人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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無銘の魂の刻は終わり




――王との語らいにて、揺るぎなき自己を確立する


無銘の終わり――新たなる銘、新たなる旅立ち

満点の星、拡がる蒼きソラ

 

 

器『英雄王ギルガメッシュ』の最奥

 

 

その神聖なる場所にて、絢爛なる対話は執り行われる

 

 

《さて、こうして対面を為すのは初めてであったか?》

 

 

鎧を纏い、こちらをみつめるは、黄金なりし英雄王

 

 

――はい。貴方と会話を為すのは、これが

 

 

向かい合うのは、無垢なる魂。

 

 

《ふっ、我がくれてやったその姿、随分と気に入ったと見える。我も下らぬことをしてやった甲斐があったと言うもの》

 

 

その姿は、王が賜りし『英雄姫』のカタチが顕れていた

 

――ぁ、・・・ぅ・・・

 

 

言葉が、上手く現せない

 

 

言いたいことが沢山あるはずなのに。沢山伝えたいことがあるはずなのに。

 

 

――いざ向かい合うと、なにも言葉が出てこない。感嘆と、恐縮と、畏怖がまざり・・・言葉の一つも発せない

 

 

情けない・・・今まで自分を庇護し、導き

 

 

――救ってくれた、かけがえのない王に、御礼の一つも言えないなんて――

 

《――フッ。口を開け、目を潤ませながら我を見詰めるとはな。そうそそらせるな。頬に口づけの一つもくれてやりたくなる》

 

――!

 

《どれほどお前を見定めたと思っているのだ。言にせずとも、お前の真意は計り取れる。――思い浮かべるだけでよい》

 

フッ、と。いつも近くで見てきた笑いを溢す

 

 

《好きに問うがいい。お前のこれまでの敬意と奮闘に免じ、いくらでも付き合ってやる》

 

 

――王・・・

 

・・・恐縮で倒れてしまいそうな自分を奮い立たせる

 

これよりあるか解らない、王の謁見なのだ。せめて、聞きたいことは訪ねなくては・・・

 

 

――いつから、貴方は在ったのですか?

 

 

そうだ、目の前の魂、英雄王ギルガメッシュはいつから、あの器に君臨していたのかを問いかけた

 

 

《初めからだ。カルデアに招かれ、器をカタチにした頃より、我は魂を預けていた》

 

――!

 

 

《当然であろう。我が肉体は至高の財。そして肉体、精神、魂が三つ揃って万全となる。魂なき身体などガラクタよ。――まぁ》

 

イタズラっぽく、王は笑う

 

《その中に、一つ混ざりものがあったわけだがな?》

 

 

――ごめんなさい!

 

頭を下げて謝罪する

 

訳もわからず、貴方の存在を使ってしまって・・・否定も、思考も、自分には及びもつかなくて・・・!いえ、言い訳です。王を辱しめた罪、ここで・・・

 

《よい》

 

 

――え?

 

 

《凡百の転生者とは違い、浅ましくも我が威光のみを掠めとらんとした訳でもないのだ。魂一貫で我が身を動かす、その剛毅さに免じて不問に処す》

 

――処罰は・・・

 

《無いといった。――全く。事ここに至って解りきったことを問うな。腰が低いのも考えものよ。まぁそこがお前の美徳だが》

 

―――王は、赦すと言った

 

 

自分を、王に宿った魂を

 

 

・・・寄り添う事になった自分を・・・

 

 

《この我は器に対する防衛機構、セキュリティのようなものだ。我の赦しなく不遜にも我が威光を汚さんとする雑種を滅する為の、肉体に備わった魂なのだ。くだらぬ転生者にとって、我が力は頂点であるからな。手を伸ばさんとする身の程知らずは星の数よ》

 

――・・・

 

《だが・・・何の見処もない雑種に我が肉体をくれてやる道理はない。身体に入り込んだ不純物は例外なく八つ裂きにし、輪廻の輪から外してやるのがこの我の務めだ。故に――本来ならお前も誅す筈だった》

 

 

――筈、だった?

