人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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地獄

ベルゼブブ【お一人で…?】

サタン【うん。護衛なんかいらないよ。楽園が不意打ちだまし討ちなんてする筈ないんだから】

ベルゼブブ【確かに。地獄の軍勢、残りの魔王共にも伝えます】

サタン【よろしくね。…あ、バアル】

ベルゼブブ【はい】

サタン【いつもありがとね!じゃ、行ってくる!】

ベルゼブブ【……何を仰るのか】

(恐らく気ままに振る舞えるのは最後でしょう。良きひとときを、サタン様)

【…さて、クリームヒルトの【領域】を手伝うとするか】



王の楔

「さて、会談の席は設けたが…大魔王とまで謳われる人理の敵対者、顔を合わせる気概は持ち合わせているかどうか」

 

楽園カルデア、最重要機密ブロック。王侯サーヴァントや所長権限を有するものしか使えぬプライベートルームを会合に、返報に添付されていた、彼等を招き入れるワープゾーンを対面に設置しギルガメッシュはその時を待つ。彼はサタン…人類史最も恐ろしき敵対者を楽園に招き入れんとしていた。

 

《丹田に力を入れよ、エア。邪気が無くとも、存在自体が悪である生き物もいる。我等が相見えるはそれの極地だ》

 

──はい。誉れも高き大魔王、決して無礼や粗相の無いようにしなくては…!

 

(いざとなったらボクとコイツがキミを護る。いつも通りで大丈夫だよ、エア)

 

フォウの励まし、ギルの背中を見やりエアは気合を入れ直す。始まるは楽園の戦いの気勢を制する対話だ。自身の不手際でミスは許されない。

 

──!いらっしゃいました…!

 

その時、漆黒のワープゾーンが起動する。地獄の如き深淵の穴から、輝ける光と黒き魔力が溢れ出し、それはやがて翼の形を、そして輝ける人の姿を取る。

 

【──こんにちは!ギルガメッシュさん、と…見えないけどギルガシャナさん!フォウくん!呼んでくれてありがとうございます!】

 

第一声は、どこまでも快活で溌剌とした少年の声。金髪に長く捻れた二本の魔角。ぴっしりとしたスーツに身を包み、喜色満面の笑みで手を振る美魔少年…

 

しかし、その重圧は凄まじい。存在強度、霊基と言った表記が軒並み計測不能を起こすレベルの魂の質量。聖杯を一人で満たすであろう、ギルガメッシュに迫る魂の輝き。ひたすらにドス黒い、漆黒の魂。

 

──…ッ…〜…!

 

フォウが、ギルがいなければ狂死すらしていたやもしれぬその存在に懸命に相対するエア。敵意は微塵もないのだ、警戒や気絶など無礼千万。リッカが、マスターがしているように気合と気迫を振り絞る。

 

【あ…ごめんなさい。威嚇するつもりは無かったんです。今抑えますね】

 

なんと、サタンは自身の非を認め自らの魔力を封じた。それはサタンが見せるとは思えぬ、気遣いとしか読み取れぬ行動。ギルは目を細める。

 

「貴様が他者を気遣うとはな。そのような殊勝さは持ち合わせているのだな、明けの明星」

 

【あなた達は、僕より美しいから。改めて、どのような理由であろうと僕を招いてくださり、本当にありがとうございます。光栄の至りです】

 

「従者はおらぬのか?単身で来たと?」

 

【不要です。あなた達と出会うのは、僕だけがいい】

 

揺るがぬ自身の定義と、心からの敬意を見せるサタン。エアの目には、ドラランドで垣間見た苛烈さや特異点の難易度と彼の在り方を結びつけるに数瞬かかった。

 

「では座れ。何、要件はすぐに終わるものだ」

 

【はい、失礼致します】

 

ギルの言葉に諾々と従うその姿は、驚く程に様になっていた。フォウがギルに耳打ちする。

 

(彼、傅くようなキャラだっけ?)

