ボルシャック『────いやがったな』
空想龍スサノオ『────────』
ボルメテウス『観測通り、常軌を逸したエネルギー総量だ。最早一刻の猶予もあるまい』
バザガジール『討ち果たす。我等の世界の置き土産など不要なり!』
ボルバルザーク『───んん?』
空想龍スサノオ『──────■■■■■■■■■■!!!』
ボルシャック『ぐあっ…!?なんだぁ!?』
ボルバルザーク『起動、したのか…!』
〜竜の玉座、入口
シトナイ「アテルイ、やるよ」
アテルイ「はい、シトナイ様」
リッカ「浄化されたカムイの黄金を、こうして捧げないと扉は開かれない…ガーディアンドラゴンは、その防御のためにいたんだ。そして、アテルイも…」
田村麻呂『聞いた話じゃ、シトナイ様だけじゃ黄金は受け止めきれなかったんだとよ。二人でギリギリとは攻めたゲームデザインしやがるよなぁ』
鈴鹿『アテルイがやられたら、詰み…だったってわけ?』
ムニエル『詰みポイントだらけじゃねぇか!?』
シオン『サタンってだけあってめちゃくちゃ性格悪いですねー!』
〜
サタン【くしゅっ!】
【き、ひ、ひ、ひ!来たか来たか、カルデアの者ら。ドラランドの試練に挑み乗り越え、ようぞここまでやってきた!無粋は言うまい、勇者には賛辞と礼賛を惜しまぬが礼儀というものよ】
リッカらが訪れし空間、そこは晴天突き抜けし空と雲を足場とする玉座。ヴリトラが座する席にして熾天を象りしもの。まさに超越者としての視座をもって、自らが擁した試練を乗り越えてきた竜殺し、勇者、英霊たちを悪竜は上機嫌に迎え入れる。
『自分を倒しに来た相手を歓待するとは笑止なり、インドの邪竜!今なら降伏は聞かなくもない、賢明な判断を下すのだ!』
ゴルドルフが副所長としての立場から、毅然とした振る舞いにてヴリトラに言葉を投げかける。降伏など竜が行うかという疑問を孕む問いではあれど、怖じ気づく事なく言ってのけた彼の胆力に管制室から感嘆の声が上がる。
【──────。】
『ひぃっ!?』
しかしその懸命な威厳は、ヴリトラの何気ない一瞥…もっと言えば目を細めただけの睥睨に吹き飛ばされてしまった。幻想種最強の存在とのコンタクトは何度もあったが、明確な敵対ドラゴンは少なかった。存分に敵意を含んだ威嚇とあらば、常人に耐えられるものではない。モニターの向こうから聞こえたドスンという音は、ゴッフの尻もちである。
【き、ひ。まぁそう言うな。ここまで来て和睦など興醒めであろ?ガーディアン・ドラゴンと存分に和睦を結んだのじゃ、一人くらいは対立、敵愾を貫かねば試練が温まる。申し出は受け取っておくがの】
『は、はい…解りました…』
『何腰砕けにされてるんすか副所長!』
『メンタルの消費が著しい!一旦下がらせてケアを!』
ゴッフが搬送され、油断なく皆が構える中、ヴリトラは玉座から腰を上げる。
【最早決着を引き伸ばす必要もない。わえが蓄えしカムイの黄金、玉座より繋がる宝物庫に貯蔵してある。これと聖杯を手にすれば、そなたらが目論む親孝行も特異点是正も思うがままじゃ】
「…もしかして、無闇矢鱈にドラランドを荒らさなかったのは…私達の目的を慮ってくれたから?」
リッカの言葉に、ヴリトラは低く笑う。ドラゴンという圧倒的強者が運営、経営、商売に甘んじるわけもない。そこには必ず、何故が挟まるのだ。
【竜種というものは数が少なく、また暇でのぅ。そちらのオニキュアの頭領が行った神秘勇退をする頃には、竜は世界の裏側へと行ってしまった。何もしない、世界に首を突っ込まないのは在り方としては正しいのじゃろうが、如何せん暇じゃ】
「でも、今更世界の覇権になんて興味は無いと思うんだけど」
【ん?あぁ、楽園の竜か。まぁそうじゃなぁ。人ほど愉快な世作りを龍が出来る道理なし。今更出来ることなど世界をただ眺めるばかりであった、が】
そうはしないとされた干渉がいくつかあったとされる。今一度、如何なる理由を以てして。世界に干渉する機会が、と。
『それが、サタンなのかい?君のマスター、あらゆる者の敵対者。彼は楽園に仇なす為、竜すらも傘下に収めた』
「古来より竜は信仰の敵対者。バビロンの大淫婦が跨るのも赤き竜や獣だものね」
妖精騎士ランスロット、そしてメリュジーヌの問いにヴリトラはうむ、と腕を組む。サタンに関する情報など、秘匿する理由もないとでも言うように。
【そういう事じゃ。わえらが喚ばれ、竜に声をかけし者。あの痴れ者は無節操に貴様らの敵を見繕い続けよう。貴様らが鮮烈に勝ち続ける限りな】
『なんて迷惑な!?』
【まぁ、そう言うでない。言っておくが、サタン自身の有する勢力も勿論存在するぞ?地獄に跋扈する悪魔と魔王達の軍勢…ヤツの従えし配下共。それらが一息に攻め込まぬは、サタンが貴様らに熱を上げているからじゃ】
地獄の軍勢。七つの大罪を冠する悪魔達や魔王達。それらが介在しない理由をヴリトラは語る。
