人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

1996 / 3000
キラナ『♪♪』

アフラ・マズダ『召喚が待ち遠しいか、我が使途』

キラナ『はい!いつかセーヴァーやリッカちゃん、アジ・ダハーカちゃんに光輪を…おー!』

アフラ・マズダ『渡せることを祈る』

キラナ『…我が神、我があるじ』

アフラ・マズダ『どうした』

キラナ『光輪…あと二つくらいは…』

アフラ・マズダ『…無念だが、増やすことはできぬ…』

キラナ『しゅん…』


振り返りその6〜悪神と悪龍のひととき〜

【アンリマユ先輩!お飲み物、お持ち致しました!どうぞお召し上がりになってくださいませ!】

 

【お、サンキュー。ちょうどいいトコで目が離せなかったんだわ】

 

特異点の振り返り、正直振り返りというにはあまりにも小規模かつお粗末な出来事ではあったが、かといってスルーしてしまうとアンリマユのパシリめいた作業に甘んじている褐色のマシュの存在が説明できないため、必然的に不可欠となる要素である【ギャラハ仮面】の起こした騒動に切り込んで行かなくてはならないだろう。そう、彼女はじゃんぬと同じ贋作英霊。マシュの深層心理の願い、先輩である藤丸リッカを独り占めしたいという欲望がオルテナウスに内蔵された聖杯で起動した存在だ。霊基が幻霊レベルなので戦闘は叶わず、もっぱらアンリマユとアジーカの給仕係として日々を奮闘している。

 

【やっぱクソ映画鑑賞は最高だぜぇ。ドン引きする出来栄えの映画は、ゲラゲラ笑って笑い飛ばしてやるのが供養ってもんだ。お前もそうは思わねぇ?】

 

アンリマユ、アジーカはリッカの力の中核であり、司る力のアバターであるため滅多に前線には出ない。彼女達に何かあれば彼女の力が機能不全に陥ってしまう危険性があるため、カルデアに待機するほうが多い。で、そんなアンリマユが何をしているかと言えばもっぱら低評価の映画を見ているのである。

 

『………すぅ』

 

供養と称して誰も見ない、誰にも愛されないかもしれない筈の映画を一人で鑑賞し、生まれたことだけは祝福してあげようとするアンリマユの独特の考えのため、遠慮なく批評や批判を飛ばしている。

 

そしてアジーカは気ままに眠り、食べ、のんびりと過ごしている。スイーツを好みとしている為、じゃんぬのスイーツ店に入り浸っている事が多い。

 

【あぁ、アジーカさん。きちんと布団に包まらないといけませんよ…】

 

そんな二人を甲斐甲斐しく世話する贋作英霊マシュ。褐色である彼女は、ギャラハマスクとしてリッカやグドーシ達に立ちはだかった(?)存在である。しかし奮闘虚しく瞬殺され、しかし完全消滅させるのも勿体ないと、リッカの部屋やアジーカ、アンリマユの部屋周りを一緒に行っている。

 

【いつもありがとうよ、マシュ。いや…ギャラハマスクって呼んだ方がいいか?】

 

ギャラハマスク、それはこの贋作英霊たるマシュが名乗っていた名前である。だがそれはこのマシュにとってはあえなく瞬殺された事と色んな意味でやらかしだらけの忌み名であるのであまり呼んで欲しくはない名前でも無理からぬ噺だ。

 

【それはやめてください!なんというか、マシュ・キリエライトはとことん悪役やボスには向いていないんです。お二人の魔力の根源に触れた魔力を使用したとしても、私程度の悪感情の発露なのですから…】

 

そう、必死に悪感情を学び生成された人格のマシュの成した事は決して大掛かりではない。リッカとグドーシ、そしてギャラハッドの協力によりなんと数人で突破が可能であった。それ程までに入念に準備を彼女の行った悪行はあっさりと鎮圧されてしまったのだ。これは相手が悪すぎるが、マシュ・キリエライトという人間の存在そのものが、悪意というものに疎い証左であるが故の事象である。

 

【そりゃあそうだわな。特異点とは名ばかりの、自分がリッカとやりたいことの詰め合わせだったもんよ。あそこまで簡単なラスボスなんて間違いなくいなかったぜ、マシュさんよ】

 

【うぅ…】

 

アンリマユの軽口に言い返せずに閉口してしまうマシュ。口喧嘩にも遅れを取る程に彼女は悪行、闘争、扇動に向いていない。抽出された成分が少なく、また薄いためだ。

 

【仰る通りです…では私は、生成されないほうが良かったのでしょうか…】

 

【あ?】

 