(かつては神の左にいたと聞く。その名残であろうよ)

 

ベルゼブブすら構えぬその余裕を見据え、ギルは対話の席に付く。これは──互いの最高戦力にして首領の会合なのだ。エアはカラカラになった喉に、生唾を飲み見守る。

 

「まずは礼賛を受け取れ。ドラランドの特異点、見事な手腕であった。切り札を出さぬにしろ、あやつらの気を引き締めるよい具合であったぞ」

 

【畏れ入ります。楽園の皆なら必ず乗り越えてくれると信じていましたから】

 

特異点の攻略をされても、彼は微塵も揺らがない。それどころか楽園の勝利が誇らしいと言わんばかりの態度だ。

 

「地獄ではなく、楽園の勝利を望むと?」

 

【はい。僕は敵対者。神に逆らい、人を惑わすことにより不変の正義を証明する存在。故に楽園の前に立ちはだかる事が、僕が皆様に出来る行いなのです】

 

サタンは自らの出自、使命、在り方。包み隠さず説明する。普段の彼は問われても返すことなどしない。むしろベルゼブブ以外とコミュニケーションすらしない。それがギルの問いには、不気味なまでに素直だった。

 

(どうなってるんだ…?もっと自分以外はゴミタイプじゃないのか?)

 

「貴様の、他人を見る基準とは?」

 

【はっ。僕より美しいか否か。僕が美しいと感じられるか否かです】

 

サタンはさも、当たり前のように告げた。それはギルが持つ絶対の基準、己と非常に似ている。

 

【ギルガメッシュ王、フォウ君。そして見えないけれど、ギルガメシア姫。楽園を築き上げた中核の皆は僕よりずっと美しい。だから僕は、皆様を尊敬致します。神に何もかもを与えられただけの僕より、ずっと】

 

──サタンさん…

 

【僕に誇れるような己はありません。神に与えられた全てを基準にしているだけだ。皆は違う。きちんと自分があり、美しい自分を持つ。だからそれにだけは、僕は絶対に背かないし、裏切らない。それは神すら超える美しさだから】

 

彼は自身の基準にのみ厳格で、徹底的だ。それのみが、ただ一人の己なのであろう。神によらぬ、己のみの。

 

「そうか。佳き審美眼だ。明けの明星の名は伊達ではないな」

 

【えへへ…】

 

無邪気に照れるサタンに、エアはあっという間に緊張を解される。

 

──彼は、自分に誠実なのですね…

 

それはギルに通じる美徳だ。自身の在り方から逃げない。その生き方は、エアが尊いと感じる生き様と似ていると感じさせるものであった。

 

「ではサタンよ。此度に呼び出した本題を告げよう。──珍獣!」

 

(はいよ!)

 

フォウが召喚せしは粘土板、ギルが手ずから書き記した盟約の粘土板である。サタンの前に、その文が示される。

 

「単刀直入に言う。我等と契約を結べ大魔王。お前の力は強大であり、鮮烈であり、故に無闇に振るわれてはならぬものだ」

【契約…】

 

「お前の在り方を否定はせぬ。客席で縮こまれと無粋も言わぬ。貴様は我等が対等に、尋常に対するべき者だ」

 

サタンは見やる。自らに記された契約の内容を。あえて情ではなく、徹底的な格式で記された条約を。

 

一つ。年末までに楽園が観測した、カルデアもサタンも関わらぬ特異点は、ギルガメッシュ、サタンの直接的な干渉、改変を行わぬ事。

 

一つ。 ギルガメッシュ、サタン両名の関わりが無く、かつ第三者の意志を垣間見る特異点や騒動を感知した場合、協力、対立を協議する場を設ける事。

 

一つ。 カルデアはマルドゥークの力の行使、サタンは全能の行使を年末まで封じる事。その代わり、休戦と共闘を解禁する事。ただし、両者の関わりがない特異点にて概念、対処が困難な難易度を持つ問題が起きた場合、どちらかのみの解禁を許可する

 

