ゴルドルフ「ちょ、どこに行くつもりかね!作戦中だぞ!?」
田村麻呂「なぁに、ちょっくら嫁にチケット渡して来ようかなってわけよ!全部クリアしたら日にち分けて、アテルイと鈴鹿に一日ずつ一緒に回るって話だぜ!」
ムニエル「そういや妻帯者だったなこの人!現地妻のアテルイさんも含め凄いなこの人!」
田村麻呂「ふっはっはっは!現代人とは甲斐性がちげぇのよ甲斐性が!心配すんなムニエル。お前の人柄を好きになってくれる輩は必ず現れる!信じろ!」
ムニエル「し…信じるぞぉ!」
田村麻呂「そういや鈴鹿は随分と静かだな?ロマニの旦那よ、反応あるか?」
ロマニ「あ、レイシフトしてったよ?」
田村麻呂「まじで!?」
「まさかこうして、田村麻呂の妻にして第四天の姫とアイスクリームを食べられる日が来ようとは。サーヴァント、二度目の生…素晴らしいものですね」
「こちらこそ、っていうか…アイツがあんな真面目に話してるトコ見たの久々、初めて?っていうか。アイツの魅力を引き出してもらってマジ感謝だし。うん」
田村麻呂の妻である鈴鹿、そして田村麻呂の相棒にして宿敵であるアテルイ。一目見れば決戦となるか…と思いきや、その立ち会いは静かなものだ。二人でアイスクリームを買い、ベンチに座り共に甘味を味わう。それは理知的で理性的な、話し合いが成立した証でもある。
「夫に近付く泥棒猫は、やはり許してはおけませんか?鈴鹿さん」
「や、その。それはなんというか…アテルイさん、全然寝取るとか彼女面とか無縁な聡明さを持ってるし、むしろちょっとでも嫌な気持ちになった自分が恥ずいの、マジで!」
そう、鈴鹿からしてみればアテルイがもっと分かりやすい悪女であるなら話は早かった。自分が直接、引導を渡せば済む話であり単純明快だった。
しかしアテルイは田村麻呂と深く通じ合っていながらも、そこには女として明確な一線を引いている。妻帯者である田村麻呂に、そしてなにより妻への無礼とならぬよう細心の注意を払った振る舞い。それを理解できない鈴鹿ではない。だからこそ、決闘の申込みがあんな歯切れの悪い事になったのだ。
「そもそもの話、アイツの英雄的な側面の嫁がアタシで、アイツの現実的、実在の将軍としての…その、恋人的な感じなのがアナタじゃん。比較するのがおかしいっていうか。お互い、アイツの構成する人生の一部なんだからいがみ合うのも、変って話じゃん?だから、その…」
「細かいことは気にせず、仲良くしてほしい…だと、私は嬉しいのですが」
「そうそれ!…あー!先言われた!もう、流石アイツの賢いとこの相棒っていうか、なんか凄い悔しい!」
ジタバタと脚を振る鈴鹿を、アテルイは微笑ましく見守る。アテルイからしても、田村麻呂が選んだ女性というものはどういった存在かは気になっていたのだから。
「ふふ…彼があんなにも溌剌になるわけです。あなたは素晴らしい妻ですね、鈴鹿さん」
「うぇ?」
「夫を想い、彼を支え、そして何よりも愛している。私は彼の伝説には立ち会えない、史実における人物ですが…あなたを妻として愛し抜くのも納得と言うものです」
真正面から妻であることを認められ、あまつさえ称賛すら受ける。何から何まで度量の深さと聡明さに圧倒されているのを感じながらも、鈴鹿は耳まで照れるのを隠せない。
「もー!真正面からそういうのやめれー!めっちゃ嬉しいけど、めっちゃ恥ずいから!ホント!」
「あら、そこは胸を張るところです。彼の妻は、あなた一人。私とは大いに異なるのだと気炎の一つも吐きませんと」
「そうしたいんだけどー!だったらもうちょい悔しそうにしたりしてほしいじゃん!余裕綽々なところが凄くなんかやりにくいんですけどー!」
蒼きアテルイと、橙の鈴鹿。いったいどちらが正妻なのか解らぬ程の振る舞いの差ではあるが…そこに険悪さはない。田村麻呂の選んだ女性が、浅ましい女性であるはずが無いのだから。
「この特異点…ひいてはその背後にいるものに、そういった感情はおそらくとても有効な筈。どうか黒き感情を、正しき愛にて照らしていってくださいね」
「あー、それ前も言ってたね?背後に潜む悪がなんとか、どうとか」
「はい。私はアイヌの英雄として現界しています。アーチャークラスである理由はレンジャーとしての適性、ひいては星を『見る』事から当てはめられたのでしょう。だからこそ、私はアーチャーでありながら様々な術を扱えるのです」
「うわぁ〜…頭いいタイプのやつ〜…」
「あなたも本来はそうなのでしょう?天魔の姫たるあなたがなぜ、じぇいけいなる要素に傾倒しているのかは解りませんが…」
「そ、それは聞かないでほしいじゃん!なんていうかこれは、悲恋に終わったアタシが血迷った名残っていうか、なんていうかこう、アピールっていうか…!」
「ありのままでもいいですし、アピールでもよいのです。田村麻呂はきっと、全て良しとしてくれるでしょう」
(ダメだー!なんか今のJKモードじゃまともに会話続かないじゃんこれ!?ちょっと賢さ上げるしかないっしょこれ!)