 

《貴様は不純物『ですら』無かった。あらゆるモノをそぎおとされ、無味乾燥の魂のみとなった貴様は、何一つ裁定できる要素はなかったのだ。白いキャンパスの査定はできまい。それと同じよ》

 

 

 

――そうか、自分は死して初めて――

 

 

《裁定の要素が無い以上、手を下してやるわけにはいかぬ。それに無垢なる魂は貴重品だ。――退屈をもて余していた故に、我は貴様に肉体を任せてやることにした》

 

・・・では、貴方はずっと傍に

 

 

《いたとも。深層心理の底にて我はお前を見定めていた。自惚れ、増長し、我が財と威光に溺れる下らぬ魂に成り果てれば即座に処断してくれようと眼を光らせていた。――いたの、だが・・・》

 

・・・凄まじいモノを見た

 

 

王が頬をかき・・・ばつの悪そうに視線を泳がせている・・・

 

 

・・・照れて、いるのだろうか・・・?

 

 

《貴様の初めての感情が『我への敬意』とは予想だにしていなかった。転生者とは他を踏み台にし、世界を舐め腐り、下らぬものにする不純物と言う観念を、お前は容易く覆したのだ。――これには我も驚いた。よもや肉体のみの我に、無味無臭の分際で全霊の敬意と憧憬の眼差しをぶつけてくる敬虔さを備えた魂が宿るとは思ってもみなかった》

 

――それは

 

《解るか?お前は即座に我の予想を覆した。お前は我が情けにて肉体を賜ったのではない。自らの在り方で『勝ち取った』――虚を突かれた足元を掬われたのだ。そら、無様な王は引っ込むしかあるまい?》

 

 

 

そんな、自分はただ・・・自分を受け入れてくれた、貴方には・・・最低限の感謝を、忘れたくなくて・・・

 

 

《それが我には、良きものだったまでの事よ》

 

 

――英雄王・・・

 

 

《そこからの活躍は貴様が心得ている通りだ。敵を砕き、マスターやマリーめを救い、カルデアを改築し、惜しむことなく王の威光を轟かせた》

 

 

――思うままに、願う、ままに

 

《我が財を選別し、臣下の状態を見定めた。しかしてけして我が傀儡になるでなく、時には我に歯向かってまで休息を取らせた》

 

愉快そうに笑う、英雄王

 

 

《まさに――王に寄り添う『姫』のような献身ぶりよ。お前の雑念の余地なき振る舞い、素直な敬意、まこと王に心地よきものであったぞ》

 

 

――違います・・・王

 

《ん?》

 

――自分には、それしかなかったのです

 

 

自分には何もなかった。趣味も、嗜好も、性別すらも何もなかった

 

だから・・・そんな自分を受け入れてくれた貴方に――

 

せめて、ありったけの敬意は、忘れてはいけないと・・・

 

 

《それだけ、ではない》

 

――え?

 

《それだけで良かったのだ。物事の道理が解らぬうちは、我が威光に眼を輝かせておればよい》

 

 

――・・・!

 

 

《お前は、その無垢さゆえに――最適解を選びとっていたのだ。我が認める。お前は我が傍に寄り添うに相応しき振る舞いを取っていたのだ》

 

 

――!!!

 

 

《我が宝物庫まで整頓をし始めるのは驚かされたがな。よもやここまで、とな。どこまで献身的なのだ。我がくれてやったその姿、大半はその奉仕ぶりに見繕わせたのだぞ?》

 

 

――この、英雄姫の姿・・・本当に良かったのですか・・・?まさか、自分に合わせた姿、なんて

 

 

《よい。性転換など不要なものだ。我は獅子のごとき雄、故に王。組敷かれる姿など、一つや二つくれてやる。――無論、理由がないわけではないぞ?》

 

 

愉しそうに笑う、愉快そうに話す英雄王

 

 

《世界を見て『愉悦を』したい。『愉悦』を知りたい。新しきを知る喜び、未知に胸をときめかせる本能、己の人生を彩る娯楽》

 

――それは、自分が見つけた・・・

 

《そうだ。お前の愉悦、お前の見つけた魂のカタチだ。――その答えが、あまりにも清廉に過ぎたモノでな。『英雄姫(ソレ)』ぐらいしか見合うモノがなかったのだ。明解であろう?》

 

 

――自分の応えに合わせて・・・この姿を・・・?

