人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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モア『ほわぁ、これがアトラクション!とても楽しいです!』
ナイア「まさかこれほど多種多様な楽しみ方があるだなんて…まるで宝箱の中を探検しているようです!」
エキドナ「はしゃぎすぎないで、ほどほどにねー!」 



リリス【………………】
XX「みなさーん!ブラックカード支払いの最高級ジュースはいか…ん?」

(…なんですか、あの超犯罪者めいた格好は?)


『自販機』

【……持ち合わせがもう無いわね……】

?【なんだ、お前持ち合わせないのか?】

【!】

ニャル【久しぶりだな、リリス。奢ってやるから少し話さないか?】

リリス【……………お願いしようかしら。生憎お土産に使い切り、お金がなかったのよ】



儚き知己の邂逅

【お前、カードゲームなんてするんだな。意外だったよ】

 

ニャルラトホテプは家族とドラランドを満喫する中、とある古い知り合いを見つけた。それはこの世界のどこにも居場所のない女性。身体中を拘束具で覆われた、束縛と放浪の女性。

 

【私じゃないわ。娘達へのお土産よ。それに、本当に偶然だったのよ。この世界に足を運んだのは】

 

その名は、リリス。彼女の正体や目的をカルデアは把握していないが、リリスとニャルラトホテプには遥か昔、僅かなりとも確かな縁があった。ニャルは一先ず時間を作り、リリスと対話を行う。

 

【楽園追放の夜魔。永遠の放浪者。温羅さんとよく似た時空彷徨の呪い…まだどうにもならないということか】

 

【お陰様で。この世界に来たのもたまたま、本当に偶然よ。次の瞬間、この世界から消えるかもしれないのは変わらないわ。本来なら存在すらできないここにも、ランダムならば少しは滞在できるようね。なぜか】

 

そう、リリスは楽園を追放されし魔である。故に彼女はかつての武蔵、温羅のように永遠の彷徨の最中にいた。彼女は同じ世界にいることはできず、数百や数千の世界を既に彷徨っているのだ。特にこの人類史には、とある条件を除いてやってこれるはずがないのであるが、彼女は今ここにいる。その問題について、彼女は深く考えずに土産を見繕っていたのだ。

 

【ドリームランドの頃合いから変わらぬ宿痾か。なんとかしてやりたいが、流石に創世神話の逸話、それに悪魔たる君に手を加えるのは憚られるな】

 

そう、ニャルはリリスのかつての上司でもあった。ドリームランドに紛れ込んだリリスを保護し、現実世界の活動を黙認してやる代わりに、現世における情報収集を担ってもらっていた経緯を持つ。

 

【あら、随分と優しくなった事ね。昔は随分と煽ってきたのに。家無しのバツイチ夜魔だなんて】

 

それはナイアと出会う前の邪神であったため、そこに友好などあるはずも無く互いに利用するだけの冷たい関係だった。活動するためのパトロン、手駒。互いに求めていたのはそういった無機質で淡白なドライさだけ。だからこそ、マンションとここで感じた彼の変質に、彼女は瞠目していた。

 

【嘲笑い、翫ぶだけだったあなたがまさか大家族の父親だなんて。心だなんてもの、あなたにあったのね】

 

嬉々として他人を踏み躙っていた邪神が、家族と家庭を持つ。それは彼を知るものとしてまさに驚天動地だ。家族や家庭は最高のジオラマ、飾って良し、守り立ててよし、粉々に砕いてよしと常日頃嗤っていた彼を知る、リリスから見る視点からも同じく。

 

【驚いたか?無理もない、私もよくよく驚かされているからな。まさか私がこんな幸せを手にできるとは夢にも思っていなかったよ。…お前のお陰でもあるんだぞ、リリス】

 

【私が?】

 

【お前に頼んだ何度目かの情報収集、高く売れそうな児童のリストの一人に後の我が愛娘がいた。白髪と赤目の褐色の少女…ナイアを見出させてくれたのが、お前なんだ】

 

彼女に仕事を頼み、邪神の目に留まった貧しい子供、攫ってもいなくなっても特に誰も気にしない者達。残らず活用する為に確保する中、後にナイアと名付ける少女はその風貌から彼の興味を射止めた。そして貧しい地獄から救う際に…その幼い表情に浮かべる絶望に魅せられたのだ。

 

【あの娘…!そう、あの気紛れが巡り巡ってここまで来ていたのね…】

 

 

『愉快な拾い物をした。目にした絶望と諦観…自分以上の不幸な人間はいないと言うようなこの眼を見ろ』

 

『私は決めたぞ。こいつをとことん幸せにし、愛することにする。希望が絶望に変わるのは飽きた。だからたまには…』

 

