人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
ヒナコ「で、なんでアンタと私なわけ」
ベリル「そりゃあヒナコおめぇ…」
『ジェットコースター』
「色んな意味で、死んでも大丈夫だからだろ…」
ヒナコ「死ぬの!?ジェットコースター!?怖っ!」
ベリル「むしろ死ねたら幸せだろうな。死ねないって辛いよなぁ…」
ヒナコ「あぁ…アンタ…」
ベリル「まさかこんなとこで不死の苦しみを味わうとは思わなかったよなぁ…」
「見よ、カグツチ!これは風船と言ってな、空気を入れればどこまでも飛ぶ遊具よ!汝も一つ欲しいか?ん?欲しいか?」
『ばらきーと同じの、ほしい』
「くはは、そうかそうか!ならば吾が一つ、あっという間に用立ててくれよう!そら来るがいい、無くなってしまってから泣いては遅い、鬼は迅速を尊ぶというのが共通の認識よ!」
カグツチを招き肩車、ドラランドを駆け抜けていく茨木童子とカグツチ。神と鬼の仕切りなど無く、ドラランドアトラクションを共に楽しみ抜いていく姿は、リッカ達の奮闘の余波が及ばぬ所で賑やかに行われていた。だがそれを責める者はいない。何故ならそれは温羅や鬼達が望んだもの。即ち家族における団らんであるのだから。茨木としては温羅から預かった家族の安否、使命でもあるのだが…。
『問題なくエンジョイしているようだな。我が娘も中々粋な催しをする。そうは思わないか、母よ』
【うぅ…観覧車の揺らぎは心臓に悪い…え、何か言ったか我が娘、聞いていなかった…】
こちらは別に防護の必要はない元二柱であるため彼女はのびのびと護衛しているのであった。ちなみに伊邪那美は初めての観覧車をアマノザコと体感し、独特の浮遊感にビビり散らかした後である。異聞帯の彼女は殆ど娯楽に触れていなかった為新鮮を通り越して未知との遭遇、Xデーである。腰砕けで手すりに縋るその姿ははかとなしなイザナ味を感じさせた。
『大丈夫か、母よ。手を貸す』
【あなや、すまぬ…でも楽しかった。それは間違いない。うむ。楽しかったぞ。観覧車…いや、ゆうえんち!楽しいな!】
その目が憎しみではなく、愉快な催しに対する喜悦を宿していることにアマノザコは安堵する。彼女は異聞帯の女王であり、見方を変えれば汎人類史の虜囚とも言える立場だ。だが、汎人類史も楽園も、母をこんなに暖かく受け入れてくれている。
【アマノザコ、お前も楽しむのだ。妾はその、婆であるため色々おぼつかないゆえ…歩幅を合わせずともよい。お前はお前で、やりたいことをやってよい】
『母よ…』
【私はお前に対し、まともな愛情一つ捧げてやれなかった。もう我等は神ではないのだから、格式や役柄に縛られる必要は無い。我が娘…自由を堪能なさい】
その物言いは苛烈にして澱みきった黄泉の女神ではなく、かつての創造の女神であった頃の慈愛を宿している事を確信する。肌は癒やされ、心も桃源郷と楽園にて癒やされた。この言葉も、こちらを労り慮る…親心に満ちていた。
『母よ、それは余計なお世話だ』
【え…】
アマノザコはそっと伊邪那美に寄り添い、肩を貸す。彼女は物言いと言動は冷淡のように見えるが、その心身はとうに宿している。美味なる温もりを。
『子が母を愛するのは当たり前であり、私は私としてあなたを慕っている。今更水臭いことを言うな、母よ』
回復したとは言え、異聞帯の黄泉にのみ根付いたかの女神を放るなど彼女には有りえない。この絢爛の歴史に、彼女を一人きりにしない。それは、彼女が見出した生き方であるのだから。
『共に楽しもう。あなたの孫、私の子が企画してくれた…孝行を』
【アマノザコ…】
『それが、私達がこの場所で行うべき…遊興、というやつだ』
アマノザコの言葉と労りに、言葉なく伊邪那美は頷く。例え、どこにいようと親子であることは変わらないのだ。例え黄泉の底でも、異なる世界でも。
【苦労ばかり、かけるな…】
『苦労などと、感じたことはない』
そして二人は茨木童子とカグツチを追いながら、絢爛豪華なテーマパークを見やり歩く。
【がぁでぃあん、どらごん。だったかな】
『うん?』
【聞けば、私達と同じ異邦の者だという。私達のように…この世界で居場所を見つけてほしいと願う。きっと、受け入れてもらえるだろうから】