 

 

《他人の苦悶や苦痛を愉しむ在り方なら、怪物の醜悪な姿でも見繕ってやったのだが、そこまで清い愉悦、魂のカタチならばこちらも応えてやらねば王の名折れよ。――全く腹立たしい。次から次へと、我が予想を越えおって》

 

声に怒りはない。あるのは・・・愉快そうな弾みだけだ

 

《お前は魂のカタチを得、我が身体を操る資格を得、そして愉悦を成す姿を手に入れた。――それらをすべてを獲得すること、我が認める。――それらすべては。これまでのお前の旅路の奮闘における褒美である。――どうだ、不服があるなら聞き届けるが?》

 

――いいえ、いいえ・・・不服など。有るはずはなく

 

 

心から、感謝と謝辞を表し礼をする

 

――全霊を以て、賜らせていただきます。・・・本当に、本当に・・・ありがとうございます。英雄王、ギルガメッシュ・・・――

 

 

《よい。旅はまだ半ばだ。引き続き貴様に肉体を預ける。懸命に励めよ》

 

 

――!?

 

 

《何を驚く。我が貴様を弾き出すと思ったか?今更に過ぎよう。そのつもりならとうの昔にやっている》

 

 

――よろしい、のですか?

 

 

《無論だ。貴様の旅路はこれより続く。貴様の憧憬を噛み締め、心地よく微睡みながら、我は意識の底でお前の旅を見定めるとしよう。何、我に気を遣うな。我は我で楽しんでいる。何せ――》

 

 

スゥ、と眼を細める

 

 

《友と駆け抜けた事はあったが、姫に寄り添われ時代を巡るのは初の経験だ。気が弛み、頬が弛むのは当然であろう?『英雄姫』》

 

 

――英雄王・・・

 

《王たるもの、姫なるものの我が儘は聞いてやらねばなるまい。貴様が膝を屈するまで、諦め投げ出すまで。その器、我が財を振るうことを真に赦す》

 

王が、頭を撫でる

 

《我が期待、我が愉悦、我が機嫌。――それらを裏切ってくれるなよ。無銘》

 

――はいっ・・・はいっ!

 

 

本当にありがとうございます、英雄王!自分は――この魂は・・・自分は!

 

全身全霊で、伝えたい言葉を紡ぐ

 

 

――貴方という偉大な王に出逢えて、本当に良かった――!

 

《――うむ。お前の忠心、確かに受け取ったぞ》

 

王の身体が、消えていく。

 

 

消滅ではない。また、意識の底に鎮座するのだ

 

《ではな、無銘。――む》

 

 

・・・?

 

 

《――前々から思っていたが、我が庇護する英雄姫の魂がいつまでも無銘というのは座りが悪いな。ナナシ、ナナシと呼ばれているようなものではないか》

 

――自分は、もうすっかり慣れてしまいましたが・・・

 

 

《仮にも我が魂を名乗るのだ、一向にソレでは格好がつくまい。その姿もギルガメッシュと名乗るのでは些か紛らわしい。――よし》

 

 

 

スッ、と指を指す

 

《お前に銘をくれてやろう。魂、肉体両方にだ。有り難く拝聴するがよい》

 

 

 

――な、名前・・・!?

 

《不服か?》

 

そ、そうではなくて!心の準備が・・・!

 

 

《そう身構えるな。名前は決めてある。お前に相応しい名前などこれしかあるまい》

 

 

 

 

――そして

 

 

 

 

 

 

 

《貴様の魂の銘は『エア』。英雄姫の肉体は『ギルガシャナ・ギルガメシア』と名乗るがよい》

 

 

 

 

無銘の魂に、英雄姫の肉体に、銘が備わる――

 

 

 

――その、名前、は・・・――

 

 

忘れるはずがない、聞き逃す筈がない

 

 

《フッ、アメリカの言葉で『空気』を顕す言葉だ。お前のいるかいないか解らん在り方に相応しかろう。肉体の方はギルガメッシュを女性らしくもじったこじつけだ。中々響きは悪くなかろう?即興で考えたにしてはセンスがあるな。流石は我だ》

 

 

――その、『エア』という銘は――貴方の至宝の・・・

 

《あぁ、そういえば我が乖離剣も似たような銘を持っていたな。フハハ、アレも確かに無銘であったな。すっかり失念していたわ》

 

 

――その言葉は戯れだ。王は、『これしかあるまい』といっていた

 

ならば、その言葉は、その名前は・・・決めてあったものなのだ

 

――魂に刻まれた銘を、肉体にあたえられし名前を、噛み締める

 

 

――拝命致します、英雄王

 

 

真っ直ぐ、王を見つめる

 

 

我が魂の銘、『エア』。英雄姫の肉体の名、『ギルガシャナ・ギルガメシア』――この名に誓うはただ一つ

 

