人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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メディカルルーム

アスクレピオス「回路にダメージはないが、極度の衰弱と魔力の枯渇により特異点内の活動は難しかろう。絶対安静が見解だ。語るまでもないことだがな」


ぐっちゃん「暴利よ、暴利!普通こういうのって2割とか3割でしょ!枯れるまで持ってくやつがあるかって話!」

ベリル「魔術や魔力が基盤でこれは勘弁だぜ…うー、気分わりぃ」

リッカ「皆、ありがとね…生き延びたのはたまたま執務に呼ばれたはくのんだけ…」

はくのん『すまぬ、すまぬ』

カドック「いいんだ、リッカ。君がいればなんとかなる。僕達の奮闘で君は残った。それでチャラだ」

キリシュタリア「マシュもとても立派になったね。お兄さん嬉しい!」

マシュ「リンゴをおくちにしゅぅー!します!」

キリシュタリア「むぐほ!」

カドック「最後の試練も気を抜くな。僕の勘だが…まだ、何かあるぞ」

リッカ「うん!アナ呼ぶね!」

カドック「呼ばなくていい、安静じゃ済まないからな…それと、アテルイはどうした?」

リッカ「アテルイ?田村麻呂や鈴鹿と休んでるよ?」

カドック「彼女に気を配ってやるんだ。彼女はどちらかといえば…やり直しを望むはずだから」

リッカ「やり直し…」




ifの誘惑

「よぉ、アテルイ!今回もカムイの黄金の浄化、ありがとな!」

 

ボルバルザークとの決戦の後、リッカら以外のマスターが軒並みドレインにより戦闘不能となってしまった事実を鑑みたカルデア首脳陣は、作戦遂行を二時間後に定め休息の時間とした。ヴリトラは試練に関しては律儀であり、試練から逃げさえしなければよい、そもそもアトラクションなのだから楽しむのは当たり前と静観を定めた。

故にこうして、サーヴァントたるアテルイや田村麻呂も警備と見回り、護衛を兼ねたランドへ出張を行っている。

 

「田村麻呂。鈴鹿はどうしたの?」

 

「ブティックでお土産見繕うからアテルイと語り合ってろ、だとさ。気遣いなのが見え見えで可愛いよなぁ。ま、言われなくてもどっちの時間も取るつもりだったけどな!」

 

ベンチに座り、アテルイに烏龍茶を渡す黒髪の偉丈夫と青髪の麗人。何をするでもなく雑踏や喧騒を見る二人の言葉は少ない。

いや、場をもたせる必要も気まずさも彼等には無いがために余計な言葉は不要なのだ。7日7晩、日本の未来を真剣に語り合った過去からも分かるように、二人はこれ以上なく互いの機微を理解できている。

 

「田村麻呂。イザナミ様や、ドラゴンの皆様は本当に素晴らしい決断をなさったと私は心から思うわ」

 

「おう」

 

だからこそ、アテルイの言葉も静かに受け止める。アテルイの語りたいことは、なんとなく理解できるからだ。

 

「もしもの世界、あり得た世界。それらを蘇らせる可能性を前にして、それでも私達の世界を良しとしてくださる。その判断や決断がどれほど困難で、偉大であるか。きっとカルデアの皆様は理解している筈よ」

 

「だろうな。叩き潰すじゃなく、俺らの方が生き残るべきだって背中を押してくれるだなんてよ。ラッキーにも程があるよな、俺らはずっと、戦いと争いで未来を勝ち取ってきたってのにさ」

 

汎人類史は戦いと争いの歴史でもある。ボルバルザークが言うように無限の闘争の中で人々は明日を築いてきた。皮肉にも対話による相互理解が困難であるこの歴史に生きるものが、異なる世界と解り合ってみせる。それは間違いなく、人という種族を極限まで研鑽した楽園という在り方が為せる技であろうと、二人は語る。

 

「ドラゴン達も、自分達の歴史の復活よりもこの世界の明日を望んでくれた。その決断は何よりも雄々しく猛々しい…私達が選ぶことなどできない程に」

 

