彼の剣が護るべき者達が消え去るのは一瞬であった。
彼の剣は何よりも速く、誇り高かった。
それ故に──
砕けた彼の誇りは、護るべき者達を失った彼の剣は。二度と元に戻らなかった。
『数百メートルを越えるバザガジール・ドラゴンがジェットコースターの正体で、空中を飛び回っているだって…!?』
ぐっちゃん、ベリルの持ち帰った情報はカルデア首脳陣に衝撃を与えた。次なる試練と定めた相手は、スケールだけならばボルシャックとボルメテウスすら大いに上回る程の規模を有している事になるのだから。休憩室と会議室を開放された一同は、そこでミーティングを行う。
「地平線まで続く床が実はドラゴンの背中だった…って、おっかなびっくりの話だぜ。バザガジール・ドラゴンとヴリトラが呼んでたんだ、間違いないだろうよ」
『やはりか…どうやらかつての思い出に殉じているようだな…』
ボルメテウスの深い呟きに、ボルシャックが補足を加える。彼は迅速の魔剣使いであると同時に、弱者を慈しむ好漢であった。火文明のバード種族やドラゴン以外の弱者と深く信仰を結び、集落の警護や守備を一手に担っていたという。
『あいつは戦闘はいつも守護のためで、その剣技は弱く戦えない奴等を守り抜く為に捧げられたもんだった。目にも留まらねぇ剣で一瞬で片付け、火の集落にとんぼ返りよ。そんなアイツが好きだったのが…背中に誰かを乗せて飛ぶことだったんだ』
強さは弱者の為。速さは守護の為。巨大な体躯は、あらゆる全てを庇護するため。魔剣を有する四つ腕の竜は、最も勇者と呼ばれるに相応しきものだったという。
『だが…最後の戦いの際、降臨したバロムはまず、我々の文明、集落を滅殺。あらゆる全てを一掃したのだ』
『バザガジールのヤツも間に合わないほどの速さだった。最初からそれが狙いだったんだ。アルカディアスには俺等以外のドラゴンを倒されていたから、バロムがトドメになって…俺等火文明は滅んだんだ』
そう、ボルシャック達もまた敗北したのだ。残り余す事なく護るべき者達を討ち滅ぼされたのだから。帰る場所も、庇護する弱者も失った彼等はしかし、ボルシャックの憤怒の劫火により生き残ることが叶ったが…。
『バザガジールと一緒に飛んだ奴等も、止り木代わりに傍にいた奴らも、背中で揺られ空を旅した奴等ももう、いなくなっちまった。その事実に、誰よりも何よりも打ちひしがれたのがバザガジール本人だったわけだ』
〜
何が魔剣使いか。何が誇り高きドラゴンか。これが、これが私の未熟の招いた結果か。
我はもう、戦わぬ。もうこの魔剣で護るべき相手はどこにもおらぬ。我は散ったもの等の魂の弔いにこの生命を費やす。
…赦してくれ。もっともっと、君達と飛びたかった。
〜
『デカい身体で毎日毎日空を駆け、鎮魂の咆哮を響かせてたな。あいつはもう…生きる屍と言って良いくらいに参ってた』
『戦うために戦った我々と違い、彼だけは誰かの為に戦った。それを誇りとしていた。だがそれは…潰えてしまった』
「ある意味…バザガジール・ドラゴンも、行き止まりになっちゃったのかな…」
護りたい誰かが皆死に、いなくなってしまった。その苦痛と絶望はきっと、降りかかればリッカの心すらも粉々に砕くだろう。絶望すらも怒りに変えたボルシャック、思考と自身らの未来を理性で放棄しなかったボルメテウス。バザガジール・ドラゴンは優しさを有していたが故に、取り返しのつかない瑕疵を心に刻んでしまったのだ。
(自尊の怪物…藤丸立香を名乗ったあの方もそうでした。何かを失ってしまった、もしもの可能性…)
それはある意味、カルデアの未来の一つとも言えるものだ。敗北は自身らが死ぬことだけではない。背負う何かが滅びた時、自身らもまた滅び去るのだ。戦いとは、何かを護る戦いとはそういったものであるのだから。
『そうか…聞くだに痛ましいドラゴンだな、バザガジールとやらは…だが、それならば何故ガーディアンドラゴンなどを担当している?もう戦う気概も出せるかどうか怪しいだろうに…』
ゴルドルフがそう訝しんだ瞬間、一同のモニターに通信が送られてくる。その相手に、一同は驚愕に目を見開く事となる。
『星見の勇者が集う楽園よ。我はバザガジール・ドラゴン。ジェットコースター・スピードアタッカーのガーディアン・ドラゴンである』
「!」
『バザガジール!お前…!』
なんと、バザガジール・ドラゴン本人が通信を行ってきたのだ。ガーディアン・ドラゴン自体とのコンタクトは禁止されていない。だとしても、彼本人が通信を寄せてくるのはこのタイミングでは予想できるものなどいなかった。
『ガーディアン・ドラゴンとなった我は、遥か天空で君達を待つ。いつでも試練…いや、我が討伐へと赴きにやってきてくれて構わない。我は君達を心から歓迎しよう。ただ…』
