人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

1982 / 2537
『果たし状』

ギル「フ──」

──これは…!


「良い。──あの娘の成長、しかと見せてもらうとしよう」


5周年記念〜前夜〜

「…うん。バイタル、メンタル、共に問題無し。万全な健康体だよ、マシュ」

 

「はい、ドクター!」

 

ここはカルデアの一室。ロマニのメンタルチェックを受けるはマシュ・キリエライト。彼女がハキハキと答えを伝える様以外は、カルデアにリッカが来る前と同じ…いや、大いに変化していた。マスターたるリッカとの写真、自己トレのメモ帳、コンラやじゃんぬ、たくさんの人達との触れ合いの品。グランドマスターズとの写真や女子会にて作り上げた物品の数々。以前の彼女を知るものからすれば驚くばかりの色彩に満ち溢れている。

 

「栄養バランスや体調にも気を配っているね。流石の自己管理能力だ。ゴルドルフさんにも見習ってほしいくらいの健康っぷりだよ」

 

「ドクターも人の事は言えないと思います!」

 

「ま、まぁそれはね?ちょっと気をつけないと堕落との背中合わせだからね、楽園というだけあって。…こほん、まぁそれはともかく」

 

ロマニはマシュの万全を確かめている。これからマシュはカルデアにて、とある挑戦を行うからだ。それはとても困難かつ一筋縄ではいかないもの。しかし彼女がずっと目指していた目標の一つでもある。

 

「………遠いところに来たなぁ。あの燃え盛る冬木にいた頃から、本当に色んな事があって。本当に色んな事を知ったね」

 

「はいっ。不謹慎ですが…世界を救う戦いは、とても楽しいことに溢れていました。辛いといって下を向いていた記憶は、何も無かったと言っていい程です」

 

マシュは自分の色彩に満ちた部屋を見渡す。それは夢のような楽しさと笑顔に満ちた明るく輝かんばかりの色合いで、マシュが歩んできた道のりがかけがえのないものであることを如実に示している。それは間違いなく、彼女の人生の宝物であり誇りそのものだ。

 

「このような素晴らしい日々を齎してくださったあの方への返礼…今なお私達の先頭を走り続けてくださるあのお方への恩返し。私に考えうる最高のプランを、私は実行したいのです」

 

「…そうか。君が、君自身がやりたいことを見つけ見出している。その事実にボクは喜びを覚えるよ。ほんの一年半だっていうのに、もう何年も大人になったみたいだ」

 

ロマンの言葉と視線には、確かな親心が宿っていた。例え血が繋がらなくとも家族には成りうる。それは他ならぬ、彼女の大切なマスターが教えてくれた事だから。それに異論など、挟まるはずもない。

 

「まだまだこれからです。私達が、あのお方が心血を注ぐに値する存在であったことを示すために。このマシュ・キリエライト…自らの全霊を懸けて、このオーダーを実行します!」

 

その気迫を止める理由などあるはずがない。ずっと彼女を見てきたドクターとして、ロマニは彼女を見送るのみだ。

 

「うん。行ってらっしゃい、マシュ。君ならできるさ!あの愉快な王様を、びっくり仰天させてあげるといい!」

 

「はいっ!あとそろそろシバにゃんさんとのお子さんの顔が見たいのですが!」

 

色んな意味で気が利くなぁ!?マシュの鋭い切り返しに困ったように頬をかきながら、走り去っていく彼女の頼もしい背中を見送るロマニ。

 

「本当に…立派になったなぁ」

 

その視線は先程と同じ…暖かな親愛に満ちていた。

 

 

「スペシャルじゃんぬパフェ一つ」

 

「お任せ」

 

うってかわってスイーツじゃんぬ。特別メニューを頼み、椅子に静かに座るリッカ、それに付きそうオルガマリー。じゃんぬは了承を受け、厨房へと引っ込んでいく。

 

「それにしても、マシュの提案には驚かされたわ。まさか彼女が、ギルやエア姫にプレゼントを渡したいと言い出して…」

 

「そのプレゼントがアレだもんね。天然栽培なすびも行くところまで行った感慨が凄いよ本当。もう縄文杉ばりの天にそびえるなすびだよ…」

 

軽いホラーね…リッカとオルガマリー、いわばはじまりのメンバーは静かな夜のスイーツ店にて決意を語る。あまりにも成長したマシュ、そして始まりより躍進した互いの姿。何もかもが変わった。それは無論、いい方向にだ。

 