『…そうだな。我が図体のでかい子まで受け入れたのだ。きっとその懐に受け入れてくれるだろう』
ドラゴンなど、我が娘に比べれば従順なものよ。そう返さんとした時…ふと、アマノザコは思う。
『そういえば、スサノオの名を冠するドラゴンもいた記憶がある』
【あぁ、まぐますぷらっしゅ…だったか。そこにいたな】
『そのドラゴン…只者ではあるまい。スサノオ…荒神の名を冠しているなら尚更だ』
【ふふ、さては呪いで老婆にされたことを根に持っているな?】
伊邪那美の言葉に、アマノザコは口を尖らせる。そう、かつて世界を黄泉路に鎮めるおり、伊邪那岐とその子ら三貴神を手にかけた折、末期の呪詛にて蒙昧かつ愚昧な婆と貶められた過去を彼女は有している。それは彼女の恥ずべき汚点であり、忘れられぬ屈辱であり…
『…温羅を創り上げた事以外、醜態しか晒しておらぬ黒き歴史だ。あまり口外してくれるな』
彼女からしても、トラウマというやつなのである。振り返ってみればあまりにも醜く無様な言動の何者でもない有様に頭を抱えるというやつだ。
【ふふ、でもそんなに気にすることじゃないと思う。だって、温羅が産まれてきてくれたではないか】
『それは、確かに』
儀式や細工などを弄しはしたものの、彼女の在り方だけは彼女が定めたものだ。荒々しく、そして繊細なる在り方は彼女が魂より見出したものだ。
【魂だけは、我等神とて手掛ける事叶わぬ。あの魑魅魍魎、悪鬼羅刹蔓延る世界に生まれた彼女…それはきっと、我らの地獄に終止符をもたらす為に天が齎した恩寵なのであろうなぁ…伊邪那岐はいなかったろうから、天津神の上辺りかな…?】
『最早失伝クラスだな…』
世界も、あらゆるものも、何もかもが迷い果て、血に迷ったあの世界にて。彼女はそれら全てを終わらせるために現れたのだとしたら…
『…いいや。あやつは誰かに言われて動くようなたまではない。彼女は彼女として、彼女の成すべき事を成すために生まれたのだ』
それが、鬼神という意味。狂い果てた世界において、決して狂わず、迷わず、正しき心を懐き続けた。それは何者かの思惑ではなく、彼女が彼女として自身を定めたのだ。それ故に、彼女は神の名を冠している。
鬼の力に溺れぬ心。それがきっと、神たる所以。アマノザコは、彼女は静かにそう、自らの娘を定義しているのだ。
【ふふ…落ち着いたら、温羅とも一緒に回ってやるのだぞ】
『あぁ。荷物持ちや案内人を任せよう。親孝行というのなら、たくさん働いてもらわないとな』
【あまり親として振り回してはだめだぞ。毒親と呼ばれてしまうことになる。私のように】
『…それは笑うべきところか、母よ』
【ふふ、私もじょーくくらいは学ぶのだぞ。少しずつだが汎人類史も学んでいる。汎人類史の私程ではなくとも、きっと愉快な母になってみせるぞ】
なんだか妙な決意や文化を学んでいるな母よ…少し心配になったものの、母の積極的な在り方は歓迎することとして…
【ところで、彼女はどこに行ってしまったのだろうか?姿が見えぬが…】
『うむ…オニキュアとして皆を纏め上げた筈だが…』
そんな当然の疑問と同時に…
『ぴんぽんぱんぽーん。温羅きこえるー?どこにいるのー?いたらお酒持ってサービスカウンターにしゅうごー!来てねー!』
【『………』】
確かこの声は、八俣大蛇縁の…園内放送を乗っ取り温羅の身を案じる友の破茶滅茶ぶりに、真顔になる二人。
『オニキュアの誓い、忘れちゃだめよ〜!待ってるからね〜!』
【…いい友人だな】
『そうか…そうか?…そうか…。』
確かに、こうして呼びかけてくれるのは間違いなくいい隣人か…。やはり静かに納得する、度量の深いアマノザコであった。
クリームヒルト「…………」
?「クリームヒルト」
クリームヒルト「…?」
ジークフリート「クリームヒルト。…俺だ」
クリームヒルト「……………あら」
ジークフリート「俺は、まず君に…」
クリームヒルト「どちら様、でしょうか」
ジークフリート「…!」
クリームヒルト「私は、貴方様を知りません。人違いではないでしょうか」
ジークフリート「……クリームヒルト…」
クリームヒルト「失礼致しますね」
ジークフリート「…………君は…」