甲児「カルデアス、はたまたカルデアを1から組み直す…だって?」
オルガマリー「はい。父、マリスビリー・アニムスフィアのカルデア…それと平行し、私達の、現スタッフが完全新規より組み上げたクリーンな人理保障機関を手掛ける。それが、私の新たな目標です」
甲児「父の遺産ではなく、己の組織を?魔術師ってのは何より血統と歴史を重んじるものだろ。なんだって君主の積み重ねを捨てる真似をする?」
オルガマリー「デミ・サーヴァント計画」
甲児「?」
「セラフィックス、Aチームに刻まれた大令呪、レフから提供されたシバの目。…これらもまた、遺産の一つ。少し考えて気づくべきでした。カルデアス…それらは決して、清廉潔白のものではないと」
甲児「…世界を救うための手段や施設。そもそも何故、それに至ったか…ってことか?」
オルガマリー「魔術師が博愛精神の下、人類の平和を願うはずがない。…私は今はそうではないと信じたいですが、少なくとも父は、そうではないと仮定します」
甲児「まぁ、話を聞くにヤバそうな実験なんだろうがな」
オルガマリー「万が一にも、スタッフ達を…善き人々を失いたくない。だから私は作りたいのです。誰にでも胸を張れる、清廉潔白な施設を。あの素晴らしい皆に恥じない、人類の希望たる星見の台を」
甲児「……」
オルガマリー「協力してほしいのです。人の善を、心を信じうたうちゃんを産んだ一人であるあなたに。新しきカルデアスの発足を、どうか」
甲児「スタッフ勧誘、ってことか」
オルガマリー「はい」
甲児「…なら、ちょっと来てくれ」
〜
オルガマリー「これは…!?」
オルガマリーが目を見開く。そこに在りしは──神を超え、悪魔を倒す魔神の皇帝。
甲児「俺が卒業し、富士山でジャパニウム鉱石と光子力を見つけ、それを平和と正義の為に活かす研究を始め、そのための『守護神』を求めた時、こいつは『未来』からやってきた」
オルガマリー「まさか、未来からのレイシフト…!?」
甲児「あぁ。この時代ではない俺が、遥か未来に作る魔神。未来の平和を守るため、未来に今を繋げるためにやってきた魔神。魔神皇帝…マジンカイザーだ」
新たなるカルデア。その一端となりうる力を、甲児はオルガマリーに示すのであった…──
「どうやって…」
【むー?】
「どうやって、あいつらを下しやがった…?あいつらは強い。いくらお前さんが強いからって、何もできずに終わるはずがねぇ…!」
どすん、とお尻を背中に下ろされながらキュアオンラがボレアスマスクに問う。成長期を迎えていない幼女から大学生程度の姿となったボレアスマスクは、その問いにニヤリと笑う。
【ふっふっふ。確かにオニキュア全員は強いでしょう。とても強いでしょう。私達ドラゴンも手こずる程に強いのは解りきっている。それはもうよーく分かってる。ホントに分かってる】
「なら、なんでだ…!」
【強いからこそ、そこには付け入るスキがある。強さから生まれる油断、傲り。自身は負けないという慢心。それは百戦錬磨のヒーローを、無様な敗北者に落とす】
パチリ、とボレアスマスクの指鳴らしに黄色き外套の従者が歩み出、手に一升瓶を取り出す。それは、オニキュアにとって最大最悪の弱点が一つ。
「!!あ、あれはマジカル☆シンペンキドク!!おのれボレアスマスク!なんと卑劣な!?」
【な、なんぞ?それなんぞ?】
『オニキュアの力を封じ、眠らせてしまう最悪の酒だ母よ。よもや龍が手にしていたとは…』
【少女向けの作品で酔い潰しとかありなのかや!?】
伊邪那美のツッコミが響くが、ショーは無慈悲に続く。オニキュア達はこれを使われ、振る舞われ敵の手に落ちたのだ。事実として、彼女らは今磔にされていて、手も出せぬ状況にある。
【この世界はね、たった数人の最強達が幅を利かせ続けられるほど甘くはないの。弱くても手を取り合い、調和を大切にするいのちのみが前に進む。シリーズが進んで忘れてたんじゃない?キュアオンラ】
「…!」
【まずは仲間達の安否を確認するとか、一緒に行動するとかできた筈。アタシなら大丈夫と高を括ったのがあなたの敗因。慢心、だめ、ぜったい!オーケー?】
「………おっしゃるとおりだ…オニキュア失格だな…」
「キュアオンラ!ならぬ、敗北を認めてはならぬぞ!」
『負けないで、立って…!』
二人が懸命に応援するも、キュアオンラは動けない。マジカル☆シンペンキドクの酒気にて、身体を麻痺させられているのだ。
『…………』
アマノザコは動かない。絶望的な状況ではあるがこれはショー。キチンとした段取りがあるのだ。自分の手で台無しにしてはそれこそ最悪の事態となる。不動のまま、見るに徹し…
【さて、冥土の土産にたくさん話したしそろそろ終わりにしてあげちゃおっかな、えい!】
「ぐわぁ!」
ごろんと、キュアオンラを仰向けにひっくり返し、手を天に掲げる。
【偉大なるオニキュアのリーダー、キュアオンラ…。我の【凶星】で引導を渡してあげよう!】
すると──天より来たるは蒼く黒き星。地表世界を焼き払うメテオ(ミニ)がキュアオンラへと振りかからんとする。人は無論、オニキュアですら成す術なき超常現象。
(祖なる龍よ本気出しすぎぃー!?)