『絶望の人生を、とびきりの人生に変えてみせよう。お前のいつかの目論見にも通じるかもな。俗に言う『楽園実験』というやつだ』

 

 

【くっ、あははははははは!それで本当に親心に目覚め、絆されてしまったのね?這い寄る混沌、嘲笑うものがなんたる手落ちかしら。余程可愛かった様ね、パパ?】

 

【茶化さないでおくれ。ナイアは本当に…磨く必要もない宝石だった】

 

リリスは数百年ぶりに高笑いをあげる。ミイラ取りがミイラになるどころか邪神が親バカになったのだ。とんだワープ進化である。がちがちに固められた拘束されし身体も揺れるほど、彼女にとっての愉快なスキャンダルだったのだから。

 

【何度も何度もブッキングしていて、終ぞ言えなかったからな。…ありがとう、リリス。君のお陰で私は、最高の運命に出会えた】

 

ニャルは深々と頭を下げた。あの敬虔で麗しい娘に会えなければ、ここにある幸せは何もなかった。頭を下げる邪神に、リリスは笑いを終え硬直する。

 

【………まさか、あなたに本心から御礼を言われる日が来るだなんて。ちょっと、現実として信じられないわ】

 

【本心だと解るんだな】

 

【解るわ。子を話すときの口調…私と同じだもの】

 

彼女は夜魔であり母だ。彼女にもまた、娘達がいる。自分にとって何よりも大切な、娘達が。

 

【おめでとう。その幸せが壊れることがないよう、祈っているわ】

 

【なんだ、つれないな。せっかくなんだから身体だけはお前みたいに育った我が娘や家族に挨拶を…、………──】

 

…リリスの身体から粒子が漏れ出す。それは彼女が再び、世界から弾き出されることを意味していた。彼女はまた、どこかも解らぬ世界に飛ばされる。果たして次は、いつこの世界に辿り着けるのか。

 

【ごめんなさいね。私は行かなくてはならないの。この世界に、本当の意味で平等なる未来をもたらすために】

 

【…君は何も変わっていないのだな。遍く全てに平等を遍く全てに等しい救いを。その願いを変えることなく抱いて彷徨っているのか】

 

ニャルの言葉に、リリスは空を見上げる。そしてそっと、左手を空に掲げる。

 

【…国境を分けた右では、子供が飢え死に。左では、親の富を使い潰す子供がいる。それはただ、産まれが不平等だっというだけの理由で。あらゆる全てが、懐いた罪を手放せずに死んでいく】

 

【……】

 

【変えたいの。楽園にいるものだけは幸せで、それ以外は苦しみ死ぬしかない…そんなあらゆる不平等や不条理を。汎人類史が本当の意味で、差別も区別も、犯した覚えのない罪に苦しまなくていい世界を作り上げたい。そのために、私や娘達は存在しているのだから…】

 

【…それは、私達と一緒では作れないものなのか?一緒に知恵や言葉を交わし合って、掴み取ることはできないのか】

 

【無理ね】

 

あっさりと、端的に彼女は邪神の誘いを断った。だがそれは、嫌悪や否定ではない。

 

【カルデアの皆や、あなたの娘やその家族。それらだって私は助けたいし救いたいの。平等は、カルデアの皆様にも齎されるべき理念なのよ。だから、私は私だけでやらなくてはならない。力は借りれないわ】

 

【…フィーネにも、同じようにもたらすのか?平等という救いを】

 

フィーネ、リリスの親友。バラルの呪詛とバベルの崩壊を目の当たりにした、一人だけの親友。

 

【……当たり前よ。私にとって、拒絶するべき相手など存在しないわ】

 

【胸を張って、その言葉を言えるのか?対等たる友もまた、平等という名の俯瞰で見下ろすのか?】

 

【………。……えぇ】

 

【そうか…】

 

長い長い葛藤、沈黙。それがいつまで続いたか。今更彼女を止める資格もないと理解しながらも、ニャルは言わずにはいられない。

 

【なぁ、お前の言う平等には、たった一人だけ仲間外れが…───】

 

…そこに、リリスの姿は無い。彼女はまたどこかも解らぬ異次元、別世界、別領域へと飛ばされたのだ。

 

また彼女に会えるのは、いつになるのか。皮肉なものだ、利用ではなく、心から寄り添わんとする度に彼は報いを受ける。

 

──邪神である自身が、積み上げた報いを。




【………………】

ニャルは葉巻を取り出し、口に含んだ煙を吐く。家族への悪影響を考え、一切の害の無い自作ブランドだ。


【誰もに平等を与えた時…他ならぬお前に救いはあるのか、リリス…】

煙と共に吐き出した疑問。応えるものは、もういなかった。

この世界にはもう──どこにも。

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