【いずれサタンが辛抱たまらなくなれば、自ら自身が軍勢を引き連れ舞台に立つであろ。貴様ら楽園に全面的な試練として立ちはだかる。その時は遠慮など要らぬ、ぶちのめしてやるとよい】
『…行動原理も主従関係も意味不明にすぎる。無軌道、無思慮。味方にも好まれず慕われているように見えない。本当に、カルデアの道行きがみたいだけ。本当にそれだけなのか?』
他意があるのでは、そう考案するホームズ。彼の問いに、あくびをしながらヴリトラは返す。
【動機も理屈も通らねば推理のしようも無いか。まぁ無理もない、あやつはそういう者じゃ。根本的に与えられた大罪を全うしているだけの者よ。人にも竜にも与さぬ災厄。理解など無駄と知り置け】
「…………」
【まぁあやつの話などどうでもよい。こちらの試練と成すべき事を始めようぞ。──ま、とはいえ一から十まで力比べはもう飽き飽きじゃろう。というか、わえが飽きた】
ぱちり、と指を鳴らすヴリトラ。すると黒き波動が溢れ出し、ヴリトラの掌に収束し、形となる。
【そろそろ肉体を苛め抜くのは十分。ならば最後は心胆を試すとしようぞ。勇者よ、唯一人を選びこれに触れよ】
「それは?」
【『失意の庭』…と言えば心当たりはあるのではないか?背後に構える魔術の王】
ガタリ、とロマニが立ち上がる。その表情はいつになく真剣で、理知的だ。それだけにその球体の危険性を雄弁に示す。
『…対象の魔力を使い、心の内にある不安や自嘲の感情から幻影を生み出し、嘘偽りない絶望を語らせる心象屈折空間…まさかそれが最後の試練なのかい、ヴリトラ』
【き、ひ。そういう事よ。サタンの持ち物を掠め竜の試練として改造したものじゃ。竜の揺籃、とでも改名しておこう】
最後の試練は、心に問いかけるもの。今までの道行きや歩みが、本当に誇らしく、絶望の悔恨が無いかどうかを問うもの。
【まずは心胆の試験じゃ。心意気故、死人の影法師では意味がない。生者、一人。この試練と向き合ってもらおうかの】
『んだとぉ!?』
【なぁに、生きていれば制限はかけん。誰でもよい故、自身の絶望と自嘲に向き合う姿勢を見せてもらおうか。それを乗り越えた時、わえは貴様らに報奨を約束するとしよう。まぁ…】
必ずや、そやつは心が死ぬであろうが。ヴリトラが手掛けた渾身の試練。それは、たった一人の心を試すもの。
【愛と希望、絆や友情大いに結構。貴様らの力はそうである事も知っている。だが、それを抜きに立ち上がれぬのであれば大成や成長とは言えぬの】
「ヴリトラ、あなたは…!」
【孤独や自嘲、内なる諦観にも負けぬ強さ。それをわえは見たいのじゃ。さぁ、誰でもよい。真なる心の強さを見せてくれ。そのためにわえは召喚されたのじゃ。人の心に勝る織物は無い。見せておくれ、強き意志、英雄たる覚悟を。き、ひ、ひ、ひ、ひ!】
ヴリトラもまた、サタンと心胆を同じくするものだ。それがあると分かるからこそ試す。乗り越えられると信じているが故に試練を課す。例えそれが、必ずや心を壊すものと理解していても。
「で、でしたらこのマシュ・キリエライトが!私も成長し、進歩を重ねここにいます!己の心の弱音などに、負けはしません!」
【主を置いて死ぬか?盾の女よ】
「っ…!」
【き、ひ。己の死より護れぬ無念を怖れたな?それでよい。恐れを知るから生きてゆける。となると、めぼしい生者は…】
「私しかいないね、ヴリトラ」
【──あぁ。ボルバルザークめが、めぼしいマスターをのきなみ離脱させたが故になぁ】
言葉なき、ヴリトラの指名。それは初めから、リッカを指し示していたのだ。数多のマスターやサーヴァントはその力を試された。
だが、かの悪竜は理解しているのだ。中核のマスターの心に歪みあらば、いずれそれは瓦解する。楽園は、心という蟻の一穴で瓦解する。
【どうする?自死のみが待つ試練だが…受けるか?】
それを理解するからこそ、問うヴリトラ。…だが。
「勿論」
彼女は、畏怖せず。──悪竜に真っ直ぐ相対した。
マシュ「せんぱっ、───…………っっ…!!」
ロマニ『──……………』
アテルイ「!?皆様、なぜ止めないのです!?リッカさん、何を…!?」
リッカ「試練を受ける。要するにこれ、根性と気合を見せろ。失敗なら死ぬって事でしょ?」
アテルイ「いけません、それを知って何故!?」
リッカ「だーいじょうぶ!こういうの、初めてじゃないから!」
ロマニ『今更、リッカ君の心や決断を疑うほど彼女を疑っていない。彼女が決めたなら、僕達は信じる。それが彼女への、カルデアの尊重の形だ』
マシュ「マシュ・キリエライト、同じく…!腕組みして、マスター・リッカの試練の突破を信じます!」
ルル『ヴリトラよ、一つ言う。──我等が夏草の龍、舐めるなよ!』
ヴリトラ【ほう───】
リッカ「それに、触ればいいの?」
【うむ。しかと見させてもらおうぞ】
アテルイ「リッカさん──!!」
歩み寄り、竜の揺籃に触れしリッカ。リッカの身体を、黒き奔流が飲み込み──
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