人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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企画の試作として、読者様のサーヴァントのエピソードの執筆に挑戦しようと思います。こんなエピソード読んでみたい!というリクエストはメッセージにお願い致します。

そしてマテリアルは作者にメッセージで送ってくだされば!いつでもお待ちしております!

〜ドラランド・ティーカップ

シンモラ「貸し切りテーマパーク…よいですね、これはとてもよい…」

スルト『シンモラ 強く回すな』

「なぜです?」

『酔う』

「私は酔いませんよ」

『俺が 酔う』

「そうですか(クルー)」

『ヌワァ ー !』


(こやつは常にこんなふうに俺を引き回す…妻としてあまりに強い…初めて会った時もそうだった…)

あれは、ラグナロクが起こる前のこと…


胸の内の炎

「今日からあなたの妻となる女、シンモラです。炎の王スルト、私をお嫁にしてくださいますね」

 

 

『は?』

 

「はい(?)。よろしくお願い致します」

 

馴れ初めは、そんなにも単純なものだった。炎の王スルト。ムスペルヘイム巨人の王。誰もが畏怖し、誰もが戦慄く戦慄の巨人。終末の日に全てを焼き尽くすとされるスルトに、身一つで嫁ぎにやってきたのがシンモラだった。燃え尽きぬ花嫁衣装に身を包み、殴り込みにやってきたと勘違いするほどの剛気で、だ。

 

『何故 だ』

 

スルトからすれば、それはオーディン辺りからのムスペルヘイムの懐柔の証に思えた。はたまたロキの悪戯か、神々の黄昏への牽制か。いまいち要領を得ないスルトは、殺気よりも熱気よりも先に彼女に問うた。うら若き小さな娘が、スルトたる我に何故嫁ぐのかと。

 

「伝説における炎の王、巨人スルト。実は一目会いたかったのです。見てください、この紅蓮の髪を」

 

『むぅ』

 

それは確かに、ムスペルヘイムの炎が如き紅き髪であった。トールの娘は神々が羨むほど美しい髪をしているときくが、これも負けてはいないのではないか?女見てないから知らないが、などとスルトは思ったのだが。

 

「これを人は巨人の呪いだと言います。それが本当だとするならとんだ名誉毀損です。許せません。というわけであなたに嫁ぎ真偽を確かめます。わかりましたか?」

 

『いや 全く』

 

なんだこいつ怖い。スルトはシンモラという飛んでくるミサイルのような女を恐れた。恐怖や畏怖ではなく、対等に接さんとするその度量に気後れしたのだ。王でありながら。

 

「あ、そうです。ロキ様から『レーヴァテインを管理しろ』と仰せつかっておりますので、そちらも随意に。それではこれから、よろしくお願い致します」

 

『マジ でか』

 

なんだかあれよあれよという間に嫁が生えてきた事実に困惑しきりのスルト。上手くいくわけがない。大きさも種族も違いすぎる。すぐに燃え尽きるか逃げ出すだろうと鼻を鳴らすスルトであったが…

 

 

「結婚1年目、おめでとうございますー。ぱちぱち」

 

『続いた な…』

 

物凄く続いた。シンモラは真面目に、かつ誠実にスルトを支え、励まし、彼に寄り添った。巨人たるスルトと、その武器をよく管理した。言動はエキセントリックではあるが、そこにはムスペルヘイムの炎に負けない暖かさがあった。

 

「話で聞いていたよりとても理知的な方です、スルト。嫁げた事を誇りに思います。流石はムスペルヘイムの王」

 

『そう か』

 

スルトは最初こそ鬱陶しがったものの、その献身とけして物怖じしない毅然とした強さに感服を示すと同時に心を許していった。破壊し、焼き尽くすだけが使命である自身に、このような生ぬるく暖かい安らぎが齎されるとは露とも思わなかった彼は、シンモラを肩に置きユグドラシルを見つめる。

 

『お前も 懲りぬやつだ』

 

そう、とっくに逃げ出すかと思っていたのに。ロキに言われたレーヴァテインの管理などにそこまで熱を上げるなどと、笑ったものだが、帰ってくる答えは同じだった。

 

「私がしたいから、しているだけですので」

 

彼女はとても強い女性だった。弱音や嘆きは、この女の口から聞いたことがない。熱さにも、何もかもを受け止め乗り越える。そんな強さがこの女には備わっていた。

 

「今日はめでたい日です。というわけでスルト、妻としてあなたに問おうと思います」

 

『なん だと?』

 

「この髪の色は…ムスペルヘイムの呪いだったのでしょうか?スルト、あなたは私を呪ったのですか?」

 

それは、その色は不吉であると言われたからであろうか。彼女はその燃えるような紅き髪をスルトの前で靡かせる。その髪を疎ましく思っているのか、どう思っているかは知れなかったが…

 

『その 髪は…』

 

俺の関わる事ではない、知ったことか。ぶっきらぼうに帰そうとしたスルトであったが、そう告げようとすると、彼女の妻としての在り方が思い返される。

 

思えば、世界樹を焼くが如き紅蓮の髪など不吉そのものだ。シンモラの居場所は、グラズヘイムを始めとしたどこにもなかったのではないだろうか。フレイヤやフレイ、豊穣の神には疎まれたのではないだろうか。