 

――万感の感謝を込めて

 

貴方への、変わらぬ敬意と感謝を。これからも変わらず、貴方という至高の王への惜しみ無い称賛を

 

 

そしていつか――この銘に恥じぬ返礼を、必ずや、偉大なる英雄王にお捧げ致します

 

 

《期待しているぞ、エア。努、その在り方を損なうな》

 

 

 

ふわり、と身体が浮く

 

 

《目覚めの時だ。貴様の意志を、外界に送り返す。しばしの休息とせよ。魔神どもに触れられた穢れは祓っておいてやる》

 

 

――英雄王――!

 

 

《研鑽に戻るがいい。我が庭、我が世界を思う存分に挑み、その見応えのある純白の魂に鮮やかな色彩を付与せよ》

 

 

 

 

手を伸ばす、届かずとも

 

 

 

《その義の完遂を以て、お前の魂の査定を完遂するものとする。――お前の選ぶ旅路ならば、それはさぞ見応えのあるものであろうよ》

 

 

自分をずっと見守り、導き、庇護してくれた

 

 

《神に挑むは人の究極。その意志一つで魔神を退けたお前は、我が魂に相応しい》

 

 

――眩しそうに笑い続け、此方を見上げる。この世で最も敬愛する、唯一無二の大切な王の笑顔に向けて――

 

 

 

これからもずっとずっと共に!――ありがとう――!!英雄王ギルガメッシュ――!!

 

心からの謝辞、万感の想いを告げ

 

 

 

 

《――ではな。あまり根を詰めすぎるなよ。過労死でもされれば連れ戻すにも骨が折れる。姫の我が儘に付き合うのも甲斐性とはいえ、何事にも限度はあるのだからな》

 

 

 

世界が、あらゆるものが光に包まれ――

 

――エアの意識は、そこで反転した

 

 

 

 

 

 

 

眼を開ける

 

 

アパルトメントの一室で、身体を起こす

 

 

身体は『英雄姫』

 

右手に握るは、『清廉なる白金の聖杯』

 

 

――これは・・・?

 

 

中身は満たされている。7色の美しい魔力がたっぷりと注がれている

 

――これもまた、英雄王からの褒美、なのだろうか・・・?

 

 

考えながら、ゆっくりと保管する

 

 

――いつか、きっと。使い途は自ずと見つかるだろう。その日が来ることを楽しみにしておこう

 

 

(挨拶は終わったかい?)

 

 

傍にいたのは、大切な友達、フォウだ

 

 

「――うん。あのね、名前を貰ったよ」

 

(本当かい!?聞かせて聞かせて!)

 

 

「魂は『エア』。身体は、ギルガシャナ・ギルガメシアだって。ふふっ、カッコいいでしょ?」

 

 

(・・・あぁ。いい名前だ。おかえり・・・エア)

 

 

「ありがとう。フォウ。あの時、傍にいてくれて――本当に嬉しかったよ・・・」

 

(護るさ。友達だもの。・・・ね?)

 

「うん。・・・ありがとう」

 

フォウを抱き締める

 

 

「自分は一人じゃない・・・その事実が。こんなに嬉しい・・・キミがいてくれて、本当に良かった・・・」

 

(同じ気持ちさ。――戻ってきてくれて、そのままのキミで・・・本当に良かった)

 

「うん・・・」

(・・・おかえり、エア)

 

「ただいま、フォウ」

 

 

 

――二人はそのまま、お互いの存在を確かめあう

 

 

 

 

――無垢なる無銘は銘を賜り

 

 

 

――果てなく続く旅を往く――

 

 




その魂一つで憐憫の魔神を退け 


比較の獣を愛し、討伐し、友とする


唯一無二の霊基を持つ、至高の美を湛える英雄姫


その器の銘

『ギルガシャナ・ギルガメシア』

その美しさ、無垢さ、尊さを顕せしは唯一無二のレアクラス

英雄姫(プレシャス)


魂の『願い』の尊さに応え、王が賜らせし肉体



その至高の肉体に宿りし、魂の銘

その名『エア』


――旧き神の真名、世界にて生物が生きるに無くてはならぬ構成要素。そして、英雄王が『無銘』に名付けし銘

――ただ自然に其処に在れ、貴様は世界に在るべきとであるという気概を込め


無銘の魂に、至高の王が与えた銘である

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