの砲撃、部員達により提供、献上された此処には有り得ぬ様々な異次元概念兵器、それら総てを結集させた空前絶後の大爆撃。逃げ場も安全地帯も何処にもない完全無欠の掃討が終末に喘ぎ、無慈悲に洗い流される魔神柱を徹底的に追い打ち据える

 

 

《遠慮するな。我が威光をその精神体に余す事なく焼き付けよ。赦しを乞え、逃げても構わぬ。――慈悲など与えず殺すがな》

 

 

――すご、い・・・

 

 

絶句する他ない。これが・・・全力を発揮し、全霊で戦う英雄王の力・・・

 

・・・自分は、こんな偉大な王と戦えていたのか

 

 

自分は、こんな圧倒的な王に、この魂を護ってもらえていたのか・・・!

 

 

(まったくデタラメだ。魔神の総てを楽々掃除してしまうなんてね。――見ているかい、無銘)

 

黄金の球体に一緒に入っているフォウが告げる

 

 

(あの王のやる気と強さは・・・キミがいたからこそ、顕れているのさ)

 

 

――もう、胸がいっぱいで・・・まともに言葉を話せない

 

「――フォウ」

 

(ん?)

 

 

「・・・いいのかな・・・自分」

 

(・・・うん)

 

「こんなに幸せで・・・誇らしくて・・・いいのかな・・・?」

 

(・・・勿論さ。キミは、あの王様がこれだけするだけの価値があると認めたんだ)

 

(――友達として、鼻が高いよ)

 

「うん・・・うん・・・!」

 

涙を拭い、言葉が漏れる

 

「・・・うれしいよぉ・・・――」

 

 

 

《ついでだ、我が友の強度も味わっていけ。中々に病み付きになること請け合いだぞ?》

 

 

残っている5や3そこらの魔神柱を、『天の鎖』で縛り上げ締め上げる

 

 

ブヂリ、グヂリと嫌な音を立て引きちぎれていく魔神達。甲高い断末魔が、命を乞うかのように上げられる

 

 

《何だ、苦悶にて啼くか?無論赦さぬ。肉片の一つに至るまで余す事なく苦痛を爪弾き死ぬがいい》

 

 

ブヂリ、と両断される魔神柱達。意思を失った者は瞬く間に大洪水に流されて逝く

 

 

《さて――貴様らには過ぎた一撃だが、宴の締めにはこれしかあるまい。頭を垂れよ、裁定の時だ。我が右手に唸りしは地獄を識るモノ。我が真に極致と認めし『エア』。原初の権能がカタチを成した星々を廻す臼。叙事詩に記されし天上の地獄を興せし創生前夜の終着よ》

 

 

高々と掲げし乖離の剣。三つの臼が回転を速め、暴風を圧縮しせめぎあわせ荒れ狂い――

 

《死を以て鎮まるがいい。我手ずからの処断を以て原初の理を識れ。この一撃こそ遥かなる太古の星、始源なる混沌を斬り裂きし開闢の星。英雄王たる我のみが持ち得る唯一無二の至宝。原初、地、天の理を網羅せし究極の一たる乖離剣――》

 

 

世界を斬り裂く真紅の刃となりて、虚無の地獄を教授せし天地開闢の理を示す――!!

 

 

《その威を以て天地を裂き、我は貴様らへの裁定を下そう。其の地獄、生き延びてみせよ。――――『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』》

 

 

世界諸とも、大洪水すらも、魔神などという塵芥も

 

 

――総てを切り裂き、虚無の彼方まで消し飛ばす世界を両断する一撃が放たれる――!!!

 

 

 

 

爆風が渦巻き、天が泣き地が震える。森羅万象あらゆる存在を吹き散らし、叩き壊し、粉砕し、両断し、鏖殺し

 

 

哀れな魔神は虚無の彼方へと追いやられ、有無を言わさず消し飛ばされ

 

 

その真紅たる空前絶後の一撃は、余すことなくオルガマリーの固有結界の表層を切り裂いた――!!