やり直しなどに耳を貸さず、再起などに興味を示さず。それでもお前達の世界の明日を見たい。世界が滅んだ有様から立ち上がり再びと吠え猛る。その魂の強靭さに、アテルイは心から感服していた。

 

「………………」

 

それきり、アテルイは沈黙する。田村麻呂もそれに見習い二の句を待つ。そして、彼女の抱えた苦しみと願いを口にする。

 

「もしもを、見たか?オレとアテルイ、二人が存命で世界を変えていくもしも。そんな、あり得た可能性を幻視したか?」

 

「田村麻呂…!」

 

「なぁに、英霊が持つには過ぎた、とか相応しくない、とか人類史への裏切りだ、とか深く考えることはねぇ。英霊なんて未練があるからやってんだ。亡霊が考えるネタとしちゃあ、鉄板だよな」

 

田村麻呂は何もかもを見抜いていた。アテルイがヴリトラの言葉やボルシャックの言葉に影響を受けていることも。そして彼女が、田村麻呂との思い出を何より大切にしてくれていることも。 

 

だからこそ、田村麻呂は彼女の思いに寄り添うことにした。例えそれが危険な思想でも、思うことは止められないのだから。

 

「…私達の結末は、私達以外の要因で引き裂かれた。朝廷の思惑、敵対者同士たる運命、同じ時を生きれない必然。私達は少なくとも、あの時だけは心を重ねていた」

 

「……」

 

「思わないようにしていたわ。私達は英霊、人理の守護者。過去の皆がいるから私達があり、私達に続くみんながいるから今の平和がある。それは解っている。解っているつもり」

 

アテルイは子連れの家族を見やる。子と手を繋ぎ、小さくとも確かな幸せを噛みしめる者達。

 

「それでも…どうしても思ってしまう。もし私が、田村麻呂と結ばれていたら。あなたと二人で、日本の未来を築けていたら。そんなもしもが、叶ってしまうとしたら」

 

「………」

 

「私は、その誘惑を断ち切れるのかしら。聖杯と、カムイの黄金。空想樹を全て手にした時、私は私で、いられるのかどうか。そのもしもを…今、私は恐れているの」

 

田村麻呂と結ばれし伝説を有すのは鈴鹿御前であり、田村麻呂を伝説の男たらしめているのは鈴鹿御前の伝承だ。アテルイは人類史において、田村麻呂の宿敵であり処刑された存在でしかない。

 

そんな自分の前に今、世界を変えられるものがある。聖杯、カムイの黄金、そして空想樹。新たなる世界の雛形は今、全て揃っているのだ。

 

「田村麻呂。私は恐ろしい。ほんの僅かでも汎人類史に仇なす考えを持つ自分が…。ありえてはならない未来を夢想する自分が」

 

もしも、愛する男と結ばれていたのが自分だったら。もしも、未来を築けるのが自分、アイヌであったら。封じていた、押し殺していた気持ち。

 

それが鈴鹿御前との出会いと語らいで少しずつ暴かれていった。彼女や彼があまりにも幸せそうだったから。僅かなりとも思ってしまった。

 

──もしも自分こそが、田村麻呂と結ばれていたのなら。その考えを誰よりも恥じ、忌避していたのがアテルイだったかま故に、彼女はドラゴン達の勇壮さや伊邪那美の潔さに打ちのめされていたのだ。

 

「田村麻呂。私は…恥知らずな女。笑ってくれて構わない。皆が、皆が頑張っているのに、こんな…」

 

アテルイの噴出した嫌悪や葛藤。その悩みを静かに受け入れ…田村麻呂は静かに口にする。

 

「何が悪い?」

「え?」

 

「やり直しや間違い正しを求めて何が悪いってんだ。あの時ああしとけば、こうしとけばなんてごまんとあらぁ。お前の考え、もしもを許せない奴なんてきっといねぇよ。それだけお前をオレに惚れさせた自覚もある。それだけお前に惚れ込んだ自覚もある。むしろ、そんなにあっさり割り切られたら哀しいぜ」

 