 

「大神はこれを導きと言いました。ロキはこれを使命と言いました。私はそれが気がかりでした。教えて下さい、あなた。我が夫スルト。この髪の色は、あなたが見出したものなのですか?」

 

シンモラの言葉に、スルトは僅かに沈黙した。あぁ、そうだ。呪いだとも。永劫の呪いなのだそれは、と脅かしてやるつもりだった…そのはずだったが。

 

『それは 祝福だ』

 

「え?」

 

『ムスペルヘイムの祝福… よく似合っているぞ シンモラ』

 

…口から出てきたのは、そんなたわけたおべっかだった。スルトは自身に驚愕した。このような歯の浮く言葉など、自らが発せられる事にだ。スルトとは恐怖と灼熱の王。あまりにもそれは、愚かで滑稽であった。

 

だが…

 

「…ありがとう、あなた。あなたに嫁いで、良かったです」

 

シンモラはその時、心からの笑みを見せた。天に輝く太陽のような、グラズヘイムを吹き抜ける風のような、至上の表情だった。

 

呪いと疎まれ続けたのだろう。蔑まれ続けたのだろう。世界樹を焼くものとして憎まれたのだろう。だがシンモラはそんな言葉に負けなかった。生まれ持った髪に、誇りを持ち差別を乗り越えた強い女だったのだろう。

 

そんな女が、祝福を受けていたと言われたならば。他ならぬスルトが、ただ彼女を祝福していたならば。

 

彼女が抱いた幸福は、はたしてムスペルヘイムの何よりも高かっただろう。何もかもを越えるほどに。

 

『シンモラ 誇れ。それは 祝福だ』

「言われずとも」

 

それだけを告げ、その先も二人は共に過ごした。その距離は、サイズなど気にならないほどに近くなって。

 

 

…そして、ラグナロクの日。シンモラがいよいよレーヴァテインの封印を解き、スルトに託す。

 

「あなた、どうか神々に終焉を。世界を、始まりの前の終わりに」

 

『……』

 

「不躾ですが。あなたの妻であることで、シンモラは幸せでした。──今生の別れとなります。ご武運を」

 

そう、レーヴァテインを開放すれば全ては焼き払われ、生き延びるはスルトのみとなる。その後は、生き延びた人間あたりが繁栄するのだろう。この女も、数刻後には炭に変わる。決まりきった事、解りきった事。

 

ラグナロクの終焉を担うものとして、シンモラに向ける言葉など無かった。巨人の王としてかける言葉など──。

 

 

『世界樹の 陰だ』

 

「え?」

 

『人間のつがいを見つけ 世界樹の陰に行け』

 

スルトはただそれのみ告げた。世界樹も焼き払われるだろうが、幹の中、或いは影であれば…生き延びる目は、あるやもしれない。

 

『シンモラ 貴様が導け ムスペルヘイムの祝福と共に』

 

指先でシンモラを撫でる。紅蓮の髪と、蒼き瞳の女。妻たる女に、最期に触れる。

 

『これからは 貴様と人の時代だ』

 

「スルト…」

 

『さらばだ 我が妻 シンモラ…』

 

それだけ。抱擁も、営みも叶わぬ夫婦の今生の別れはただそれのみ。

 

そしてスルトは進軍し、鹿の角で歯向かったフレイを斬り殺し、世界の中心にてレーヴァテインを掲げ──。

 

『……────』

 

──己に、突き刺した。最大出力ではなく、神代のテクスチャのみを焼き尽くすよう加減して。

 

スルトもまた、死ぬ。ムスペルヘイムの炎、世界樹を焼く炎を道連れに。妻を迫害した世界の全てのみを焼き払うように。

 

『シンモラ …………』

 

全てが燃え尽きる中、スルトが思い浮かべたものは。

 

 

おやすみなさい。あなた。

 

 

神への感慨でもなく、世界を焼き尽くした達成感でもない。ただ…妻からの労りのみ。

 

 

…これがラグナロクにおけるスルトの活躍の全て。スルトは何故か全てではなく、神の時代のみを焼き払った。

 

スルトの手抜かりと言うものもいる。巨人の誤りと言うものも。だが、それは違う。

 

「スルト…あなた…」

 

一組の男女と、それを見出した紅蓮の女性だけは…世界樹により助かった。そして紅蓮の女性は、人の時代をよく導いた。

 

彼は焼き尽くすのではなく『託した』のだ。最愛の妻に。祝福を授けた、一人の女に。

 

『星の始まりを 見るがいい』

 

スルトの言葉を受け止めたシンモラは新時代における紅蓮の賢者として、二人をよく導いたという。

 

──彼女が有した、レーヴァテインの欠片。それは北欧における縁起物として、現代にまで伝わっているそうだ。

 

 

永遠の、暖かな愛の象徴として




シンモラ「親孝行、上手くいくといいですね」

スルト『うむ』

シンモラ「私達は親がいないのでできませんが」

『うむ』

「子供もいませんが」

『子供など 煩わしいだけだ』

「またそんなことを」

『お前だけ いればいい』

「…………(急旋回)」

『ムワァアァアァ』

それは、北欧における不思議な夫婦のお話。
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