一つ。カルデアはサタンの楽園の来訪を認可し、客人として扱う事。望むならば監視付きの滞在を許すこと。

 

一つ。サタンは大魔王の名の下に地獄の軍勢を統率、監督し、暴走や契約に反する部下の矯正を徹底する事。

 

一つ。藤丸リッカが単独レイシフトを起こし、カルデアがなんの増援も見受けられない非常事態に限り、特例としてサーヴァント契約を結ぶこと。

 

一つ。サタンを討ち果たす際には、必ずやギルガメッシュ、エア、藤丸リッカ、フォウが相対すること。

 

 

【楽園に…来てもいいんですか!?】

 

何よりもサタンが見受けた場所はそこだった。彼は堕天した大魔王。楽園に行けるなど考えてもいなかったのだ。敵対者以外の扱いに戸惑うサタンに、ギルは頷く。

 

「頭の硬い、いや頭しかない神と同列に語るな。我が楽園は魔王と神すら受け入れる。貴様が望むなら、王の名の下に門を開こう。凱旋する気概はあるか?大魔王」

 

【────身に余る光栄です!異論などある筈もありません、この契約、謹んで受けさせてください!】

 

サタンは即座に契約を受け入れた。楽園からしてみても、サタンの楽園への感情を信じた非常に危ない契約ではあったが…彼はそれに、なんの異論も挟まなかった。

 

【あ、でも何故年末までなんでしょう?】

 

そう、それは決まっていた。いや、サタンを尊重する結末を描いたためだ。

 

「──貴様を年末、12月25日に討つからだ。敵対者としての貴様に敬意を払い、我等が直々に引導を渡してやる」

 

【─────】

 

「貴様が楽園の支援者であることも認めよう。故に──最大の名誉をくれてやる」

 

敵対者たるサタンに、王自らの敗北を。それは神との決戦にすら通ずる、サタンにとっての至上の栄誉だ。

 

【──お待ちしております、ギルガメッシュ。ギルガシャナ姫、フォウくん。地獄の大魔王として、全力であなた方に対峙することを誓いましょう】

 

ギルガメッシュとサタンはうなずき合い、握手する。契約は、確かに結ばれた。

 

「首を洗って待っていろ、大魔王よ。貴様の傲慢、叩き潰してくれる」

【僕以外の何者にも負けないでくださいね。心から、応援していますから】

 

その会合は、互いへの尊重に満ち終わった。エアとフォウは互いに頷き合い、胸を撫で下ろすのであったとさ…

 




ギル《気を抜くな、エア。例のものを渡すのだぞ》

──は、はい!

サタン【え?──わぁ!?】

エア「こ、こんにちは。サタン様!」

サタン【ギルガシャナ姫!?ギルガシャナ姫だぁ!?うわぁ、僕なんかに会いに来てくれたんですか!?】

「お逢いできて大変光栄でした!そ、その、あの!受け取ってください!」

『手紙』

【手紙!?…僕に!?】

「あなたに、です!」

【わぁ…!大切に、大切に読ませてもらいますね!】

エア(良かったぁ、ちゃんと渡せた!あとは呼んでくださればきっと…)

サタン【じゃ、じゃあ僕もプレゼントを!ギルガシャナ姫、どうか受け取ってください!】

「…はぇ?」

【きっと似合うと信じています。僕なんかより、ずっと…!】

フォウ(え、は、えぇ!?)

瞬間、サタンはなんの躊躇いもなく──自らの翼を引き千切った。彼の全能の証たる翼を、背中からもぎ取ったのだ。

サタン【受け取ってもらえますか?この手紙に比べたら、なんの価値もないものだけど…あれ?】

エア「きゅう…(ばたり)」

フォウ(エアー!?)
サタン【ギルガシャナ姫ー!?】

ギル《よもやエアめを気圧すとは…流石大魔王よな…》

あまりの自身の身の丈に合わぬプレゼントに、エアは堪えきれず失神するのであった…。

…後に、楽園が預かるという形で、サタンの翼は受理されたという。



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