『た、ただ…?』
『我はこの場で死ぬ所存だ。そしてもう魔剣を振るうこともない。試練たる形式に反するようで申し訳ないが…君達は我を、ただ殺してくれればいい。それで、カムイの黄金は譲渡されるだろう』
その申し出は衝撃的なものだ。バザガジール・ドラゴンは死を望み、試練において魔剣を振るうことはないとした。それは即ち、無抵抗にて殺されることを意味しているのだろう。
「何を馬鹿なこと言ってんのよアンタ。無抵抗で殺されるって訳?」
『あぁ…。私がガーディアン・ドラゴンとなった理由は君達を倒すためではない。願いを叶えるためだ』
『願い?バザガジール、お前の願いとは』
『知れたことだ。そして、簡単な事だボルメテウス。もう一度この背中に小さき者を乗せて飛ぶこと。そしてそれはもう叶った。ドラランドにて、アトラクションとして…沢山の小さき者を載せて飛ぶ事ができた。かつてのように。彼等にしたような、穏やかな気持ちでいることができた』
ジェットコースターとして、アトラクションとして、誰も傷つけることなく自らの願いを叶える事ができたとバザガジールは告げる。
『あとは、皆に詫びるだけだ。護りきれなかった彼等へ…誓いを果たせなかった彼等へ…あの世で詫びるために死出の旅へ出る。それが、最後の我の願いであるがゆえ。私はカルデアへと立ちはだかろう』
『馬鹿野郎!そんな事アイツらが望むと思うのかよ!腑抜けるのはいい!だがせっかく生きた命を捨てるような真似は止めろ!』
『ボルシャック…すまぬ。弱きものだけでなく、貴殿にも迷惑をかけた。私が彼等を守り抜けていれば、貴殿の焔は終末の滅びなどにならなかった筈だった』
『謝るんじゃねぇ!アレはオレが招いた結果だ!お前も誰も悪くねぇ!悪いのはオレだけだ!』
『……。ボルメテウス。貴殿とボルシャックはカルデアに参列したのだな』
『あぁ。この世界を第二の故郷として再び戦う。…お前はもう、駄目なのか?バザガジール』
『…あぁ。我は誓いを、剣を捧げたのだ。かつての彼等に。我等が生きた時代に。そしてそれは…何一つ果たされなかった。こんな剣が、再び何を以て立ち上がろうと宣える』
バザガジールの形相は穏やかなものだった。だがそれは…死場所を見つけたもの。末期の患者とも呼べる平穏であった。
『最早私が護るべき世界は滅んだ。…ボルシャック、ボルメテウス。それでも進む決意を抱いた魂に敬意を。我は…置いていけ。この世界の力に、貴殿らは必ずやなれる筈だ』
『おい待て!まだ話は終わってねぇ!』
『すまぬ、カルデア。…だが、待っている。我に通じる天空は開いておく。そこを辿り、やってきてほしい』
バザガジールはそう言い残し、通信を切る。刹那…。
『カルデアよ。楽園を名乗る者達よ。どうか、我のようにはなるな…』
万感の思いを込めた、未来の止まった自身を戒めとして…忠告を残したのであった。敵として、試練としてあろうとも。その心は誇り高きままに。
それ故に──折れて砕けてしまったままに。それが次なる試練、バザガジール・ドラゴンの全てであった。
ベリル「こりゃあ参ったねぇ。進みたかったら自殺に付き合えときた。ボルシャックやボルメテウスのほうが気持ち的にはずっと楽まであるぜ、こりゃあ」
マシュ「バザガジールさん…」
ロマニ『それでも、彼はドラランドのアトラクションとして皆を楽しませてくれたんだね。最後まで、弱者の為に身を尽くす竜、か…』
ヒナコ「……」
リッカ「させないよ」
ヒナコ「リッカ?」
「最後になんてさせない。バザガジールさんを、ここで最期にさせちゃいけない」
ボルメテウス『…どうして、そう思う?』
「私がそうさせたくない!」
ボルシャック『──あぁ!そう言ってくれるのか、リッカ!』
リッカ「うん!それに今皆の所に行っちゃったら、ごめんなさいしか皆に言えないはずだよ。それじゃあんまりにも寂しいじゃん!」
アテルイ「えぇ。生き延びたのならば、再び会うまでに沢山のお土産話を持っていくべきな筈です」
マシュ「はい!何よりも…嘆いている方を放ってはおけません!」
一同の心は同じだ。死なせてくれという願いを果たすには、何もかもが早すぎる。
ロマニ『あぁ、死に関しては一家言あるボクたちだからね!』
そんな彼女達の言葉に、嬉しげに頷くボルシャックにボルメテウス。バザガジールの悲嘆に終わりを招ければ…それは朋友としての、純粋な願いであった。
?「お話、聞かせてもろたわぁ。うちの出番やね?」
リッカ「!あなたは!?」
そしてこの特異な戦いに、いよいよあの鬼が参戦する──!
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