ギル「たわけめ、邪竜なんぞ誰が好き好んで食すものか。ヒュドラ調理免許一級持ちの我だがヴリトラ調理免許はノーマークよ」
──ヒュドラ調理免許だなんてものが存在するのですね…。毒抜きで数百年使いそうです…。
ギル「だが、貴様の活かし方は既に見当を付けている。カルデアの一仕事に協力をしてもらうとしよう。さぁ──最後まで愉しめ、邪竜ヴリトラ」
ヴリトラ【…き、ひ、ひ。たまには、わえが試練に挑むのもよいのぅ…!】
『来園中の皆様にお知らせいたします。まもなく閉園時間となりますので、どうぞお気を付けてお帰りください。繰り返します。まもなく閉園時間となりますので…』
「む…、そうか。日も傾き、もう経営は一区切りの時間か」
『おしまい…』
カルデアが命を懸け、ドラゴン達との決戦に挑んでいたその一方、茨木童子達一行はドラランドを満喫しながら時間が経つのも忘れて遊び続けていた。気になるアトラクションがあればそちらへ、気にかかる店舗があればあちらへ。本能と好奇心のままに、テーマパークを楽しみ抜いていたのだ。
【あ、歩いた…こんなにも徒を行ったのは黄泉平坂でイザナギを追い立てた時以来だったぞ…あ、足腰が…】
『最後までよくぞ歩き抜いた。流石だ、我が母よ』
肩を借りながら息も絶え絶えになる伊邪那美は、保護者として気合で運動不足を乗り越えた。カグツチと茨木童子、そしてアマノザコを見守るおばあちゃんとして、ガタのきている身体に鞭を打って同伴を果たしたのだ。さしたる問題はないと強がる余裕も無いのは目に見えており、若々しいというか創造神の側面分フレッシュなイザナミと比べてやはり黄泉の神にはしんどかったのである。創世記から続く筋金入りの運動不足であった。
『他の子連れも帰っていく。特異点に紛れ込んだ自覚もないまま、日常に帰っていくのだろう』
案内役のドラゴン達とハグや記念写真を撮る家族、握手を交わしお土産を購入する家族。結局最後まで、ドラゴン達は人間達に危害を加える事は無かった。彼等は愉快な思い出とお土産だけを持って、当たり前ながらも幸福な毎日を歩みだすのだとアマノザコは頷く。
【カルデアの皆も上手くやったようだな。うむ、改めて振り返ってみても妾はいい経験になった。なった、が…】
『………』
パンフレットを寂しげに見やるカグツチ。それはスタンプラリーにも対応しており、各所を巡り回ればコンプリートできるものだ。これを完遂させる事を目的に皆は回っていたのだが…
『アトラクションをコンプリートは…出来なかったな』
アトラクションに乗れば押して貰えるスタンプは、残念ながら押しきれなかった事を気に病んでかカグツチはうなだれる。テーマパークの宿命として、滞在時間に対して楽しめる時間があまりにも少ない。一つ一つ楽しんでいけば、全てのアトラクションを楽しみ抜くのは至難の業だ。人気のアトラクションであればあるほど、である。
【ふりぃぱす、も買った筈なのに、及ばなかったか…】
アマノザコの提案で、優先フリーパス権は有していたが…いかんせん、あまりにも広くあまりにも多彩なアトラクションに歩きで移動する時間も鑑みた結果、全てを巡ることは叶わなかった。物理的に、一日では回りきれなかったのである。
『…残念…』
しょんぼりカグツチになるのは致し方ないというものだろう。テーマパークというものを楽しむにはやはり緻密で綿密な計画が必要だ。夢中に遊ぶと言うものもいいものだが、やはりいくつか心残りがあるというのもまた風物詩であろう。
「カグツチ…」
うなだれるカグツチに、茨木童子はそっと肩を置く。物悲しき終わりを迎えた彼女にかける言葉を、なんとかして探しているようで…
『…また来ればいい』
アマノザコが、助け舟を出す。それは、再訪の約束である。一日では回りきれなかった、足りないというならどうするべきか?簡単にしてシンプルかつ最適解である。
【そうだぞ、カグツチや。楽しかったらりぴぃたぁになればよいのだ。妾知っているぞ。美味しい食堂には何度でも寄りたくなる、あれだ!】
『まぁだいぶ俗だが、そのようなものなのだろう。次は何を楽しむのか、何に乗るのか。それを茨木童子と綿密に話し合えばいい。次はより良く、たくさん遊べるようにな』