アンリマユが聞き返す。マシュの言った言葉を訪ね返すアンリマユに彼女は語る。自身の存在意義を。

 

【これ程までに悪意や悪質に無縁ならば、いっそ私はある必要もなかったのではないでしょうか。もしかしたらマシュさんも、もっともっと清楚で清純さを残していたやもしれません…】

 

優しく清楚で、芯の強い勇気ある女性。マシュ・キリエライトとはそういう存在であるという事を何より彼女自身が知っているのだ。

 

【自分でももうどうしようもないのですが、思わずにはいられません。私という負の存在は、あるべきでは無いのかと。優しく素晴らしい一面のみで人はいいのではないかと…】

 

【…あのなぁ…】

 

マシュの言葉に、呆れながらも口を開こうとした、その時であった。

 

『あなたは何も解ってない』

【えっ!?】

 

口を挟み、その意見を否定したのは他ならぬアジーカだった。いつの間にか覚醒し、その金色の瞳でマシュを見据え先の戯言を否定する。

 

『いい側面、悪い側面。両方あって当たり前。それはマシュ、あなただって同じ』

 

【わ、私もですか…?】

 

信じられないというマシュに、アジーカは頷く。ほんの少しだとしても、僅かだとしても。それは決して、失くしたり失わせてはならないものであると。

 

【あのなぁマシュ、いい感情だけ、或いは悪い感情だけなんて歪んだ存在にさせちまうほうがよっぽど残酷だとは思わねぇか?いかなる悪も許さない、いかなるルールも護らない。そんな単純明快なだけの破綻者にお前はマシュを変身させたいわけ?】

 

ぶんぶんと首を振るマシュ。そう、全ては陰陽、光と影であるのだ。

 

【それしかできねぇ、それしかやらねぇってのは人間の思考じゃない。機械や虫とおんなじだ。いいか、善と悪に価値があるのは、善と悪って価値観を持ってるからなんだよ】

 

【価値観…】

 

【あぁ、そうだ。成績優秀で品行方正なヤツがタバコ吸ったり、ヤンキーが猫を助けたりする。そうするともっとそれらが輝いて見える。いいヤツが悪いことをする。悪いヤツが善行を働く。そんな奇跡みたいな気まぐれが、今日まで人間を生かしてきたんだよ】

 

うんうん、とアジーカも首を振る。マシュが見出した悪意というのは小さいものかもしれない。だけどそれは間違いなくマシュの一面。彼女が心を大きく成長した証だ。

 

『マシュはもう、立派な一人の人間。それを…他ならないあなたが証明している。人は、悪意と一緒に生きているから』

 

【アジーカさん…】

 

『自信を持って。だからこそあなたはここにいる。かけがえのない、マシュ・キリエライトの一部として今を過ごしているんだから』

 

一緒にいたい、共に駆け抜けたい。そういった願いと思いから生み出された彼女が不要だなどと、そんな事はあり得ない。何故なら悪意こそ、高度な精神活動と人格形成の証なのだ。

 

──マシュはもう、立派な人間なのだと。奇しくもリッカの魂を写した二人からの太鼓判でもあった。

 

【ふたりとも…本当に、本当にありがとうございます…!】

 

マシュの側面にとって、あまりに眩しい肯定の言葉。先輩たる二人の言葉に感銘を受け、心からの礼を贈る。

 

【私、私のできる事を懸命にやってみせます!マシュ・キリエライトの心の一部として…私自身を証明するために!】

 

弱気に陥っていたマシュはますますもって奮闘し雑用をこなしていく。それはまさに、甲斐甲斐しく世話を焼く給仕係の本領発揮といったところだ。

 

【立ち直ったか。…にしても、私自身を証明とはね】

 

『リッカの理念と、なんだか似てる』

 

自分が自分であることから逃げない。

 

自分自身を証明する。

 

二人の違いは外界でなく、自身に向けられているもの。他者を害さず、自身を貫くその有様。

 

【焚き付けてやったつもりだが…こりゃ大成功だな】

 

『ん。流石はリッカの後輩』

 

偶然にも見せつけてきたその相性に、二人は微笑ましく一人を見守るのみ。

 

【私はマシュ・キリエライト!贋作であっても、偉大なる雪華の盾を握る為に色々頑張るものです!】

 

空回りもご愛嬌と、二人はその奮闘を見守り続けるのだった…。




ギャラハッド『……本当に、大きくなった。マシュ。心の在り方も、なにもかも』
 
(これから先、何があろうとも。君は僕の力を正しく振るってくれるだろう。いつまでも…君達を見守っているよ)

『……ギャラハマスク…』

(…カッコいいかもしれない…)
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