「お互い、もう最初の頃の面影どこにも無いよね。マシュの成長ぶりを生暖かく見れる立場じゃなくない?」

 

「老成するのは早いわよ、人類悪のドラゴンさん。まだまだ、私達の旅路は続いていくのだから」

 

「そっちこそ。カルデア所長としてこれからも頑張ってもらうんだからもうレフ連呼は困るよ〜?」

 

「…ふふ」

「あははっ」

 

まるで無邪気な少女の語らいである空気の中、互いをからかい合う二人。そこに過酷な戦いによる摩耗は見受けられず、ありのままの人間性を持つという、知られざる奇跡を宿していた。

 

「はい、おまちどう。オルガマリーにはコーヒー、サービスね」

 

「うほー!夜に食べるスイーツ最高ー!」

「ありがとう、じゃんぬ。それで太らないのは才能よ、リッカ」

 

「死ぬほど運動するからね!いただきまーす!」

 

そして二人は幸福な時間を過ごす。本来ならば消灯の時間だが、許可をもらいこうして起きている。

 

「アイツもなんというか、粋な事を考えるわね。ま、アイツらしいっちゃらしいけど」

 

マシュは既にじゃんぬには伝えていた。自分の成すべきことを。前もって相談していたのだ。彼女、じゃんぬはマシュにとって、かけがえのない隣人でありライバルであるが故に。

 

「今更だけどねリッカ。マシュを信じてやんなさい。アイツの護りはあなたの信頼でいくらでも強く硬くなる。最高にコスパのいい護りなんだから」

 

「うん!流石じゃんぬ、マシュのこと良くわかってるぅ!」

 

「ふふ、そうよね。流石、オンリーワンサーヴァントのライバルだわ」

 

二人の言葉に、照れながら頬をかくじゃんぬ。今更否定することでもない、だが口にすると照れくさい。そんな、珍妙な関係であるが為だ。

 

「ま、まぁ…アイツが凹むと調子狂うから。メンタルケアの一環よ、メンタルケアの。…まぁ、きっと大丈夫よ。だって、アイツはあなたの…」

 

「うん。オンリーワンサーヴァント!だもんね!」

 

口にしない…というか面と向かって言うと成長度合いが天元突破してしまうため言わないだけで彼女の事は認めている。後は、彼女の勇気と成長次第というだけの話だ。

 

「さ、そろそろ時間よ。…頑張りなさい。あなたも、マシュも」

 

「勿論!ごちそうさま、じゃんぬ!」

 

「お粗末様。今度は3人でいらっしゃい。スペシャルメニュー、半額にするわ」

 

じゃんぬの言葉を背に受け、リッカはオルガマリーと共にシミュレーションルームへ向かう。そこには、最大にして最強、無敵の存在が待っている。

 

「…本当、頑張りなさいよマシュ。アンタの今までが、全部ここで試されるんだから」

 

じゃんぬは心配りを忘れない。リッカへは勿論、彼女の盾である一人の少女にもだ。彼女の研鑽が、ここに全て示される。

 

それはかの者を満足させるに足るものか。はたまた、未だ届かぬ星なのか。それは、全ては今から示される。

 

 

「見せてやりなさい。アンタの歩みが凄いものだってね。…リッカに傷一つつけたら承知しないわよ」

 

そう口にしながらも、エプロンを外す眼差しは穏やかだ。彼女は心から信じている。マシュの悲願の成就を。

 

…そして幕が上がる。この物語の始まりの日に捧げられし研鑽。即ち────

 

 

雪花の盾の、裁定の刻が。

 

 




シミュレーションルーム

そこは既に、投射された固有結界の内。吹き荒ぶ吹雪の中、三つの物陰がある。

「行きます、マスター。どうかそこを、一歩も動かずに」
「ん」

短く応える、一人のマスターとサーヴァント。カルデアが誇る、至純の二人。


「──5年の歳月、2000に届かんとする足跡。ただの一度も立ち止まらずあった貴様らの研鑽。区切りの日、査定するには良い日和だ」

そして相対するは──黄金の王。悠然に、雄大に、絶対的に、しかしその瞳は高揚と感慨を以て二人を見据える。

「貴様の宿願、果たして形となるか否か──来るがいい、マシュ・キリエライト。持てる勇気と決意の全てを注ぎ込み、この我の想像を超えてみせよ!」

マシュ「行きます…!あなたから貰った全てを懸けて!御機嫌王、ギルガメッシュ!」

その盾の極地を以て。──王への挑戦が、幕を上げる。

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