今日は終わるが、明日はまた必ずややってくる。だからこそ、次はもっともっと楽しめるように計画を立てることを二人は提案する。
「そうだ、カグツチ!次の日にまた来ればいい、満足できぬなら明日、それでだめならまた明後日だ!何度でも何度でも、飽くなきように愉しめば良い!吾等ならばそれが出来るはずだぞ!」
『…また、皆で来れる?』
うむ、と頷いた瞬間また果て無き徒歩に勤しむ事となる事に顔面蒼白となるイザナミをなんとかなだめるアマノザコ。カグツチの問いに、二人は全力の肯定を返す。
「それにカグツチよ、まだ吾らはほとんど見ておらぬではないか。我等がヒーロー、鬼窮阿の活躍を!」
『あ…オニキュア…』
そう、茨木童子が密かに何よりも大切に楽しみにしていたオニキュア達の活躍。それを目の当たりに出来なかった点では彼女も非常に無念であった事を、カグツチは確かに感じ取る。
「そうだとも、鬼窮阿が吾等の願いを裏切る筈がない!きっと次に来たその日には、我等の前に姿を現してくれるであろう!だから泣くなカグツチ!そうだとも、まだ何も、何も終わってはおらぬのだからな!」
『…ばらきー…』
彼女もまた、無念と心残りを懸命に堪えていた一人である事をカグツチは理解する。ドラランドがあまりにも楽しかった場所であるが故に、出来ることなら叫びたいのだろう。吾はもっと遊びたい、と。
しかし彼女はカグツチの前では頼れる鬼として、先達として、或いは血の繋がらぬ姉として。自身を律しているのだ。自身を頼りにしている者の前で、弱音や弱気は見せることはない。それは彼女の憧れるオニキュアへのリスペクトであるが故か。
『…うん。また来ようね、ばらきー』
カグツチは愚昧な神ではない。他者を慮る事のできる神である。下手をすれば自分よりも無念を感じている相手を思い、自身の残念さを律した。
いや、無念はまた次の希望にすればよい。特異点において、いつまでも歪みがあるとは言えないが…望むこと、夢見ることは許される筈だ。
「な、なんだカグツチ!えぇい、頭を撫でるな!やめぃ!やめーい!」
『よしよし…』
一転し、暖かい篝火のように茨木童子を思いやるカグツチと、照れながらもじゃれる満更でもなさ気な茨木童子。二人で、寂しさや物悲しさを吹き飛ばしたらしい。
『…。子供というものはあっという間に成長するものだ』
或いは、茨木童子は生粋の面倒見の良さが発露しているだけかもしれないし。或いはカグツチは自分より放っておけない相手を見つけたから痩我慢しているだけかもしれない。
だが、ままならぬ事に泣き喚くのではなく互いを慰め、励まし、悲しみを半分とした。それは大人にも難しい、自己の調律である。それを成し遂げた子は、もはや狡猾な怪物ではない。立派な自己を育んだ一人前である。
『温羅も見習うべきだな。そう思いはしないか、母よ…』
【ううっ、ぐすっ…カグツチ、とてもとても立派になって…】
こちらはこちらで、カグツチの成長ぶりに親として噎び泣いていたのを見やり、小さく笑みを浮かべ肩を竦める。
(親孝行をしたい。そう言ったお前の目的はこの程度ではあるまい。…私はお前を信じるぞ。お前の…至らぬ母親としてな)
そう、この場において子は成長する事を彼女達は垣間見た。カグツチ、茨木童子。そしてその次が温羅であるということを彼女は疑う事が無かったのだ。
【フフフ…成長しているのは決して子だけでは無いのだぞ、アマノザコ…】
そう、それは子の成長を心から願い、信じている親心の発露。それを伊邪那美は、自らの娘から発せられている事を見逃さなかった。
思い思いの成長への兆し。それは、思わぬ形で発揮される事となる──。
ヴリトラ【おーぅ、いたいた。そこな家族らよ。少しよいかー?】
茨木童子「むむ?」
ヴリトラ【そなたらが来客1000人目というお祝いをすっかり忘れておってか。これをやる故、是非また来るとよいぞー】
アマノザコ『これは…!』
そこにあったものは、彼女らの無念を晴らすに相応しきもの。
【一日貸し切り券じゃ。明日使うのがおすすめじゃぞ。き、ひ、ひ…】
敗北し、義理に従う竜がもたらせしもの。それはカルデアの本懐に相応しき舞台への招待状──
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