 

 

開闢の星が輝き、大終末の波が収まりし頃に顕れるは、オルガマリーの望んだ心象

 

 

 

太陽と紅き星、雲一つない蒼き空

 

 

何処までも広がる、白い山々

 

そしてそこに立つ地上の楽園。希望の華が咲き誇りし、人理保証機関カルデア

 

 

――オルガマリー本来の固有結界の風景が顕れる頃には、魔神であったものなど塵一つなく

 

 

《――裁定は下った。理解したか?君臨するとはこういう事象(コト)よ。有象無象の肉塊が我と、我が魂に楯突いたことを伏して悔いるのだな。そして――悪魔は悪魔らしく、冥府にて沙汰をまつがよい》

 

 

残っていたのは――ソロモンを名乗る何者かだけであった。

 

「――――――」

 

 

《どうだ?貴様ら使役される使い魔ごときが束になったところで、我に叶う道理はないと骨身に染みたか?》

 

「――――――」

 

《今の我は貴様を討ち果たすつもりはない。此度はあくまで狼藉への躾、本腰を入れた仕置きに過ぎん。それはマスター達の成し遂げるオーダーだ。――それとも》

 

ニヤリ、と笑う

 

《第三宝具とやらで我を焼くか?それならば、勝ち目は生まれるやもしれんぞ》

 

「――――――」

 

 

《・・・我と対話をできる肉塊もおらぬ、か。よい、疾く失せよ。貴様は小便をしに席を立ったのであろう。さっさと用を足し、仕事とやらに戻るがいい》

 

「――――その霊基では、我等には」

 

 

《勝てぬ、とでも負け惜しむか?逆だ。精々『格』でしか貴様は我に勝る箇所がないと言う話よ。惨めに偽りの冠位にすがれよ蛭ども。貴様らが全能を剥ぎ取られ、無様に打倒される顛末のためだけに、この場は見逃してやろうではないか》

 

「――――――」

 

《我がマスターは、7つ目の聖杯を確実に奪取し貴様の神殿に至ろう。魔神王たる貴様の裁定はその時にまで預けておくぞ》

 

ゆっくりと地上へ降りていく英雄王

 

 

《努忘れるな。貴様らを刈り取るなぞ、我にとっては赤子を捻るに等しいと言うことを。そして――》

 

ギラリと紅き瞳がソロモンを射抜く

 

《次に我が魂に手を伸ばさんとしたならば――慈悲など与えぬ。即座に貴様らの塒、『時間神殿』の位置を割り出し、貴様らのさもしい企み諸共》

 

 

ニヤリ、と口を歪めながら

 

 

《――我の庭を焼いた罪過に相応しき、塵屑の様な『(終わり)』をくれてやる。無益かつ徒労に終わる3000年の研鑽ごと冥界の最奥に我手ずから打ち捨ててやろう。深淵の光射さぬ無明の海、そして魂すら凍結させる寒冷、絶対零度の地獄。余すことなく満喫させてやろうではないか。我は死後冥界の王となる伝承もある。――存分に玩弄してやる故、楽しみにしておくのだな――》

 

 

偽りのグランドキャスターを、心底から嘲笑ったのだった――

 

 

 

――大人しく神殿にて肉塊どもと醜く蠢き、首を洗って待っていろ

 

 

貴様の位置など我は見通している。次に狼藉を働けば、貴様らの計画ごと灰塵に帰させると覚えておくがいい。

 

 

――努、忘れるなよ魔術式共。貴様らをこの世から消し去ることなど我には容易き所業。貴様は我の愉悦の為に。浅ましく生を赦されるのだ――

 

「あ――」

 

 

 

呼応して、自分の意識も遠くなる

 

――器が、魂の自分を招いているのだ

 

(挨拶しておいで。器はボクに任せておいて)

 

 

「――うん。お願い・・・」

 

友に頷き目を閉じる。

 

 

 

 

意識が、安らかに、深く深く。

 

 

 

 

器の底へと沈んでいった・・・




意識は器の最奥へ


――英雄王と英雄姫、邂逅の時――

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