後手後手に回るのを危惧した鈴鹿、大通連と小通連を使い一時的に聡明な自身を見出す。即ち、ちょっと素に戻る。天魔の姫にして、理知的な言動を良しとする自身へと。
「ドラランドの背景…ヴリトラの目論見、どう思われます?」
「彼女は邪竜であり、この特異点を管理するもの。ですが、そこにあるものは決して敵意、悪意、そして邪気だけではないと感じます」
アテルイはそこに、何かを感じ取っていた。それは違和感であるかもしれない。だがアイヌの星見は確実に、ヴリトラの背後にあるものを見据えていた。
「もっと大きなものであるようでいて、もっと単純で小さい、シンプルなもの。聖杯を使い、そしてドラゴン達を有しておきながら、その行動の核は極めて明快で、解りやすい…」
「…………」
この時、鈴鹿は大通連と小通連を使用し、アテルイが感じているものを探り、近付こうとした。その本質を見抜き、カルデアの助けになる情報を手にしようとしたのだ。使い続ければ、英霊ではなく神霊にシフトしてしまうため長続きはできないが…
「………これ…」
それは、竜たちが集う花畑であった。黒く、禍々しく、それでいておぞましく、どこか美しい。
「…!」
その中心に佇む、喪服の美女。彼女はただ見上げていた。星すら見えぬ闇、暗黒の空を。
その佇む女性からは、滾るような黒き情念が溢れていた。可視化できるような漆黒。重さを有するかのような情動。そう、それは───
「…憎悪…?」
その感覚は、何かを憎み、恨み、怨む時に発せられるもの。能面のような表情の下には、深き地の底から這い出るような『何か』が蠢いていたのだ。
「ッ──」
本能的に危険だと理解しても、それでもリッカやカルデアの助けになれば…そう決意した鈴鹿は更なる探求を行おうとする。──その時だった。
「!!?」
瞬間、羽根が舞う。眼の前を覆い尽くす程の羽根が、鈴鹿の眼を塞いだのだ。神の眼すら塞ぐ、叛逆の翼。
【ネタバレはダメだよ?内緒にしておいてね】
「あうっ!」
刹那に響いたのは…少年の声。鈴鹿は強制的に、宝具の使用を打ち消される。
「鈴鹿さん!?」
「だ、大丈夫。なんか、盗み見してたのがバレただけっぽい…」
我に返り、二つの刀を見る。宝具としてのアクセスは天鬼雨しか出来なくなっており、先のような覗き見は不可能とされてしまっていた。
「でも…ビンゴだよ、アテルイ。なんかいる。ヴリトラの後ろに…なんか、いる…」
だが彼女は見た。そして聞いた。何かがいる。大きく、そして恐ろしい何かが、ヴリトラの背後に構えていると確信する。だが、それを口外することはカルデア上層クラスでないと危険だということも把握せざるを得なかった。
サーヴァントの宝具、それも叡智をムーンセルレベルにまで引き上げるものに介入してきたのだ。相手は、間違いなく神霊クラスの存在にほかならない。そぐわない行動のペナルティも厭わないとすれば、カルデア全体の危機に及ぶ。
「…でも、アテルイさ。あなたの正しさは証明出来たっぽい」
「え?」
だが、それは間違いなくアテルイの星見、観察が正しいことを証明する情報だ。アテルイは心から、カルデアと夫を支えようとしてくれたのだ。
それさえわかれば、もう迷いなどあるはずもない。鈴鹿は改めて、アテルイに友好を示す。
「ごめん、アテルイ。色々迷ったり疑ったりしてた。けど、はっきりあなたが味方だってわかったよ」
「鈴鹿さん…」
「改めてヨロシク、ってやつ!リッカや田村麻呂、一緒に支えよ!」
「はい、勿論です!」
「じゃあ聞いてよ、アイツさー。ボルシャック・ショーグン・ドラゴンってさー。縦文字混ぜるなって感じじゃん!センス!みたいなやつだよねー!」
「豪快、という事にしておきましょう」
女性としての蟠りを一先ず振り切った鈴鹿。アテルイと、田村麻呂トークを開始するほどに打ち解け始めるのであった。
ベルゼブブ【どうやら、覗き見をする者がいるようですが…】
サタン【目が合ったよ。凄いね、僕等が見えるなんて】
ベルゼブブ【ギルガメッシュ王以外の高視座は妨げになります。始末しますか】
サタン【んーん。ネタバレしないでって頼んだから、何もしないでいいよ】
ベルゼブブ【…左様ですか】
サタン【内緒にしてくれるよ、きっと!だって僕のお願いだもの!】
ベルゼブブ【えぇ、その通りです。きっと聞いてくださるでしょう】
サタン【クリームヒルトも、せっかくだからお話すればいいのにね。旦那さん、いたよね?】
ベルゼブブ【はい。ですがアレは今、まともに認識できているかどうか…】
サタン【ん〜…そっかぁ。残念だね。じゃあこっちはこっちで準備しよっか!】
ベルゼブブ【はっ】
(…命拾いしたな、カルデアのサーヴァント…)
サタン【命令は何がいいかな?『汎人類史に反逆せよ』じゃなくて…『世界を救え』でいいかな!じゃあまずはー…】
(くれぐれも、試練の半ばで倒れてくれるな…)
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