田村麻呂は肯定した。彼にとって立場や在り方、サーヴァントの在り方なんてどうでもよい。惚れた女のほうが世界の法則より大事なのだ。

 

「やりたきゃ、やるといい。カルデアは敵対も対立もオッケーだ。聖杯がいるってんなら、ヴリトラからぶんどってやるし、空想樹が欲しいならぶっ飛ばしてくれてやる。望みの世界が欲しいなら、手にするとこまで一緒にやってやる。お前の夢は、オレの夢だ」

 

「田村麻呂…」

 

「だがな。オレは田村麻呂である前に、リッカのサーヴァントだ。カルデアの掲げる目標、護りたい世界の為に喚ばれた英霊だ。最後の最後にオレが選ぶのはアテルイでも、鈴鹿でもねぇ。今を生きる生命とその世界そのものだ。…だからよ…」

 

だから。目を潤ませ声を震わせ、最悪の事態であり地獄であり悪夢と知りながら、田村麻呂は告げる。

 

「お前が敵になるなら、オレが斬る。鈴鹿も敵になった時もオレが斬る。大前提としてオレはもう死んでんだ。こうして二回目の生を受けたのはテメェの人生を謳歌したいからじゃねぇ。今を生きる奴等の力になるためだからだ」

 

「……!!」

 

「やりたきゃやれ、アテルイ。ただ…オレは傍にはいられねぇ。オレを頼ってくれた全ての奴等を裏切るなんて、オレにはできねぇよ…」

 

惚れた女よりも、かつての誓いよりも。彼は英霊であり、大将軍であった。世界の為に、己の全てを捧げる覚悟などとうにしていた。

 

それでも…彼にとって、惚れた女に刃を向ける事は、考えるだけで涙を抑えきれぬ程の絶望であるのだ。

 

「…ごめんなさい、田村麻呂」

 

アテルイは肩を震わせる田村麻呂の手を取った。自身の悩みが、どれだけ愛する人を傷つけたかを知ったからだ。

 

「ごめんなさい…」

 

日本を、世界をやり直せたとして。この人を哀しませる願いになんの救いがあろうか。彼女は静かに、己を悔いた。

 

「構わねぇ、構わねぇんだアテルイ。オレ…オレは決めたんだ。今度こそ、惚れた女を哀しませねぇってよ。だから…」

 

「いいの、田村麻呂。私が愚かだった。護りましょう。私達の出会いから紡がれた、この歴史を」

 

惚れた男を哀しませて、我儘などを通せるものか。アテルイは田村麻呂の優しさで、誇りを取り戻す。

 

「終わった後で、一日だけ…私とデートしてちょうだい。私の救いは、きっとそれだけなのだから」

 

「おう!…おう!」

 

「だからほら、泣かないで。ごめんなさい、私が間違っていたから、ね?」

 

涙が止まらなくなった田村麻呂を懸命にあやす、どちらが夫か解らない光景。

 

だが、これこそが自身に与えられた救いだと…アテルイは、確信するのであった。

 

 




物影

鈴鹿「バカ。あいつ、アテルイに慰められてんじゃん」

シトナイ「正妻の余裕?鈴鹿」

鈴鹿「んーん。アテルイってそんな女狐じゃないし。束縛したら田村麻呂の魅力死ぬし。アイツとアテルイだけの絆は、確かにあるし」

シトナイ「だから一歩引いたのね。良妻〜」

鈴鹿「別に心配してなかったし。アイツが大事にしてるもん、ちゃんと解ってたしね」

シトナイ「アテルイも、一先ずは大丈夫そう。彼女、やっぱり未練はあったみたいだから」

鈴鹿「ん。サーヴァントでお互い会えたんだから、邪魔虫にはなりたくな」

田村麻呂「鈴鹿とアテルイに挟まれてグッスリ眠りてぇよぉ!!耳元で二人に囁かれてぇ〜!!」

鈴鹿「あの馬鹿ァ!!」

シトナイ「あらら…」

試練の前に仲間割れは…ドロップキックかます鈴鹿を、シトナイは困惑気味に見守るのであった…

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