伊邪那美渾身の愕然もどこ吹く風。オニキュアの完全敗北は、すぐそこにまで迫っている。
【正義は勝つと信じている良い子の皆!よぉーく見ておけぃ!正義が勝つのではなぁーい!勝ったほうが正義となる法を敷くのだぁ〜!】
「ちく、しょぉ〜…!!」
【これからはドラゴンのじだ、ファッ!?】
メテオを落下させんとしたボレアスマスクが目を見開く。そこには、オニキュアを庇う二つの影があったのだから。
「させぬ!!オニキュアを、キュアオンラをやらせはせぬぞ!!」
『カグツチも…!』
「お、お前ら!?」
なんと、茨木とカグツチの二人はオニキュアのピンチを前にいてもたってもいられず、破滅の前に身を投げだしたのだ。物語の英雄を、二人は庇ったのだ。
「オニキュアは負けぬ!負けたとしても必ずや貴様を倒す!何故ならばオニキュアは、オニキュアは!」
『私達の…ばらきーの、ヒロインだから…!』
「お前ら…」
『………』
ピクリ、とアマノザコが動く瞬間、彼女は見やる。
【ぐぬぬ、邪魔しないでほしい!どけぃ、どけーい!】
(これは、織り込み済みか…?)
観客の乱入、それはアクシデント、ハプニングの類であるのか。ショーの進み具合で、二人を引き離すか静観するかが決まる。どちらか。ボレアスマスクの狼狽は果たして芝居の一環なのか。
【あわわわわ…】
完全に手に汗握り気後れしている伊邪那美に代わり、その判断を下そうとした…その時だった。
【──お待ちを、あなた様。こやつらの始末は私にお任せくださいませ】
恭しく膝を付き、ボレアスマスクに伺いを立てるは赤き外套の従者。なんと彼は、キュアオンラの始末を願い出たのだ。
【え?始末してくれるの?】
【はい。オニキュアはともかく、あなた様程の龍がこのような羽虫2匹を叩き潰すなどあまりにも役不足。そのような些事は私めにお任せいただければ】
【…むぅ】
そうかな…そうかも…逡巡した後、ボレアスマスクは天全てを覆う超巨大隕石を、一瞬でかき消した。
【ニャルニャルがそう言うなら、お任せするね。きっちり仕留めてね?】
「ニャルニャル…?」
『まさか…』
【もちろんです。あなた様の意のままに】
外套を外し、現れしは…カルデアの邪神ニャルラトホテプ。否、龍の眷属ニャルニャルとなっている姿である。それを見た茨木とカグツチは、数多の感情をぶつける。
「な…邪神!なぜだ!なぜ!?汝は家族を愛し、楽園に尽くす愛娘大好き父ではないか!?」
『ニャルは、楽園の敵になったりなんかしない…!』
【(感動で目が真っ赤)…………】
【(馬鹿、台詞飛ばしおって…)貴様ら下賤な輩と話す舌など持たぬ。ニャルニャル、やるならはよせい】
信頼に台本を飛ばすほど感動した役者のアクシデントを上手くフォローした相方に乗っかり、ニャルニャルは取り出す。
【心配するな…すぐに出逢えるさ】
「『ひ…』」
【深淵でな…】
感動から復帰した直後のせいで芝居が出来なくなったニャルは本気で威圧し、神威をみせる。それに成すすべなくへたりこむ鬼と神。
だが、それすらも計算の内であったのか。投げつけられた簡易ブラックホールが着弾する瞬間…
『母よ、行くぞ!』
【う、うむ!うむ!?】
アマノザコ、そして伊邪那美が三人を庇いブラックホールに躍り出る。奇しくも敵の全員を庇う形となったそれは、5人全てを巻き込み、縮小し…
【…排除、完了致しました】
【ん、ありがとね】
完全に、世界から退去させてしまう。宿敵を消し去った事に安堵したボレアスマスクが、神体から普段の抑制体に戻る。
【じゃあこの世界を満喫するとしよっかな!フフフ、新しい龍の世界は今から始まる!このボレアスマスクの知性と美貌の前に平伏すがいい!素晴らしき…あわわ、取るに足らぬ人間どもよー!ふふははは、わはははは!わーっはっはっはー!】
【…………】
従者達は一歩下がり、ボレアスマスクの背後に侍る。鬼たちの、魔族の希望たるオニキュアを完全に討ち果たしたボレアスマスクの笑い声は、いつまでも長く、遠くに響き渡る事となる。
オニキュアは鬼を始めとした魔族、去り行く神秘を現代の物理法則から護る戦士たち。それら全てが今、敗北を喫する事となる。
オニキュアは完全敗北し、応援も完全に途絶えた。今ここに、神秘を有するヒロイン達は消え去ってしまったのだ──
謎の空間
茨木「わぶ!?」
カグツチ『へぶっ』
伊邪那美【あばやっ!!】
アマノザコ『ふっ』
巻き込まれた四人は、ブラックホールから吐き出され謎の空間へと迷い込む。そこは、どこかすらも見当がつかぬ場所。
アマノザコ『ここは…』
?【…手荒な真似をしてすまない、諸君】
そして暗闇から歩みやってきたるは、真紅の外套に身を包みし男。
ニャルニャル【君達に手伝ってほしいのだ。オニキュアを…何より『ミラアンセス』様を、邪竜の手から取り戻すため】
茨木「貴様は…ニャルニャル!?」
カグツチ『やっぱり…』
敗北したとしても…戦いとは、敗北した先にも存在するものであるのだ。
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